122:やられたら……
4階層に上がり、他のプレイヤー同様ボスを探して徘徊する事数分。
ボスを見つけた。
見つけたが……
「先客がいたッスね」
もっすんが溜息交じりに言うのが聞こえた。
そう。
既に先客がボスと対峙している真っ最中だったのだ。
『残念でしたね』
「つまんないぉ〜」
「はぁ、しゃーない。せっかくだし、次の機会の為にボスの攻撃パターンでも見てようぜ」
「デスね〜」
俺たちは先客とボスの戦闘を眺める事にした。
が、数分後には先客パーティーが決壊しそうだって事に気づく。
先客の構成は、盾1、ヒラ1、魔2という4人パーティーだ。
悪くはない。寧ろ高火力高効率パーティーと言えるだろう。
けど……敵にあまりダメージがいってないように見える。
「なぁ、あのボスってミイラだろ? ってことは不死属性じゃね? 不死なら火属性の魔法が有効じゃん?」
「ミイラですけど、ボスですからネー。もしかすると、闇属性かもです」
『クィント様、ご名答でございます。『闇堕ちしたカーメン王』レベル45の闇属性モンスターです』
「受付嬢さん、詳しいッスね」
『はっ! あ、あの、け、掲示板情報でございますっ』
こいつ、咄嗟にモンスター情報を口にしやがったな。うっかり八兵衛も真っ青になるぐらい、うっかり過ぎるだろ。
しかし闇属性か。
「闇っていうと、魔法耐性が高いんだっけか?」
『左様でございますね。聖属性以外の属性攻撃に対しては、耐性が強いので魔法系職業にとっては難敵になります』
「オレの『ホーリー・ウェポン』が火を噴くのデース!」
「プリーストには『ホーリー・バースト』という聖属性の攻撃魔法があるのですが……支援優先だとまだ取ってないプリも多いみたいだし」
美樹の視線は、向こうのパーティーにいるプリーストに向いていた。パーティーメンバーの回復に必死で、もし攻撃スキルを取っていたとしてもあれじゃあ使う暇ないだろうな。
ボスのHPがやっと2割ほど削れたとき、薄汚れた包帯だらけの顔からどこにあったんだという口を開き、身も毛もよだつ悲鳴を上げた。
その声に引き寄せられたのか、それともあれが召喚の合図だったのか、壁という壁から半透明の骸骨軍団が現れた。
「うひぃ、ゴーストっすね」
「ん? 見慣れないゴーストですネー。もしかして、あれも闇属性デスか?」
『はい。あ、掲示板には、そう書かれておりました』
「闇属性のゴーストだなんて……あのパーティー大丈夫ですかね? 支援、手伝ってあげたほうがいいのかな?」
うーん、さすが純支援職をプレイするだけあって、美樹は優しいなぁ。
俺だったら、決壊するの待ってボスを頂くんな。
「ふっふっふ。火力の花形といえばウィズ様! とよく言われるっすが、全属性に対してそつなくダメージを与えられる弓職こそ、真の花形火力職っす!」
突然もっすんが鼻息を荒げて吠えた。
まぁ弓職は魔法職の影で華やかさに欠けるからなぁ。同じ後衛火力職なのに、パーティーでの人気は魔法職、特にウィザードがダントツだ。
けどもっすんの言う通り、弓矢にはさまざまな属性が付与されているから、どんな敵に対しても一定のダメージを与えられるっつー強みがある。
「っくぅー。俺だったら闇属性ゴーストなんて、何匹居ても銀矢で余裕っす!」
「まぁまぁ、ボスに関しては早い者勝ちなんだ。仕方ねぇだろ」
「デスね〜」
『でも、向こうが望んでモンスターを譲ってくれる事もあるようですよ?』
「「え?」」
受付嬢の言葉に目を丸くした俺たちだが、まさかの事態が待っていた。
走ってくるのだ。
先客パーティーの一行が。俺たちに向かって!?
「ちょ、え?」
「何匹いても余裕なんだろ? だったらお前らにくれてやるよ!」
そう叫びながら走ってくる盾野郎。他三人も左右に分かれながら、俺たちの横をすり抜けていった。
盾野郎は俺の横で立ち止まると、そのままゴーストの一撃で死にやがった。
こいつにヘイトを溜めていたゴーストは、本来なら他のパーティーメンバーにターゲットを移すのだが……。そのメンバーは既に戦場を離脱できる位置にまで走り去っている。
つまり――
「糞がぁ! てめーら、擦り付けやがったな!!」
「あわわわわ」
「美樹たん、下がるデス」
『もっすん様もっ』
「アオイも頑張るお! 《コォオーン》」
あっという間に囲まれた俺たちだが、アオイの一声でゴーストの動きが鈍った。
なにかの状態異常みたいだな。有り難い。
今の内に戦闘態勢を整え――
「よっしゃ! ボスだけ狙うぞっ」
「「おーっ」」
は?
どういう事?
俺の目の前で死んでいたはずの盾野郎は、突然起き上がってそのままさっきの戦場に走ってカーメン王と対峙しやがる。
蘇生アイテムを使ったのか!
ちょ、 まさか召喚雑魚だけ擦りつけたってこと!?
