↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
『異世界ポポロ村の家庭科無双!〜読書家の高校生がエプロン一つと身近な格言で、借金女神も魔王も救う人生お役立ち物語〜』  作者: 月神世一


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
11/13

EP 11

ほころびた芋ジャージと、【家庭科】の裁縫リペア術

 ポポロ村に柔らかな木漏れ日が差し込む、穏やかな昼下がり。

 村長公邸の居間には、前代未聞の奇妙な光景が広がっていた。

「うぐぅ……また引っ掛けちゃったわ……! 私の勝負服がぁぁぁ!」

「あああっ、ルチアナ様! わたくしの膝小僧も、みかん箱の角に擦れてパックリ口を開けてしまいましたのよ……!」

「うわあああん(棒) たいへんだ〜(棒) リリスの裾を踏んづけてビリッて音がしたよ〜(棒)」

 頭を抱えて悶絶していたのは、天界から居座っている世界神ルチアナ、地下アイドル人魚姫リーザ、そして見習い女神のリリスの三人だった。

 三人が身にまとっているのは、いまやポポロ村シェアハウスの「正装」となりつつある、安売りの小豆色芋ジャージである。

 だが、その状態は目も当てられなかった。

 ルチアナのジャージは、こたつテーブルのトゲに引っ掛けたのか、右ポケットの縫い目が大きく裂けて裏地がベロンと垂れ下がっている。

 リーザのジャージは、度重なる路上ライブの過酷なステップと光速スライディング土下座の摩擦により、両膝の生地がすり減ってぽっかりと大きな穴が空き、白い素肌が覗いていた。

 リリスのジャージに至っては、サイズが合っておらず長すぎる裾を自分で踏みつけ、裾上げの糸がツツツーッとほどけてボロボロのフリンジ状態。さらに胸元のジッパーの飾りボタンが、今にもポロリと取れそうに一本の糸でブラブラと揺れていた。

「もう嫌ぁぁ! 買い替えるお小遣いなんて一円もないのにぃ! これ以上破れたら、ただの貧乏神になっちゃうじゃないのよ!」

「わたくしもですわ! この穴から冷たい秋風がスースー入ってきて、人魚の古傷が痛みますの……! けれど帝都のブティックで新しい衣装を買うお金など……うぅ、五円玉しかありませんわ……!」

「あはは……みんな、ジャージ酷使しすぎだよぉ」

 キャルルが苦笑いしながら縁側でお茶をすすっていたが、ふと自分の胸ポケットから取り出したお気に入りの「人参柄の刺繍ハンカチ」を見て、しょんぼりと長い白兎耳を垂らした。

