113:チワワでし。
「チワワ……?」
がさごそと茂みから出てきたのはチワワ。
もとい。
チワワの顔をした二足歩行の犬っぽい何か。
うん。やっぱチワワでいいや。
特徴的なギョロ目と、口の端からチラ見している舌。どう見てもチワワだもんな。
決定的な違いは、身長1メートルちょいぐらいの二足歩行だって事。
些細なもんだ。
それにしても、可愛くない。
犬が嫌いなわけじゃないが、このギョロ目チワワはあんまり好かない犬種だな。
柴犬とかコーギーとか、せめてポメラニアンだったらなぁ。
《ギャワオンッ!》
ギョロ目を更に見開き吠えると、後ろの茂みから更に追加のチワワが3匹現れた。
うわぁー、数が揃うとなんか不気味だな。まぁ不気味なせいで、心置きなくぶっ倒せるけど。
「さっきのトカゲはあっさり倒しちまったが、今度は新スキルを試すか」
合計4匹。『シャドウ・バースト』がどのくらい使えるか、確認しておこう。
ま、レベル1しか取ってないし、それほど使えるとは思わないが。
まずは奴等のレベルを確認っと。
じぃーっと見つめてモンスター情報を表示させる。
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【モンスター名】:コボルト・ウォリアー
【レベル】:42
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レベル42か。43ぐらいだったら良かったのになぁ。
で、やっぱコボルトなのか。
他のネトゲだと、シベリアンハスキーだとかシェパード系な、毛がふさふさしてるタイプのコボルトが多いんだが。
よりにもよって毛の短いタイプのチワワだもんなぁ。
だがモンスターに変わりは無い。しかもこいつら、4匹全てが違う装備をしてやがる。
最初に出てきたのが、片手剣に盾を装備したチワワ。
後から出てきたのは、片手で小さな斧を持った奴や弓を背負った奴、短剣を装備した奴だ。
これでヒーラー役でも揃ってれば、完全にパーティーだな。
「っ糞。こっちは久々のぼっちだってのに……悔しくなんかねーからなっ!」
《フヒーッヒッヒッヒ》
むっかぁーっ!
あの盾持ち、むかつくんですけど!
予定変更。あいつを全力でぶっ倒すっ。
「食らえっ『シャドウスラッシュ』」
スキルレベルMAXで攻撃力550%ダメージだ。食らいやがれっ!
閃く二振りの短剣。
確実に奴を捕らえた――と思ったが、捉えたのは奴の盾。
ガキィーンっと激しい金属音が鳴り、俺の手首に衝撃が伝わってくる。
「ちょ、嘘だろ。まさか『ガード』なんて使いやがるのか?」
剣士専用の防御スキル。
盾の正面からくる攻撃を防御し、ダメージの80%をカットする――だったな。
おいおい、モンスターがプレイヤースキルを使うのかよっ。
正面からの攻撃はダメだ。横に回りこんで――イテッ。
後ろから、そして横から他のチワワが襲ってくる。
っ糞。なんだこの連携は!
糞犬共のくせに。ムカつくっ!
「一気にかたをつけてやる! 『シャドウ・バースト!』」
叫んでスキルモーションを自動で発動させる。
両手をクロスさせ、敵対象に切り込んでから、利き足を軸にして回転。
なるほど。範囲内に敵が多いと、回転を勢いが殺されてダメージが減るっていうイメージかな。
《ギャワワオン!》
《ッキャイン》
盾チワワ以外が悲鳴を上げる。流石に盾チワワは防御がでかいようだな。
《フヒーッヒッヒッヒ》
自らの防御力を自慢するかのように、盾チワワがまた笑う。
っかぁーっ! ムカつく!!
怒りに任せて『シャドウスラッシュ』を放つと、やっぱり『ガード』された。
プレイヤースキルだっつーのに……あ?
「まさかテメェ! その笑いは『タウント』か!?」
俺、モンスターにヘイトスキル使われて、まんまと誘導されてたってことか。
……ショボーン。
ヘイトスキルを使われている。
そうと解ってしまえば、盾チワワに固執する事もなくなった。
正直、安堵したぜ。
モンスターみたいに、ヘイトでターゲットを強制固定とかされてたらどうしようかと思ったもんな。
けど、ヘイトスキルって実際あんな感じなんだろうなぁ。小馬鹿にされたような感じで、かなりイラっとさせられた。
盾は無視。遠距離で厄介な弓チワワに向って『電光石火』で接近し、『シャドウスラッシュ』と通常攻撃のコンボで沈める。
それから短剣、斧、最後に盾の順で倒していった。
「うーん。弓チワワの命中率だけやっぱ高かったな。他の攻撃は完全に回避できてたが」
敵の命中率とこっちの回避数値の差で、プレイヤー側の回避率が決定するからな。
弓の攻撃力はDEX依存。それはモンスターも同じだろうし、弓を持つモンスターならDEXが高い=命中率も高いもんなぁ。
その後も現れるチワワ軍団は、常に盾・斧・短剣・弓という4匹セット。
チクチクと弓矢で刺され、一戦毎に微妙なダメージを食らう事になる。
久々に物理ダメージを食らいまくった。
そのお陰で【忍耐】技能が50に達成。
《【忍耐】技能がLV50に到達しました。特位技能【鉄壁】が派生しました。特位技能【格闘王】が派生しました》
おっと、派生技能が出てきたか。
しかし、技能ポイントは1しか無い訳で、どっちを取ったものか。
昼も近いし、一旦森を出て飯を食いながらゆっくり考えよう。
ライドホイッスルを吹き鳴らし、ファングを呼び出す。彼女に跨って森を抜けると、モンスターの分布が少なそうな場所へと向った。
草原に点々とする岩。この上が安全なエリア扱いになっている。
フィールドで休憩をするときにどうぞ。というマザーの配慮らしい。ありがたや。
「さて、まずは――」
まずはカツカレーを取り出す。
んん〜、スパイスの香ばしい香りがする。アイテムボックスに匂いが移らないってのがまたサイコーな仕様だな。
食いながらタブレットの操作も同時に行う。
飯のときにこんな事やってたら、お袋にどやされたもんだけどな。
今はそのお袋もいないし、誰に文句を言われる訳でも無い。
あれ?
そういやなんで、お袋がいないんだ?
……まぁいいや。
えーっと、【鉄壁】が……
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【鉄壁】耐久/防御の技能がそれぞれ75になって派生。もしくは忍耐の技能が50で派生。
主に盾装備時に使えるスキルが発生しやすくなる。
技能レベル×+1の防御力。盾装備時は技能レベル×+1が追加される。
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この技能を上げたら、プチ硬いアサシンから、マジもんで硬いアサシンになりそうだな。
次、本命っぽい【格闘王】
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【格闘王】格闘/耐久技能がそれぞれ50になって派生。
被物理ダメージが技能レベル×0.2%減少。物理攻撃力0.5%上昇。
クリティカル発生率が0.5%上昇。 完全回避0.5%上昇。
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防御と攻撃力の両方がアップされるのか!
数値的には【鉄壁】のほうが防御力も上がるだろうが、俺的にはやっぱ【格闘王】のこっちだな。
迷わず【格闘王】をポチっておく。
当方、猫派です。




