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「まぁ、そんなに広くない部屋だけど、一人暮らしには十分よね。」
奥にあるベッドに勉強机。
そして姉さんの背丈よりも高い両開きのクローゼットが1つとその隣に少し高めのキャビネットが並んでいる。
それから高さの無い椅子が一つ、違和感はあるが部屋の隅にここにいて当たり前と言うようなフリをして置いてある。
「入口すぐ隣にある扉がトイレでその隣が洗面脱衣所とお風呂よ。」
入ってすぐ隣に一つ扉。
その隣にも行く分か空けてまた扉があった。
「あなたほとんど身一つだけど、ちゃんとここに着替えとか用意してあるみたいね。」
洗面所の扉を開けながら確認する。
「着替えはこっちのバスケットで寝巻きはベッドの上、脱いだものは空の方のバスケットに入れてね。質問はある?」
「大丈夫です。」
「じゃあ、この後は夕食だけどまだ少し時間があるわね。」
少しおしゃべりでもしましょうかと言ってベッドに腰掛けた。
「何か聞きたいことある?授業のこととか生活のこととか。」
少し考えた。
「それじゃあ、1つ。」
「何?」
「姉さんの家族も特殊なティーを持ってる人たちなんですか?」
姉さんがいなくなった頃、姉さんの両親も一緒に街からいなくなった。
「そうよ。よくわかったわね。」
その理由は1つ。こっちに来る権利があるということ。
「私の場合は母さんがバクで父さんがサラマンダー。みんなが思い描く夢のようなお菓子を母さんが考えて、それを作る能力を持った父さん。そんな2人が出会って生まれたお菓子屋さん。」
季節ごとに様々なお菓子を作り、絵本の中からそのまま飛び出してきたような店内で販売していた街1番のお菓子屋さん。
「だから、姉さんと一緒にこっちに?」
「そうよ。元々から生まれた子供がこちら側だったら自分たちもこっちに戻ってくるって決めてたらしいの。」
「ということは、今はこっちで?」
「すっごく近くで働いてるわよ。来るときに別の学園の案内がなかった?」
「姉妹校でしたっけ?」
最近のようで遠い昔に感じる馬車の入り口から見た大きな建物を思い出す。
「そうグランセス学園ね。あの学園からもう少しこちら側。具体的にはここから3日位でつける街で今はお菓子屋さんをやってるわ。学園行事とかで外部のお店が出店する時も毎回出店してるから。近いうちに会いに行きましょうね。」
正直なところ姉さんの両親、お菓子屋さんのおじさんおばさんの顔はもう薄ぼんやりとしか思い出せないが今後の楽しみが一つできた。
「私の話はこれくらいにして、これからのことを少し話しておくわね。」
そう言って姉さんは立ち上がり壁にかかっていたカレンダーをめくって日にちを確認した。
「明日詳しく説明があると思うんだけど。ミリアは来年の6月30日までプレパレートリー生よ。プレパレートリーの卒業条件は毎月の課題提出と6月1日にあるペーパーテストで合格点を取ること。それから、クラブの加入。」
「クラブ?」
ここにきてまた聞きなれない単語が出てきた。
「明日もう一度説明を聞くことになると思うけど、クラブっていうのはティーの力をより活用するための学生グループのことよ。」
ポンと軽い音と共にバクが転がり出てくる。
「能力が近しい人たちの集まりだったり長所短所を補えるような能力の集まりだったり。クラブは全部で10。」
ポポポポと音を出しながら両掌に乗る程度の大きさの煙を10個出す。
「代表的なのは花園に世界樹。」
煙の二つが花と葉っぱの形になった。
「狩りを生業にするハンターに空を駆ける飛行士、地中を支配するモグラに大海を讃える海底神殿。」
矢、羽、モグラに三又の銛。
「ちょっと特殊なところで、54人の支配者トランプと個性の色を塗り潰さないカラー。それから自由を愛するティーパーティー。」
トランプの絵柄と絵筆、それからソーサー付きのティーカップ。
「あとの一つはもっともっと特殊なところだから今は知らなくていいわ。必要になったら教えるわね。」
姉さんの言葉にポンッと一つ煙が消える。
「この9つの内カラーを除く8つのクラブは招待制。今日の実技試験は何をした?」
「えっと、迷路で宝探しでした。」
「いいわね。私の時は霊獣と鬼ごっこだったわよ。」
またしても聞きなれない単語が聞こえた気がしたが、とりあえず今は保留しておこう。
「その実技試験ね、実はクラブの代表たちと先生たちが見てたの。それで、能力を実際に見てみて自分のクラブに欲しいって思った子には招待状を送って勧誘するの。」
なるほど、あの試験にはそういった面もあったのかと納得する。
「招待状は今日中に各クラブが渡すかどうかを決めて明日先生から直接わたされるわ。クラブはいくつ入っても大丈夫で、基本的には招待状を受け取った時点で加入したことになるわよ。」
「姉さんはどこにはいってるの?」
「私はメインでティーパーティー。ほとんど名前だけの花園と飛行士に入ってるわ。」
花と羽とティーカップだけを残して煙が霧散する。
「学園に来た最初の頃は煙に乗って飛ぶくらいしかできなかったから飛行士から招待状が来たのね。花園は絶対女の子に間違われて勧誘された気がするのよね…。」
それはあり得そうだ。
「花園の男女比は女子15人に対して男子3人よ、私みたいに輪に入れるタイプか相当能力の相性がいいか…。人にも寄るけど男子にとって地獄よ…。」
きっと何かあったんだろうなぁとは思ったが、語る姉さんの顔を見てその質問は心の奥底にそっと沈めておこうと誓った。
「あとはティーパーティーね。ここは別に能力に制限もないクラブでね、勧誘理由はリーダーの直感よ。」
なんとも曖昧な選定基準だ。
「まぁ、どこからもお誘いがなくてもカラーには申請すれば無条件に入れるから大丈夫よ。」
だから実質、必要なのは勉学ということになる。
「さて、そろそろ夕飯の時間ね。ついでに改めてみんなを紹介するわ。」




