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World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第三章「星詠みの巫女」

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第八十一話「炎竜剣マグニス」

 深い森の中──ダニーは手に持ったリンゴに、突き出た前歯を食い込ませた。

 葉を重ねたような布地は森に溶け込み、腰の左右には短剣が一本ずつ下がっている。

 短い茶髪に葉影をちらつかせ、ゆるりと木々の間を進んでいく。

 森を抜けると、深い谷が口を開けた──中央には、細い岩道が伸びている。

 俺は谷底を見下ろした。

 ──かなり深いな。

 ダニーは足を止め、リンゴの芯を放り投げた。

「レオルドさん、どうしますか。この先は地形が悪いッスけど」

 ダニーは探索に長けた斥候(スカウト)だ──忠告は無視できない。

 だが──この程度で止まっていては、ゴールには辿り着けないだろう。

「関係ない。進むぞ」

「かしこまりやした」

 

 びゅうっ──


 乾いた風が、岩肌の間を吹き抜けていく。

 周囲に広がったのは、森に囲まれた岩場だった。

 切り立った岩壁と深い谷が複雑に入り組み、その合間を縫うように道が続いている。

 場所によって高低差も激しく、少し先さえ岩壁に遮られて見通せない。

 ──峡谷(きょうこく)地帯か。

 ダニーが口笛を吹いた。


 ぴゅうッ♪

 

「嫌なとこッスねぇ~」

 あたりを見回していると、背後で息をつく気配がした。

 目をやると、濃紺の三つ編みが左右に揺れた──アンネ・ウィットだ。

 白と紺を基調とした法衣を纏い、胸には一冊の魔導書を持っている。

 眼鏡の奥の瞳が、入り組んだ岩場を静かに見渡した。

 挿絵(By みてみん)

「待ち伏せには持ってこい──って感じですね」

 遅れて、褐色肌のアフロ──ジョイ・ハリスが気だるそうに歩いてきた。

 黒の野外服に身を包み、人ひとり収まりそうな白いバックパックを背負っている。

「あぁ~ッ!!!!」

 ジョイは天を仰いだ。

「男くさすぎる──なんで女子がいないんだッ!」

「レオルドさんと一緒の班なんて、光栄に思った方がいいッスよ~」

 ダニーが呆れたように言うと、アンネがおずおずと手をあげた。

「あの、私……生物学的には女子、なんですけど……」

 眼鏡のそばかす顔から、ジョイは視線を下へと滑らせていく。

「委員長は──顔は、いいんだけどなァ」

「えっ、あっ、ありがとう──ございます?」

「あとは、胸があれば──くぅ──ッ」

「セ、セクハラですよっ!」

 ──緊張感のない奴らだ。

 聞き流していると、ジョイは俺の前へとスッと回り込んできた。

「つか、なんで肩パッド片方だけなん? ダッセェの~」

「肩パッドではない──肩鎧だ。利き手を空けることで、大剣の可動域を高めている。そんなこともわからんのか、変態アフロ」

「カッチーン! アフロは馬鹿にしちゃいけないって、ママに教わらなかったんですかァ~? アァ~ン!?」

「変態はいいんスね」

 ダニーは呟いた。

「あぁ~もうやる気なくしちゃったなぁ。お姉さんのパイパイとかないと、これは動けな──」

 ジョイは半開いた口のまま──

「あ、あのぉ……なんか、囲まれてませんッ?」

 ──ようやく気付いたか。

「ああ。わかっている」

 両側を切り立った崖に挟まれた、狭い岩場。

 前方の岩陰から出てきたのは──巨大な盾を構える重盾使い(ヘヴィガード)の大男。

 もうひとりは、黒髪で細目の青年──槍使い(ランサー)か。

 二人の背後には、黒衣を纏う赤い長髪の女術士(メイジ)。高い崖の上にも、弓兵(アーチャー)の男がひとり。

 まだ出てくる。横手の岩棚から二人──大剣を構えた坊主の戦士(ウォーリア)

 その後ろには、法衣を纏う茶髪の男──おそらく支援術士(エンチャンター)

 さらに後方には、魔女帽を被った紫髪の少女──長い杖を手に、すでに詠唱を始めている。

 大がかりな魔法陣を見るに──召喚士(サモナー)か。

 ──ここまで、七人。

 どこだ──近くにもう一人いるはず。

「組んでやがんのか──テッメェら、卑怯だぞッ!」

 ジョイが叫ぶと、アンネは眼鏡をくいと上げた。

「成果を分ければ合格ラインですからね。理に適ってます」

「いってる場合かよッ!」

 ダニーは前歯を下唇に引っかけ、にやりと笑った。

「塞がれちまいやしたねェ、道」

「どうすんの!? ねぇ、どうすんの!?」

 俺は背負った大剣の柄を握り、

「決まっているだろう」

 静かに引き抜いた。

「──皆殺しだ」

 