「……あ、私のハンカチも、端っこの糸がほつれてきちゃってる。母形見の布で作った大切なハンカチなのに、引っ張ったらどんどん解けちゃいそうで怖いな……」

 ため息が重なるリビングへ、洗濯カゴを抱えた赤木大地が足を踏み入れた。

 大地は四人の服とハンカチの惨状を一瞥すると、優しく目を細めて微笑んだ。

「皆さん、服を買い替える必要なんてありませんよ。穴やすり切れなら、僕がお直ししてみせます」

「えっ……? 大地さん、穴の空いたジャージを直せるの……?」

「穴が開いたらガムテープ貼るか、ハサミで切り落として短パンにするしかないと思ってましたわ……!」

「ガムテープは糊がベタベタになって余計に服が死ぬから絶対にやっちゃダメですよ!」

 大地は背中のリュックの底から、コンパクトな手のひらサイズの缶ケースを取り出した。

 蓋を開けると、中には色とりどりの手縫い糸、針山に刺さった数本の縫い針、握り鋏、指ぬき、そして実家の母が持たせてくれた裁縫用の小物たちが整然と収まっている。

 大地は紺色の木綿エプロンを取り出すと、腰の後ろでキュッと固く紐を結んだ。

【ユニークスキル:家庭科 が起動しました】

【繊維組織鑑定・被服構造力学・修繕リペアプロトコルが接続されます】

 大地の視界に、ジャージのポリエステル繊維の編み目、布にかかる張力のベクトル、最適な縫い糸の太さが青白い光のグリッドとなって浮かび上がった。

「ルチアナさん、リーザさん。僕の故郷には、昔からこんな言葉があるんです」

「『一針(ひとはり)の遅れが、九針(くはり)の手間になる』」

「ひとはりのおくれが……くはりのてま……?」

 ルチアナが首を傾げた。

「はい。英語の古いことわざで『A stitch in time saves nine』という言葉の翻訳です。服のほつれや小さな穴を見つけた時、『まだ着られるからいいや』と放置してそのまま着続けたり洗濯機で回すと、あっという間に裂け目が何倍にも広がってしまいます。最初の小さなほころびのうちにサッと一針縫っておけば数十秒で直ったものが、放置したせいで九針も十針も縫わなきゃいけなくなったり、二度と直せない大破に繋がってしまうんです」

 大地は針に糸を通しながら、みんなの顔を穏やかに見つめた。

「これはお洋服だけじゃありません。人間関係の小さなすれ違いも、お部屋のちょっとした汚れも、健康の微かな違和感も、全部同じです。『小さなほころびのうちに、早めにていねいに手当てすること』。それが、物も人生も一番ラクに、長く大切に保ち続ける最大の秘訣なんですよ」

「小さなほころびのうちに手当て……深い……! 胸とジャージに沁みるわぁ……!」

 ルチアナが破れたポケットを押さえながら唸った。

「さあ、始めましょう! 誰でも今すぐできる【家庭科の3大・衣服リペア術】です!」

 大地はまず、リリスの取れかかったボタンに目を留めた。

「ステップ1は、【絶対に取れない『ボタンの根巻き(ねまき)』】です!」

 大地はブラブラしていたボタンの糸を一度切り、二本取りにした丈夫な糸を針に通した。

「ボタンがすぐポロリと取れてしまう最大の原因は、『布とボタンを隙間なくギュウギュウに縫い付けてしまうこと』なんです!」

「ええっ!? 隙間なく固く縫い付けた方が、頑丈で取れにくいんじゃないの!?」

 キャルルが兎耳をピクッと立てて身を乗り出す。

「いいえ、逆なんです。ボタンを留める時、ボタンの下には相手側の『布の厚み』が入り込みますよね。隙間がないと、布を入れるたびに縫い糸に強い引き裂き張力がかかり、糸が擦り切れて一瞬で千切れてしまうんです」

 大地は針を動かし、布の裏からボタンの穴へ針を通した。

 ここで大地は、ボタンと布の間に、一本のマッチ棒(爪楊枝)をスッと挟み込んだ。

「こうして少し隙間(約2〜3ミリ)を開けた状態で、穴に三回から四回糸を行き来させます。そして爪楊枝を抜き、針をボタンと布の間の隙間から出します。ここからが極意――『糸の足に、針の糸をグルグルと3〜4回巻きつける』んです! これこそが『根巻き』です!」

 大地が手際よく軸の部分に糸を巻きつけると、まるで小さな柱のような頑丈な「足」が完成した。

 最後に布の裏側で玉止めをして、糸を切る。

「ほら、見てください。この根巻きの柱があるおかげで、ボタンの掛け外しが驚くほどスムーズになり、布の厚みを優しく受け止めて糸に無理な力がかかりません。引っ張ってもビクともしない、プロ仕様の頑丈なボタンになりますよ」

「すごいです〜! 指で引っ張っても全然グラグラしないよ〜(棒)」

 リリスが目を丸くしてパチパチと拍手した。

 続いて、ステップ2――【穴あき・破れの『目立たない補修&ワンポイントリメイク』】!

