120:情に流された訳じゃない。と本人は申しております。
「じゃあ、明日はここの倉庫をリフォームして、住めるようにしますから」
「リリカちゃんとお母さんは、今日のところは私達の部屋に泊まってくださいね」
「あの、本当になにからなにまで、ありがとうございます」
「ありがとうございますっ。これでお母さんも元気になれます!」
そんな会話を呆然と見つめる俺。
幸薄そうな女の子を見ていると、胸をぎゅうっと締め付けられるような感じに襲われ……次の瞬間、何故か女の子のお袋さんが登場していやがった。
これまた幸薄そうなお袋さんで、そこそこ美人なんだが痩せ細っているし、肌なんかも青白いし……。
つい…・・・ついだよ? 情に流された訳じゃねーよ?
食堂や店舗でバイトするのを条件に、同居を許可してしまっていた。
「まぁまだ小さいし、掃除ぐらいでいいか」
食堂のほうは、出来上がったメニューなんかは客に取りに来て貰うやりかたらしいから、給仕役は必要ない。
店舗のほうも実際は自動露店か、生産者の俺たちが直接カウンターに立っているかだし。
ま、掃除してくれるのがいればいいなぁとは思ってたところだ。
「薬草の栽培って、種はあるのか? あるなら寄こせ。俺が植えといてやるから」
「あの、栽培は自分で出来ますので、そこまでお世話になるのは申し訳ないです」
「あら。リリカちゃんって【栽培】技能持ってるの?」
「はいっ。花や薬草の栽培は得意です! 採取もできますよ!」
え?
つ、つまりこれって……俺の栽培採取の手間を省けるようになる!? 栽培採取の時間を他に回せるようになるじゃん!
【栽培】はレベル5毎にDEX+1、10毎にDVO+1なので、まぁ正直必要無い。【採取】もレベル5毎にDEX+1、10毎にLUK+1で、クリティカル発生率を考えればLUKはあってもいいが……程度だ。
まぁヒーラーや弓系職は喜んで手伝ってくれていたが、俺の分をリリカに任せるのはいいかもしれない。寧ろ有り難い。
「よし! リリカが栽培採取をしてくれるなら、家賃も薬の製薬代もタダにしてやるぞ!」
「ほ、本当ですか! 私、お母さんの為にも大家さんの為にも頑張ります!」
パァっと表情を明るくさせて元気に言うリリカ。
なんて健気な子だろう。
俺は決して情になど流されていないっ!
「という訳なんだ」
「完全に情に流されてるっすよ」
「oh。やはりカイトは子供好きなのデ――」
『お優しいのですね、カイト様は』
クィントに肘鉄を食らわせ、他の二人の言葉には全力で首を振って答える。
あれは計算しての事なんだ。俺の利益になると思ったから居候させてやることにしたんだ。
居候を決めた後に利益になると解ったのは、この際忘れよう。
「ま、まぁこれで、素材が継続的に手に入るようになるし、栽培や採取に割いてた時間も狩りに回せるようになる」
「俺はDEX欲しいっすから、採取や栽培は続けるっすけど。まぁ今はレベリング優先っすかね」
『でもポーションは必要ですから、カイト様、製薬はお願いしますね』
そうなんだよな。パワーレベリングしてるとポーションがぶ飲みしなきゃならなくなる。
HPもそうだが、MPの節約なんか考えずにガンガン行くからな。特に受付嬢やもっすんが。俺は【神速】のお陰で通常攻撃が常に2回攻撃になっている。両手に武器を装備しているので、実質4回攻撃。25%の確率で発生するトリプルアタックが発生した場合、脅威の6回攻撃だ。スキル使うのとあまり変わらなくなる。
ま、両手でそれぞれ短剣を振るうので、モーションがでかくなる。スキルを挟む事でこのモーションをショートカットして、見た目的には両手クロス斬りを1回してるだけで複数回分のダメージを入れられるんだけどな。
このあたりはリアリティさを排除した、ゲーム性を優先させているみたいだ。
でなけりゃ、6回攻撃なんてどんなに高速で腕を動かしてんだってことになるし。
効率を上げる為には俺もそこそこスキルを使う。自然回復量がゴミでしかない俺たちは、効率を出す為には『エナジーポーション』を飲むしかない。
「陽が暮れてから『ソーマ草』刈りをするか」