「oh。カーメン王のタゲだけ、器用に持っていたようデスねぇ」
『プリーストの方が抱えていたのでしょう。カーメン王が追いかけようとしておりましたから』
「酷い! ちょっとでも助けてあげようと思った私の気持ち、どうしてくれるのよ」
「『アロー・レ「もっすん、待て!」イ、はい?」
範囲攻撃を仕掛けようとしたもっすんに、俺は待ったを掛ける。
「ボスは誰もが倒したがる得物だ。中には横殴りして掻っ攫うプレイヤーだっている。俺らは手出しもしなければ、支援してやろうかって話しもしてたぐらい善良プレイヤーだぜ」
主に善良なのは美樹だが。
「そんな俺らに向ってMPKとは、随分じゃねえか」
「デスデス」
「っす」
「それより、この状況をどうにかしなきゃ!」
「だからだ! アオイ、クィントにしがみつけっ」
「う? どうしてだお?」
「いいから、俺から離れろっ。受付嬢、悪いが俺と一緒に居てくれ。他は皆、離れてくれっ」
聖属性が付与された短剣でゴーストを切りつける。更に手持ちの毒瓶を『ポーションアタック』で投球。『毒』属性の液体をばら撒き、ゴーストどもに毒を付与していく。
ダメージはほとんど無い。だがそんな事はどうでもいい。微々たる量のヘイトさえ取れればそれでいい。
「あ……なるほどっす」
「oh。カイトにMPK仕掛ければ、地獄の底まで仕返しされるのを、彼らは知らなかったようデース」
「で? どういう事?」
「美樹たん、とにかく逃げるのデース」
「え? え? えぇ?」
困惑している美樹をもっすんが手を引き連れて行く。クィントはアオイを抱え上げて二人の後を追った。
残った俺と受付嬢がゴースト相手に、防戦一方の戦いを続ける。
俺は回避に専念するべく『アヴォイド・ブースト』で回避率を上昇。
受付嬢は盾を構えて、文字通り亀作戦を展開。
『カイト様、それで、どうすればよろしいのですか?』
「お前とはじめてペアで鉱山ダンジョンに入った時の事、覚えてるか?」
『は、はい』
ポーションを受付嬢に投げつつ、ギリギリのラインで耐える。
これからやる事を彼女に説明するだけだってのに、俺はつい、今から使うスキルを二人で使っていたときの事を思い出した。
「敵の数が多いときは、面倒くせえから……」
『あっ。なるほど、そういう事ですね』
「どうせなら、元の持ち主に返してやろうぜ。俺たちは他人の得物を横取りなんてしない、善良プレイヤーだからな!」
『はいっ。お返しする訳ですね。えっと、この場合……お、お返しするという点においては、ノーマナー行為にはならない、かもしれません』
「細かい事は気にすんな。やられたらやる! いや、擦られたから返す。ただそれだけの事だ」
『はい』
俺と受付嬢。
二人で手を繋ぎ、次の瞬間――
「走るぞっ」
『はい』
俺の『瞬身』技能による移動速度増加。そして『助走』によって、触れた状態であれば他者にも同様の速度を与えられる能力。
俺たちは、カーメン王と対峙するパーティーに向って走った。
「お、おい!? なんだとてめーらっ」
「なんだとはなんだ。忘れ物を届けに来てやったってのに」
『あ、カイト様。届いたようですよ』
「よし、じゃー」
『はい。『ハイディング』』
「『ハイディング』」
「え? え? マジで? いや、なんでシーフ系が囲まれてたのに耐えれてんだよ!?」
二人同時に『ハイディング』で姿を消し、ヘイトをリセットさせる。これで簡単に擦られたゴーストを『返品』出来た訳だ。
「あぁ、俺たち二人、プチ硬いシーフだったんだ」
『はい。微妙に硬いので、多少のダメージでしたら耐えれます』
俺と受付嬢は喋ったことで『ハイディング』の効果が消え、姿を現す。もうヘイトはリセットされているが、このままここにいればゴーストに攻撃されるかもしれない。
素早くこの場を離れる為にも――
「よっこらせ」
『カ、カイト様?』
受付嬢を抱っこし、『電光石火』で戦場を離脱。
離れた場所で俺たちを見ていた仲間の所に行くと、彼女を地面に下ろした。
「おぉ、抱っこ状態でも『電光石火』使えるんだな」
『さ、左様でございますね』
「なんだかお姫様を抱えて猛ダッシュする泥棒さんみたいだったわよ」
『み、美樹様。そんな、からかわないでください』
「そうだぜ。俺は泥棒じゃなくって、今やアサシンなんだからなっ」
「「解ってないデス」っす」
何が解ってないんだ?
いやそんな事はどうでもいい。
視線を先のパーティーに向けると、ウィザード二人が既に蒸発。プリーストも――あ、今死んだ。
残るは盾一人。
「お、お前等! 迷惑行為で通報してやるからなっ!」
そう言って奴は倒れた。
迷惑行為って……MPK仕掛けて来たのはお前等だっつーの。
通報するならしやがれ。
「じゃ、ボスを美味しく頂くとするか」
「『ホーリー・ウェポォォォォン!』」
「なんか気合入ってるっすね。そいじゃあっしは『アロー・レイン!』」
「……なんかあのパーティーが哀れに思えるわ」
『深く考えたら負けでございますよ、美樹様』
「いやぁ〜ん。アオイの爪、こいつらに当たんないお〜」
こうして俺たちは、無事、『闇堕ちしたカーメン王』を倒すことができたのであった。
MPK――モンスターを他プレイヤーに擦り付けて轢き殺す行為。
今回はちょっと違う意味で使いました。
いわゆる「召喚雑魚だけ擦り付ける」行為ですね。
カイト君、根に持つタイプですから、確実にやりかえします。
そういうキャラ設定だったのを思い出しt




