終戦への道
「うわぁぁぁぁ!!!」
「オズヴァルト王ばんざーい!」
「ウルリッヒ様おかえりなさーい!」
「すごいぞ!俺たちは自分たちの力で皇国を追い払ったんだ!」
南西から戻った僕とオズヴァルトを迎えるのは人々の大歓声。その一番前に居るのがウル様だ。
「おかえりなさいウルリッヒ様。どう?僕のスリング役に立った?」
顔をキラキラさせて…微笑ましいな、ウル様…あのスリング、ウル様のじゃないよ?
「役に立ったよ。ハイこれお礼。木彫りのアザラシ」
「あ、うん…」シュン…
なにその反応?可愛いでしょうがアザラシ!
さて、のんびりするのは後だ。
今のオズヴァルトは王。北の戦闘が終わらなければ王の重責はなくならない。
北の辺境は特別自治区である。
東の王城、つまり以前の王様は北国境における全ての権限を与える代わりに、皇国の脅威と防衛の責任を辺境伯へ丸投げしていた。
もっとも、前王にとっての辺境伯とは今は亡き先代、叔父さんだったため「これも信頼の証」と嘯いていたが、オズヴァルトの代ではそうもいかないのが実情だろう。
「ねぇ、これは交渉材料になるかな?」
僕は例のイシュトバーン侯爵をこう脅してあった。
「僕は生命を司る神バルデルスと地の力を司る巨神、二つの神を起源にもつ特別な神子だ。はっきり言っておく。あの西の地震は僕が起こしたもの。お前たちがあれをどう解釈したかは知らないけど僕を怒らせることは巨神を怒らせることも同然!覚えておけ!」
正確に言えば、二つの神を起源に持つのではなく、巨神の負の遺産を一部受け取ったファルセッティの、さらにその子孫であるオズヴァルトの相棒なワケだが、非常にややこしいことに、ナンナーの始祖がやらかしたせいで、ファルセッティを起源に持つ王は神子を使う側、つまり供給器官になり神子がその媒体になってしまった。
神子と王は二つで一つとなり奇跡を行使する。が、外から見て分かりやすいのは奇跡の体現者である神子だろう。
だから僕はイシュトバーン侯爵の眼前でこの身を切りつけ自己再生する様子を見せつけ驚愕させた。
そのうえ、さらにイシュトバーン侯爵のいる小屋に地震を発生させた。
これは彼のいる小屋の地面にあらかじめ埋めてあった小さな火薬爆弾を、長ーい導火線で遠くから着火させたものなのだが、真下からのズズン!とした揺れに侯爵は大層ビビっていた。
獰猛な皇国の民であっても自然の猛威はさすがに恐怖らしい。いや、神への畏怖か…
これらも含めて、顔色を変えたイシュトバーン侯爵は撤退要求を飲んだんだよね。
因みにこれは万が一捕虜が暴走した際には生き埋めやむなしと、例の潜入直前、暗闇でコッソリいくつか仕込んでおいたものだ。
フフフ…陰で暗躍してこその僕である。
その内容を聞いた補佐官たちは揃いも揃って色めき立った。
「なんと用意周到な!」
「使えそ?」
「分かりませぬな…」
「なんで!」
そこには時差という大きな問題があった。
「おそらく母国へ戻った奴らはそれを皇国の王へ進言する事でしょう。ですが船がいずれかの岸に接岸し母国へと戻るには些か日数がかかりますゆえ…」
「いや、北での戦いは彼らにとって不慣れな海上での戦いと違い長丁場、影響は届く」
皇国と北の辺境領における戦いとは常に一進一退の攻防、年単位でどちらも退かない五分の戦いだ。
結果最後は消耗戦となり、余剰兵を持たない皇国が退却を余儀なくされるまで続く。
その後数年かけて体制を立ち直し再度攻め込む、というのを何百年も続けているのが、アードラスヘルム国と皇国レスプブリカの因縁なのだが…
歴史家の話では皇国がレスプブリカとなる前、違う名の違う国だった時にも侵攻はあったとか。
ただ当時はそれらの国が成熟していなかったために大人と子供のような小競り合いで終わっている。
結局のところこの争いが終わらないのは、これが神が裏で糸を引く代理戦争だからだ。
この地が巨神へも敬意を払えば、巨神もいい加減手を引いてくれないだろうか…
意地だが矜持だか知らないけど…いい加減しつこいって!
三日三晩続く西の宮廷会議。
その日の晩はオズヴァルトの「皆身体を休めるように」との一声で早めに解散となった。
そこで僕は彼に考えを語って聞かせた。
これは皇国じゃなく巨神の意思を変えなきゃ終わらない根深い問題だって。
「巨神の意思か…」
「巨神ね…」
揃いも揃って深いため息。神様相手にどう説得を試みる?
翌朝、久しぶりに四人そろった朝食の席で、それを口にしたのはエドとウル様だった。
「あのね、二人が居ない間エドと話してたの。どうして聖神殿のバルデルス神はあんなに大きいんだろう、って」
「そりゃ神様への恭順をデカさで示して…」
「ですがあれではまるで巨神です。神バルデルスは天界を統べる神ではありますが人々と大きさはさほど変わらないはずです」
確かに…
王城神殿や中央神殿に飾られた絵に描かれたバルデルス神は、浮いてこそいるが、全て人と同じ姿だ。なのになぜここのバルデルス像はあんなに大きいのか。
疑問に思った事は一度も無かったが…
「そうか。これがファルセッティの示した答えか!」
オズヴァルトはそう言うと立ち上がった。




