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第4話 気が向いたら

「穂積だ」


 バスケも春季大会が近いと聞いた気がするけど、護身術教室に興味があるんだろうか。


 私の視線に、穂積も気付いたらしい。


 人の波をかき分けて、私たちの所にたどり着いた。


 歩く流れを妨げそうだったので、玄関近くのホールに逃げた。


「美術部も、終わったのか」


 うん、とだけ答える。


「間に合いそうなのか」


 うーん、とだけ答える。


 断言できないのが悲しい。


「穂積くんこそ、バスケの調子はどうなの」


 みのりが助け船を出してくれた。


「今日は、部活を休んで護身術教室ってのに出てみた」


 穂積が言う。


「学期が始まったらすぐ大会だっておばさん言ってたけど、大丈夫なの?」


 私の言葉に、穂積は頭をかく。


「まぁ、大丈夫だと思う。それに、レギュラーのみんなも護身術教室に興味があるやつが多くて、今日は練習メニューがビギナー向けになったから」


 穂積が、格闘技に興味があったなんて知らなかったな。


 男の子って、やっぱりそういうものに憧れるものなんだろうか。


「そっか」


 言いながら、私は玄関の人混みを見る。


 まだ少し、かかりそうな感じだった。


「おっ、そこにいるのは東西コンビじゃないか」


 南さんの声だった。


 タオルで汗をぬぐいながら、私たちの方に歩いてきた。


 その姿を、人混みの後ろの女の子達がちらちら見ている。


「西くんは、とんでもない運動神経の持ち主だね」


 南さんの言葉に、穂積はウス、と小さく言って頭を掻く。


「何かあったんですか」


 みのりが聞くと、南さんが穂積の肩をバシバシ叩きながら言葉を紡ぐ。


「打撃の形もいくつか見せたんだけど、西くんは見ただけでほぼ完璧にやっちゃってね。

 普通はあんな風に出来ないもんなんだけど、類い希な才能だよ」


 困った顔をしている穂積を見て、私はにやにやしてしまう。


 容姿端麗、頭脳明晰、加えて運動神経抜群のこの幼馴染みは、こうやって褒められるのがいつまで経っても苦手らしい。


 私の視線に気付いて、穂積は眉間に皺を寄せる。


「それにしても東さんは来ていなかったね。

 護身術にはあまり興味がなかったかい?」


 そういうわけじゃないんですけど、と前置きをして、私は言う。


「美術部の展示会が近くて、ちょっと追い込みが必要でして」


「なるほど。曲がり角でぶつかった縁だし、気が向いたら来てくれると嬉しいな」


 爽やかな笑顔に白い歯が光る。


 こういうのが好きな女子には、たまらないだろうな。


 隣から、みのりのにやにやした視線を感じた。


「気が向いたら、お邪魔しますね。

 さ、そろそろ行こ。それじゃ、失礼しまーす」


 私達3人は、玄関を出た。


 みのりとは家の方向が違うから、すぐに別れ、自然、穂積と二人になる。


「護身術、出なくてよかったのか」


 不意に穂積が言う。


「石を投げたら誰かさんが助けに来てくれるみたいだから、いいかなーって」


 私が笑うと、穂積も笑った。


 そんな一日があって、また一日が経って、さらに一日が経った。


 どうにかこうにか完成にこぎつけた私は、余裕の表情を浮かべるみのりをはじめ、たくさんの美術部員と講堂に来ている。


 顧問の中標津先生から展示における注意点が示され、私たちは手分けして作品を飾り始めた。


 展示は、自分の作品を規定の場所に置けばそれで終了、というわけにはいかない。


 案内用の看板を立て、黒板をデコレーションし、案内用のパンフレットを並べ、アンケート用紙と回収用の箱を設置する。


 全員の作業が終わったのは、部活の終了時刻を20分以上オーバーした頃だった。


「これで作業は完了ですね。1週間の盛況を祈りましょう」


 お疲れ様でした-、と号令がかかり、私は充実感を噛みしめて帰路についた。


 金曜から始まって、次の金曜までが展示期間だ。


 中標津先生の祈りが空に届いたのか、私たちの作品の出来が評価されたのか、春の展覧会、通称「春展」は、その土日が一般客で賑わったのはもちろん、平日にもたくさんの生徒が足を運んでくれた。


 私たち美術部員は、アンケート用紙から自分の作品に対するコメントを見つけようと毎日箱に群がった。


 箱が、美術部員達による不幸な事故によって二代目になったりもしたが、私たちにはそれすらも楽しかった。


「小麦、ちょっと自慢していい?」


 ある日、みのりはそう言うと、私に一枚の紙を見せてきた。


 そこには、みのりの水彩画に対しての絶賛の声が長々と書かれている。


 記名欄を見ると、どこかで聞いたことがあるような名前だった。


「これって……?」


「プロの画家さん。グドコーの卒業生なの」


 にやにや笑うみのりの鼻をつまみながら、うらやましくなんかないと強がってみせた。


 そして、いよいよ最終日の朝。


 私達は、これまでと同じように講堂前に集まり、会場のチェックのために入った。


「えっ……」


 誰とも無く、驚きの声をあげる。


 一瞬では、その光景がなんなのか、飲み込めなかった。


 私達が愛着を込めて創り上げた愛しい作品達は、床に落ちたり、傾いたり、裏返しにされたりしていた。


 思わず自分の作品に駆け寄る。


 私がひと月で育て上げた石の花。


 花は……


 机の上で、石本来の色をむき出しにして砕けていた。


作者の成井です。


今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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