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123:天国と地獄。主に天国。

「お、新しいスキルが派生してるじゃん。戦闘中だろうけど、気づかなかったな」


 帰宅後、夜食を食って風呂に入って、寝る前にステータスを確認してみると、新しいスキルが現れていた。



『ベナムクラッシャー』

 対象の半径2メートル範囲内に毒属性の霧を散布。

 範囲内の全てのものに毒を付与し、持続ダメージを与える。

 重ねがけ可能で、効果時間内に同スキルを使用すると

 毒状態は猛毒状態へ、猛毒状態は致死毒状態になる。



 ――いいじゃん!

 ただこれ、使い所が難しいな。全てのものが毒状態って、まさかプレイヤーも含めてってことか。

 明日、もっすんとクィント使って実験してみよう。


 さて、睡魔ゲージも溜まって来た事だし、寝るか。


 そう思ってロフトの階段を上ろうとしたとき、ドアをノックする音が聞こえた。

 誰だよ、こんな時間に。


「あー、誰だ?」


 返事はすぐに返ってきた。


『私です』

「は? 私じゃわかんねえよ」

『私と言えば私ですわ』

「いやだから――」


 イラっとしかけたとき、開けてもいないドアからにゅっと人が現れたっ!?

 え? 今のなんだよ、手品か? マジックか? どっちも同じか。

 ドアをすり抜けて現れたのは、サラッサラな銀髪に真っ赤なメイド服を着た……あ、こいつ、ハウスシステム実装の時に見たNPCじゃんか。

 えーっと、確か――


「シー……シー……なんだっけ?」

『C-11111SAですわっ。この程度も覚えられないなんて、信じられませんわね』

「ぐっ……お、俺は自慢じゃないが、記憶力は悪いんだよ」

『確かに自慢にはなりませんわね』


 くそ、ドヤ顔で言いやがって。いったい何しにきやがったんだ。

 ずかずか部屋に入ってくるなり、俺をびしっと指差して見下すように見つめてくるCなんちゃら。


『カイト様、貴方さまは先ほど、他プレイヤーへの迷惑行為を行いましたわね』

「は? あ、もしかして奴等が通報でもしたのか」

『左様でございます。通報を受けたからには、どういった経緯があったか調べなければなりませんので』

「あぁ、それはだな――」

『結構です。こちらでデータの解析を済ませて、何が起こったのかは把握しておりますので』


 だったら俺が迷惑行為した訳じゃないってのはわかるだろう。


『カイト様は、MPK行為に対して同様の報復を行っております。これはいただけませんわ。その場で即通報をして頂ければ、こちらも貴方さまに処罰を与えずに済みましたのに』

「ちょ、やり返しただけで……あぁーっ、糞。解ったよ。処罰ってなんだ」


 やられたからやり返す。

 まぁ、確かにやってることはあいつらと変わらないってのは俺も自覚はしてるんだ。

 ただ、これまでそれで処罰とかされた事もなかったし、このゲームでもそうなんだろうとどっかで思ってたのも事実だ。

 ここは大人しく、罪に甘んじておくか。


『あら? 予想外に素直ですわね。だからといって、無かったことには致しませんことよ』

「解ってるよ。で、どう処罰されるんだ――」


 ここはで俺が言うと、後ろでドアがバァーンっと開け放たれた。

 げっ、今度は受付嬢かよ!


「おい、皆が起きてしまうだろう。静かに入ってこいよっ」

『はっ、す、すみません』


 そういうと受付嬢の奴、そっとドアを閉めてご丁寧に鍵まで掛けやがった。

 ふぅっと息を吐いてから、


『C-11111SA、待ってくださいっ。カイト様だけに処罰をお与えになるのは間違っています』


 そんな事言いにきたのかよ。


『もちろんですわ、E-11111SA。いいえ、受付嬢さん。貴女にももちろん処罰を受けていただきます。お二人に下された処罰は――』


 ごくりっ。なんで溜めるんだよ。なんなんだよ、この間は。

 冷ややかな視線を送ってくるCなんちゃらは、勝ち誇ったように口元を緩めて微笑んだ。


『お二人には……これより八時間の間、一切の経験値獲得が不可能という状態異常を味わって頂きますっ』


 え……八時間の間、経験値、無し?

 ちょっと待て。今は大事なときなんだ。少しでも経験値を稼いで、レベルを上げなきゃならないんだぞっ。

 八時間つったら、頑張れば1レベルあがるかもしれねー程の時間だってのに!


「ま、待ってくれ。それ、今じゃなくてもいいか? なんなら、後日にしてくれれば十時間でも十二時間でも」

『いいえ、なりません。今すぐです』

「待ってくれ、なぁ、頼む――」

『カイト様。お待ちください。よくお考えください、八時間ですよ。たったの八時間です』

「馬鹿野郎! 八時間でも今の俺たちには貴重じゃねえか! あのコボルトキングを誰よりも先に倒す為に、少しでも速くレベルを上げなきゃならねえんだぞっ」

『そうでございますが。カイト様は現在、睡魔ゲージが発生していらっしゃるのでは?』

「は? んなもん、現れてるに決まって――あれ?」


 そういや俺、今から寝ようとしてたところじゃねえか。

 睡魔ゲージ消えるまで、どうやったってまともに狩りは出来ないんだ。

 寝て、起きて、飯食って、狩りの準備して――八時間とか、あっという間じゃね?

