再びの地
「オジーこっち!」
「ウーリ、どこへつれていく気だ」
「いいから早く!うわっ!」
「ああ危ない!ウーリ、慌てるんじゃない!」
ここは海岸の岩場に見つけた小さな洞穴。
ごつごつしてるし一人で来たら絶対怒られそうな場所だ。
僕は以前見つけていたこの場所を、謁見行列から(ほら、神子に会いたい人いっぱいいるから)の隠れ場所にしていたのだが、そのとっておきにオズヴァルトを連れてきたのだ。
「…それで…ここで何をする?」
「二人っきりで誕生日のお祝いしようと思って…」
そう。以前二人で交わした約束。
「お互いの誕生日は盛大にやろう!」その約束をオズヴァルトは守ってくれたけど僕は守れていない。
何故ならまだまだ先行き不透明な神殿都市には、何度もセレモニーを開催できるほどの余裕はないし、近日中に東へ出向くオズヴァルトには時間的な余裕もない。
なので彼の〝盛大な誕生祭”はまた来年。そう本人から言われたんだよね…
その代わりに思い付いたのは真逆の発想。
カチャカチャ
「皆が探しているな」
「いいじゃんちょっとぐらい。色々持ってきたよ。ワインと燻製肉と…それからチーズも」
色々買えるようになってありがたいな。
「ふふ、これが君からの贈り物か」
「違うよ。贈り物はこれ。目を瞑って耳を澄ませて」
穏やかに凪いだ夜の海。寄せては返す静かな波音が心を落ち着かせる。
毎日精力的に動き回っているオズヴァルト。
そして今から東に行けばさらに神経をすり減らすことは請け合いだ。
そんな彼に今一番必要なのはこんな時間じゃないだろうか…
「どう?僕のとっておき」
「いつの間にこんな場所を…だがなんとも贅沢な時間だ…」
ホッ「でしょ?気に入った?」
「ああ」
僕たちは感慨に耽っていた。
東での話し合いが上手くいけばオズヴァルトは正式な王となり、それを以て、ようやくこの神殿都市はアードラスヘルム国の首都として神バルデルスのおひざ元に返り咲くのだ。
そのためにもここは譲れない!
「王妃の脅威が去ったとしても楽な論議にはならぬだろう」
「だよねぇ…」
けどこればかりは任せるより他はない。
神子は政に関与しない。ここから先、僕は蚊帳の外だ。
「君もだウーリ」
「僕?へ?」
「〝癒しの神子”は王家の象徴たる存在。まして民草が口々に〝神子に選ばれし者”が王であると信ずる以上、東の貴族は君を取り戻そうとするだろうな」
「はぁ?バカバカしい!」
かってに使い捨てて勝手に放り出して、そのくせ勝手に取り戻す…とか舐めてんの?
「そんなことになったら神罰の出番かな」
「ふふ、怖いものだ。君が味方で良かったよ。前世の私たちに出会いはなかったのだろう?」
「けど…やり直しの人生で一番最初に思い出したのが幻の王子オズヴァルトのことだったよ?」
「ではこの出会いも神の導き。ウーリ」
「うん?」
「この手を離さないように」
「うん…」
そのあと何をしたかはナイショだよ…
そして一週間後…
「母上。此度はご助力に感謝いたします。そして…ようこそ我が弟」
「ユストゥスと申します。どうぞジュストとお呼びください兄上」
「ジュスト…至らぬ私のために不在の間どうか君の力も貸してほしい」
「微力ではございますがなんなりと」
目の前に居るのはどことなくオジーに面差しの似た、彼の少年時代を思いおこさせる少年だ。
ユストゥス、僕、そしてウル様とエドは全員同い年になる。
けど何だろう。同じ貴族子でも学術修道士っぽいエドと違って彼、ユストゥス君はキリッとした、腰の剣もよく似合う騎士見習いって感じの少年だ。
え?僕とウル様?
僕とウル様はほら…、籠の鳥ではあったけどなんといっても国の唯一無二である神子とそのお付き。振る舞い的には果てしなく自由だったから…ワガマ…ううん、無邪気って言って!
「神子ウルリッヒ様、此度は兄上とのご婚約おめでとうございます」
「同い年だもん。仲良くしてね」
「オズヴァルト、ウルリッヒ様、このジュストは父親の傍らで地を治めるということを肌で学んでおります。どうかご安心を。必ずやお役に立てるでしょう」
「母上、実に心強い…」
もうわかったね?
東への帰郷でここを留守にする息子のために、夫と共に西領平原部の統治を手伝う才女、ゾフィー夫人はオズヴァルトの要請を受け息子と助っ人に来てくれたのだ。
メイドや傭兵はもともとホーフェン家の使用人。彼らも元主人の登板にさぞ喜ぶことだろう。
それにゾフィー夫人は元王妃の侍女。宮廷にも詳しい。
オズヴァルトはお母さんに、カーステン、フェリクスと話し合い、この神殿都市における宮廷の形を整えてほしいとお願いしたようだ。
そうして僕たちは五人の騎士たちを従え、ついに一年ぶりとなる東の地へと出発したのだった。
架けたばかりの橋は、未だ完成には至っていないが、それでも立派なものだろうと分かる。
前回と違い騎士五名を引き連れただけの馬車二台しかない身軽な旅。
これなら予測より早く着くかもしれない。
この軽装備が可能になったのもこの一年に起きた出来事を踏まえ、〝神の怒り”という概念が以前にも増してかなり現実的に受け止められているおかげだ。
「そう考えると橋を落として良かったよね」
ポコ「二度はしないように」
「はぁーい」
さて、行く先々にある街道沿いの簡易宿ではその地を治める領主が待ち構えている。
領主たちからは来訪を望む伝達が届けられていたが、先を急ぐ僕たちはそれは丁寧にお断りしていた。
そこで領主らは宿を精一杯飾り付け、食事の用意をし、せめて一晩の歓談を、と出迎えてくれてるってわけ。
「わー!ギーレン伯爵!お元気でしたか!」
「神子殿においてはお変わりなく…ご健勝そうで何よりでございます」
神子だしね。
「これはマンフレート殿」
「殿下、ことは万事うまく運びましたでしょうか」
「うむ。その節の協力、感謝しているよ」
「いえ、王妃殿下の行いはけっして褒められたものではございませんでしたので」
「ギーレン伯、マンフレート殿、私はこれより正式な王位を手にするため東へと向かう。西への帰還はさぞ盛大なものになるだろう。途中立ち寄る故そのつもりで」
「ははっ!」
「祝宴の用意をしてお待ちしております!」
僕は祝宴用の差し入れ、っていう名目で伯爵に宝石を一つ手渡しておいた。これはウル様から渡しておいて、って預かった分だよ。豚の貯金箱からね。
さあ。あと数週間でついに東の王領に入る。
やっとこの眼で現状を知れる。それが今一番の楽しみだ!