 大地はリーザのパックリ割れた膝小僧と、ルチアナの破れたポケットの前に座った。

「ジャージのような伸縮性のあるニット生地を、表から無理やり糸で引き寄せて縫い合わせると、生地が引きつってシワシワのボコボコになってしまいます。裏側に当て布(接着芯やハギレ)を当てて、布の端同士をすくい縫いする『コの字閉じ』で直すと、縫い目が内側に隠れて外からは糸がまったく見えなくなります」

 大地の手が電光石火の速さで動く。

 ルチアナの破れたポケットの縫い合わせ部分が、スルスルと吸い込まれるように塞がり、まるで最初から破れていなかったかのように元の綺麗なラインを取り戻した。

「う、うそ……! 縫い目が全然見えない! 新品のポケットに戻ってるじゃないの!」

 ルチアナが感嘆の声を上げる。

「そしてリーザさんの膝の大きな穴ですが、生地が削れてなくなってしまっているので……少し可愛くリメイクしてもいいですか?」

「えっ? 可愛く、ですの……?」

 大地は裁縫箱から、手持ちのフェルト生地と刺繍糸を取り出した。

 穴の裏から補強布を当て、表側にはフェルトを小さな「貝殻」と「星」の形に切り抜いて配置する。そして縁を「ブランケットステッチ」でチクチクと丁寧に飾り縫いしていった。

 わずか五分ほどで、無残だった膝の穴が、まるで最初からそういうデザインだったかのような、キュートな『特製ワンポイントアップリケ』へと生まれ変わったのだ!

「まあ……! まあまあまあ……!!」

 リーザのエメラルドグリーンの瞳が、キラキラと輝き出した。

「ただのボロジャージが、深海のアイドルにふさわしいファンシーで可愛いステージ衣装に化けましたわ! これなら帝都の路上ライブで膝をついても、破れるどころかファンへのファンサアピールになりますわぁぁぁ!」

「ふふ、良かったです。キャルルさんのハンカチも、ほつれた糸を引っ張らずに根元で切り揃えて、端を細かく『まつり縫い』で巻き込んでおきましたから、もう洗濯しても解けませんよ」

「大地さん、ありがとう……! お母さんの大切な形見だったから、本当に嬉しい……!」

 キャルルは綺麗に蘇った人参ハンカチを胸に抱きしめ、満面の笑みを浮かべた。

「そして皆さん、最後に一番大切なステップ3をお伝えします!」

 大地は立ち上がり、物干し竿を指差した。

「どんなにお手入れしても、『日頃の洗濯と干し方』を間違えると、服は一瞬でボロボロになって寿命が半分以下になってしまいます!」

「えっ!? 洗濯にも寿命を縮める罠があるんですの!?」

「はい。服を長持ちさせる黄金ルールは3つです!」

 大地は身振り手振りを交えて熱弁した。

「1つ目は【裏返しにして洗濯ネットに入れる】こと!

 服に毛玉ができたりプリントが剥がれるのは、洗濯機の中で服同士が擦れ合う摩擦のせいです。裏返しにしてネットに入れるだけで、表面の摩擦をほぼゼロに防ぎ、生地の毛羽立ちや傷みを劇的に防げます。

 2つ目は【裏返しのまま日陰干し】すること!

 太陽の光に含まれる強い紫外線は、布の繊維を破壊し、お気に入りの服の色を一気に褪せさせてしまいます。裏返して風通しの良い日陰に干すだけで、色あせを防いで新品のような鮮やかさがずっと長持ちします。

 そして3つ目は【ハンガーは絶対に首元から無理やり突っ込まない】こと!

 Tシャツやジャージの首元がビロビロに伸びてしまうのは、ハンガーを首からグイッと押し込んでいるからです。必ず『服の裾(下側)からハンガーを通して首元に掛ける』か、二つ折りにできるワンタッチハンガーを使いましょう。これだけで、首元の伸びは一生防げますよ!」

「ひえぇぇぇ! 私、首元からハンガーを力任せにブチ込んでたわぁぁぁ!」

 ルチアナが頭を抱えて叫んだ。

「だから私のジャージ、全部首元がだらしなく伸びて胸元がチラ見えしてたのね! 紫外線で色褪せてたのも直射日光のせいだったなんて……!」

 その時、机の上で起動しっぱなしになっていたキュララの魔導端末が、ピコピコと歓喜の悲鳴を上げ始めた。

 配信カメラが、大地の鮮やかな針仕事と衣服ケア講義を全宇宙へ垂れ流していたのだ!