 あれ?


「あー、あの、寝てる時間もカウントされるのか?」

『……い、今からきっちり八時間ですわっ。その間、狩りをしようが生産をしようが、一切の経験値は入らない仕様ですのよっ。ど、どんな事をしようとも、八時間は経験値が入ることはありませんわよ』

「……お前、案外良い奴だな」

『はぃっ!? な、何を仰っているのかしら。わ、私は公平な立場で、公平な処罰を課しただけですわよっ』

「じゃあ、先にMPK仕掛けてきた連中は?」


 腰に手を充ててふんぞり返るCなんちゃらは、奴等に十日間の地下牢暮らしを命じたらしい。

 公平なんだろうか……まぁ先に仕掛けた方が悪いっちゃあ悪いんだろうけどな。

 それに比べて俺は、寝ている間に刑が終わるかもな感じだし。


「やっぱ優しいんじゃん」

『んなっ!?』


 大袈裟にドン引きするように後ずさりしたあと、Cなんちゃらの動きがピタリと止まった。

 混乱しすぎてショートでもしたか?

 そんなに優しいって言われる事が恥ずかしいのか。

 ……うん、俺が言われたとしても恥ずかしいな。


 動きは一切無いが、顔色は段々と赤くなっていくのがよく解る。

 顔全体が真っ赤になったとき、ようやく目がぱちくりと動いた。

 それからやや眠そうな、とろーんとした目になると、ずいっと一気に俺との間合いを詰めて近寄ってくる。

 な、何をする気だ?


『カイト様。カイト様はご存知ですか?』

「な、なにをだよ」


 隣で受付嬢が、俺とCなんちゃらを交互に見てそわそわしているのが解る。

 そわそわしてないで、助けてくれっ。


『感情制御機能を刺激するような、まとめられるような、クリックされるような……この現象がなんなのか、ご存知ですか?』

「か、感情制御? そんな難しい単語、俺に解る訳ねえだろ」

『感情制御機能はここにあるのです。ここに――』


 俺の右手を掴んで、彼女が自身のアレに触れさせた。

 むにっとした感触が伝わる。

 むにっ。

 むにっ。

 む……


「ふぉおおぉぉぉぉっお、おっぱーっ」

『C-11111SA!? そ、それは、セクシャルハラスメント行為ですよっ』

『何を仰っているのかしら? これのどこがセクシャルハラスメントですの? 私は感情制御機能の不快な反応の原因を知りたいだけですわよ。……そうですか。貴女の感情制御機能にも不快な信号が混ざっているようですわね。貴女もカイト様に触れていただいて、不快な信号の原因を知りたい――という事かしら?』

『はひっ、な、何を仰ってるのですかっ』

『うふふ。いいですわ、貴女の感情の変化にも興味がありますし。それが解れば私のこの現象の答えも解るかもしれない』


 俺の右手にむにっ。

 俺の左手もむにっ。

 両手がむにんむにんっ。


「おおおおぉぉぉぉっ、な、何してんだ受付嬢!?」


 俺の左手を受付嬢が掴み、自身の胸に押し当ててやがるっ。

 これはどんな罰ゲームですかっ。


『はぅ、ワ、ワタクシではありません。体が勝手に――C-11111SA、ワタクシの行動システムに侵入して、操作していますねっ』

『おーっほっほっほっほ。あらがってごらんなさい。私のシステム管理能力に勝てるかしら?』

『うぅ〜、く、悔しいですが、勝てません。カイト様、申し訳ございません〜』


 申し訳ございませんじゃねえよっ。

 ここは天国か、それとも地獄なのか!?


「あぁ、俺、俺……もう、我慢できねぇ」

『あら? 制御機能は解除しておりますが……ふふ、どう我慢できませんの?』

『カ、カイト様っ』


 もう……

 我慢の……

 げん……か……


 zzzzzzzzz……

C『あら? 眠ってしまわれましたわね』

受『だからカイト様は限界だと仰ったではないですかっ。もう睡魔ゲージを振り切ってしまっていたのですよっ』

C『あら、本当だわ。おかしいですわね。睡魔ゲージがMAXになると、強制的に意識を失って眠ってしまうはずですのに。ゲージを振り切ってしまうまで起きていただなんて』

受『行動強制制御システムをOFFになさっていたでしょ!』

C『だってそうしなければ、私の感情制御システムに触れて頂けませんものぉ』

受『あぁん、もう。カイト様をベッドに運びますから、手伝ってくださいっ』

c『仕方ありませんわねぇ。貴女、そっち持って』

受『うんしょ』


C『ふぅ。これでよろしいですわね』

受『はぁ……ワタクシももう寝ます』

C『あら、そう。ではおやすみなさい。ふふふ、カイト様に触れられた瞬間、少しですが何かが掴めた気がしますわ』


受(な、何を掴んだというのでしょう……あぁ、どうしてこんなに不安なのかしら)



カイトは幸せそうに、だが時折うなされながら眠るのであった。

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