 沈黙が落ちた。


「……ッビビんな! こっちは八人だ。負けやしねぇ!」

 坊主の戦士が声を張り上げると、後方にいた支援術士(エンチャンター)の杖が掲げられた。

「バラグナよ、戦神バラグナよ──折れぬ魂を我らに。不屈を灯せ──≪勇気の息吹(ブレイブ・サージ)≫!」

 輝かしい黄光が敵陣へと広がっていく。

 強化系の範囲魔法──並の攻撃では、手こずりそうだな。

「ウォオオオッ!!!!」

 真っ先に仕掛けてきたのは、重盾使い(ヘヴィガード)の大男。

 その後ろからは戦士(ウォーリア)槍使い(ランサー)が続き、頭上では弓兵(アーチャー)の男が弓を構えている。

 即席にしては悪くないが──

「足りるのか。たったの、八人で──」

 俺は剣先をゆっくりと上げ、前へ構えた。

「お前ら、下がってろ」

 ──試し切りだ。

「〈炎竜剣マグニス〉──吠え猛れ(エンレイジ)

 挿絵(By みてみん)

 起動詠唱と共に、刀身へ魔力を流した。

 次の瞬間。


 ボウッ!!!!


 剣を包むは烈火の炎──ッ!

 龍が如く燃え猛る刃を、腰に溜め──薙いだッ!

 

 ゴォ──ッ!

 

 灼熱の斬剣──唸る炎竜の斬撃が、大気を焼いて駆けていく。

 先頭の男が、咄嗟に大盾を構えた。

「ぐあ──ッ!」

 轟音と共に盾が弾かれ、巨体が後ろへ吹き飛ぶ。

 盾の陰から戦士と槍使い、頭上からは銀矢。

 返す刃で、天降る矢ごと正面を薙ぎ払う。


 ゴウッ──!!

 

 炎熱の奔流に銀矢は呑まれ、槍使いと戦士は一斉に後退した。

 槍使いの青年は細目を見開き、坊主の戦士は息を呑んだ。

「なんだ、あの剣……!」

 神話の怪物〈紅蓮龍イグニス〉を模したという魔装具(マギアームズ)──商人の誇張だと思っていたが、性能は伊達ではないらしい。

 直後、ジョイが悲鳴を上げた。

「ギャーッ! あちっアチチチ! 髪、髪燃えてねッ!?」

 アンネが慌てて手をかざす。

「ああっ、消しますっ、消しますっ」

 淡い青光が灯った掌から、水流が弾けるように飛んでいく。

 顔まで水を浴びたジョイは、ぶはっと息を吐いた。

「レオルドこのバカッ! 火の()が飛んでんだよッ! こっちまで燃やしてどうすんだアホ!」

「下がれと言ったろう」

 その時。

 奥から、膨大な魔力が噴き上がった。

 遠くから聞こえるのは祝詞の断片。

「──ラン・ドル・ヴァ──ディ・ガエラ──」

 召喚士(サモナー)の少女が言葉を紡ぐたび、大気が揺れていた。

「岩は(むくろ)と成りて、土は肉を成す──我が声は魂の息吹、汝に命あらんことを」

 魔法陣の下──地面が隆起し、土が膨れ上がっていく。

 吹き荒れる突風。

 少女の魔女帽が弾け飛び、紫の長髪がぶわりと舞った。

 隆起した土塊(どかい)へ岩が次々と吸い寄せられ、腕、胴、頭部へと形を変えていく。

 そして現れたのは、俺たちを見下ろすほどの岩石の巨像。

「いけ──≪土人形(アースゴーレム)≫!」

 頭部の奥で、赤い双眸が鈍く光った。

 ──チッ、面倒だな。

 こうしている間にも、炎竜剣(マグニス)に凄まじい勢いでマナを吸われている。

 ──燃費が悪い。悠長にしている暇はないか。

 大地を震わせる土人形を前に、俺は剣を握りしめた。

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― 新着の感想 ―
 じょいさん たいへん じぶん や よくぼう に しょうじき ですね(濁った目)  そしてレオルドさんの炎竜剣とやらは、持久戦にあまり向いてなさそうですな。
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