長いプロローグ
アルファポリス様で完結済み作品を、少しずつ手直ししながら再投稿しています。
『チートな転生農家の息子は悪の公爵を溺愛する』アルファポリスより書籍化。
「お前のような可愛げの一つもない者を誰が正妃になどするものか!我が運命の相手エマニエルに対する悪辣な行いの数々…断じて看過できぬ!」
今まさに婚約を解消された人生の負け組、それが僕、リンデン伯爵家の長男、ウルリッヒだ。
そして目の前で僕を忌々しそうに見下ろしているのが、たった今元婚約者となった、この国アードラスヘルム国の第一王子アルトゥールと、人生の勝ち組エマニエル。
奴らは今まさに「ついに言ってやった!」と悦に入っていることだろう。そして肩を震わす僕を見て留飲を下げているに違いない。
だが…
ふ、ふふ、ふふふふふ…
あー!教えてやりたい。これは全て僕の仕込んだ筋書き通りの展開だってことを!
因みに肩の震えは含み笑いの方だ。いやぁー、あまりにも上手くいき過ぎて笑いが止められないよ。
このまま話を進めても何が何だかさっぱりわからないだろう。
なので先ずは何故ここに至ったか説明することにしよう。少し長くなるけど聞いてくれるかな?
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単刀直入に言うと、僕は人生二度目の生まれ変わり…いや、…それを説明するのは色々複雑で難しい。
実を言うと僕の前世?は…このアードラスヘルム国の…一平民。そう。伯爵家の長男どころか伯爵家に使える一使用人だったのだから。
このアードラスヘルム王国は神バルデルスを崇める絶対王政の国である。
死と再生を司る光り輝く神バルデルスは、西に美しき妻を持ち東で美しき少年と戯れ、南に美女あれば愛を捧げ、ようやく北で休息につく、かと思いきや美青年をつまみに酒を飲む、といった風雅な自由人。
よってこの国では色恋に性の区別はない。
そのアードラスヘルム王国に住む一貴族、リンデン伯爵のお屋敷で従僕見習い、メイドとして仕えていたのが僕の両親(当時独身)だ。
二人はあろうことか使用人同士で恋に落ち、そのうえ母のお腹にはすでに僕が陣取っていたのだから父も大概手が早い。
ところでこれは由々しき問題である。
何故かというと、この国において貴族家に仕える者は生涯を主人に捧げるのが暗黙のルールだからだ。
通いの雑役婦ならいざ知らず、家庭や家族を持つのは、正式な屋敷付き使用人、ましてや上級使用人を目指すにはご法度とされている。その労働力は主人のためにだけ使われなければならないのだ。
このリンデン伯爵家当主、つまり旦那様も当然その価値観をお持ちになられている。
後年母に聞いた話だが、父と母の嘆願に旦那様は冷たく「さっさと別れてここに残るか、荷物をまとめてここを出て結婚でもなんでもすればよい」そう言い放ったそうだ…
紹介状も無い使用人に貴族邸での働き口など簡単には見つからない。まして母は身重だ。
だが寛大にして慈悲深い伯爵夫人は、「あなた。家内の差配はわたくしの仕事。口出し無用にございます」と夫を制し、父と母に変わらぬ献身を約束させ二人の結婚をお認めになられたそうだ。
そして出産に使用する養育棟で今まで通りの仕事につかせ、さらにその裏手にある小さな離れをお与え下さったという。
そこで産まれたのがこの僕、つまり伯爵夫人こそが両親、そして僕の恩人ってわけ。
その僕と同日同時刻に産まれたのが伯爵家のご長男、ウルリッヒ様である。
けれどウルリッヒ様のお産は難航を極め…両親と僕の恩人である心優しき伯爵夫人は、一か月後、天に召されてしまったのだ。
夫人亡きあと、両親は旦那様によりお仕着せを取り上げられ養育棟の下働きにまで落とされてしまった。きっと亡き夫人の差配に納得していなかったのだろう。
それでも離れだけは亡き夫人の遺言で死守されたのだから、夫人には感謝しかない。
その旦那様はウルリッヒ様がお生まれになって一年後、「喪は明けた」と、どこかの男爵家から後妻を娶られた。
ちょうどその頃だ。僕が光栄にもウルリッヒ様の遊び相手としてカヴァネスのヴィルマ先生から指名を受けたのは。
「ベン、ハンナ、息子のエミルをウルリッヒ様のお話し相手とします。明日からこの服を着せ坊ちゃまの私室へ寄こすように。分かりましたね」
「…何とありがたいお役目…精一杯務めさせていただきます」
これはウルリッヒ様のお言葉が少し遅かったというのと、同じ年頃の子供が近隣領に居なかった、というのが大きな理由だそうだが、使用人の子としては破格の扱い、出世の目が消えた両親の喜びは相当なものだっただろう。
後妻ドローテア様は屋敷に入られてすぐに身籠られ、十月を待たずほんの半年ほどで異母弟、エドヴィンさまをお産みになられていた。
つまり…その意味わかるよね?
通常この国の貴族子は七歳頃まで〝子供部屋”と呼ばれる養育棟でナニーや乳母、カヴァネスによって育てられる。けれどドローテア様は自らの手で養育することを望まれ、エドヴィン様は本館から移されることはなかった。
そのため、二歳ごろから始まるウルリッヒ様の貴族教育全てに、平民の僕が何の気兼ねなく同席できたことは類まれなる幸運だったといえる。
「全て完璧に覚えてウルリッヒ様を補助なさい」と言うことだったらしいが、これによって僕の未来に選択肢が増えたことは言うまでもないだろう。
うん?前妻後妻、なさぬ仲の兄弟同士による確執?ないない。むしろドロテーア様はいつだってウルリッヒ様に大変気をお使いだったんだから。
何しろ…この伯爵家よりももっとデカい後ろ盾をウルリッヒ様はお持ちなのだ。
それは何かというと、ウルリッヒ様のご生母、亡き夫人の生家とは、生きた宝と言われる〝癒しの神子”を代々輩出している特別な家門ナンナー家の傍系血筋なのである。
ナンナー家とは爵位こそ伯爵位ではあるが、この国において手出し無用の不可侵領域とされている。
何故なら〝癒しの神子”とは、死と再生を司るバルデルス神の寵愛によって〝再生の力”と呼ばれる、不治の病すら完治させる奇跡の力を持つ唯一無二の存在だからだ。
そのせいで旦那様は亡き夫人に対してどこか遠慮…というか引け目があったんだよね。
もちろんその恩恵にあずかれる者は多くない。王家王族、そして王国及び教会、神殿に多大なる貢献をした者、そう決められ神官長によって厳重に管理されている。
神子の力は有限。〝再生の力”とは神子の生命力が源泉なのだ。誰彼かまわず助けることは自殺行為に等しい。
それでも人々は、いざという時その恩恵にあずかるため、傍系筋の亡き夫人にまでこぞって擦り寄っていた。つまり備えだね。その思惑はウルリッヒ様にとっても護りと言えただろう。
このように、何事も無ければ長男ウルリッヒ様がリンデン伯爵家ご嫡子となり、エドヴィン様がお支えになっていくものと思われたのだが、運命の女神はもっと刺激的な展開をお好みだったようだ…
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