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98:実装されていたモノ。

「で、こいつが『ウゴン草』の種だ」


 モリアーティー教授の『テレポート』でサマナ村へと瞬間移動し、その足で月光の森へと向った俺たち。

 俺とアオイはケモミ村へ、受付嬢、ナツメ、クィント、エリュテイア、そして教授は木の伐採へと向っていた。

 俺がケモミ族の村に行ったのは、オタル氏に金を渡し、約束通り状態異常への耐性が一定時間付くという『リカバリーレジスト・ポーション』のレシピを教えて貰う為だ。

 その素材である『ウゴン草』はこの森にしか自生していない。が、実は種を蒔けば、どこでも栽培できるらしい。

 その種を新築祝いだといって、オタル氏がくれた。


「でも、どこで栽培するの?」

「うーん……どこ、だろうな?」

「家を建てる土地は広いのだろう。大き目の庭でも作って、家庭菜園でも作れば良いのでは?」


 教授の言葉に、なんとなく『家庭ウゴン園』という言葉が浮かんだ。なんかジャングルじみた庭しか想像できないんだが。


『リカバリーレジスト・ポーション』を修得し、木の伐採組と合流して、日暮れギリギリまで伐採しまくる。

 先日の伐採専用エリアなので、モンスターに襲われる事も無く安心して木こり作業に専念できた。まぁそれはそれで、レベルも上がらないし飽きてしまうんだが……。

 だが建築費用を浮かせる為だ! っと言い聞かせて、皆でへいへいほーとばかりに木を切り倒し続けた。


 結果――


「広範囲に渡って、禿げたね」

「禿げたな」


 ナツメと並んで俺たちが伐採しまくった景色を眺める。

 禿げてはいるが、既に新芽も伸び始めているってね。


「ポーション投げたら成長が加速するかな?」

「いやいや、しないでしょ。それよりさ、突っ込むべきかどうかずっと迷ってたんだけどさ。アオイちゃんのセーラー服って、どうしたの? カイト君、そういう趣味じゃないと思ってたんだけど」

「いや趣味じゃねーし。あれは、かくかくしかじかで楓っていう女子がだな、勝手に作ったんだよ」

「ふーん。ボクはてっきり趣旨変えしたのかと思ったよ」


 ナツメの反応は無視して、なんとなくポーションを投げつけて――というか、新芽に向って真上から落としてみた。

 地面にぽとりと落ちるはずだったポーション瓶は、土の上に落ちたとは思えない甲高い『ッパリン』という音を立て盛大に割れ、中身の液体を新芽にぶちまける。

 紅色のポーション液を浴びた新芽は、一瞬もぞもぞと動くと――


「でっかくなりました!?」

「っぷはは。マジでポーションで成長した!」

「ちょ、クィント! お前、『ヒール』を新芽に使ってみろ」


 新芽だったものは、今や2メートルほどの高さにまで成長している。『ポーション投げ』が通用したのなら、『ヒール』はどうだ?

 クィントは魔法の詠唱に入り、ゴミ回復量の『ヒール』を発動。

 これまたもぞもぞ動いた新芽は、次の瞬間には1.5メートルほどに成長した。

 回復量で若干の差があるのか。


「私も! ポーション掛けてみるわね」


 エリュテイアがポケットからポーションを取り出し、栓を開けて中身を新芽に注いだ。

 が、何も起こらない。


「えぇ〜、どうして?」

「ふむ。もしや、他者に対して効果のある回復手段でなくてはならないのかもしれないな」

「通常だとポーションは、使用者本人を回復する手段だもんね。カイト君のはユニークスキルで、他人にも効果あるけど」

「へぇ。面白いな。しばらく木を成長させてやるか」

「自然を愛しむデスね。オレも協力してやろうデス」


 愛しむっつーか、単純に面白いだけなんだが。

 一番回復量の少ない『ライフポーション:LV1 ☆☆☆』のあまり物が、未だ140本ほどあるのでそれを投げ――落として回った。

 その途中、


「何故か『植林』という技能を修得したんだが?」

「オレもデース」

『おめでとうございます』

「ありがとうございマース」


 植林って、木の苗とかを植える行為のことだろ?

