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朝と昼と夜の気温差が極端になり始めた10月末日。
何気ない朝の時間は、何気なくながしていたラジオによってもたらされた情報によって静止した。
『かねてから病気闘病中だったトランプ・ダイヤの4、滄桑のミヤが昨夜未明に療養中の病院で亡くなったと発表されました。かねてより療養入院を繰り返しており1年2ヶ月前には職場復帰しましたが、今年に入り体調が優れず再度入院することになり、そのまま再度復帰を果たす事なく59歳で人生の幕を閉じました。誠に残念でなりません。葬儀に関しては準備が整い次第…。』
淡々と伝えるラジオの内容を聞いていた。
会った事もないがトランプの所持者が亡くなったというニュースは、普段なら天気予報程度しか聞いていないラジオが初めて家主にニュースを届けることができた記念する気もない第一号だった。
その後いつも通り耳に残らないニュースと天気予報を伝え終わった頃、玄関のベルが鳴らされた。
「ミリア、急だが出かける準備をしてくれないか?」
尋ねてきたのはタモンだった。
「それはニュースの件と関係ありますか?」
「トランプの誰かが亡くなったら、その時のトランプ所持者が見送りに参加する。細かいことは移動しながら説明するから、先ずは出かける準備をしてほしい。」
外で待っていると言われ慌てて準備をしようと思ったが、はて何を持っていけばいいのかと考える。
すぐに彼女がいつもより少し大きめのカバンを差し出してきた。
こうなることがわかっていたのか、それともこうなった時のためにいつも準備をしていたのか。
中身を簡単に確認した後、影の中に入れる。
先ほどまでずっしりしたカバンを持っていたはずなのに中に入れてしまえばあっという間にその重さは感じなくなる。
「お待たせしました。」
「それじゃあ、行こうか。」
そう言っていつもの専用車両に乗った。
車内での説明は簡単にまとめると3つ。
葬式に参加するわけではなく、ティーが帰るのを見守るのが今回の目的。
その後に行われる葬儀には参加せず帰ってくる。
移動に1日だが帰ってくるのは何日後になるかわからない。
「それから、できれば移動中は俺の影に入っていて欲しい。」
「わかりました。」
それがトラブルを避けるための最善策ということはよくわかっている。
その後12号館上空あたりで進む方向が変わり、例えるなら中央からどんどんと離れているような進み方だった。
「学園の外に出るためには一応手続きがある。今回は緊急の要件になるから署名だけだ。」
そう言っている間に小さな2つの塔の前に停まった。
塔は鏡写しのように同じ形をしており、その間は小さな家一軒分ほど離れている。
(ここが出入り口で、見えない何かがここ以外の出入りをできなくしている感じかな。)
この辺りは特に別の建物があるわけでもない草原のような場所だが、それぞれの塔の向こう側は草が1本も生えていない。
誰かが丁寧に同じ幅だけ整地して踏み固めたような一本の線が見えるだけでも真っ直ぐ遠くまで延びている。
タモンは車両を降りてから少し考え右側の塔に向かった。
塔には仰々しい制服に身を包んだ警備隊が2人。
タモンが挨拶といくつか言葉を交わすと出された書類に署名している。
タモンが終わると警備隊の1人がこっちにやってきて書類を差し出してきた。
標題には外出届と書かれていて、その下にはいくつかの注意事項や禁止事項が書かれていた。
しかしその注意事項全てに重なるように赤いインクのスタンプで『特例外出』と捺印されていた。
そのためチェックする項目は1つもなく、1番下に署名すれば終わりだった。
「まだ皆様集まられていないので、奥の待合で待機されてください。」
そう促されてタモンが歩き始めたので、後ろを着いて行き塔の中に入った。
「俺初めてあんな小さなトランプ見た。」
「俺もだ、と言いたいところだけど何年か前にも見た事あった。」
「あの子も例に漏れず化け物なんすかね?」
「化け物か化け物じゃないかなんて少なくとも俺たちのモノサシじゃ測れねぇよ。」
無駄口はやめよう、誰かに聞かれると首が飛ぶ。
そう言いながら塔の側面にある自分たちの待機場所に戻って行った。
扉を開けると壁に沿って造り付けの長椅子、そして点在する丸テーブルがあるだけの少し広めの部屋だった。
「おや、2人とも早かったね。」
部屋の奥に見知った顔が居た。
「お久しぶりです、アダンさん。」
そこに居たのはクラブハウスの個室改修でお世話になったアダンだった。
今日はいつものどこかくたびれた服ではなく、黒い服で隙のない仕上がりだった。
「あなたがこっちに居てくれてよかった。」
「その様子だとできれば会いたくない奴が居て、しかももう来てる気配はするけどどちらに居るかわからなかったってところだね。」
「おっしゃる通りです。」
「どうせ、後少ししたら嫌でもみんなで顔を合わせることになるのに。」
その時まででいいんですよと言いながらタモンが座ったので適当なところに座る。
しばらくすれば外が少し騒がしくなってきた。
どうやら中には入らず外で立ち話でもしながら待っている人たちもいるようだ。
「あぁ、やっぱりここにいた。」
そう言いながら入ってきた声の主はあまりにも見慣れた相手だった。
「やぁ、アマジ。元気にしていたかい?」
「それはこっちのセリフです、父さん。」
世間というのは本当に狭いものなのだと実感した。
「ん、タモンにミリア。おはよう。」
「おはようございます。」
「…おはようございます。」
この様子だとタモンは知っていたようだ。
「そろそろ移動車の準備ができるみたいです。」
「そうか、それじゃあ行こうか。」
「…ミリア。」
先にタモンが立ち上がり、そちらに駆け寄っていく。
手を少し前に出しぶつかる瞬間には中に入ってしまう。
頻度は高くないが何度かやっている事に今では慣れて躊躇がなくなったせいか、ほんの小さな衝撃も感じなくなっている。
「今のは?」
先ほどまで間違えなく4人いた室内に残った3人。
部屋の入り口から見ていたアマジが思わず声をかけた。
「俺たちなりの自衛です。」
「君は丸腰じゃないか。」
おもしろおかしそうにそう言ったのはアダンだ。
「そうなので、御二方には私の視線避けお願いします。」
そう言いながら3人で建物を出た。
そんなわけで、しれっと始まりました冬祭り編。
この章ではちょっと重たい話をサラッと書くを目標にしてます。
(訂正:なぜかそうなったというだけです)




