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そこから少し具体的な話を詰めることにした。
タイムリミットは日暮までを想定。
影の中で過ごすのだから幾らかの荷物は必要だろうが持ち込まない方がいい物。
1日中同じ場所の影の中ではなく何度か移動した方がいい。
「占いに近い能力のティーがいた場合が厄介だ。」
大まかな場所を特定されてしまい、包囲された上で影から出なければいけない状況になったら詰むということだった。
「…先輩も明日は逃げることになりますか?」
ふと思いついたことがあり質問する。
「だろうな。あいつらにとって俺が1番身直で情報を持ってる可能性がある存在だからな。ミリアの姿が見当たらないとなったら真っ先に場所を吐かせに来るだろうな。」
「逃げきれる自信は?」
「侮るなよ。これでももう10日以上、あいつらの追求から逃げてきたんだ。」
その言葉には自信が見えた。
「なら先輩の影に入ればいいんじゃないでしょうか?」
「・・・・。」
その言葉にタモンが固まった。
「…ダメでしょうか?」
やはり軽率すぎたかと考える。
「いや、ありかもしれない。」
タモンがつぶやくようにそう言った。
「確認するが、俺とアズハ以外に誰かの影に入って移動できることを話してないよな?」
「話していません。」
「場所を俺がいるところだと特定されても見た目に居ないわけだし。それならアズハにも協力してもらって何度か場所の入れ替えを行えばより撹乱できる。」
ブツブツと色々な可能性を言いながらタモンが考える。
「よしひとまずそれで行こう。アズハには俺から協力を頼んでおく。」
そこからさらにいくつか条件とやり方を指示された。
「でも、忘れないでくれ。その作戦はミリアが体調を崩さない事が大前提だ。もし具合が悪くなったり能力を使用することによって何かしらの返しがあるようならすぐに言うんだ。」
「わかりました。」
確かにその懸念はある。
姉さんと先輩を連れて影に入った後のことを思えば、必ずどこかに限界があるはずなのだ。
だからこそ念を押される。
その後タモンは自室に戻ると言い階段を上がって行ってしまった。
家に帰る前にクラブハウスを出た正面にある商店で学内用のレターセットを買う。
姉さん曰く郵便屋ほど品揃えはないが学内用のレターセットを扱っている店は多いらしい。
(可愛くないとかそんなこと言ってられないよね。)
先日買ったシンプルだが洒落たレターセットはコウヤにプレゼントしてしまった。
今買ったのは単色のシンプルな物だ。
お店にとってはあくまで非常用という感じで取り扱っているレターセットだけでは申し訳ないのでいくつかの飴やガムも一緒に購入してクラブハウスの前に戻り専用車両で家に帰る。
そして彼女にも事情を説明する。
火を使わないタイプの光源と飲み物を入れる皮袋。
(確か水面が見えなければいいんだったよね。)
タモンの中ではどちらも誰か特定のティーの能力を想定してその注意をしてくれたのだろう。
どんな能力か想像もつかないが、だからこそ忠告には素直に従うことにする。
とくに事情を書かずミチカに明日は12号館には行かない。
誰かが訪ねてきても何も聞いていないと伝えて欲しい旨を書いて手紙を夜空に出してから就寝。
翌日。
朝早くに姉さんがやってきた。
姉さん曰く昨夜タモンからお願いという名の指示書が送られてきたそうだ。
「ご迷惑おかけします。」
「いいのよ。私にも関係ないことじゃないしね。」
朝食をとり彼女が用意してくれた物を影の中に入れる。
姉さんは玄関先で大量の煙を吐き出すティーを見ながら待っていた。
煙のせいかもうすでに姉さんの身体が半分ほどしか見えない。
「ミリア、準備できた?」
「はい。」
「それじゃあ行きましょうか。」
そう言って手を差し出してきたので、その手を取り姉さんの影の中に入る。
中に入ってそこがやはり限られた空間だとわかったため、姉さんの影の中に入ることに成功した事がわかった。
(まぁ先輩たちには迷惑かけてしまうけど、やる事がないのも…。)
たいくつだ。
自身の影に手を入れてみる。
影の中にいるが影の中に入れていたものは取れるという不思議現象は深く考えないことにした。
それから昼までに2回。日が暮れるまでに3回。
姉さんとタモンの影を移る。
その時一瞬見えた景色は見たこともない場所だったが、その場所がどこなのか今は気にしていられない。
出るたびに疲れはないか具合は大丈夫かと確認されたが、別段変化はない。
逆に先輩たちは何か感じないかと聞いたが、重さも感じなければ不快感も無いとハッキリ言った。
影の中ではやることもないので昨日持ち出してきた本を読み改めて考える。
(もう1人居るのが本当だとして、特殊能力者で動物であることはわかってる。)
そこまで考えて思考が立ち止まる。
(動物なのに能力が完全にわからない?そうなるとそのティーの見た目は新種の動物?それとも…。)
歴史を考えれば既存のティーの誰にも該当しないティーというものはあっても、誰も知らない動物というのはおかしくないかと考える。
そもそもティーというのは神話や伝承由来なのだから、動物の姿でであれば能力がわからなくても神様に当たりはつけられるのではないか。
もちろん同じ姿でも能力が違う場合はあるだろう。
トカゲや馬の伝承は多くあるし、犬や猫それに鳥類なら星の数を超えるかもしれない。
でも見た目がわかっていて完全に該当なしがあり得るのだろうか。
置いていた本に手を伸ばそうとしたところで誤って本を落としてしまい挟んでいたメモが散らばってしまった。
拾い上げようと手を伸ばして、あることを思い出す。
(クラブは全部で10。そのうち教えてもらったのは9つのクラブ…。)
あの時、姉さんはなんと言っていたかを思い出す。
あとの一つは特殊なところだと言っていた。
トランプの存在すら学園内での待遇を考えれば特殊中の特殊。
それでも姉さんはそれを隠さなかった。
(もしそのクラブがトランプとはまた違う待遇だったなら…。)
先生たちがその存在を隠し、事件を積極的に解決しようとしない理由がそこにあるのだとしたら。
確かクラブに関して書かれていたページがあったはずと思い、本を改めて拾いページをめくる。
(そりゃそうだよね…。)
本にはクラブのことが書かれていた。
クラブそれぞれがどんな生徒の集まりなのかも書かれていた。
しかし肝心の10番目のクラブに関しては黒く塗りつぶされている。
(そもそも書かれてる文章量が違う。)
クラブの説明は短ければ1行、長くても10行にも満たないのに塗りつぶされた10番目のクラブの記述は2ページと半分にわたって塗りつぶされている。
もちろんそのことだけでなく別の事も塗りつぶしているのかもしれないが、後に続く文章に足りない情報や違和感もない事から考えづらい。
今持ってきている本ではこれ以上の情報は得られそうにないし、一度この事を隠した姉さんやタモンに直接聞いても教えてもらえるとは思えない。
(となると今できる確認の仕方は…。)




