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99:助っ人(変人)現る。

「既に戦闘状態デス。『リターン』は使えないデスよ」


 そう言うクィントの後ろで、同じく『テレポート』はもう使えないと教授が舌打ち交じりに報告してきた。

 つまり、魔法での離脱は不可能。


「た、助けてくれぇー」


 コボルトキングと俺たちの間に人影が倒れていた。プレイヤーではなく、村人のようだ。


「助けなきゃ!」


 っと叫ぶエリュテイア。

 助けた所で、俺たちは全滅必須だな。その後、どうせ村人も殺されるだろ。さっき見たプレイヤーみたいに。


「助けるんでしょ!?」

「いや、なんで俺見るんだよ」

「だって……だってっ。助けてくれたじゃない、私とココットをっ」

「あ、あれはだって、お前らが――」


 プレイヤーだから。だから助けた。

 NPCだから、俺は助けないのか?

 もしあの村人がソルトだったら? ソリオのおっさんでもいい。

 やっぱり、助けないのか?


 受付嬢だったら――


「だあぁぁっ! 解ったよ! 村人が逃げるまでの間だけ、時間稼ぎしてやるよっ」

「そうこなくっちゃ!」


 うーむ、少し見ないうちに、なんて漢らしくなったんだ。

 いや、エリュテイアは女子だが……。






「『タウント!』」


 駆け出したエリュテイアが、有効範囲に入ったコボルトキングに向ってヘイトスキルを使用。

 今にも踏み潰されそうだった村人は難を逃れ、あたふたと逃げ出した。

 よく見ると、他にも数人の村人が倒れてるじゃねーか。中には怪我をしてる奴もいる。


「クィント!」

「OKOK。ゴミヒールを食らうのデス!」


 って、自分でゴミヒール宣言かよ。しかも食らえって……攻撃じゃねーんだし。

 クィントよりややマシな回復量のポーションを村人に投げ、彼らの傷を癒していく。


『動けるようになった方は、直ぐにこの場から離脱してください』

「ありがとうございますだ。ありがとうございますだ」


 受付嬢の声に感謝する村人もいるが、さっさとどっか行ってくれないかと内心思う。


「っきゃ!」

「oh! エリュテイアさーん」

「やっぱりレベル差が大きすぎるねぇ、あはは」


 もう笑うしか無いという具合に、ナツメは乾いた笑みを浮かべて短剣を構えている。

 コボルトキングの一撃を食らったエリュテイのHPは、7割も持っていかれていた。


「嘘!? ガードしたのに……」

「レベル差があり過ぎるのだよ。しかもレイドボスだからな」


 教授から放たれた炎の塊が、コボルトキングの胸元で爆発した。

 が、毛が焦げた程度で、ダメージ量は2桁ほどしか出ていない。幾らレベル差があるからって、高火力職の攻撃であれかよ……レイドボスって、予想以上だな。


 エリュテイアに向って俺の『ライフポーション』と、クィントのゴミ『ヒール』が飛ぶ。が、流石に回復しきれない。

 更にここでコボルトキングの尻尾が振り回され、接近していたエリュテイアとナツメ、それに受付嬢の三人がダメージを受けた。

 幸いダメージ量は多くは無く、ギリギリでエリュテイアのHPは残った。元々ノーダメージだったナツメと受付嬢も同様に、ギリで2桁のHPが残ってるだけだ。


 マジ……ヤベェ。

 誰を優先して回復する?

 クィントはエリュテイアと受付嬢にそれぞれ別々の回復スキルを使っているようだ。やっぱナツメは放置か。

 じゃあ、俺がナツメの回復をするべきか?

 いや、ナツメは後ろに下がって範囲の外までしっかり逃げているし、受付嬢もそれに習って移動しはじめた。やっぱエリュテイアか。


 慌ててポーションを取り出し、投げつけようとした時――


「助太刀するぞい」

「『癒しの御手(ハイ・ヒール)』」

「ふふ、楽しそう。わんこ、お手」


 おっさん声に女二人の声が続けて聞こえてきた。3人目の声は聞き覚えがある。


「『ボム』」


 短く発せられた聞き覚えのある女子の声のあと、コボルトキングの眼前で炎が弾けた。


「うおおおぉぉぉぉぉっ! 『タウント!』」


 地響きのような唸り声を上げたおっさんのヘイトスキルは、無情にも木霊するだけだ。

 まぁそうだよな。

 ここまでエリュテイアは何発かの『タウント』を使ってんだ。早々タゲを奪える訳が無い。

 

