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アニミ物語  作者: カボバ
入学編
31/276

30





門のところまで行き学生証をかざしてトラムを呼ぶ。


2分も待たない間に姉さんと乗ったものと同じ車体がやってきた。


今日は1人で扉を開け中に乗り込み扉を閉める。


思い出しながら操作盤に触れ12号館に行くように指示を出す。



景色も走るより速いスピードで過ぎていくためとても楽しむ気にならない。


そう思うのはいくらか緊張しているということもあるのかもしれない。


何度か乗り降りした停留所に停まるものとばかり思っていたが、建物の側面妻側に停まった。


降りて見てみるとここにも家の門と同じ高さくらいの石柱がある。



(これがあるところならどこでも呼べるってことかな。)


多分間違えない推測を立てたところで正面入り口に向かう。



(教室は1223号室だったはず。)


正面入り口から入りそのまま正面の階段を上がって2階に行く。


2階に上がるとガヤガヤと声が聞こえるが、それはさらに上の階からだということに気がついた。


この階はとても静かだった。



8時57分。



階段を登った先、廊下中央上部にかかる時計を確認するとあまりにも時間ギリギリ過ぎたかと小走りになる。


1223と札のかかった扉の前で一度立ち止まり、小さく深呼吸してから扉を開け中に入る。




「・・・・。」


中にいた誰もがこちらを向くが、誰かが声を上げるなどということはなかった。


人数は5人。


3ブロックに分かれて4段の階段状に配置された机は奥のブロックに2人


中央のブロックに2人1番手前のブロックの1番前の席に1人座っていた。


入ってきてすぐに閉じたはずの扉がまた開く気配がした。


ここで立ち止まっていてもと思い、1番手前のブロックすでに座っている人からさらに一つ開けて3段目の席に向かう。



長い机は後ろの机につけられた座面に最大で4人座ることができるようだ。


一つ開けて席につき、空いた場所に鞄を置く。



「おはようございます。」


ノオギが教室全体を見回しながら挨拶した。



「月曜1時間目のクラスミーティングを始めます。」


そう言いながらノオギは教卓に置かれたものにメモをとっているようだった。




「その前に、もう知っていると思いますが本日からSクラスに新しくメンバーが増えます。各自自己紹介などは空いた時間で済ませるようにお願いします。」


そうノオギが言うと何人かがこちらを向いた。



「一つ言っておきますが、彼女は確定Sです。」


全員ではなかったが何人かの生徒が息を飲みそのうちの誰かはわからなかったがえっと小さく声が漏れた。



「それではここから今週の授業の連絡事項です。」


ノオギがそういい手をあげると、それぞれに3枚の紙が飛んできた。


受け取るわけでもなくしていると勝手に目の前の机の上に並んで落ち着いた。




「ユノカ先生から明日の3、4時間目は運動着で多目的室Bに集合とのことだったので忘れないように。」


いくつかの授業について説明が始まった。



もうすでに書いてあることもあれば、そうでないことも含まれていたのでところどころでメモを取る。




「最後に、ミリア。課題の説明をするからこのまま私と一緒に教職員室へ。」


そう言ってノオギが自分の荷物をまとめ部屋を出ていこうとしたので慌てて机の上に出していたものと鞄を影の中に入れて小走りでノオギを追いかけて部屋を出る。



少し前を歩くノオギを追いかけて一回に降り教職員室と書かれた部屋に入った。


中は広くいくつもの机が並んでいるが、あいにく今ここの部屋にいるのは3人だけでちらりとこちらを見てすぐにまた目線を外した。




「とりあえず、課題について説明する。」


「はい。」


ノオギが自分の席まで行きその上に置かれていた紙袋の中身を出しながら説明を始めた。



「これが短期課題。ここに来るまでにやってもらっていた基礎学力の課題と同じようなもので金曜日に提出してもらう課題だ。金曜日の2時間目に回収して大きな問題がなければ、次の課題の範囲をその日中に寮のポストに届ける。」


20ページにも満たない小冊子だった。



「次に中期課題。これは毎週火曜日2時間目と木曜日2時間目にある歴史の授業で習ったことを基にレポートを書いてもらう。今週からちょうどテーマが切り替わる。なので最初の提出日は10月1日。詳しいことは明日の授業で説明があると思う。」


そう言いながらレポート用紙の束を渡された。


4回の授業を受けてそれに対してレポートを提出するということだろう。




「最後が長期課題。簡単に言えばティーについて研究してもらう。自身のティーについてレポートと発表を交互に期間をあけて行なってもらう。レポートは紙媒体ならどんな表現方法でも問わないし、発表はティーの技術を試験官の前でパフォーマンスしてくれればいい。」


なかなか難しいことを言う。

口には絶対に出さないが心の中でため息をついた。



「長期課題のレポートについてミリアは先週書いてもらったもので代用可だが、もし書き足したいこと訂正したいことがあれば最終締め切りは今月末なのでいつでも言ってくれ。発表の方は1月を予定している。」



一先ずは安心していいと言うことだろう。

でも課題については改めて姉さんに相談しようと決めた。



「もうアズハから聞いているかもしれないが、Sクラスは受ける授業の数がとても少ない。」


まっすぐとこちらを見てノオギが話し始める。


確かに届いた資料の中にはSクラスの授業時間割も入っていた。


月曜日1時間目のクラスミーティング。火曜日2時間目と木曜日2時間目の歴史。金曜日2時間目の語学。


それから火曜日と金曜日午後の実技。


それだけしか書かれておらず、そのほかの枠は空欄だった。



「私としては空き時間を有効に使って欲しい。ここでしか学べないことを学び、尋ね、失敗し、確実な成功を掴んで欲しい。私個人から伝える事はそれだけだ。」


「なに?哲学の話?」



そう言いながらノオギの後ろから別の人がやってきた。


長い髪を高い位置で結び纏めた背の高い女性だった。




「そんなつもりはありませんよ、ユノカ先生。」


「目の前の子の顔を見て見なさい。ポカンとしてるわよ。」


どちらかといえば今突然やってきた先生の方がインパクト大きかったが、それは言わない方がいいだろう。



「初めまして、ミリアさん。私はユノカ。Sクラスでは実技実習の授業を担当します。」


「よろしくお願いします。」


明るい声に釣られて少し大きな声で返事をする。




「明日の実技、楽しみにしてるわね。」


そう言って鼻歌でも歌っているような陽気な雰囲気を纏って教職員室から出ていった。



「嵐みたいな先生ですね。」


「アレで驚いてたらほかの先生方はヤバいぞ。」



ノオギの口調が崩れている時は毎回心労がかかっている時なのだろうと感じた。




「さて、私は次の授業準備に行かなければならない。クラスのことや教室については先ほどの部屋に戻ればほかのクラスメイトたちが教えてくれるはずだ。」


ノオギは時計を確認し次の授業に足早に向かっていった。





1223号室の前まで戻ってきて今日2度目の深呼吸。



扉を開けると一瞬視界が影に覆われた。




 

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