第10話 戻りますか
穂積が私達に気付いて、手を振ってしまった。
そこに居た数人の生徒が、私達を一瞥する。
本堂さんの友達もその中にいるのだから、なんとも居心地が悪い。
かと言って無視するわけにもいかず、どうしようかと思っている内にみのりが手を振って応える。
まあ、これで無視したことにはならないから、いいか。
私たちと穂積たちの間に、腕章をつけた男子生徒が割って入った。
腕章には、求道高校新聞部と書かれている。
「噂の転入生は、あなたですね。お名前、よろしいですか」
バインダーとペンを構えて、記者が言う。
「北 灯里です。漢字は、東西南北の北に、ともしびのさと、です」
微笑みながら、モデルは言葉を紡ぐ。
「求道高校に来たからにはお持ちであろう、あなたの夢を聞かせて下さい」
周りの雰囲気が、明らかに変わった。
どんな夢を抱いているかは、いわば私達グドコー生のアイデンティティだからだ。
その内容は、そのままその人となりを示すことになる。
「正しい指導者になるためです」
モデルの言葉に、周りはお~、と感嘆の声を漏らす。
「指導者、というのは、見ての通りバスケの、ということでよろしいですか」
「そうかも知れませんし、もっと広がるかもしれません。
まだ、模索している段階です」
ふむふむ言いながら、記者は素早くペンを走らせる。
「ちなみに、横にいる西くんとは、面識が?」
穂積とモデルが目を合わせる。
「いえ、初対面です。でも、こんなに上手なプレーヤーは、あまり見たことがないですね」
穂積が目を伏せ、頭を掻く。
照れたときの癖だった。
「ということですが、エースの西くんから見て、北選手の技術はどうでしたか」
「自分はエースではないですし、人を評価できるほどの選手でもないです。
ただ、男子と一緒にゲームをやって、普通に守るし、普通に点をとってました」
周りがまた感嘆の声を出す。
「グドコーのバスケ部に新たな風、ニューヒロインですね。
ちょっと失礼」
そう言い、記者は二人の距離を肩が触れるくらいに押して近付けたかと思うと、首から提げていたカメラでフラッシュをたいた。
「練習中にお邪魔しました、今週のグドコー新聞をお楽しみに!」
記者は踵を返して校舎に走っていった。
穂積とモデルは休憩終了のブザーでコートに戻った。
取り巻きの女の子たちは、そのままだ。
「戻りますか」
みのりの言葉にハッとなって、私は頷いて応えた。
美術室に戻ると中標津先生の姿がなく、部長もいなかったので、私達はそのまま自席についてスケッチブックとにらめっこを始めた。
白いページに、さっきの光景が浮かんでくる。
きれいな人だったなぁ。
穂積と並んでもそれほど差が無いように見えたということは、彼女の身長は170を越えているだろう。女子にしてはかなり大きく見えた。
顔も、十人にアンケートをとれば十人が、百人にアンケートを取れば百人が、「少なくとも美人」か「美人」に〇をつけそうな顔立ちだった。
「美男美女、って感じだったね」
みのりが呟く。
こっちを見てはいないが、私に向かって言っているのは明らかだ。
「神様ってひいきをするもんなんだね。あんな人間が実在するとは」
私が言う。
「彼女、何年生なんだろうね」
私は首を傾げる。
大人っぽい雰囲気だったから、3年生だという気がした。
「おや、ふたりとも戻ってきてたのか」
中標津先生の声がして、顔を上げる。
「ついさっきです」
みのりが答えると、先生はそうか、と言って、ため息をついた。
「そういえば、東って何組だったっけ?」
「2Bです。ちなみにみのりも一緒ですよ」
先生は、また、そうかと言って息を吐いた。
「それじゃ、お前たちのクラスじゃないな。残念」
まさか、と思って私の言葉はすぐに出た。
「転校生ですか?」
「そう、転校生だ。よく知ってるな。
急に明日からの転入で、今日は学校に顔見せに来たそうだ」
先生は、自分が生徒の学籍などの担当だから、さっきまでてんやわんやだったと笑った。
「ちなみに、彼女、何組なんですか」
「なんで女子生徒だって知ってるんだ?
まあ、それはいいか。C組だそうだよ」
C、ということは……
「穂積くんと、同じクラスだね」
みのりが私を見る。
私はスケッチブックに目を落とす。
さっきまでバスケのウェアを来て並んでおぼろげに見えていた二人だったが、制服姿に変わっていた。
作者の成井です。
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では、また。




