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影の中での暇つぶしと言えばもっぱら読書だった。
外の様子も見えなければ、音も相当集中しないと何の音かわからない。
なぜか手元は見えるし手に持ったものや置いたものも見えるので他にやることがない。
姉さんやミチカに影の中の様子を聞かれたことがあるが、気が狂わないかと心配された。
(気が狂うどころか落ち着くまであるんだけどなぁ…。)
影の中からクッションを1つ出して横に置く。
先ほど少しだけ外が騒がしかった気がするが気のせいだろう。
「ミリア、出てこれるか?」
居心地がいいというのも考えもので、いつの間にかクッションを枕にして寝ていたようだ。
すぐに出していたものを影の中に入れ外に出る。
「わっ、本当に出てきた。」
影から出てすぐ聞き覚えのある声がすると思えば、目の前にオベロが居た。
「というか学園からここまで中にいたんだよね?結構時間経つけど大丈夫?」
今出てきた場所はどこかの建物の中、ホテルのエントランスのような場所だった。
「個人的な感覚なんですけど、影の中にいる時って感覚が鈍るみたいなんですよね。」
休日に家の中で影の中にまる丸一日中入っていたことがあったのだが、何もないのに飽きる事もなければ食事やトイレも必要だと感じない。
もちろん全然必要ないというわけではないが、どうもその欲求が麻痺しているような感じになる。
近くの窓から外を見れば、どこかの街中だということがわかり日は暮れかけている。
「ミリア様、ご案内いたします。」
1人の大人が音もなく近寄りそう言った。
「ミリアの仕立て屋が先に来て準備しているはずだ。」
「また会場でね。」
タモンとオベロがそう言って見送ってくれた。
「お部屋は604号室になります。」
エントランスから小さな脇道に入りエレベーターに乗って6階へと向かう。
「到着しましたら最初に扉に登録をさせていただきます。」
エレベーターの中では簡単な施設の紹介をしてくれた。
両親とこのような施設を利用したときは決して自分に向く言葉ではない丁寧な説明が、自分に向けられているのになぜかむず痒く感じてしまう。
6階に到着し、扉ばかりの廊下を進んでから目的の604とプレートのかかった部屋の前に着く。
その背中越しには見えなかったが、何か操作をしているようだ。
「どうぞ。」
そう言われて扉の正面を譲られる。
ドアノブに手をかざすと解錠音が聞こえた。
「扉の登録が済みました。ご滞在中はドアノブを握っていただければ解錠、開けた扉を閉めるか一定の時間が経ちますと施錠します。必要なものなどあればいつでもフロントにご連絡ください。」
「ありがとうございます。」
たぶん部屋に入るのを見届けないと帰らないだろうと感じ、お礼を言ってから部屋の中に入る。
「お久しぶりです。レディ。」
「久しぶりです、ツユカさん。」
部屋の中にいたのは制服を作ってくれたツユカだった。
「どんな特別な服よりも先に喪服の依頼が来るとは…。」
「お手間をとらせてすみません。」
「そんな事ないですよ。いつかは準備しなければいけないものなのですから。」
一瞬気落ちしたと見せかけて、すぐに仕事人の顔に戻った。
「今回は時間がありません。隣室に部下が控えておりますので早速ご移動お願いしてもいいでしょうか?」
そう言いながらほとんど拒否権はなかった。
隣の部屋ではすでに仕立て屋さながらの様相だ。
そこからは着せられ脱がされ測られ着せられ。
間の時間はソファーに座ってツユカが出す指示に従って動く2人の人物をながめていた。
「今回参加される式についてご説明は受けましたか?」
「おおよその事は。」
「本当に何をするというわけでもないのですがね。」
そこからツユカは説明をしてくれた。
ティーが帰るのを見守るといっても一日中ずっとというわけではない。
「今回はネコのティーですので、夜の8時から11時くらいが目安になります。」
動物の種類によっておおよそ傾向があり、あくまで目安なので式自体はもう少し長いとのこと。
「故人とそのティーそしてその関係者などで故人の事を偲んで、ティーに亡くなったことを自覚してもらうのが今回の会の目的です。ミリアさんは会ったことのない方だと思いますので、余裕があれば故人のことを誰かに尋ねるのがいいかと思います。」
「ティーが帰るまで葬儀が行えないと言う認識でいいですか?」
「そうですね。こちらではそれが一般的なので忘れて居ましたが、長ければ1週間程度なくなってから葬儀までかかる場合もあります。」
短い人生でまだ身近な人が亡くなると言う経験はないが、元居た街では亡くなった故人のティーは一緒に埋葬されていた。
ティーが帰るという認識があったのは、一緒に埋葬したティーはいつまでもそこにあるわけではなくおおよそ1年以内に消えてしまうからだ。
もちろん盗掘対策として墓所は出入りが厳重に管理されていた。
土葬か火葬かは遺族や故人の主張が優先されるのだが、土葬ならご遺体と一緒に火葬なら遺灰を納めるときに一緒に納められていた。
そのことから火葬の場合はティーが帰った事を確認でき、ティーが帰ることでようやっと故人も天にのぼることができたと考える人も少なくなかった。