 とツッコミを入れるべきだと思うんだがなぁ。






 日暮れ頃、丸太が全員合わせて1200本程になったので帰還する事に。

 俺の【植林】技能はレベル5になり、ボーナスステータスが何なのかも判明。


「これ、ココット向けだったな」

「そうデスねぇ。DVO上昇だったデスねぇ。まぁオレはあってもいいですケド」

「破壊僧のクセにか」


 DVOが上昇すれば『ヒール』の回復量が増えるし、聖属性の攻撃力も上がる。あと、MP量にも影響する。

 まぁMPが増えるっていう点だけは、全職でいらないステータスって訳でもないが。

 帰還すると決めたが、この伐採専用エリアでは『リターン』が使えないらしく、一度このエリアから移動する事に。もちろん『テレポート』も不可だった。


 伐採エリアから通常のフィールドである月光の森へと出ると、俺の肩にぶら下がったセーラー服姿のアオイが突然機敏に動き出し、肩に足を掛けて立ち上がった。


「おいアオイ。危ないから降りろっ」

「アオイちゃん?」

『アオイ、どうかしたのですか?』


 俺にはアオイがどうなっているのか見えない。が、何故か皆がある一点に視線を向ける。

 森の東――サマナ村のほうに向って。


「ううぅぅぅぅぅっ」

「アオイ?」


 唸り声を上げるアオイに、ただならぬ空気を感じる。 


「どうした、アオイ?」

「ううううぅぅぅぅぅうぅっ。嫌な匂い、村から流れてくるぉ」


 嫌な匂い?


「その娘はNPCで、この森の聖なる獣の子なのだろう? 村の襲撃イベントを察知しているのでは?」


 そういうと、教授は『テレポート』の詠唱に入った。


「準備をしたまえ」

「解った」

「ブーストスキル、掛けとくデース」

「ま、待って。装備整えるから」

『念のため盾を装備しておきますね』

「じゃボクも」


 まともなヒーラーがいない分、出来るだけ防御力は上げておいたほうが良いだろう。

 といっても、俺は二刀流のままだけどな。

 クィントの支援魔法が全員に配られ、装備も整え終わると『テレポート』の発動によって瞬間移動を完了させた。


 視界が切り替わると、森の中だった景色は一変し、無残に破壊された柵や畑が飛び込んで来た。

 その中に蠢く巨大な毛皮。

 二足歩行の狼のような犬のようなそれは、巨大な手にプレイヤーを一人、掴んでいる。

 振り上げた腕を、まるで投球のようなポーズでもってプレイヤーを投げ飛ばす。

 飛ばされたプレイヤーは地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。


「な、なに、あれ……」


 エリュテイアの驚愕したような声が聞こえる。

 俺たちが見ている前で、動かなくなったプレイヤーは姿を消した。

 考えられるのは只一つ。

 戦闘不能、つまり死亡したプレイヤーが復活を諦めて教会に戻ったのだろう。サマナ村に教会は無いから、カジャールかサラーマだろうな。


 それにしても――でかい、な。

 狼にしろ犬にしろ、二足歩行のそれは二階建ての家よりもでかい。

 レアモンスターも大型だが、それより更に大きなモンスターって……。

 後姿しか拝めていない状況だが、異常なのは奴の尻尾だ。二本ある。それぞれが別の生き物のように、うねうねと動いて不気味だ。


「はっはっは。まさかこんな所でレイドボスとは……」

「は? 教授、何言ってんだ?」


 やや顔を引き攣らせている教授は、モンスターネームを確認しろと促した。

 まだこちらに気づいていないアレをじっと見つめ、モンスターネームを確認する。




---------------------------------------


 モンスター名:†暴虐のコボルトキング 

     レベル:45

 

---------------------------------------




 は?

 レベル45!?

 今までのレアモンスターだと、冠名なんかは付いてなかったぞ。それに、名前の前に付いた記号……指をなぞらせると吹き出しが出て、そこには『レイドモンスター』という文字が……。


「おいおい、マジで? 実装されてるとは書いてあったけど、こんな所で出るかなぁ?」


 流石のナツメも顔が引き攣っている。そりゃ引き攣るよな……しかも、相手はレベル45のレイドボスだ。

 俺のレベルは29。パーティーの中で一番レベルの高い教授でもレベル32だ。

 断言する。

 絶対に勝てない。


 ここは、逃げるしかないだろ?


「クィント、『リターン』急げっ」

「OKOK――ってダメでした」

「ダメって、なにがだ――!?」


 突然悪寒のようなものが走る。

 尻尾に電気が走ったみたいな、毛が逆立つのが解った。


 俺たちが見つめる前で、巨大な毛皮の主はゆっくりと振り向く。


 青黒く毛並みの至る所には返り血のような赤い何かが見え、開かれた口からは大量の唾液が零れ落ちる。

 光の無い真っ黒な瞳は生気があるのか無いのか、判断しづらく、それがかえって不気味だ。

 俺の隣でクィントが悲痛な声を上げた。


「既に戦闘状態デス。『リターン』は使えないデスよ」

月・火とお休みです。

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