永久機関
「おはようございます兄上」
「おはようジュスト」
謁見の間へと向かうオズヴァルトに挨拶したのは彼の異父弟、ユストゥスだ。
「本日は一日謁見が続くのでしょうか」
「うむ。エドが言うには国中央部の貴族がすでに列をなしているようなのでね」
「エド…兄上は彼を信頼しているのですね」
「エドヴィンは教養に秀で思慮深い。そしてこうと決めたら躊躇しない行動力も持ち合わせている。信頼に値すると思っているよ」
「そう…ですか…。ならばいいのです」ニコ
これは…つまらない嫉妬や値踏みなどではない。彼は見極めているんだ。エドが大切な兄を任せるに相応しい人物かどうかを。そして…
愛しいエミルの隣を許してもいい男かどうかを。
ジーン…フェアな男だ。感心したよユストゥス。
「ジュスト、君はエドをどう思う」
「…いい友人になれる相手だと思っています」
「今は友人じゃないの?」
「ウルリッヒ様…そうですね、もう少ししたら誰よりも分かり合える親友になれるのかもしれません」
「もう少し…。ジュスト、母上に何か言われたのかい」
「…フランケン男爵から見合いが持ち込まれたと」
おお!あの海の漢から!
「あ…の…。フランケン男爵は領民の信頼厚き気持ちの良いお方です。そのお嬢さんならきっと人間的魅力にあふれたご令嬢だって、僕は思います」
「ウルリッヒ様がそう言われるのでしたらより良き出会いになるやも知れませんね」
「ジュスト、君はまだ若い。焦らなくとも多くの令嬢と交流を持つがいい。そうして手を携えるに相応しい次期当主夫人を見つけるのだよ」
「兄上のように、ですか?」
「そうだ」
おお!オズヴァルトが少し照れている。
昨夜の寝物語によれば、彼はどうも〝僕がオズヴァルトを見初めた”と固く信じているようだが、あれはあくまで相棒として、であって、伴侶として見初めたのは彼が先だと思っている。こればかりは譲れない。
僕のプライドにかけて!
「いつ帰るの?」
「母上は三日後と」
嫡男ユストゥス君はその恋心を、破れるより先に自ら封印したようだ。
もしかしたらゾフィーさんに何か言われたのかも知れない。まあ…しょうがないんだけど…シンミリ…
「兄上、謁見に同席は…」
「せずともよい。ここで過ごすのもあと僅かだ。出店でもまわりゆるやかに過ごすといい」
「あ、ありがとうごさいます!」
ユストゥスが向かったのは調薬塔の方向。きっとウル様を誘いに行ったんだろう。
「彼は立派な当主になるね。辛い顔なんておくびにも出さなかったよ…」
「ジュスト、彼はホーフェンの嫡男というだけでなく王である私の異父弟だ。フランケン男爵に限らず多くの縁談が持ち込まれるだろう。弁えているのだよ。己の立場を」
オマケに神子の義弟だ。ついでに顔も良い。
彼を射止める令嬢は羨望の的になるだろう。
「…せめてここにいる間は心のまま自由に想えば良い。相手が誰であろうと」
そっか…、今は庶民のエミルでしかないウル様。貴族子のユストゥスとは最初から縁は無かった、ってことか。
そういう事ならエドには悪いけど今日の午後は彼を調薬塔に引き留めよう。
あと三日で自領へ帰る嫡男ユストゥス。せいぜい二人きりの淡い思い出を作るがいい…
さて。オズヴァルトと別れて僕がやってきたのは聖神殿、バルデルス神の足元だ。
このバルデルス神は正真正銘、神の分身像。
古に再生と崩壊の力を振るったこの像は、今世でオズヴァルトに更なる奇跡を与えた。
けれどその力は常に与えられるわけではない。
古の君主を統治者として後押しし、神子に再生の力を分け与えたバルデルス神とは、恐らく人々への直接的な干渉を極力避けているのだろう。
そのバルデルス神が直接力をふるったのは悪人から生命力を抜き取った時。
ナンナーの始祖に〝身を挺した人々への献身”という非常に重い罰を与えた時。
そして今回、オズヴァルトに力の欠片を与えた時。
前二つはなんとなく共通している。これらはサンクトリウムを護るために与えた〝崩壊と再生”。
ってことは神はこの場所を護らんとする時、その力をほんの少し揮うのだろうか?
この仮説に添えば、僕のやり直しに始まりオズヴァルトに力を貸し与えたのもきっとサンクトリウムを護るためであるはずだ。
彼が護るのは神子の生命、僕の未来。
「あ…でも面白いな」
あの日、王城神殿の裏山でオズヴァルトは死にかけていた。
それを助けたのは僕。
その僕の未来を助けたのがオズヴァルト。
「僕がオジーを生かしてその僕を生かすのはオジー。僕と彼は永久機関ってことか」
その夜、再び寝物語で僕は気付いたその事実を彼に告げていた。
「二人は永久機関…、互いが互いを救う唯一無二の存在なのだな…。これはいい、おいでウーリ」
腕の中に抱きこまれる。
『永久機関』その言葉をオズヴァルトはとても気に入ったようだった。
そしてその時僕はもう一つの永久機関に気付いていた。
睦み合うたび再生の光で包まれる僕とオズヴァルト。
彼は疲れることなく何度でも元気になりそして…
皆までは言うまい。




