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窓の近くの席に座ってもらい、お茶を準備してくれているブラウニーズにこれも一緒によろしくと焼き菓子の入った紙袋をわたす。
「暖かい色で落ち着くいい部屋だな。」
ティーを襟の下からテーブルに移動させながらそう言った。
「うん、私も気に入ってる。」
紅茶が出される。
今度はお菓子も添えられている。
「ありがとう。」
そう言うとお辞儀をしてまたキッチンの方へ戻っていきトレーを持って部屋を出ていった。
「この部屋なら空がよく見えるよね。」
「そうだな。」
カップを持ちそう言いながら2人でベランダの向こうに広がる空を見る。
遠くに飛んでいるのは鳥かそれとも誰かのティーか。
そうしてのんびりした時間が流れている事を感じ取ったのかコウヤのティーも部屋の中を飛び始める。
目で追うには早く、この部屋の中を飛び回らせるのは少し窮屈に感じられた。
ふと部屋の中が暗くなる。
それは電灯が突然切れたとかではなく窓の外が急に暗くなったのだった。
少し遅れて開けっぱなしにしていたベランダとの間にある扉から強い風が流れ込んできた。
すぐに元の明るさに戻ったが、コウヤの方を見ると目を見開いて外を見ている。
「このために俺をここまで呼んだのか?」
「ここはいろんなお客さんが来る場所だからね。」
再び強い風が吹いてきたかと思うとカチャカチャとベランダの壁手すりに触れた音がする。
影の中から小さな花を1つ取り出し掲げれば、何かを察したようにコウヤのティーが指先にとまり器用に嘴の先で花を摘み飛び立つ。
部屋を一周した後、開いている扉からベランダへ飛び出す。
手すりからウッドデッキの上に降りてきていた自身より圧倒的に大きな存在の前へと降り立ち一声大きく鳴きながら花を差し出した。
コウヤを見ればその様子を目で追っている。
その瞳は恐怖なのか戸惑いなのか焦りなのかさまざまな色を不規則に点滅させているように見えた。
コウヤのティーといえば差し出した花を受け取ってもらえたことが嬉しいのか、たくさん鳴きながら頭を上下に動かしている。
その様子はしばらく会えなかった友人に色々なことを話して聞かせているようだった。
影の中からもう1つ、今度は手のひらよりも大きい立派な花を取り出した。
ここ数日で1番大きく咲いた花。
持っていくことを渋る彼女を説得するのは大変だったが、1人で愛でるよりもせっかく咲いた花が誰かの役にたつかもと説得してよかった。
「ここはいろんなお客さんが来るけど、招いたお客さんしか入れないティールーム。だからコウヤもあちらのお客さんを歓迎してあげてくれる?」
そう言いながら花を差し出す。
少し戸惑いがあったがその花を両手で受け取るとコウヤが立ち上がりベランダへと出る。
コウヤが出てきたことに気づいたのかコウヤのティーは正面を譲るように飛び立ち部屋の中に戻ってきた。
「焼き菓子はお好き?」
紅茶を置きそう聞くとコウヤのティーは返事をするように一声鳴いたので、クッキーを指先で少し砕いてあげた。
啄むのを見てからまたベランダの方を見る。
「久しぶり…、でいいのかな。今日はオベロさんは一緒じゃないの?」
コウヤがそう聞くとゆっくりと首をふった。
その間もジッとコウヤを見つめている。
ウッドデッキに座るその大きさは立ち上がればコウヤと同じくらいかもしれないが、今は膝を曲げ腕を収納した状態のため首を伸ばして見上げている。
そのことに気づいたのか両膝をつきウッドデッキに座る。
今度は少し見下ろされるような状態になったが、それで一先ずは落ち着いた。
「ごめんなさい、俺こわくてオベロさんにもあなたにもいっぱい迷惑かけて…。」
コウヤが喋る一言一言を聞き逃すまいとジッと見つめる。
「兄さんが怖かった。オベロさんやあなたも恐いと思ってしまった。俺は…。」
そこでコウヤの言葉が止まった。
どの感情で表せばいいのかわからない。
いくら探しても正解の感情がわからないし表現のしようがない。
「…空を飛ぶあなたが好きだった。見たこともない景色に驚く俺を振り返って微笑むあなたが好きだった。知らない花や木の実を窓の外まで持ってきてくれるあなたが好きだった。だからあなたたちが帰ってくる夏がいつも待ち遠しかった。」
言いながらだんだんとうつむく。
「あの日何が起こったのかわからなかった。顔の半分が熱くてだんだん痛みになっていく中で見たのがあなただった。」
コウヤの顔を覗き込むことはせずただその言葉を聞いている。
「優しい目しか見たことがなかった。雨が降った後の木から落ちてくる雫のような輝く鱗しかしらなかった。」
詰まる言葉の合間に聞き慣れない音が聞こえるのは手に持つ花を強く握ったのかせいだろか。
「あなたを恐いと思ってしまった。あの日見た光景をあの日見たあなたの目を忘れることができない。」
遠い日の思い出とつい最近の恐怖がせめぎ合う。
「ごめんなさい、こんなこと言ったら優しいあなたが傷つくってわかってるのに…。ごめんなさい…。」
そこまで言うとコウヤはうつむいたまま喋らなくなった。
オベロのティーがコウヤにゆっくりと顔を近づけ側面に擦り付く。
それはコウヤが見せてくれた怪我をした耳がある方だった。
「俺のティーはあなたのように強くなれないかもしれない。でもあなたとは違う強さを身につけたい。」
嗚咽混じりに絞り出された言葉だった。
「だからもう少し待っててくれませんか?」
そう言いながら手に持った花を差し出す。
「…また、あなたと飛びたい。…今度は俺のティーも一緒に。」
差し出された花を見ている。
しかし受け取るそぶりがない。
何か動きがあるかと部屋の中からもその様子を注視していると、不意に目線がこちらを向いた。




