三者三様 オズヴァルト
この西辺境を統治するグレーデン伯爵邸に滞在して以来、騎士たちは近隣貴族たちに接触を試みていた。
私は彼ら当主にグレーデン邸での面会を要望したがもちろんこれは強制でない。
いくら西辺境に住む田舎貴族と言えど、王の《《第一子》》である私が王妃にとって最大の目障りであることは言わずと知れたことだ。
そして今代の傍系神子が癒しを渋る出来損ないというのも、社交界に精通している者であらばすでに耳にしているだろう。
であれば西の神殿へ向かう我々の立場はかなり明確。
王家に恭順を誓う家門であれば、王子である私や神子であるウルリッヒがどれほど望んだところで不用意な接触は避けるはずだ。これはよい試金石になる。
だがこの滞在中に近隣領主はほとんどが挨拶に訪れている。
そしてウルリッヒはあの予防薬をお礼と称しいくつか手渡していた。
「神子殿これは?」
「神子の妙薬です。乾季の終わり…暑季がくる前にご当主家族だけでも飲んでください。いいですね、必ず」
「ありがたき神子の進言。仰せのままに」
馬車内の手作業では到底西の辺境隅々まで配れるほどの数には到底足りない。
ウルリッヒは予防薬配布の優先順位を平原部及びその周辺からと決めたようだ。
災害に見舞われた海沿いの領主は自領が大変な時だというのに手紙をくださっている。
ウルリッヒはすぐに例の予防薬を南西の領主へ送る手筈を整えていた。
「土砂の崩れた現場では病が発生しやすいから…あの領は助ける価値がある」
土砂崩れか…
橋の崩壊…責任を感じないと言ったら嘘になるが…
この西部と東部の交易とは、塩や鉱物などの海産物、採掘品を西から東へ、東からはこちらでは手に入らない調度品をはじめとしたさまざまな加工品をというのが主たる取引である。
元来質素な土地柄の西側所領では、あれば潤うが無くてもさほど困らぬものだ。
これも必要な迂路…許してくれ…
グレーデン伯爵にも予防薬を手渡し、いざ出発というその時、私たちを引き留めたのは、支援物資を持ったある男爵夫妻がこちらに向かっているという、ありがたい申し出だった。
そして翌朝、私から時を奪ったもの、それは目の前に立つ一人の女性、ホーフェン男爵夫人だ。
なんの挨拶を受けたわけでもないのに一目でわかった。
身体中の血肉が叫んでいる。この女性が私の生母なのだと。
ああ…、あの王妃居る限り生きては会えぬと思っていた母にまさか…まさか…ここで会えるなどと…これは夢だろうか?
気が付けば部屋には二人きり。気を利かしてくれたのだろう。
だが気恥しいものだ。十九年間会えなかった母とこうして話すのは…
「オズヴァルト、健勝でありましたか?」
「ええ母上。ブリッタ様はまるで本当の息子のように必要なことはなんでも与えてくれました」
王族教育、腕の良い剣の師、真贋を見抜く目も、人を尊ぶ心も。外の世界以外は何もかも。
「王妹殿下に害が及ぶのを恐れわたくしは書簡のやり取りを諦めました。毎日あなたの訃報が流れぬ事だけを祈っておりましたよ」
「ああ母上…」
「それにしても…」
「なんでしょう母上」
「王子に反目などと…ホホホ…今代の神子は《《人で》》あられるのですね」
「ええ。それも非常に聡くそして時に無謀な。目が離せません」
「あら!ホホホ」
まったく…、あの橋の袂でどれほど肝が冷えたか。
本物の悪人に悪童ごときが太刀打ちできるものか。
だがいつまでも胸の中で涙を流す姿は…ふふ、中身に似合わず随分としおらしいじゃないか。
「それでどうするのですあなた方は」
ハッ!ああいけない…
「母上。私はウーリと共に東へ反旗を翻します」
「オズヴァルト、それは…」
「どうかご心配召されますな。私にはウーリが、神子がついています」
「癒しの神子があなたに何を与えるでしょう。神子は戦う者ではありませんよ」
「それが今代の神子は戦うのですよ。誰よりも最前線で」
「まあ!」
「どうか彼のことは〝癒しの神子”でなく〝賦活の神子”と。彼が私に与えてくれるのは生命力でなく生きる力です」
「生きる力…」
そうだ。生きる力だ。
ウーリが私に与えるもの。それは自分の選んだ道に自分の足で立つための…生きる力だ!




