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115:チワワの大行進。

 森を脱し、平原で暫く狩りをしてからサーブルの町へと帰還。

 時刻は18時。1月ってのもあって、この時間はもう暗い。それでも、町の大通りにはNPCやプレイヤーで賑わっている。

 プレイヤータウンが出来たものの、どの町からでも移動可能ってのもあって既存の町も不自由なく行き来できた。

 というか、町を経由しないとプレイヤータウンに入れないし、プレイヤータウンの食堂だってそこまで多くない。特に晩飯はステータス上昇効果のある料理を食わなくても、休むだけだっていうプレイヤーならNPCの食堂を利用しても不都合は無いしな。

 それに、NPCの食堂のほうが……安い。


「プレイヤーの店なんて、腹いっぱい食ったら2500Gぐらい払うことになるからなぁ」


 プレイヤータウンにあったほかの飯屋。看板メニューを見ると、その金額に目ん玉飛び出そうになったぐらいだ。

 NPCの店だって同じぐらいのメニューで500Gもいかないのに。博子さんたちの食堂は他の料理人に配慮して多少高額設定にはしたが、それでも1000G以下だ。ステータス補正が付くメニューにだけ、追加で+100から300上乗せしたぐらいか。

 いやぁ〜。こうして考えると、本当に良い料理人をゲットできたな。

 今夜は何食おう♪


 セーブルの中央広場にある転移装置を使ってプレイヤータウンへと移動すると、目の前は我が家だ。

 受付嬢、もう帰ってきてるのかな?

 アオイは久々にかーちゃんとの再会だ。甘えててまだ帰ってきてないかもな。

 

 意気揚々と玄関から入ると、珍しくホールに住民が集まっているじゃないか。

 何事?


「あ……た……」


 うん。いつもどおりだ。

 視界に入る人数が多いと、どうにも緊張してしまう。それが例え見知った顔であっても。

 どうやら俺の緊張は初対面相手なのは当然として、1パーティーを越す人数だった場合にも発生する状態異常のようだ。

 なんていうか、誰も会話に相槌打っていいか解らないんだよな。一人の会話に対して返事してたら、他の人の会話にも返事しなきゃ失礼なんじゃと思って必死にどう返そうか頭で考える。そうしている間にも会話はどんどん進む。

 結果――会話に追いつけなくなる……。

 それがどうも緊張に繋がってんじゃねーかなあ。

 

 しどろもどろな俺の声に気づいたエリュテイアが「おかえり」と言ってくれた。

 それに気づいてココットが、ナツメが、鋼が――集まっていたみんなが「おかえり」と言ってくれる。

 照れくさいというか、ほっこりするというか……口元を緩めてぼそぼそと、それでも精一杯「ただいま」と言ってみせた。

 ちょっと上ずったけどな。


 受付嬢はまだか。


 何の話なのかと思ってナツメの所へ行き、ぼそぼそと尋ねてみる。


「な、なぁ。珍しくこの時間にこんな大勢集まって、どうしたんだ?」


 いつもなら晩飯後にやっと狩りから帰ってくるor帰ってこない奴もざらだし、飯前に半数近くの住民がしかもホールに集まってるって珍しいんだよ。

 ぼっち属性の俺も気になって仕方ない。


「んっとね。サマナ村にクエストで向ったもっすんがさ、西に向うチワワの群を見たんだって」

「っぶほっ。チ、チワワ!?」

「そうなんですよカイトさぁん。チワワなんですよ! あぁ〜ん、見たかったなぁ」


 うっとりするココットには悪いが、正直キモぃだけだぞ。

 いや、ココット様のことだからチワワとか好きそうだな。

 

 しかし、群での移動――そこにコボルトキングもいたのだろうか? いや、いればもっと騒動になってるだろう。

 ってことは、移動していたのはチワワだけ――。


「カイトよ、どうしたのであるか?」

「んあ? お、おっさん。いや、まぁ、その――」


 どうする?

 皆に話すか?

 話して、どうする?

 俺は、どうしたいんだ?


