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ほんの少しの沈黙が過ぎたあと、俺も帰るとタモンが立ちあがろうとした。
しかしその体がふらつく。
咄嗟に支えに入ろうと立ち上がりそちらの方に体を向ける。
ドンっと体同士がぶつかる。
そもそもかなりの体格差があるので支えるのも容易ではなく、反射的に動いた結果余計困った結果になるのではと考えが追いついた。
完全に倒れる前にタモンが手をつく。
「ミリア!」
タモンが声をかけるが、その場には自分以外誰も居ない。
間違えなくぶつかった。
そのはずだがぶつかったはずの相手が居ない。
慌てて立ち上がり辺りを見回す。
しかし姿がない。
「先輩、大丈夫です。」
小さいが声が聞こえた。
ぶつかった場所を見ると濃い影が広がり腕が出てきた。
そのまま外にズルズルと体が出てくる。
「状況は?」
「ぶつかった瞬間、影の中に入ってしまいました。」
本当にそれだけのことであるがタモンは納得していないような、何かを考える表情をしている。
「今みたいなことは初めてか?」
「いいえ、先週も一度不意に影の中に入りました。」
「その状況は?」
階段から落ちて影に入った話をした。
「そういえば、その時と今と影の中の様子が少し違いました。」
「と言うと?」
「その時は階段から入って出てきたのが教職員室の床だったんです。でも今入ったところは先に進めない壁みたいなものがあって出る場所も同じだったんです。」
今回もぶつかった勢いのまま中に入った。
しかし中で壁にぶつかり、はっきりとは見えなかったがそこが区切られた空間の中だと言うことがわかった。
今まで何度か影の中に入ったが、この経験は初めてだった。
何か違いがあっただろうかと首を傾げる。
「俺の声とかはしっかり聞こえてたんだよな?」
「聞こえてました。」
タモンが唸りながら考える。
「ミリア、もし体調に変化がなければもう1度同じ場所から影の中に入ってみてくれないか?」
「もう1度ですか?」
「そうだ。そして呼んだら出てきて欲しい。」
どうしてそうするのかわからないが、何か考えがあると言うことだけはわかった。
「わかりましたやってみます。」
屈んで膝をついたタモンの肩に右手を当てる。
正直できるかわからなかった。
(イメージだ…。さっきやったみたいに今触れている部分から中に…。)
目を閉じてゆっくり深呼吸した。
するとグラッと体が前に倒れるような感覚が一瞬あった後、影の中に入っていた。
(今回も広くない…。)
床や自分の足元から入った時とは違い真っ黒な空間の中でそこに壁があるのがわかる。
おおよそ前後左右に数歩。
その程度の広さだった。
少し待ったが呼ばれない。
その場に座り外の音が聞こえないかと耳をすませてみる。
(何か話してる?)
声を出す方向の問題だろうか、それとも音量の問題だろうか。
よくわからないが、誰かと何かを話している声が聞こえてくる。
その声は壁の向こうで話しているような水中から聞いているようなどこかはっきりしないものだった。
「ミリア、出てこれるか?」
今の声ははっきり聞こえた。
出たいと思えばその空間から押し出すように出ることができた。
「わ、本当に出てきた。」
出た先は先程のベランダではなく姉さんのティールームだった。
入った時とは違い立っているタモンの肩の辺りから出たため地面が遠く、そのまま姉さんが受け止めてくれた。
「やっぱりそうか。」
タモンが納得したように言う。
「これどう言うことですか?」
「つまりミリアは俺の影の中に入ったんだ。」
首をかしげる。
「影に種類があるってことですか?」
「そう言うことになるな。」
そうなるとこれまで何度か入ったことのある影はどんな存在なのだろうか。
「はっきりしたことは言えないが、仮説として聞いてくれ。」
立ち話もなんだからと姉さんに促されて姉さんのティールームに点在している丸っこいソファーにそれぞれ座った。
「ミリアが入っている影って言うのはたぶんその場にあるものに付属する影の事だ。これまで入った影が広くて今入ってた影が狭かったのは、入った影の総量の違いだ。」
「と言うことはこれまで入っていた影は建物なんかの影の中に入っていて、今回は先輩自身の影の中に入ってたから先輩が動いたから私も一緒に動いたってことですか?」
「そうだろうな。」
「ちょっと待って、建物の影ならまだしも人1人の影なんてたかかが知れてるでしょ?」
今までの話を聞いていた姉さんが言った。
「そんなこともないと思うぞ。」
そう答えたのはタモンだ。
「どういう法則で影の中ができてるのかわからないが、体というのはそれなりに複雑な形をしていてなおかつそれに付属する服や髪の毛なんかの影も加算されたとしたら。」
それは十分な広さが確保できる。
「ミリア、今の所体調の変化は?」
タモンに聞かれて少し間をとり確認する。
「ありません。」
頭痛や吐き気もなければ疲れやしんどさも感じない。
「伸ばしたり動かしたりしてる影とは別物なのかしらね?」
「それは今のところ結論付けられないな。」
「たぶん物を入れてる影とも別なんですよね。」
どこの影に入っても今のところ何もない空間が広がっていて、見えていないのに床や壁を認識できる以外には本当に何もないのだ。
「とりあえず影の中に入る時はその影がどこに付属してる影なのかを注意したほうがいいな。それから物を入れている影が別物ならその上限を知った方がいいが、大なり小なりどう試したものか…。」
やり方が難しい、その一言に尽きる。
「容量に関しては一旦保留ね。」
姉さんがそう言う。
「測れるものが無いなら測りようがないわ。今は気にしないことにしましょ。」
そのくらいの気持ちでいた方が良いのかも知れない。
はて、これが正解かどうなのか…




