愉快な肝試し
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
神殿の裏手には王族専用墓所がある。
この王城はかなり広い丘陵地全体を使っているわけだが、区画と区画の間は人工の林か天然の森で仕切られている。
中でも神殿と墓所を区切るのは小高い丘のような森。丘のような森と言ったらそれはもう小さな山だ。
僕が禊をした滝の横辺りにある細い獣道(小動物のお散歩道)を徒歩で二十分も歩くと…森を抜けたそここそが王家の墓所だ。
「幽霊ですって?何を馬鹿なことを…」
「でも墓守が聞いたらしいよ?」
「何をでしょう…」
「出して~出して~、わたしを神殿から出して~、っていうマルレーン様の声」
ゴクリ
「マ、マルレーン様の亡骸はナンナー伯爵家に戻されたではありませんか。バカバカしい!」
「亡骸は戻っても怨念は残ったのかもね」
「お、怨念…」
「だってマルレーン様はここで死んだんだから。内乱によって次から次へと運ばれる怪我人のせいで。可哀そうに…恨んだって無理もないよね」
カラーン…カランカランカラン…カラカラカラ…
「トレイ落ちたよ?」
心当たりありすぎちゃった?まだ未遂だけど。
「ってことで見に行こう!」
「え!い、嫌です!」
「毎日退屈でさあ…刺激が欲しいんだよね」
「刺激がほしいのならば殿下をお呼びしましょう。仲良くしたいと仰せでしたよ」
生命力を搾取するために?
「エマニエルが嫌なら一人で行くからいいよ」
ハー「およしなさいませ。悪趣味な…」
悪趣味…だと?
エマニエルはお世話係として来ていながら、どうしても隠しきれない僕への悪感情が顔を出すんだよね。ま、お互い様だけど。
「…やっぱりついてきて」
「だから嫌ですって」
「エマニエル。僕は神子だけど君は?」
「…神子様のお世話係です…」
「だよね。僕の実家は伯爵家だけど君は?」
「…しがない男爵家です…」
「だよね。で?」
「………行きます」
そう来なくっちゃ!
そして時刻は真夜中。月明りだけが頼りの楽しい闇ピクニックへ…レッツゴー!
「ほら先行って」
「え、えぇ…?僕がですか…?」
「当たり前でしょ!どこの世界に主人を先に行かせる使用人が居るのさ!」
「く…」
さて、先ずはほんの小手調べ。うんうん。大変色っぽいうなじですなあ。ってことで、フー…
ビクッ!
「どうかした?」
「いえ…」
再びフー…
ビクッ!
「何さっきから?」
「生暖かい風が…」
「気のせいじゃない?」
「そ、そうですね…」
懲りずにフ、
クルッ
「っ!ウルリッヒ様の仕業ですか!やめてください!」
「かわいいイタズラなのに」
「…っ!」ワナワナ…「とにかくやめてください!」
おーおー、歩調がドスドスしてるけど?麗しのエマニエル君が台無しじゃない。
…ヒラヒラ…
ペタ
「ひっ!ひゃぁぁ!やめてって言ったでしょ!もう許さない!」
「…誰が誰を許さないって?」
「…すみません。恐怖のあまりつい…」
「どれ…、なんだ!ただの濡れた葉っぱじゃない!大袈裟なんだから」
「葉…」
「乗せたの僕だけど」
「くっ!」
「別にエマニエルが神子の恨みを買ってる訳じゃないんだから幽霊を怖がる必要なくない?」
「…っ…」
そーだよねー。そういう反応になるよねー。だって今から恨みを買う予定だもんねー。僕の。
とまあ、エマニエルをオモチャにしているうちに森を抜け墓所へと到着する。
「夜の墓所か。雰囲気あるじゃん。気分上がるー!」
正気か?みたいな顔のエマニエルは怖がりなのだろう。
人の心は無いくせに。
「そ、それでどうするつもりです?」
「二人でマルレーン様の幽霊を見つけよう!」
「えっ!嫌ですよそんな!」
「どっちが早いか競争ね」
「僕はやりませんからね!」
「あっ、エマニエルあれは?」
「え?」
ササッ、一瞬の早業。しぃぃぃ…ん…
「ウルリッヒ様?」
ぴゆぅぅぅぅ…キィ、キィ、キィィィ、バタン
「きゃ!…なんだ木戸か…どこ…どこですかウルリッヒ様…」
どこって…木戸の陰だけど?
実を言うと僕は、服の中に大きな黒いシーツを一枚隠し持っている。
暗闇に黒いマント代わりのシーツ。言うまでもない、これは目くらましだ。
「悪い冗談はやめて!早く出て来なさい!」
…パタパタパタ…
「もういい加減にして!」
どこにも行ってないよ?これは手に持った靴による足音だよ?
しばらく戸惑っていたが恐る恐る僕の姿を探し始めるエマニエル。一応僕は主人だしね。
ギィィ…
彼はようやく木戸を開け墓所内に入るが、当然すでに僕は木戸の陰じゃない。そしていくつかの仕掛けは設置を終えている。
「あっ!」ドサッ「イタタ…」
つまずいたのは第一の仕掛け。いや何。ちょっと丈のある草むらでいくつか茎を結んだだけだよ。子供なら誰でもするイタズラだね。
でも仕掛けはこの先が本番!
ギュゥ!
「きゃぁぁ、誰!足首を掴むのは!」
僕に決まってんじゃん。けれどパニックを起こしたエマニエルは恐怖のあまり這いずるばかり。
「ウ、ウルリッヒ様の仕業でしょう!あああ!もうイヤ!助けて誰か!助けてアルトゥール!」
ほほう?いち男爵子息が王子の名を呼び捨てると?化けの皮はもっと厚く被らないと…
けどまだまだぁー!
「!!!!!」
草むらの中に転がる二つの血走った眼球。それはエマニエルを真正面から睨みつけている。
「は、は、は…zうぇsxdrftgyふいj」
半泣き状態のエマニエル。彼の理性はもろくも砕けさった!と、その時!
クスクスクス…
聞こえてきたのは暗闇に響くくぐもった笑い声。これは僕の仕掛けじゃ…ない!
「い、いやぁぁぁぁ!!!」
何度も転びながら森に向かって走り去るエマニエル。主人を置き去りとは…出来た使用人だよ。
「やれやれ」ヒョイ「ただのゆで卵なのに何が怖いんだか」
ちょっと黒目と血管描いてあるだけなのにねぇ?写実的に。
「ところでさっき笑ったのは誰?出てこい」
見当はついてるけど。
「…さすが神子だな。幽霊が怖くないのか」
「僕が怖いのはいつだって生きた人間だよ」
両親とか…ほうきを持って追いかけてくるステラおばあさんとか。
「怖いのは生きた人間…か。同感だ」
ガサ
そう言いながら姿を現した美丈夫。
彼こそ僕のお目当て…、オズヴァルトに違いない!
僕は知っていた。幽霊の正体とは、夜な夜な墓所に出現するオズヴァルトだって。
僕が何故わざわざエマニエルをここへ連れてきたか…
それはエマニエルをからかって暇つぶしするためじゃない。いや…正直それもあるが、それ以上に、ここで重要なのは、幽霊の正体は〝ウルリッヒの悪戯だ”、と思わせることにある。
何故なら…前世軸でこのオズヴァルトが非業の死を遂げるきっかけになったのもまた、このエマニエルなのだ。
毎日更新を目指しています。
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