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「ミリア、出てこれるか?」
考えているところでタモンが声をかけてくる。
急いで荷物を自分の影の中に入れて外に出る。
今度出た場所はどこかで見覚えがあると思えば自宅のガレージだった。
空はすっかり日が暮れている。
すなわち1日逃げ切れたということだろう。
「本当に体調は大丈夫か?」
「大丈夫です。」
今日何度目かの確認を素早く返答する。
「とりあえず1日逃げ切れた。これでしばらくは平和な日々が過ごせるだろ。」
タモンは心底安心したと言った口調でそういう。
「今日は1日、ありがとうございました。」
改めて頭を下げてお礼を言う。
「いいんだ…。」
タモンはそれだけを返す。
「それじゃあ、俺ももう帰る。」
そう言ってガレージを出ようとしたタモンを呼び止める。
「先輩、ひとつ聞きたいことがあるのですが。」
「なんだ。」
今一度立ち止まり振り返る。
「今のプレパートリーの中に私とコウヤ以外で招待状を受け取った生徒はいますか?」
言葉を選んで質問する。
「新入生では3人だな。」
想像通りの言葉が返ってきた。
「何か気になることがあったか?」
「いいえ、気になると言うより先日のようなトラブルを避けるための努力です。」
「そうか。」
それだけ言うとタモンは帰って行った。
「と言うわけでこのクラスに7人目がいるのはほぼ確定じゃ無いかと思う。」
翌日、歴史の授業の後にみんなでこれまで得た情報を共有しながらの昼食。
本日も午後の授業は中止になりみんなで話しながら時間をあまり気にせず過ごす。
ユウガにこのクラス以外にクラブに所属している生徒に心当たりがないか確認したが、そのような人物に心当たりは無いとの事。
「それから誰かクラブに詳しい書物に心当たり無い?」
そう聞いてみたが全員首をかしげる。
「そうなると手当たり次第に調べるしか無いかなぁ。」
たまたま昨日持っていた本が全て塗りつぶされていただけで、断片的な情報くらいなら拾えるかもしれない。
「クラブって花園とか世界樹よね。」
「そうそう。それからハンターに海底神殿に茶会。」
「あとはモグラと飛行士、茶会にトランプ。」
それぞれ思いつくクラブの名前を挙げていく。
「吸血鬼…。」
そう呟くように言ったのはコウヤだった。
「今みんなが言ってるのを聞いて思い出した。どこで聞いたのかはっきりと思い出せないけど、他のクラブの話をしている時に出てきた名前だからクラブの名前で間違えないと思う。」
「ちょっと待ってて。」
そう言ってミチカが部屋を飛び出して行った。
すぐに戻ってきたミチカは何かを持っていた。
「学園に来てすぐの頃に色々知りたくて、学校行事が書かれてる本があったの。」
ミチカの話によるとその本は学園の卒業生が学園での出来事を物語のように書いたものだった。
「確かどこかの行事について書いてあったところに…。」
そう言いながらミチカがページをどんどん捲っていく。
「あった。」
そう言って1文を指差す。
「吸血鬼の彼らは参加を促さない方がいいだろう、危険に自ら足を入れるのは薦められない。」
指差された1文を読み上げたのはテルマだった。
「これどう言う意味だろう?」
「私も気になったんだけど、覚えてるだけでも吸血鬼って言葉が出てきたのはココだけなの。」
注釈もなければ他に同じ単語が出てくるわけでもない。
後にその言葉に触れることも一切無いのだと言う。
「1文だけって言うのがなんとも。」
「他に記載がないなら、この1文だけが削除し忘れてて他の記載は全部消されたのかな?」
そうだとしたら、この違和感が残る文にも説明がつく。
「この本、この辺りだけで販売されてた物みたいだな。」
コウヤがそう言いながら奥付を開いて指差す。
コウヤ曰くそこにあるマークが壁の外へと持ち出す事を禁止されている物品に付けられるものだという。
「だとすると僕たちは知らない事だけど、大人たちにとっては当たり前の事でなおかつ書き記す事が禁止されてるってこと?」
テルマ言った事は概ねあっているのだろう。
「この本に塗りつぶされた文章ってある?」
ミチカに聞いた。
「そんなところなかったわ。」
影の中から本を取り出し、塗りつぶされたページを見せる。
「本来ならこんな感じで書かれている事をふせているはずなんだ。」
たまたま1冊の本が検閲を逃れて、たまたまその文章を読んだミチカがその違和感を今日まで忘れずにいた。
それがどれほど奇跡に近いのか今は考えなくてもいい事が思考に広がる。
「ここに書かれてる1文から推測すると、そのクラブは危険って事なの?」
コナミの言葉にみんなが考える。
1文の前後を読めばたった1日だけの行事で直接他の生徒と話をするわけでもない行事なのに、参加を促さないと言われるだけでなく危険に足を入れるという表現までされている。
「名は体を表すと言うけど、吸血鬼で危険って言われると…。」
世間一般に言われる吸血鬼のイメージとティーの存在がいまいち結び付かない。それはみんなも同じようだった。
「俺たち想像以上にヤバいことに関わろうとしてるのかな?」
そう言ったのはユウガだった。
「ヤバいで言えば被害にあった2人が1番だろう。」
「何も知らずに被害を甘んじて受け入れるつもりはないわ。」
なぜあのような事が起きたのか、理由を知らないままで日々を過ごせるほど楽観的ではない。
「とりあえず、今後はもっと身の回りに気をつけよう。」
ユウガの言葉がこの重い空気を締め括った。
12号館で移動する時は必ず2人以上で行動し、周囲の音に気を付ける。
相変わらずSクラス以外では突然ものがなくなったり、誰もいない場所から人の気配を感じるなどの噂が広がっていた。




