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World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第三章「星詠みの巫女」

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第七十九話「死の箱庭《デッドリーガーデン》」

 試験当日、演武場にて。

 見渡す限りの草原は、いつのまにか深い森へと姿を変えていた。

 ──景色が、変わっている。

 俺は、入口に集まった生徒を見渡した。

 人数は六十名──四人一組、全十五班だ。

 みなの服装は、いつもの実習着ではない。軽装の鎧を纏う者、長い外套を羽織る者、魔術師らしいローブ姿まで──それぞれが思い思いの装備に身を包み、武器を携えている。

 俺は黒革の短いジャケットに、履きなれたパンツ、革のブーツ、腰には短剣──停天光輝(アストレイン)

 ──やっぱ、これが一番落ち着く。

 ミレイユの方を見ると──白を基調とした法衣に身を包み、藍色の髪を背に流していた。短い外套には金糸の縁取りが入り、手には細身の杖。今日はすっかり魔術師の装いだ。

 その隣にはイルゼ──黒の戦装束は、体の線がはっきりと出ている。腰には、小さな(つば)をもった黒鞘の剣。装飾らしい装飾もなく、いかにも彼女らしい格好だ。

 ノエルは──白銀の軽鎧に身を固め、長柄の十字槍を背負っている。普段のおどおどした雰囲気とは裏腹に、絵に描いたような騎士だった。

 ──さすがに本番ともなると、雰囲気が違うな。

 挿絵(By みてみん)

 生徒たちの前には、軍人めいた深緑の服を着たマツ先生がいた。赤茶の短髪はオールバックで、ゴツい顔はいつもより凛々しい。

 その横にはキミドリ先生。冒険者姿のポーニャとクラリッサも並んでいる。

 あとは──牧師のような黒の長衣を纏う、黒髪オカッパの男が立っていた。

 挿絵(By みてみん)

 パンッ!

 

 マツ先生が手を叩いた。

「ちゅうも~く! これより、野外試験のルールを説明する。試験の目標はひとつ! 演武場の中央にある白い塔──“白亜の塔”に辿り着き、頂上まで登ること!」

 マツ先生が示した先──森の中には、天まで伸びる白い巨塔が見える。

「ただし──試験に合格するには、班全体で六点以上を所持する必要がある。そして、お前たちが今つけている幻身環──それが一点だ。開始時点では各班四点。他班の幻身環を奪えば、そのまま自分たちの得点になる。どうやって奪うかは自由だ! 六点以上もっている場合は、余剰点数の分、成績を加算する! 六点に満たない場合、ゴールすることはできない。基本のルール説明は、以上だ!」

 ──つまり、ふたり倒せってことか。

 そう思ったとき、黒髪オカッパの男が歩み出た。

「設備面については、あらためて私から。魔導工学担当教師──ムーア・トラーティだ」

 痩せた頬はわずかにこけ、細い目元は神経質そうだ。年は四十代くらいだろうか。

「今さら言うまでもないが……キミたちの肉体は、“幻身体”へと変換される」

 トラーティ先生は、右腕をスッと横へ伸ばした。

 腕の後ろにいたマツ先生が、腰をかがめ──右手を頭上に振り上げた。手刀の構えだ。

「フンッ!」

 振り下ろされる剛腕──ッ!

 

 ブシュッ!


 生々しい音と同時、トラーティ先生の右腕が吹き飛んだ。

 血は出ておらず、断面から光の粒子が零れている。

「このように身体を損傷しても、本体には一切影響しない。ただし──キミたちには痛覚も再現されるため、承知しておくように。そして、致命傷を検知した場合、その時点で脱落──演武場の入口へと転送される。幻身環はその場に残るので、回収した班の得点となる。自分で取り外すことは、原則できない。最後に──演武場には、あちらに見える天文台を基点として、特殊な結界が張られている」

 学府中央にある巨大な塔は、天文台というらしい。天球儀のような三つの銀環が、今日もゆっくりと回っている。

「キミたちが装着している幻身環は、結界と同期して効果を発揮している。演武場外に出ると、幻身体が解けてしまうので注意してくれ。万一、装置に異常が発生した場合は、警報と同時に試験は中止される。心にとめておくように──質問はあるか!」

 金髪碧眼の男が手をあげた。深緑の戦装束に身を固め、左肩にだけ鎧を備えている。背には、赤い意匠を走らせた大振りの長剣を負っていた。

「はい、そこのキミ──なにかな」

「致命傷の定義を教えてください」

「良い質問だ。この試験では、胴体への深い一撃、首の切断──通常であれば死に至る負傷を、致命傷と呼ぶ。また──ダメージはデータとして蓄積され、一定値に達した場合も脱落だ。現状のダメージについては、幻身環のボタンを押せば分かる。補足として──幻身体は生身ではないため、治療はできない。他に質問があるものは?」

 ──回復縛りのゲームみたいだ。

「……いないようだな。私からは以上だ」

 トラーティ先生と入れ替わるように、マツ先生が前に出てきた。

「言い忘れていたが、道中には()()も配置している。不測の事態が起きた場合は、オレたち試験官に加え、ポーニャ先生たちが即座に介入する! 心おきなく、試験に取り組んでくれ!」

 ──点を奪い合いつつ、ゴールを目指す。シンプルなルールだ。

 反則事項が少ないということは、別班との共闘などもアリということになる。

 乱戦になることもあるだろうし、目立てば叩かれる確率も高いだろう。

 ──単純な試験ではなさそうだ。


 ザッ。

 

 前に踏み出てきたのは、キミドリ先生だ。

 授業中と同じ教師服を着ており、手には黒革の本を持っている。

「では、ここからは私が」

 細い眼鏡をくいと上げ、懐から取り出したのは短い杖。

 キミドリ先生は本を掲げ、杖を振り上げた。

 深緑のボブがふわりと舞ったとき、


 ゴゴゴ……。

 

 大地が震えた。

 そして──唸るような地響きとともに現れたのは、巨大な白い門。

 重厚な扉が、大地を削りながら開いていく。

 扉の中は、油膜のような虹色の光が揺らめいている。

「演武場にあるスタート地点は、全部で十五か所。転移門をくぐると、そのいずれかへ転送されます。試験開始はアナウンスで伝えます」

 キミドリ先生は、黒革の本を閉じた。

「では、これより──野外試験──“死の箱庭(デッドリーガーデン)”を開始します。一班から順に、門の中へと進んでください!」

 俺たちは、第三班だ。

 ふと横を見ると──ノエルは唇を結び、震えていた。

 死なないとはいえ、これから始まるのは殺し合いだ。

 ──緊張するのも、無理はないか。

 俺は、ノエルの肩へ手をやった。

「わっ」

「練習通りいこうな」

「う、うん……」

 放課後を使って、ノエルとは連携を何度も確認した。

 ノエルの腕は悪くない。むしろ、槍の技術だけならかなりのものだ。

 問題は──実戦になると、視野が狭くなること。

 ──ヤバくなったら、俺が何とかすればいい。

「次、第三班──前へ!」

 キミドリ先生の号令に、ミレイユは真っ先に踏み出した。

「よーし。気楽にいきましょ!」

「死ぬ気で働け。姫さまのためにな」

 そういってイルゼが続き、ノエルもその背を追う。

「が、頑張ります……!」

 両手で頬を叩き、俺は前を見据えた。

 ──よし。気合十分だ!

 俺たちは扉へ──光へと、足を踏み入れていった──。

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― 新着の感想 ―
 白亜の塔の頂上を目指してのサバイバル要素ありな行事に関する説明、退屈抜きで読めました。
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