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アニミ物語  作者: カボバ
冬祭り編
100/276

28





視線が背後の方に向く。玄関先があの惨状では余計な出入りはしない方がいいだろう。



(2階から入ってもらう…?それもどうなんだろう…?)




「場所を変えるならバラ殿を使ってください。」


その場に凛とした声が入ってきた。



「その子は私のクラブの子ですので遠慮は要りません。それにいつまでも恐い思いをした場所に居させるのもよろしくないかと。」


声のする方を見るとバラ姫様が居た。




「あなたもそれでいいですか?」


警備隊の人が一応確認してくれるが、こちらに選択肢はない。



うなずけばすぐに移動することになった。家には彼女と警備隊の人を何人か残してバラ殿に向かう。






人は変わっても聞かれることにさほど変化はない。


何があったか、心当たりはないか。


加害者と面識はないか、被害は今把握しているだけで間違えないか。


もはや慣れてしまったまである問答をする。




一通りの話が終わり警備隊の人は先に部屋を出た。


1人になったところで椅子に深く座り直して息を吐く。




「ミリア、バラ姫様がお茶と軽食を用意を用意してくれたからいただきましょう?」


入れ替わりで入ってきた姉さんに移動を促されるが、どうにも動く気にならない。



「姉さん、ごめん…。今は何もいらないから、少しだけ休ませて。」


姉さんの腕に手を置き影の中に入ろうとする。



「わかったわ。昼過ぎに声をかけるわね。」


「ありがとう。」


確認が取れたところで影の中に入ると、精神的に安心したのか眠気が襲ってきた。


自分の影の中から上着やブランケット、それにクッションなどとにかく手当たり次第取り出して寝床というより巣のようなものを作る。




その中心に寝転がると意識がまどろみ始めた。


姉さんが誰かと話している声がぼんやりと聞こえてきたが、はっきりと聞き取る前に意識は落ちていく。







寝ているはずなのにうっすらと意識が覚醒する。


頭もほとんど働かないし、目も開けられない。


なぜ、こんな中途半端な目の覚め方をしたのだろうと考えていた時、痛くなるほどの刺激を鼻に感じた。



甘いというには強すぎる。


手当たり次第に香りのいい花を煮詰めて蓋をした鍋を目の前で開けられてもこれほどにはならないだろう。



キュイーー


いつの間についてきていたのだろうか。


寝ている頭の近くでモゾモゾと何かが動いたと思ったら、姉さんのティーが不満を訴えるような声を上げながら出てきた。




手の届く範囲で広げていた上着やブランケットをかき集めて被っていく。


完全には遮断できないが少しはマシになったように感じる。


姉さんのティーも抗議をやめて今度は顔の近くまで来たかと思うと、その場に座りスウスウと小さな呼吸音が聞こえてきた。




きっと眠ってしまったのだろうと思っていると再び眠気が意識を飲み込んでいく。



(姉さんが何か言ってるけど、はっきり聞こえないや…。)


その声は自分には向けられたことのない、全くと言っていいほど関心の無い声だと感じた。






「ミリア、起きてる?出てこれる?」


今度ははっきりと意識が覚醒した。


出していたものを少しかき分けて姉さんのティーを拾い上げてから収納し、外へ出る。



「よく眠れた?」


そこは久しぶりにきた姉さんの寮の談話室だった。



「はい、ありがとうございます。」


姉さんにティーを返しながら言う。



「お腹は空いてない?」


「今のところ大丈夫です。」


まだ意識がそこまで追い付かないのかそれとも影の中にいた影響か。




「それじゃあ、このあとどうする?」


「うーん…。」


少し考える。



「とりあえず家に帰ります。彼女が心配してると思うので。」


「大丈夫?」


その大丈夫はどれを指しているのか。



「できれば、家まで着いてきてもらってもいいですか?」


「もちろんよ。と言うより本音はしばらく帰らないほうがいいんじゃないかと思ってるのよ。」


「そうは言っても…。」



「事情を話せば一時的に他の寮、なんならここの部屋に一時的に移ることだってできるはずよ。」


「それはできれば避けたいですね。」


今回は緊急事態だ。


願い出ればすぐに受理されてできる限りのことはしてくれるだろう。




しかしそのために巻き込まれる人、不自由を強いられる人が出てくるはずだ。



「幸いなことにまだ直接何かされたわけじゃありません。たぶんしばらくは私がいる場所に警備隊の人たちが付くことになるなら、できる限り1人の方がいいと思います。」


事情聴取の時にそうなるだろうと言われていたことを伝える。




「たぶん今回もやった相手は何も知らないって言ってるんでしょ?」


姉さんにそう聞くとウッと息を飲み込んだ。どうやら当たっているらしい。




「そうよ。大怪我した状態でなぜ自分がそこにいるのかも、それを説明されても何も理解できていない様子だったって聞いたわ。」


「それならなおのこと帰ります。」


「どうして?」



「私が何があっても何くわぬ顔で居たら、腹が立つでしょ?怪我もせず泣かず、無駄に騒がず焦らず。本命を捕まえるまで、やりきってやりますよ。」


立ち上がり、姉さんの手を引く。



「でも、足が震えたらいけないのでもう少しだけ一緒にいてください。」


「ミリアの予想では、あと何日頑張る予定なの?」


姉さんは真剣な声で聞いてきた。




「今日と明日はきっと何もないでしょうね。何かあるなら明後日以降、痺れを切らして強硬手段に出るのは水曜日か木曜日になると思います。」


ティーの力をそうポンポン、それも前例がないほどの規模で使えるはずがない。


力の代償は確実に蝕んでいるはずであり、本で読んだ知識から想像しかできないが数日という短期間で完全回復はできないだろう。




少なくとも何回も繰り返し行っている今の状況ですぐに次弾を打てるほどティーは便利ではない。


そのインターバルがあると考えて、まず今日は何もないだろう。




問題は明日だが、明日も予想では何も起こらない。




「私の周りに人がいっぱいいる状態でわざわざ仕掛けてくるほどの人だと私が楽だったんですけどね…。」





 

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