変ったもの、変わらないもの
「お元気でしたか副神官、違った、神官長!」
「これは神子ウルリッヒ、お変わりなく。西の神官長はお元気ですかな?」
「はい。聖なるバルデルス像に見守られてむしろ生き生きしてますよ」
「バルデルス像…それはどのような?」
「高さ六メートルぐらいある巨大な」
「おおっ!」
一年ぶりの王城。僕は神殿へ、オスビーは王妹宮へ。
数日身体を休めたのち、僕は神官長と、オスビーはブリッタ様と連れ立って、今や本宮に入られた王弟リュティガー様にご挨拶申し上げる予定だ。
新しい神官長(当時の副神官ね)は古の神殿都市に興味深々。
けどその話はさておき、今はざっくり状況を把握しておきたい。
「皆さんも元気そうでなによりです」
「…ウルリッヒ様には感謝を申し上げなくては」
「あ、わかった?」
「ええもちろん。あの砂糖菓子ですな…」
ざっと見て神殿内部に居た人の顔ぶれに変化はない。どうやら彼らは無事全員で三時のおやつを楽しんだようだ。
「ここにおられた時分には私どもを煙たがっておられたように思いましたが…まさかお救いいただけるとは」
「煙たがるのと毛嫌いするのは別の話でしょ。僕は敬虔な皆さんに敬意を払ってます」
「ああ神よ…」
その後、身体を休めている数日の間に神官長からは初耳の話を色々聞くことが出来た。
例えばそう…、神殿の聖職者総出で罪なき下働きに被害が拡がらないよう、汚物の焼却、払い下げ食の禁止と炊き出しをしたこと。
そして…なんと病人の部屋を清掃する際に使用する、手袋と顔をおおうベールを王宮の下働き全員分配布したこととかも。
それを聞いて、僕は今まで彼らに抱いていた「お布施の亡者」的な印象をかなり改めることになった。いやマジで。
「だから下の方で拡がらなかったのか…」
「このような場合に備えお布施を募り蓄えるのですぞ」
「お見それしました…」
うーん、実際はそればっかじゃなかったと思うけどね。
そしてもうひとつ分かったことは…
「あなた様の元世話人、エマニエル殿がいつの間にか城から姿を消しておりまして…」
「えっ!?」
衝撃の事実!
エマニエル…あの厄病から逃れたのか…
…妙に悪運強い気がしてたんだよね。
この神殿で弔った亡骸の中にエマニエルの姿はなかったらしい。
そして弔い客の中にもその姿は無かったとか…
王家、特に王子の庇護がなければエマニエルに所詮力はない。
エマニエルにまで『死ね!』とか思ってたわけじゃないけど…なんかこう…イヤな感じだ。
重鎮貴族たちの亡骸はしかるべき処置を施しそれぞれの屋敷に戻されたそうだ。
幸い今世の僕は関わらなかったのだが…
前世軸でこの大臣たちは真っ先にウル様のもとに運ばれて来て、そのうえ不用意な行動で二度も三度も罹患してた軽率者ばかりだ。
正直、前神子マルレーン様は、あの内乱の折り、無謀な計画で何度も運ばれる彼らに生命力を搾取され早世されたと言いきってもいいだろう。
どいつもこいつも許しがたい…
だからこれは、過剰に奪われた寿命を返してもらったようなものだ。
神子の命を軽々しく扱ったつけは払わないとね。
「それらの家門はすでに嫡子が後を継いでおるようですな」
「宮廷には…」
「今のところ王弟殿下のまとめる宮廷では姿を見掛けてはいないようですが…」
よしよし。でかした王弟!
そしてついにその日が来た!
宮廷会議の初日だ!
「じゃあそろそろ王宮に行きましょうか」
「はは!」
いざ伏魔殿へ!
「あ、オズヴァルト」
「ウルリッヒ…神殿の確認は済んだのか」
「うん。そっちは?」
「うむ。皆変わりない」
安堵の表情。
わかるよ。自分の目でみるまではなんだかんだ言っても心配だったよね。
「神子ウルリッヒ様」
「…王妹殿下。お久しぶりです」
声をかけてくださったのは王妹ブリッタ様だ。
正直、僕が入れ替わってからは彼女が北の辺境へ行っておられたのもあって、ほとんどお会いする機会のなかった方。
ウル様だって王城に入られた当初、挨拶をしたぐらいの面識じゃないだろうか。
王妹ブリッタ様は神子の力を無暗に使うことを良しとしない、非常に人道的な考えをお持ちのお方だ。
王族にはこれを超えたら神子の〝癒し”を受ける、という明確な基準が設けられている。
けれどブリッタ様は重い風病に罹った時でさえ滋養と休息でお治しになられたという。
「此度のこと…全てオズヴァルトから聞いております。よくやってくれましたね」
「いえ…。自分事でしたので」
「それでもですよ。これは何もオズヴァルトのことだけを言っているのではありません」
つまりブリッタ様は、酷くなる一方だった、王家の暴走を止めてくれてありがとう、そう言いたいんだろう。
「わたくしやリュティガーがそうできれば良かったのでしょうが…」
王弟は兄王に頭が上がらないうえ王妃の暗躍を恐れていたし、ブリッタ様には消しきれない兄妹の情があった。
無理もないって言えなくもない。
それに兄妹であるブリッタ様、リュティガー様と違って、奇跡の体現者である神子には、本来なら王様であっても強くは出られないはずだ。
なのにウル様含めた歴代の神子が侮られたのは、神子は総じて年若く世間知らずで手玉に取るのが簡単だったからだ。
ふっ、もっとも僕は舐められたりしなかったけどね。だからここまで出来たと言える。
「リュティガー…弟は王都、王領の統治を望んでいます。ですがそれは王位までをも含んでのことではありません」
「あ、えっと、その辺はオジーと話してもらえれば…」
「いえ。ウルリッヒ様、宮廷に残った者の中にはほんの一年前まで王子と名乗る事さえ許されなかったオズヴァルトの王位継承を認めておらぬ者も多いのです」
まあ…そこが一番の懸念材料だったし…当然か。
「現在この王朝は揺らいでいます。奇跡の体現者、唯一無二である〝癒しの神子”は宮廷の威信を取り戻す象徴となるでしょう。だからこそ彼らはあなたを欲します。どんな手を使ってでも」
…天罰を恐れない怖いもの知らずか…次から次へと…ええいうっとおしい!
返り討ちにしてくれるわ!




