神様は見ている
大歓声の中で優雅に手を振る王子様と…お姫様ならぬ神子様。
けどこの神子の顔は今優雅に見えてかなり引き攣っている。
祝宴の挨拶も終わり一旦門の中へと下がる彼の腕を引っ張り人気のない所を探す。
なにはなくとも話を!話をしなければ!!!
バターン
「オ、オオ、オジー!何あれ!聞いてない!」
「ああ、言っていないからな」
「は、はぁ?どういうこと⁉ 」
神殿の扉をしめたと同時に響き渡るのは狼狽えまくる僕の声。
「全ては君と長い時を生きるためだ」
対するオズヴァルトの声は冷静そのものだ。腹立たしい…
「どんな事情があろうと今のウーリは神の子、神の教えに背く行いはさせられない。ならば正々堂々婚姻を結ぶまでだ。私たちは想いあっているのだから。そうだろう?」
「は?」
あ!例の話…!
そっか、全部僕のために…けどいきなりすぎて…そ、そう。心の準備の問題だよ!
「この国では婚姻までに一年の時間を要する。だから婚約を大切な君の祝賀であるこの日にしたのだよ。一日たりとも無駄にしたくはなかったのでね」
「ま、待って!君の祝賀って?」
え?え?いまオズヴァルトは何て言った?僕の祝賀?
今日は『ネオ・サンクトアリウム』首都宣言の記念すべき日じゃないの?
「約束しただろう?この地で初めて迎える君の誕生日は盛大に行うと」
「誕…!」
そう言えば今日は十五歳の誕生日…やること決め事、連日の賓客が多すぎてすっかり忘れてたけど…
って、しまった!ウル様に贈り物用意してない!…じゃなくて!
「これは君の生誕を祝う宴だ。都市民はみなそのつもりでいるが?」
重要度が全然違うでしょうが!
ハー「まあいいや。なんでナイショにしたの…」
「これが私の用意した君への贈り物だからだ」
「お、贈り…へ?」
「エミルがこういうことは秘密にして当日明かしたほうが感動的だと言うのでね。そういうものかと思い言われた通りにしたのだが…」
「ナルホド…」
発案者はウル様か…ならしょうがない。あの人ちょっとずれてるうえに夢見がちなとこあるから。
「ちょうどいいウーリ。こちらへ」
僕の手を引くオズヴァルト。
思えばもう何度こうして手を引かれただろう。
緊張しているのか食い込む爪…
暗い目をした籠の鳥は大空に飛び立つ鷲になった。ヘーゼルの瞳を持つ雄々しい鷲に。
いつの間にか彼は堂々とした風格を備え、鋭い目は未来を見定め、今はこうして獰猛な捕食者になろうとしている…そして捕食されるのは…
ドキドキドキ
僕たちが立ったのは神バルデルスの足元。
「ウーリ、これを」
「これって…」
手渡されたのはオズヴァルトの瞳と同じ多色の宝石が埋め込まれた銀の輪っか。
「指輪?こんなの見たこと無い…キレイ…」
オジーの瞳みたいで…
言わなかった言葉はお見通しだったみたい。柔らかく微笑む王子様。
「非常に珍しい石だ。アンダリュサイトという」
「アンダリュサイト…」
「成人を迎えた十六の歳にブリッタ様がくだされたものだ」
瞳の石は御守りになる。ブリッタ様は甥の幸せな未来を願ったのだろう。
「指を。ウーリ」
「…」
指が…熱い。
「知っているか?互いの石を交わせば誓いになる」
「知ってる」
恋人同士…親友…そして同盟の誓いも。
「これを覚えているか?」
「あ!」
オズヴァルトが腰から抜き取った短剣はあの日のもの。
僕が渡したスティレット。
「気付いていたか?ほらここだ」
「え?あ!」
見事な金細工で飾られた柄の部分に埋め込まれていたのはほんの小さなアメシスト。
アメシストは神子の石。淡い紫色した僕の石だ。
「石を手渡したのは君が先だ。あの時の言葉…忘れたことはない。君は味方だ」
「うん」
「一緒に行こう、そう言ったのも君だ」
「うん」
「あの日から私の生は始まった」
「オジー…」
どうしよう…僕としたことが…泣きそう。
「君は約束したな?私に生の喜びを教えてくれると」
「…」コクリ
「教えて欲しい。未来永劫、私の隣で」
「…うん」
そっと触れて離れていく少しカサついたオズヴァルトの唇。これが口づけなんだ…
「いやか?」
「……いやじゃない…」
「さあ行こう。私と君の民たちが待っている。主賓がいなくては話にならないからな」
「うん!」
こうして僕は王子アルトゥールから王子オズヴァルトへ鞍替えという、王子から王子を渡り歩く尻軽のような落ち着かない気分を味わいながらも、〝西の君主オズヴァルト”の婚約者の座にずっぽりと収まったのだった。
因みにこの出来事は僕の危惧したような風評にはならず、むしろ「神子に選ばれし者が次代の王となる!」という非常に肯定的な世評になって僕は胸をなでおろした…っていうね。
だけど僕は一つだけ悩みを抱えている。
教えるべきだろうか。
オズヴァルトが大切そうに腰に下げているその短剣は…
本来、王城神殿に保管されてるはずの神器だって!




