巨神の意思
「それで何か分かりましたか?」
「うんまあ…」
うっすらと見えてきたものはある。
神バルデルス一族と巨神族、国の創世期より遥か太古に起きた神々の戦い。
巨神の姿なんて僕たちにはわからない。
けど辺境伯は言ったじゃないか。皇国の民はアードラスヘルムの民より一回り大きく茶褐色の肌と赤茶けた髪をしてるって。
威圧感を感じるほど巨体の民が住まう国、それが皇国レスプブリカ。
偶然だろうか?そうは思わない。
アードラスヘルムと皇国の…これは恐らく代理戦争。
神は西から巨神の末裔が襲い来ることを見越していた。
だから僕を使って、バルデルスの血を引くファルセッティの末裔を、ここに引き寄せたんだ。
それがオズヴァルトなのは前王家が神に見限られたからだろう。
もしかしたらウル様とアルトゥールの出会いは、オズヴァルトが言うよう、神様から与えられた最後の機会だったのかもしれない。
ばかなアルトゥール…
……いや待て。
アルトゥールのブロンドはうっすら赤みがかっている。
それは王妃エメリンが赤みがかったローズブロンドの髪だからだ。
そしてそれは父、フォルスト侯から受け継いだもの。
「フォルスト侯は赤茶の髪をしていた…」
はっ!
「そ、そうだよ…フォルスト侯はまるでバイソンじゃないか…」
それは皇国民ほどじゃないかもしれない。
けど小柄な皇国民は他国に逃げ出す。
ならこの長い長い、気の遠くなるほど長い年月、どこかで皇国の血が紛れ込んでいてもおかしくない!
「ウルリッヒ様?」
「エド、神官長を呼んで。僕はオジーを呼ぶ」
これはもう一人の主役にも話して聞かせる必要がある。
「ウーリ、問題なのは古代でなく今だ。後ではだめなのか」
問答無用!僕はオズヴァルトを神殿へと連れ出した。
神殿に居るのはエド、学術修道士、そして神官長。
オズヴァルトはこそっと、「エミルは呼ばなくていいのか」と耳打ちしたが、今検討するのは生まれ変わりの秘密じゃない。巨神族とバルデルスの戦いについてだ!
僕は思い付いた考えを全て話した。もちろんフォルスト家への疑惑も含めて。
「どう思う?変かな?」
「フォルスト候が皇国の血脈…」
「初代以外の当人たちがそれを自覚してたかどうかは知らないけどね…」
「フォルスト候の風貌…、武に長けた能力…、獰猛な性質、確かにかの国の性質はとらえている…」
「皇国に汚染された王家…。なるほど。であれば納得です」
「神官長?」
「いえ、私は王城で自戒の日々を送る中常々考えていたのです。何故慈悲深き神が何代にも渡る王の横暴を許しているのか、と」
神官長は王家の堕落を皇国の血が混ざったせいだと言いたいんだろう。
「だが神官長。王家の腐敗はおよそ百年ほど前に始まっている。私はブリッタ様より初代から続く全ての系図を見せていただいたが、エメリン王妃以外に皇国の血が入り込んでいたとはとても思えない」
確かに…
王宮には歴代の王や王妃の肖像画が飾られていたが赤みを帯びた髪を持つ者は一人としていない。
オズヴァルトの言う初代とはファルセッティではなく、東の王城が形になった後、正式に王を名乗った建国の祖、ファルセッティの子孫、王アードラスのことである。
オズヴァルトによれば、王家は他国より姫を迎えたことはないし、また妃として迎えたのは建国時から王家と共にある由緒正しい名家ばかりだとか。
けれど、名家だからこそその血は王家に近い。
宮廷は婚姻における血の濃さを懸念するようになり、そこで新興の侯爵家からも妃を娶ることを決めた。
「その懸念を口にされたのは亡き王リカードであったかと…」
なるほど。すべてはそこから仕組まれていた、と。
「まさしくその、新興貴族から輿入れした最初の一人が…」
「…エメリン嬢…」
「悪しき企みの褒賞が王妃の座とは…厚顔無恥な」
フォルスト家はこの国の中期に頭角を表してきた家門だ。
当時より武の力に長け、国土拡大に多大なる貢献をし、実力で侯爵位にまで上り詰めている。
「だとして、王家の堕落は数代前より進んでいる。ウーリ、それはどう考える?」
「あの…」
おずおずと手をあげたのは控えめに話を聞いていた一人の修道士。
「フォルスト家に皇国の血が混ざっていたのであれば他の家門もとは考えられませんか?」
「君は…」
「修道士ペトロスと申します」
風化した文字を復元している修道士か。
「数多の大臣…宮廷の中心に皇国の血が入り込んでいたとすれば官の腐敗が進んだのも納得というものです」
「王家は徐々に染まったのだと、そう言うのだな」
「だからこそフォルスト家を取り込むに至ったのでしょう」
「オズヴァルト、それこそまさに僕の言いたいことだよ」
皇国の動き…
これはすべて巨神の意思だ。
長い年月をかけ、徐々に皇国の血をアードラスヘルム王朝に紛れ込ませる。
そうして王家を内部から腐敗させ神バルデルスへの信仰を弱めさせる。
信仰を弱めた王家に神バルデルスの意思は届かない。
王家はついに皇国の血を引き入れた。
もし疫病が蔓延しなかったとしても、穢れた王家によりいずれ国は弱体化していっただろう。
その機を見て、皇国は西側を足掛かりに、この国を攻め落とすつもりだったのだ。
「…王家はまんまと巨神の意思に踊らされた。だからこそ神バルデルスは争いの回避を諦め、来たるべく事態に備えたのですね」
エドの言葉にオズヴァルトは眉根を寄せ首を振る。
「そうか…。父が皇国の血を血脈に引き入れてしまった時点ですでに命運は尽きていたのだな…」
「でもこれではっきりしたでしょう?オズヴァルトこそが皇国の汚染を逃れた…神バルデルスのまさに真の末裔だって!」
「おおお!」
いっせいに跪く聖職者一同。神官長は涙を流している。
「オジー、僕が思うに開戦の合図はあの地震だね」
「神の怒りか…」
「っても神違いだったけど。創世記に書いてあるでしょう?巨神の能力は自然現象の操作って」
「巨神の怒りなのだな」
神バルデルスが僕の運命を導いたのなら、巨神もまた見えざる力で皇国を導いている。
きっと神々は人の世に直接関与はしないんだろう。実際に動くのはこの大地に生きる人間でなくてはならないのだ。
「皇国の目論見とは違えどアードラスヘルムの要は疫病により瓦解した。そして皇国が崇める巨神の象徴である地震。皇国はこれを巨神の意思と見たのだな」
だからこそ、地の揺れた西側から攻め落とすべく船を作ったんだろう。
「…修道士ペトロス!エドヴィン!」
「はっ!」
「はい」
「全ての作業を中止し消えた文字の復元を最優先せよ!神々の戦いを記した部分だ!恐らくそこにはバルデルス神の戦いが記されているのだろう…。判明した内容は即時報告するのだ。よいな!」
きっとそこには勝利への手がかりがある!