『うおおおお! 「ボタンの根巻き」、家庭科で習ったはずなのに完全に忘れてた!』

『爪楊枝を挟んで隙間作って糸を巻くのか! 明日取れそうなスーツのボタン全部これで付け直すわ!』

『「裾からハンガーを通す」「裏返しで日陰干し」……これだけで服の寿命伸びるのマジで神ライフハックじゃん!』

『穴あきジャージがアップリケで可愛くなってるの尊い……!』

『エプロン少年、一家に一台欲しいどころか全宇宙の家庭に派遣してくれぇぇぇ!!』

 画面には、衣服の傷みに悩んでいた神々や視聴者からの感謝のコメントが滝のように流れ、投げ銭の虹色スパチャが嵐のように降り注いでいた。

 作業を終えた大地は、台所からホカホカの湯気と甘辛い香りを漂わせながら、大きなお盆を運んできた。

「皆さん、お疲れ様でした。お裁縫でお腹が空いたでしょう? リリスさんが好きだと言っていたお団子、タローソン風に作ってみましたよ」

 テーブルに並べられたのは、ポポロ村の米粉をこねて蒸し上げ、串に刺して表面を香ばしく炙った『大地の特製・焼き立てみたらし団子』だった!

 焦げ目のついたモチモチの団子に、醤油草と粗糖をコトコト煮詰めた黄金色のとろ〜り甘辛タレが、これでもかと絡みついている。

「わぁぁぁぁぁっ! リリスの好きなみたらし団子だぁ〜!(感涙)」

 リリスはあざとい棒読みを完全に放り出し、串を掴んで一口頬張った。

「んんん〜〜〜っ! 外側がカリッと香ばしくて、中がもっちもち! タレの甘辛さが絶妙で、タローソンの百倍美味しいですぅぅ!」

「うまい……! 甘辛いタレが身体の疲れを全部吹き飛ばしてくれるわぁぁ!」

 ルチアナもキャルルもリーザも、串を握りしめて至福の表情で頬張っている。

 綺麗に修繕され、お気に入りのアップリケがついたジャージに身を包み、温かいお団子を囲む少女たち。

 物を大切に手入れし、命を長く愛おしむ。

 大地の【家庭科】が、また一つ、ほころびかけていた日々の暮らしを温かく、美しく紡ぎ直していた。

【今日の大地のエプロン手帖】

今日のことわざ・格言

『一針の遅れが九針の手間になる(小さなほころびやトラブルのうちに早めに手当てすれば苦労しない。放置するほど修復には何倍もの労力がかかる)』

今日からできる生活の知恵

①【絶対に取れないボタンの「根巻き」術】:ボタンを布に密着させず、爪楊枝を1本挟んで隙間(2〜3mm)を開けて縫う。最後に爪楊枝を抜き、ボタンと布の間の糸の足に糸を3〜4回グルグル巻きつけて柱を作ることで、布の厚みを吸収して驚くほど取れにくくなります。

②【服が2倍長持ちする「裏返しネット&裏干し」】:洗濯時は服を裏返してネットに入れることで摩擦による毛玉や毛羽立ちを防止。干す時も裏返しのまま風通しの良い日陰に干せば、紫外線による色あせや繊維の劣化を劇的に防げます。

③【首元の伸びを防ぐハンガーの通し方】:Tシャツやジャージは首元から無理にハンガーを突っ込まず、必ず「裾(下側)から通す」だけで、だらしなく首元がビロビロに伸びるのを一生防げます。

読んでいただきありがとうございます。

面白いと思っていただけましたら、★評価やブックマークで応援していただけると励みになります。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。