101:怪獣大決戦
《ギャウォンッ》
コボルトキングの悲鳴が響き渡る。
同時に、俺の短剣から悲鳴にも似た音が聞こえた。
今の、武器破壊か!?
見上げたコボルトキングは、まだ健在だ。
ダメージは2000オーバーしたが、これまでのトータル分合わせてもまだ5%も削れていない。
武器が破壊されたんじゃ、俺の『カウンター』ダメージも激減するだろう。
今度こそ詰んだ?
「みんな、みんな頑張ってるぉ」
いつの間にか足元にやってきたアオイ。
興奮したように四つん這いになってコボルトキングを威嚇している。
「おい、アオイ。危ないからあっち行ってろっ」
「いやっ!」
いやって、おい?
「アオイも……アオイも皆と一緒に頑張るおおぉーっ」
っぼわんっと擬音めいた音をだし、白煙が立ち昇る。
おかしい。
アオイの物量に対し、白煙が多すぎる。
これじゃまるで――こいつのかーちゃんが変化した時のような――
《コオオォォォンッ》
白煙から現れたのは、プチ巨大な狐。
かーちゃんほどではないが、俺の知ってるアオイのサイズじゃない。5トントラック並みの大きさがあった。
え?
こうなるともう、怪獣大決戦だな。
巨大化したアオイがコボルトキングに噛み付き、コボルトキングはアオイを殴り飛ばす。
拳を食らってアオイが悲鳴を上げると――
《我が子になんとするっ!》
とかいって、月光の森から黄金に輝く九尾が飛んで来た。
コボルトキングとほぼ同サイズの九尾。それよりやや小さいアオイ。
3匹が入り乱れての乱闘となり、俺たちはそれを呆然と眺めているだけだった。
が、決着は呆気なく付いた。
コボルトキングが逃走しやがった。
あー、やっぱアオイのかーちゃんは、かなり廃なレベルだな……。
逃げるコボルトキングを追うわけでもなく、かーちゃんはアオイをひしと抱きしめていた。尻尾で。
《ようやったのぉ、娘よ。よう成長できた。母は嬉しいぞえ》
《ははさまっ。アオイはね〜、皆みたいに頑張りたかったぉ》
《そうか。守りたいものができたから、お前は強くなったのだのぉ。よきことかな》
「あ、あのー……」
感動的な親子の対面をしている所申し訳ないんだけども……この場をどうしたものか。
『月光水』を持ってた俺たちは、なんとか復活して立っていられるが、他の連中はそろそろ死体制限時間もいっぱいいっぱいだろう。
町に戻るかどうかだけでも決めねーと。
《おぉ、そうじゃったな。今回ばかりは特別じゃ。そこな仲間達も起こしてやろう。傷の治療は自分達でやるがよい》
「お? リザ持ちなのか」
九尾が尻尾を振ると光る粉のようなものが舞い降り、屍組を蘇生していく。
「ぬおおおおおぉぉぉっ。残り10秒じゃった!」
「いちいち雄叫びあげるなよ……」
「えー、なんで君たちは復活してるわけ? そういうスキル持ってるの?」
「ナツメも復活早々かよ。俺らはこの前のダンジョン戦で、リザ効果のアイテムをゲットしてたんだよ。10本限定だけどな。まぁまた水汲みいかねーとな」
『8本消費いたしました』
「デスペナ7回ゲットデース」
「っふふ……もう少しでレベル34だったのに。経験値、マイナス70%だわ」
「コボルトキングも倒せなかったし、赤字しかなかったわねぇ」
おおぅ……俺、デスペナ1回だわ。
みんなスマン。一人でたそがれてる間に、ぱたぱた死なせてしまったわ。
っていうか、なんで復活しまくったんだ?
「え? だって立ってる人いるのに、タンクの私が死んだままじゃダメだと思ったし」
っとはエリュテイア。
「エリュテイアさんと受付嬢さんを残して死ねまセーン」
とはクィント。十分死んだだろうに。
「死に戻り、誰もしてないし、水が無くなるまで、ゾンビアタックするものと思ってた」
っとはみかん。
『皆様復活されておりましたし、そういう作戦なのかと思いまして』
っとは受付嬢。
あぁ、つまり――
「死んだときどうするか決めてなかったから、ゾンビアタック化しちまったのか……」
恐ろしい……今までのネトゲではずっとソロだったし、ゾンビアタックなるものは生で見た事もなければやった事も無い。
パーティーで申し合わせてやる作戦だとばかり思ってたが、こういう事態でも発生するとはな。なんとも間抜けな話だ。
まぁ村人の避難時間は稼げた訳だし、結果オーライ……なのだろうか?
「カイトぉ〜。アオイ頑張ったぉ〜」
いつの間にか幼女化したアオイが、思いっきり跳ねて俺の顔面にへばりつく。
首、折れるんですけど!
「あぁあぁ、頑張ったな。頑張ったから降りてくれっ」
「えへへぇ〜。ははさまとカイトに褒められたぁ〜」
ひっぺがしたアオイは、満面の笑みを浮かべている。
かーちゃんとの感動(?)の再会もあった事だし、超レベルアップもしたようだし――
俺もお役御免……だよな。
「アオイ、ありがとうな。お前のお陰で、あれ以上のデスペナを食らわずに済んだぜ」
「よくわからないけど、いいって事ぉ〜」
『アオイがこんなに頼もしくなるなんて、ワタクシ、思ってもみませんでした』
「えっへん」
今生の別れとばかり、アオイの頭を撫でてやる。
嬉しそうに尻尾を振るアオイが、俺と受付嬢の足に抱きついてきた。
「親子であるな」
「親子ね」
「本物のお母さんはすぐそこにいるんだけど……」
《我から見ても親子のようじゃ》
「ザ・ファミリーデース!」
「和みますねぇ」
あいつら、何好き勝手言ってやがるんだ。
親子ってお前等……え? お、親子?
つまり俺が親父でアオイが娘で、受付嬢がお袋?
え?
つまり俺と受付嬢が夫婦?
《犬王も東に逃げおったことじゃ、我は森に帰るとしよう》
おっと、てんぱってる場合じゃないな。
長いようで短かったアオイとの日々。
最初は首の筋肉を傷めるんじゃないかと、ちょっとだけ心配もした。今じゃこいつの重みにも耐えるところか、肩車のままでも雑魚戦が可能になるほど余裕が出てきた所だったんだが……。
もう少し慣れれば、ボス戦中でも肩車できたかもな。
「アオイ……」
「あいぉ〜」
元気に暮らせよ――
《ではカイト殿、引き続き娘を頼むぞえ》
あ、やっぱり?




