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アニミ物語  作者: カボバ
冬祭り編
93/276

21





「知ってる子だったの?」


「私が一方的に顔を知ってるだけです。」


警備隊の人が女子生徒から改めて事情を聞き、散乱したゴミの確認作業をしている間に姉さんが聞いてきた。




「これまでと変わらず、何も知らないみたいですよ。」


「そう…。」


それから、形だけの事情聴取があり女子生徒とまとめたゴミを持って警備隊の人たちは行ってしまった。





「姉さん、お願いがあるんですけど。」


「何かしら?」



「今から、バラ姫様に会いに行ってきてもいいですか?」


その言葉に姉さんは目を見開く。




「昨日相談しろって言われちゃったので、1つ2つ相談しに行こうかと。」


「その代わりにって言われたらどうするの?」


「そもそも私が始めたトラブルではないので。」


元はと言えば行事ごとに強制的に巻き込まれたのだ。愚痴の1つや2つ聞いてもらっても文句を言われる筋合いはない。




「それなら私も一緒に行くわ。と言うより私が先に行くわ。」


「それをお願いしようと思っていたんですけど、大丈夫?」


できれば今から行くことを伝えてから行きたかったが、自ら先触れを名乗り出てくれるのは意外だった。




「毎回毎回幼稚ないたずらされるのにもそろそろ怒りを感じ始めてきてるからね、嫌われてるとか怪我するかもとか言ってられないわ。」


「怪我しそうならすぐに逃げてください。」


顔を知っているだけの人が今し方傷だらけの状態なのを見てしまった後だ、あれが姉さんやクラスの誰かだと想像するだけで沸々と怒りが沸いてくる。




「そうは言ってもミリアを1人で移動させるのは不安ね…。」


「多少の攻撃ならティーが勝手に守ってくれるよ。」


「それで防げなかった時がこわいのよ。」


そう言って姉さんが少し考える。



「そうだわ。私のティーの煙、あれを使えばいいのよ。」


姉さんの言葉にティーがキュイっと鳴き声をあげて反応する。


そこから使い方のレクチャーを受ける。



「姿を消すくらいだったらそう難しくはないわ。その状態で私と一緒に出て、私は一般トラムで。ミリアは専用車両で、少し時間をかけてからバラ殿にいらっしゃい。」


使い方自体は至ってシンプルだった。しかし維持する時間は決して長いとは言えない。


打ち合わせ通りに一緒に出て車両に乗るまでは不安でいっぱいだった。



まっすぐ向かったであろう姉さんが付くよりも程よく遅れるために車両を一度自宅に向かわせる。


到着してもそのまま降りずにバラ殿を行き先指定すると再び動き出した。



そしてバラ殿よりも少し手前で停まった車両から降りる前にもう一度煙を使い姿を消す。


息を整え姿勢やリズムを大きく崩さぬように歩き門の前まで来た。


門の中にはクチナシがいたがこちらには気づいていないようだ。



息を大きく吸い吐き出す。


それで乱れた煙が晴れて姿が現れる。



「ごきげんよう、クチナシ様。」


そう声をかけると、目だけは一瞬驚きの色をしたがすぐに門を開ける。




「ごきげんよう、リリー様。西太后とアズハは神殿中央奥の部屋に居ます。」


今回は案内するのではなく見送ってくれるようだ。



「ありがとうございます。」


お礼を言った後そのまままっすぐ建物の方に向かって歩く。




(花、全部摘み取ったのかな…。)


先週来た時には今にも咲きそうな蕾がたくさんあったのに、今はその姿が1つもない。



(祭りのために今ある花盛りを切って次に栄養をまわしたのかな。)


その代わりにまだ花の色もわからないほどの蕾が記憶の中にある花の数よりも多く、咲く日を今か今かと心待ちにしているように並んでいる。


アーチを抜けそのまままっすぐ中に入り指定された部屋の前まできて1度立ち止まる。



「どうぞ、入っていらっしゃい。」


「失礼します。」


部屋の中ではバラ姫様と姉さんが和やかとはいえない雰囲気で座っていた。



「さぁ、リリーもどうぞ座って。」


そう言って空いた席に座ることを促された。




「手紙は無事に届いたかしら?」


「はい、お心使いありがとうございます。」


「それで?何か相談があってきたのよね。」


挨拶もそこそこにとっとと本題に入る。




「少々ユリ殿周辺に害虫がわいていまして、手に負えないのです。」


「害虫処理の協力をしてほしいの?」



「いいえ。少し大がかりな罠でも張って一気に仕留めたいので、騒がしくしてしまう事と庭を荒らしてしまうかもしれない事を事前にお伝えしておこうかと思いまして。」


微笑み顔で聞いていたバラ姫様の顔からスッと表情が消えた。



「それは、庭の中に害虫がいると言うことかしら。」


「花に化けて獲物を狙う生き物というのは意外に多いそうですよ。」


「そんな害虫が身近にいると思うと気分が悪いわ。」


「他の花が咲けないように自身の蔓で締め上げたり日をさえぎったりすることもあるそうです。」


「私はどの花にも優劣を付けず綺麗に咲いて欲しいだけなのよ。」


「どんなに手をかけたつもりでも、見落とす可能性はあります。私も関わらせてもらった身なので少しお手入れを手伝えたらと。」


「そう…。」





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