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「それで、水曜日の2時間目にクラスのメンバーだけでなにかしらするってことになったの?」
「一応レクリエーションっていうことにしてます。」
決まったことは水曜日の2時間目をレクレーションの時間とし、リンカを授業に参加させる。
内容は月曜日1時間目のクラスミーティングの時に話し合い必ず事前に申請すること。
もしティーを使ったレクリエーションをする場合は教職員1人以上同行すること。
「初めのうちはみんなで自己紹介とか話をするのが中心になりそうです。」
まずはリンカがみんなと過ごす時間を増やし、話す頻度も増えて自然と会話ができるようになることを目指す。
「というかミリア、それ結構な怪我よね?」
あのあとお昼を食べ終わってしばらくしたころタモンが迎えにきた。
クラブハウスに着くと同じタイミングで到着した姉さんとばったり会ってしまった。
タモンが驚いた顔に声にならない声をあげて固まる姉さんの横を通り過ぎながら、ミリアの茶室に招待してもらってゆっくり話でもすればいいと言いながらさっさと行ってしまった。
まだ声の出ない姉さんの手を引いて5階まで行き、部屋に入って姉さんを座らせた。
ベルを鳴らしてブラウニーズを呼びお茶の用意をしてもらっている間に、1階まで駆け足で戻って正面の商店に向かう。
前回便箋を買った時に気になっていた会計カウンター横にある手書きの値札をかけられたパウンドケーキを2切れ購入した。
先に会計を済ませると店主が透明なブレットケースに入れられたケーキをトングで取り、1切れずつパリパリと音のする紙に挟んでから紙袋に入れて渡された。
その日によってケーキの種類は変わるようで、前回はレモンケーキで今日はたっぷりのナッツが入ったパウンドケーキだった。
それを持ってまたティールームに戻る。
部屋の中はふんわりといい匂いが広がっていた。
買ってきたケーキも一緒に出してとお願いしわたす。
「姉さん落ち着いた?」
自分のソファーに座り、声をかける。
ボーッとしている姉さんの肩では姉さんのティーがモグモグと何かを食べている。
お茶とケーキが運ばれてきたところで姉さんがハッと我に帰る。
「とりあえず最近何があったかから話してもらえる?」
姉さんの笑顔にはいつも安心感があったはずなのに、今日の姉さんは逆らってはいけない圧を感じる。
最近起こったことっと言っても前回の階段から落ちた話までは姉さんも知るところだったので主に昨日今日の事を話した。
「跡は残らないって言ってましたよ。」
「それなら良かったとはならないからね。」
頬の傷は気を失ってる間に何か特殊な治療が行われたようで、今朝再び見てもらった時にはほとんど赤い線があるだけの状態になっていた。
「こっちはもうしばらくこのままみたいですけど、跡は残らないって言われたので。」
昨夜お風呂に入るために脱衣所で包帯を取った時思わず悲鳴をあげそうになった。
彼女がすぐにかけつけてきたので実は声が出ていたのかもしれない。
手の形こそしてなかったが、しっかりと痣になっていた。
痛みも何も感じていなかったから油断していたが、見るに痛々しくてそれ以上鏡を見れなかった。
「まったく、確信があったからってなんですぐに話しかけるのかしらね。というかどこから確信してたの?」
「話しかけたのはここでチャンスを逃したら次会えるのがいつかわからなかったからですね。刺激しないように言葉を選んだつもりだったんですけど、ミスりました。」
逃がさないようにそれでいて会話がしやすいようにと心がけたつもりだったが、そもそも社交性に大きな隔たりがあったため失敗した。
「どこから確信してたかっていうのは、正直感だったところが大きいんですよね。強いていうならテルマのティーと繋がったときに聞こえた音ですね。」
「というと?」
「教職員室だけ作りが違うんですよ。」
詳しく何がと言われるとそれには答えられなかったが、扉の作りや床や中に置いてある物まで。
「私の影が違うって伝えてくるんですよ。」
「…なるほどね。」
姉さんは何かに納得したようだったがそれを教えてくれることはなかった。
「まぁ、何も失わなかったのならそれでいいわ。」
怪我したことだけは褒められないけどねと言いながら手荒く頭を撫でる。
(次出す手紙にはクラスメイトの事も書けたらいいな。)
きっとまだ届いていないであろう両親と兄に出した手紙の次を考えながら微笑んだ。
入学編、終わり!
次回、登場人物紹介を挟んで次の話に進みます。
活動報告の方でもいいので感想やコメントなどお待ちしております。