 現れた3人のうち、魔法使いの女子はみかんだった。


「みかんちゃん!?」

「oh。みかんさん、オレが恋しくて――」

「黙れ、腐れエロ神官」

「oh……」


 相変らず辛辣だ……。

 助っ人に飛び出してきた残り二人のうち一人は、ココットタイプの完全ヒーラーらしい。複数の回復魔法を駆使して、エリュテイアを全快させ、ナツメと受付嬢のHPも8割回復させている。

 最後の一人は――


「おおおぉぉぉぉぉぉっ『タウント!』」

「叫ぶのに意味あるのか?」

「雰囲気であるっ」


 雄叫びを上げつつ、ヘイトスキルの『タウント』『シールドスタン』『突撃』ってのを上手い具合に繰り返している。

 しかし、何故かまったく攻撃はしていない。

 いや待て……武器持ってねーぞ、このおっさん。

 

 やたら身長が低く、樽のような体型をしたおっさんは、全身鎧フルプレートを着込み、盾を両手で装備している。

 一つの盾を両手で――ではなく、小型の盾を左右それぞれの手で装備。つまり、


「二盾流!?」

「ふははははははは。防御こそ漢のロマンであるっ!」


 マジかよ!

 おっさん、攻撃手段捨てて、防御に特化させてやがるぞ。

 あまりにも見事なスキルコンボもあってか、遂にエリュテイアからタゲを奪ったおっさん。

 コボルトキングの初撃を2枚盾でガードすると、食らったダメージは僅か3桁。1割程度も削られていない。

 おいおい、どんだけ堅いんだよこのおっさん。


 けど、これは行けるかも?






 村人の回復は、助太刀に加わった女子エルフの神官に任せ、残りメンバー全員でコボルトキングと対峙する。

 メインタンクはドワーフ似のおっさん。エリュテイアは攻撃に専念してもらい、もしもの時はおっさんに変わってスイッチしてタンク役に。

 盗賊三人は範囲攻撃に巻き込まれないよう、奴の側面で尻尾に注意しながら戦う。クィントも同様だ。

 魔法使い二人は範囲の届かない、魔法の射程ギリギリで詠唱を続けている。

 悲しいかな、レベル差のせいで物理攻撃組は攻撃ミスが多い。命中率が足りて無いんだな。

 それでも、少しずつだが奴のHPは削れている。


 どこまでやれるか解らない。解らないけど、やれるとこまでやってやる!


 人生初のレイド戦だぜ?

 もうワクテカが止まらないだろ。


 混合パーティーとはいえ、実際のレイド戦に比べれば少人数だろう。レベルだって足りて無い。

 それでも、おっさんの防御力があれば――長期戦になるのは必須だが、じわじわとでも削れれば、あるいは――


『尻尾っ、来ます!』

「うおっ、ヤベェ、間に合わねぇっ――」


 戦闘中の妄想は止めましょう。

 普通に『バックステップ』で後退していたんじゃ間に合わない。

 咄嗟に俺が取った行動は――


 電光石火――そして――


「タイミングどんぴしゃ! 当たってくれっ『カウンター!』」


 命中率の足りない状態でミスしたら……カウンター攻撃のミスって、モロに攻撃食らうって事だよな。下手したら即死コースとか?


 眼前に迫り来る尻尾に向って、二振りの短剣をクロスするかのようにして一閃。

 

《ワオオォォォォォォォンッ》


 サマナ村に木霊するコボルトキングの声。

 俺のカウンターは奴に届き、その尻尾を1本、毛先だけだがぶった切ることに成功した。


《【格闘】技能スキル『|急所突き』を修得しました》


 システムメッセージが浮かび、久しぶりに技能スキルが発生。カウンターに上乗せされたのかどうか、確認する余裕は無ぇ。

 が、解った事がある。


「なんだ、今のダメージ……まともな数値が出てたぞ」


 今までの攻撃じゃ100すら出なかったダメージだが、今のカウンター攻撃は1000オーバーだった。

 もしかしてカウンターって、自分の攻撃力だけじゃなく相手の攻撃力も計算に入ってるのか。

 それとも技能スキルに関係しているのか。だとしても技能スキルだけで1000オーバーなんてあり得ない。

 だとすると――


「ナツメ! 受付嬢! 『カウンター』が有効だぞ!」


 ここには盗賊があと2人居る。

 行けるんじゃね?


「持ってないよ『カウンター』なんて」

『スキルポイントが残っておりませんので、『カウンター』は修得できません』


 やっぱ行けないか?


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