「そうっすね。手伝うっすよ」
「オレも草むしりしマース」
『ではワタクシも』
晩飯を食いながらそんな話しをしていると、帰宅していた他の住人達も混ざって「俺も俺も」と採取人数が膨れ上がっていく。
なら、俺は製薬してようかな。
食後、俺は受付嬢が採取した薬草を受け取り地下へと向う。他10名ほどがリリカを伴って採取エリアに向った。
10分もすると受付嬢がやってきて『先にお渡ししますね』といってライフ草やソーマ草を置いていった。
その数、トータルで3000枚近く……
それらを慌ててポーションにし――
『カイト様、追加をお持ちしました』
慌ててポーションにし――
『カイト様、追加をお持ちしました』
必死こいてポーションにし――
『カイト様、追加を』
「ぬあぁぁーっ! 誰か製薬手伝ってくれぇー!」
1時間の間に『ライフポーション』を約4000本、『エナジーポーション』を3000本の製薬を果たした。
俺……やりとげたぜ……ガクッ。
◆◇◆◇◆◇◆◇
その頃、セーブルの町の南にある森では――
「はぁはぁ……どうして私ばかり狙ってくるの!?」
「それは月姫さまが美しいからでございますっ」
「そんな事、今はどうでもいいわよっ! お前達、私をしっかり守りなさいっ」
「「はいっ」」
丸太で囲まれた巨大な砦内を必死に走る一行がいた。
先頭を走るのはケモミ族の少女。
銀色の美しい髪をなびかせ、頭部には狐の耳を抱く。尾も同じく狐のそれだ。
少女の後ろには十数名の男達が、追従するように走っている。
更にその後ろからは、コボルトの群が。
そして――巨大な通路でさえ狭く感じさせる、巨大な魔物、コボルトキングが迫っていた。
《ガアアァアァァァッ》
コボルトキングが吠えると、群のうちで弓を持ったコボルトが攻撃の為に足を止める。
すぐさま矢が放たれ、その全てが先頭を走る月姫に向って飛んでいった。
「きゃあぁぁっ」
「月姫さまあっ!」
「ヒ、『ヒール』」
慌てて回復をする従者だが、『ヒール』によるヘイトもまったく発動する様子もなく、矢は再び月姫へと向って飛んできた。
「『ヒール』」
魔法の詠唱の為には立ち止まらなくてはならない。
結果的に、回復を行っていた従者がコボルトの群れに――追い抜かれ、取り残される形となった。
「ボ、ボクを置いていかないでぇー」
情けなく叫ぶ従者を、月姫は、仲間たちは見捨ててゆく。コボルトキングさえも、その従者を無視して月姫を追いかけて行ってしまった。
結果的にこの男は幸運だったのかもしれない。
回復要員がいなくなった一行――いや、月姫自身も司祭ではあるのだが、自身に『ヒール』を使う余裕は無い。
魔法使用の為に立ち止まれば、その瞬間にコボルトに蹂躙されるのが解りきっているから。
となれば、ひたすら走るしか無い。レイドダンジョンである、この砦を脱するまで。
ようやく地獄の逃避行から脱する出口が見え歓喜する一行。
行く手には少数のコボルトが待ち構えている。
「このまま突っ切ってしまいましょう! 速度増加が掛かっていれば、我等のほうが足も速いので逃げ切れますっ」
「言われなくても解っていますわ! 私に指図しないでくださる?」
「も、申し訳ありません」
一行は前方のコボルトを無視して走り去る事にした。
だが彼らは見ていなかった。そして忘れていた。
彼等自身に掛けられたバフ効果の残り時間を。
途中で見捨てたヒーラーが、全バフスキルの管理をしていたことを。
自身等が崇め奉る女が、ヒーラーであるにも関わらずバフスキルの一切を他人に使用しない地雷プレイヤーである事を。
突然に移動速度が低下すると、前方のコボルトを振り切ることが出来ず、まずAGIの低い月姫が攻撃を受け、それを助けようとしたSTR=VIT型の騎士が攻撃を受け……パーティーの足は止まった。
そしてコボルトキングに追いつかれてしまったのだった。
《戦闘不能に陥りました。セーブポイントへ帰還しますか?》
《YES / NO》
めっきり更新が減っております。
明日、予約更新後はまた暫く更新をお休みいたします。
明日から里帰りなため、執筆がゼロ環境に。




