114:チワワの砦。
午後から再び森に入ってレベリング。
技能性能で人よりやや早い移動速度だが、今日は誰かに足並みを合わせる必要も無い。
ポーションを投げてやる必要も無い。
スティール合戦する必要も無い。
会話する必要も――無い。
いやぁ、久しぶりのぼっち満喫だなぁ。
森の中だってのもあって、静寂が身に染みるぜ。
……。
……。
「あぁぁぁぁぁぁっ! 誰か俺とお喋りしてくれえぇぇぇぇっ」
《ギャウギャウゥッ》
「チワワとお喋りなんて、嫌すぎぃぃぃぃぃっ!」
しかもパーティー組んで仲良子よしなチワワとか、もうそれだけで俺のヘイト上がりまくりっ。
うらぁぁっ! これでも食らえっ。
「開戦一発目の『シャドウ・バーストッ』」
だがしかし、スキルレベル1で範囲内に4匹いる為、1匹あたりのダメージは1800弱。盾チワワに至っては1000程しか出てない。
このレベルになると、雑魚でもHPは5000オーバーなんだよな。
大人しく通常攻撃してよう。
100%発生するダブルアタックと二刀流のお陰で、1回の攻撃モーションで与えるダメージは2000弱と『シャドウ・バースト』よりも多い。
ここにトリプルが入ると+1000ダメージ加わる。
俺の手持ちスキルで一番攻撃力の高い『シャドウスラッシュ』レベル5でも、3000をちょい超える程度なので、MPを消費しないという点を考えれば燃費的にも通常攻撃が勝ってしまう。
2次職スキルで攻撃補正の高いヤツが出てくれればいいんだが。
どうなってやがるんだ?
森の入り口で遭遇したトカゲ以外、森の中だとチワワコボルトしか見てないんですが?
しかも全部が『コボルト・ウォリアー』だ。弓持ってるのもウォリアーって変だろ? というツッコミもどこへやらってほど、こいつらとしか出くわさない。
ぼっちの俺を嘲笑うかのように、常に4匹セットだし。
この森、もしかしてコボルトの巣窟なのか。
だいぶ奥まで入って来たが、今だと森のどの辺りなのか。
タブレットで位置確認をしてみる――と、この森が月光の森の真東にあるって事を思い出した。マップをスライドさせていくと、案の定、月光の森やサマス村が表示される。
「まさかこの森に……あいつが?」
っごくり。
万が一そうだったとして、ぼっちで遭遇するのは拙すぎる。即デスペナコースじゃないか。
はっはっは。
逃げよう。
姿を消して移動可能なスキル『クローキング』を使って、俺は森を北に向って一歩前進する。
――が、その足は一歩だけで止まってしまった。
知りたい。
本当に奴の森なのか。
本当に奴がいるのか。
奴はまだ……誰にも攻略されていないのか。
知ってどうする?
知って……どうもしなきゃいいじゃねーか。知るだけ。ただ知りたいだけさ。
あぁそうさ。知りたいだけなんだ。
別に倒したいとか、そんなんじゃねえし。
よ、よし。『クローキング』のまま奥に進もう。
もうちょっとだけ進んで、ただのコボルト森だったら引き返せばいい。万が一コボルトキングが居たとしても、『クローキング』のままこっそり引き返して、それからファングに乗って全力で逃げればいい。
うん、そうしよう。
静かに、前からやってくるコボルトパーティーにも気づかれないまま森を進む。
獣道を暫く進むとより一層木々が生い茂り、音を立てずに歩くのも一苦労するほどだ。
と思った瞬間。
突然辺りが開けた。
なのに、薄暗い状況だけは変わらない。
それもそのはず。開けたその場所に、丸太を組んで作られた大きな建造物があったから。その建造物が太陽の光を遮っていたようだ。
見てくれ的には、城か砦だろうか?
丸太一本をそのまま使った塀。その向こうにかすかに見える建物。
門は特に無く、丸太の塀の間からチワワコボルトどもが出勤していきやがる。
この建物、チワワの集落なのか? 中はチワワだらけなのか?
……。
おぉー、ガクブルする。想像しただけで寒気がするぜ。
塀に近づき、丸太の隙間から中を覗くと、やっぱチワワがうようよしてやがった。
中に入って偵察するのを躊躇いたくなるな。
とりま、『クローキング』を使用している間は、5秒毎にMP消費し続けるし、そろそろ残量がマズいな。
一度引き返して『エナジーポーション』飲んでからにするか。
こそこそと後退していると、何やら地響きが聞こえてきた。
地震――ではなさそうだ。
なら?
音は背後の要塞から聞こえてくる。
振り返って見たが、音の正体は解らない。ただ、ここからでも見える塀の途中に設置された見張り台の上にいたチワワコボルトが、砦奥に向って一礼しているのが見える。その視線は地面ではなく、見張り台とほぼ同じ高さだってこと。
見張り台だって3、4階建てのビルぐらいの高さだぞ。そんなでかいモンスターが……レイドボス――コボルトキング以外にいるか?
見張りのチワワコボルトが西を指差すと、再び地響きが聞こえてきた。
いるっ!
奴は確実にここにいる!!
まだ攻略もされてない。
塀から姿を現したのは、尻尾が二本、そのうち一本は半分ほど切れたコボルトキングだった。
なんだろう。
奴を見た瞬間、沸きあがるこの高揚感は。
奴が生きていることに、心底感謝した。
この高揚感をぐっと押し殺し、奴から遠ざかる。
そして『クローキング』を解くと、奴等に聞かれるのもお構い無しにライドホイッスルを吹き鳴らした。
やってきたファングに跨ると、背後からチワワコボルトの吠える声が聞こえてくる。それも無視してファングを走らせた。
北に向って――
レベルを上げよう。
スキルを増やそう。
技能も鍛えよう。
それから――それから――
それから、どうする?




