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第22話 美術館なんて

 夏の暑さが本格化してきて、私たちの憩いの場所であるミルフレも賑わうようになってきた。


 今日は私とみのり、そして灯里の三人で、放課後のひと時を満喫しにきた。


「バスケ部が休みなんて、珍しいね」


 私がソフトクリームを食べながら言う。


「そうでもないよ。最近は、ジュニア世代の練習量が多すぎるってよく話題になるから、平日も休日も一日は休みだもん。だから、毎週水曜はオフデーです」


 灯里はおにぎりのラップを開けるきっかけの場所を探しながら言った。


「でも、穂積って毎日体育館に行ってるような……」


「ああ、彼はね。自主的にボール磨きとか、動画チェックとかしてる」


 指先でラップの入り口を見つけ、灯里は五目色のおにぎりにかじりつく。


「それにしても、さすが小麦だね」


 みのりの言葉に、私は「何が?」と聞き返した。


「普通、他の部がやってるかどうかなんて、いちいち気にしてないよ。

 穂積くんのこととなると、やっぱりセンサーが動いてるんだなぁ」


 にやにやする親友を睨んで、私は口をとがらせるが、否定はしないでおいた。


「西くんは、ほんと真面目で熱心だし、私から見てもすごいと思うよ。

 全国クラスの選手と比べても、遜色ないんじゃないかな」


 だってさ、と言うみのりを無視して、私は灯里の方を見る。


「そういえばさ、灯里、穂積になんか言った?」


 口をもぐもぐさせながら頷く灯里の言葉を、私とみのりは待つ。


 ごくんと飲みこんでから、灯里が口を開く。


「まだ付き合ってないの? って言った」


 私の、ソフトクリームを迎えようと開いた口がそのまま止まる。


「わお、ストレート。それで、穂積くんは、なんて?」


 私の手も口も止まってしまった。


「いや、って言ってた。だから、大事にした方がいいよ、って言っといた」


 ふたつめのおにぎりに手をつけながら、灯里は大きく笑う。


 私もあらためてソフトクリームを口にしながら、みのりを見る。


 あいかわらずにやにやしている親友に、私はふと浮かんだことを聞いてみることにした。


「みのりってさ、彼、いるじゃん」


 遠距離だけどね、と言いながらみのりは頷く。


「どうなって、そうなったの?」


 私の問いに、みのりは大いに驚いてみせた。


「小麦が、ついにファンタジーの恋愛から、現実の恋愛に興味を持ち始めた?」


 そういうことにしていいから、と私は答えを促す。


 私も参考にさせてもらおうかな、と灯里が身を乗り出したので、みのりは話し始めた。


「中3のときだよ。同じクラスだったんだよね。

 おとなしくて、一人で本を読んでる人って印象しかなかったんだけど、何かの委員会で一緒になって、すごく話が合ったの。そしたら、卒業式が終わってから告白されたの。ありがちすぎて恥ずかしかったんだけど、まぁ、この人だったらアリかなぁ、って」


 向こうは地元の高校に進学したから、離れちゃったけどね、とみのりは続けた。


「彼はなんて言ったの?」


 灯里が聞く。


「シンプルだったよ。付き合ってください、って」


「みのりは、なんて答えたの?」


 私が聞く。


「よろしくお願いします、って言った」


 迷ったり悩んだりしなかったの、と私が次いで質問すると、みのりは、う~んと首を傾げてから言葉を紡いだ。


「ほら、最近って、SNSで告白するとか聞くじゃん。

 だからかな、面と向かって言ってくれたのが嬉しくて。

 たぶん、それで本格的に恋しちゃったかなぁ」


 青春だねぇ、としみじみ灯里が呟く。


「食パンかじって曲がり角でぶつかっちゃいないけど、結構ステキでしょ」


 みのりが言うと、灯里はけらけら笑って私を見る。


「卒業式も幼馴染も、思いっきり王道パターンだよね。私もドラマが欲しいな~」


 私はまた仏頂面に戻って、とりあえずソフトクリームのコーンをかじった。


 かじりながら、さっきのみのりの話の光景が頭に浮かぶ。


 卒業式で、男子に呼び出されて、思いを告げられる。


 一応、穂積を想定して。


 人気のないところで、見つめ合って。


 ……駄目だ。


 あの不愛想な穂積が、そんなロマンチックな場面で告白をするヴィジョンに重ならない。


 男子の方から告白してくれたら、どんなにいいだろうと思う。


 そうしたら、私は笑って、お願いします、って言えばいいだけなのに。


 でも、穂積にそんなことを期待するのは、到底無理なことに思える。


 ということは、ただの幼馴染を卒業するには、私が一歩踏み出さなくちゃいけないってことだ。


 告白。


 好きです、と想いを告げること。


 付き合ってください、と伝えること。


 とてもじゃないが、そんなことを口にする度胸はない。


 そんな勇気、どこから湧いてくるんだ。


 みのりが告白した側だったら、もうちょっと話を聞けたのにな、と思った。


「灯里はないの、そういう話」


 みのりが言うと、灯里は苦笑いを返す。


「ありがたいことに、たくさん申し込まれるんだけどね」


 自分が好きになっていないので、お付き合いを、とは考えられないそうだ。


「あ……」


 ミルフレのおばちゃんが、ふいに声を発した。


 私達三人が、思わずそちらを向く。


「申し込みって言葉で思い出した。こないだ商会の懸賞に申し込んだら、こんなの当たっちゃってさ」


 そう言いながら、おばちゃんが私達に差し出したのは美術館のチケットだった。


 去年の暮れに出来た新しい美術館で、近代的な作品が多くて素晴らしいと、中標津先生が絶賛していた記憶がある。


「私はこういうのは、とんと疎くてね。誰かにあげようと思って、そのまま忘れてたよ。

 たしかあんた達、美術部だっただろ。興味があったら、もらってくれないかい」


 みのりが目を輝かせて、両手でそれを受け取った。


「いいんですか」


 常連さんだから、特別サービスだ、とおばちゃんが笑う。


 みのりの手には、チケットが4枚握られている。


「4枚か……」


 そう言いながら、みのりが私に一枚、そして灯里に一枚渡す。


 灯里は、それを受け取ってから、私に渡した。


「え?」


「一人で行くのは寂しいだろうから、誰かと行くのをおすすめするよ」


 灯里がきれいにウインクをする。


「いや、だから、みんなで行けばいいんじゃないの?」


 そう言って、私はみのりを見る。


「なるほど。今日の話の展開的に、私は彼とのデートに使うべきよね。

 小麦も誰かと行ったらいいよ」


 みのりがにやっと笑う。


「でも、美術館なんて、たぶん穂積は」


 私は言ってからあわてて口を抑えたが、もちろん後の祭りだった。


「おやおやぁ。誰も西くんと行けとは言っていませんよぉ?」


 灯里が私の頬をつつく。


「すぐに頭に浮かんじゃうくらいになってきたかぁ、乙女チックですなぁ」


 みのりが私の頭を撫でる。


 されるがままになった私は、とりあえず、少しだけ残っていたコーンを口に放りこんだ。


作者の成井です。


今回のエピソードをお読み頂き、ありがとうございました。

「面白い話だった」「続きも読んでみよう」と思って頂けたなら、

下の☆☆☆☆☆欄で評価していただけると幸いです。


では、また。

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