『ただいま戻りました。あら? 皆様お集まりで、どうなさったのでしょうか?』


 背後から聞こえた声に振り向くと、帰宅したばかりの受付嬢が。

 首を傾げてこちらを見つめ、さも当然とばかりに俺の隣に立つ。


「それがね、実は――」


 かくかくしかじかとエリュテイアが受付嬢に説明。それを聞いた受付嬢が考え込むような仕草を取る。


『ワタクシは西の平原で狩りをしておりましたが、そこではコボルトなど一切見ておりませんね』

「え? コボルト?」


 受付嬢の口から出た言葉に、ココットがいち早く反応。

 そういや、コボルトじゃなくって「チワワ」の目撃情報としか言ってなかったな。まさかこいつら、本当にチワワだと思ってんのかよ。


「あ、あのさ……皆が言ってるチワワって、その――犬のチワワか?」

「え? それ以外にチワワっているの?」

「チワワって言ったら、目がくりっとした小型犬ですよぉ〜」

「そうそう。くりっていうか、ギョロッだけど」


 皆して犬のチワワだと思ってやがったのか!

 普通におかしいだろ?

 なんでゲーム内にチワワが群を成してフィールドを移動してるんだよっていう。


 受付嬢はコボルトのが外見チワワだってのを知ってるから、すぐに正体が解ったんだろう。


「あー、あのな、南の森で見たんだけどよ。コボルト・ウォリアーってのが見た目チワワなんだ。つっても、二足歩行だけどな」

「え……」


 ココットの悲痛な声が漏れる。


「盾とか斧とか、弓を装備したチワワなんだぜ。普通にモンスターだから」

「え……モン、スター……」


 やめろっ!

 そんな悲壮感漂う目で俺を見るなっ。俺のせいじゃないんだからなっ。


「なーんだ。モンスターだったのかー」

「コボルトってどちらかというと、シベリアンハスキーとかシェパードとか、そういうイメージだったけどなぁ」

「誰だよ、チワワにデザインした奴」

「チワワモンスター。ヤベェ、見てみたい」


 笑っている男どもを他所に、ココットの絶望感といったら――

 あ、震えてるじゃないか。

 男ども、、チワワで笑いを取るのはもうそのぐらいにしとけって。


 俯いて震えるココットを慰めようとエリュテイアが近づくと、不意に顔を上げたココットはガッツポーズを作っていた。


「二足歩行のチワワ! ライドにしたいですぅ〜!」


 あー、うん。

 この子がズレてるのを今更ながら再認識したぜ。


「ココット。そのチワワな、身長1メートルぐらいしか無いし、無理だから」

「そんなぁ〜」


 今度こそ悲壮感漂わせ、ココットが絶句した。






 南の森で見た内容を、集まっていたメンバーに話して聞かせた。

 コボルトキングと戦った連中も全員揃っている。

 戦ってない連中は興味津々といった様子だ。


「そういや、見張り台にいたチワワが西を指差してたな。ちょっと待ってくれ――」


 俺はタブレットを取り出し、マップを表示させる。今はプレイヤータウンの画面だから、表示エリアを操作してフィールドを映し出す。


「えーっと、砦っぽいのがあったのは、たぶんこの辺りだ」

「ふむ、森の中央だな」

「ここから西、見張りのコボルトの向きにもよるであるが、どうなのであるか?」


 鋼のおっさんの言う通り、砦や見張りの向き次第で西だと思ってた方角が違ってくる。

 が、ほぼセーブルから真っ直ぐ下っていたので、俺から見て右を指差していたから――


「ほぼ西に間違いは無い。角度的には……」


 マップをスライドさせていくと、その先にあったのは、


「サマナの西?……」


 俺の言葉のあと、皆の視線がもっすんに集まる。

 俺も、彼を見た。

 もっすんは俺がやったのと同じようにタブレットを取り出し、マップを開いて自分が見たチワワコボルトの位置把握をしようとしていた。


 彼の答えは――


「サマナ村の南側を西に進んでたっす。月光の森の南にある小さな森っすね」


 それはすなわち、カジャール北の森である、ムーンモスやピッピロウがレアモンスターとして生息していたあの森だった。

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