その後の日々
ここは王城、副王が治める東の地だ。
今日はめでたいリュティガー様、成婚の儀。僕たちはそのお祝いのため東の王城に来ていた。
「お相手はまだ二十歳のご令嬢だって」
「うむ。友好国ベルーナから輿入れされた公爵令嬢だという話だ」
説明しておこう。
このアードラスヘルムは北に南に、チョイチョイ売られたケンカを買ってはいたが、基本こっちから売る事は無いし、大国の庇護を期待して友誼を結びたがる小国はむしろ多い。ベルーナもそんな国の一つだ。
それで王族令嬢を差し出してきた、ってわけだね。
「ベルーナは小さいがよく治められた平和な国だ。リュティガー様は関係を深めるに相応しいとお考えになられたのだろう」
なるほど。契約婚ならぬ国交婚か…
「リュティガー様っておいくつなの?」
「確かブリッタ様の三つほど下になる」
「ブリッタ様って前王の四つ下だっけ?」
「ああ」
ってことは今三十八…一回り以上若い妻を娶ったのか!リュティガー様ってば何気についてるじゃん。
そんな中、今目の前では兄弟の再会が繰り広げられている。
「ロタール!」
「ループレヒトお兄様!」
と言ってもこの二人は異母兄弟だ。オズヴァルト含めて異母三兄弟だ。
二人は王族復帰のために西へ呼び出された際、道中の途中から合流してずっと一緒だったという。
そのためすっかり仲良くなっていたのだが、直後西と北へ離れ離れになってしまって、ずいぶん残念がっていたものだ。
「ロタール、先日十歳の誕生日だっただろう?これだけは直接渡したいと思い持ってきたんだ」
「わあ!革の物入れ。いいのですか?」
「お祝いだよ。どうかな?それは私が自分で鞣したんだ」
「す、すごいですね…」
へー!このワイルドさこそ北の辺境ならではである。
「うふふ」モジモジ「じ、じゃあループレヒトお兄様、僕からもこれを」
「これは何だい?」
「エミルおにいさんに手伝ってもらって作りました。二枚貝を削ったネックレスです」
少しばかり大人しめのロタールは、僕や弟軍団よりもウル様がお気に入りのようだ。おかげで徐々に乙女が顔を出しつつある。これは由々しき問題だ。
「ああ、虹色に輝いてとてもきれいだね」
「婚約のお祝いです。もうひとつはお義姉さまに」
「嬉しいよロタール。クラリッサも喜ぶだろう」
「一度お会いしたいとお伝えくださいね」
ホンワカ…
ループレヒト君は十二歳になるのを待って正式に北の三女クラリッサ嬢と婚約を交わしている。この様子を見るに仲は良好そうだ。
二人が西の神殿で別れてから早一年半。ループレヒト君は辺境伯直々の教育も有り、着々と次期王に相応しい振る舞いを身につけ始めている。
片やロタは、ギーレンからやって来た学生チューターたち及びエド及び神官長からの英才教育を受け、順調に神童への道を歩んでいる。
神童からいずれは大司教に。うんうん。順調順調。
ロタの従者である弟軍団とループレヒトの従者は全員歳が近い。六人ほどいる彼らはすっかり意気投合している。
「へー、北にはそんな大きな熊が…」
「これくらいあるデカイ熊でさすがに驚いた。もっともあれくらいでびびる俺じゃないけどね」
「嘘つけ!お前涙目で腰抜かしてたじゃないか!」
「わーバカ!言うな!」
「はは!でもすごいな。サンクトリウム内に大きな獣は居ないんだよ」
「ああ、でもこの間これくらいの鷲が…」
なんとも賑やかだ。
幸いなことに、辺境の地だった西も北も、臣下と主の距離感は近い。
でも僕はそれでいいと思ってる。
「ところでループレヒト王子、エマニエルのことは何か聞いてる?」
「いいえ。あそこには近寄らないよう言われていますから」
エマニエル。それは囚われの知将。
彼は存在自体が若者の教育に悪いと言われている。その…お色気的な意味でね。
「あの…」
「どうしたの?」
「エマニエル様ではないですが収容塔の護衛からこれを預かっています」
従者の少年から手渡されたのは一通の手紙。
「エーリヒとフリッツか。どれどれ」
そこにはすっかり敬虔になった二人からの、いつか西の聖神殿で祈りを捧げたいというささやかな願望と、エマニエルからのささやかじゃない差し入れ希望書物一覧が記載されていた。
グシャ「…」
「どうしたウーリ、ああこれは…」
エマニエルには五十年の禁固刑が言い渡されている。それを彼は自力で、たった数年の間に残り二十数年にまで縮めている。
現状の彼は戦術でなく貿易の助言者(フォレスト候との悪事がここで生きるとは!)となっているため、減刑の褒美は都度半年に減らされているが、それを鑑みてもあと十年以内で収容塔を出るんではなかろうか。
「帰り北ルートで帰ろうかな。それで直接差し入れることにしよう。久々に顔見ておちょくりたいし」
「それはいい。では私も同行しよう。北の民も私たちの行幸を楽しみにしていることだろう」
型破りな新時代の王はこうして時々気まぐれを発動する。そのたびに補佐官たちが「うっ!」っという顔をしていることに僕は気付いている…が、似た者夫夫なので放置している。
ごめんね。ペロ




