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World of Fantasia(ワールド・オブ・ファンタジア)  作者: 緋色牡丹
第三章「星詠みの巫女」

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第七十八話「ノエル」

 青髪の青年は、言葉を探すように唇を震わせた。

「あ、あの……おれは──ノエル・フェルゼンです。よろしく、お願いします」

 挿絵(By みてみん)

 こちらを窺うような淡い灰色の瞳は、目が合うと逃げていく。

「フェルゼン──」

 イルゼは青年を見て、ぼそりと呟いた。

「お友達ですか」

「いや。フェルゼンは──代々王家を守っていた、騎士の家と同じ名だ。以前から思っていたが、お前は嫡子(ちゃくし)なのか」

「それは……」

 ノエルは目を伏せた。あまり気乗りする話題ではないようだ。

「それは頼もしいな。よろしく、フェルゼンさん」

「あっ……ノエルで、いいです」

「そうか。よろしく、ノエル」

 手を差し出すと──ノエルはおずおずと、俺の手を握った。

 女のような手だ──戦えるのか、この子。

 そう思ったとき、イルゼは腕を組んだ。

「先に言っておくが、私は姫さまの護衛だ。試験に興味はない──勝ちたければ、お前らでなんとかしろ」

「えー……」

 どう返そうか迷っていると、ミレイユが前に踏み出た。

「大丈夫。私もフォローするから」

「フォローって、戦えるのか」

「戦闘は微妙だけど、支援魔法なら得意よ」

 風に揺れる藍色の長髪を押さえ、ミレイユは周囲を見渡していく。

「ざっと周りを見た感じ──ひとりは支援に特化したメンバーがいるみたい。試験はサバイバル形式っていってたから──支援役を崩せば、有利になりそうね」

「なるほど……」

 要するに、ミレイユは狙われるポジションにいるということだ。

 そうなると、イルゼが横についておくのは必要なことだろう。彼女が言うとおり、勝ちにいくなら俺とノエルで前線に出る必要がある。

 ん、待てよ。

 もしかして、状況によっては──。

 遠くにいるフィオナを見ると、楽しそうに手を振ってきた。

 彼女に小さく手を振り返し、俺はこれまでの戦闘を思い返す。

 ──厄介な敵になることは間違いない。アナスタシアも同様だ。

 可能な限り、戦いは避けるべきだろう。

 考え込んでいると──ミレイユは暗紅色の実習服から、リモコン装置を取り出した。


 ピッ。

 

 平原の底から、灰白色のゴーレムたちが這い出てくる。

「とりあえず訓練しましょう。私を狙うように設定して、っと……ノエルと緋色が前衛で、私は後ろから支援、イルゼは漏れた敵を担当──そんな感じでいいかしら」

「ああ」

「訓練ゴーレム如きに、遅れを取るなよ」

 イルゼがそういうと、ノエルは銀の槍をぎゅっと握った。

「が、頑張ります」

 ──めちゃくちゃ不安そうだ。大丈夫かな。

 背後で、ミレイユが短い杖を掲げた。

「二人とも、いくわよ。風よ──風の大精霊エルゼよ。祝いたもうて春爛漫(らんまん)──≪風迅礼装(エアリアル)≫!」

 杖の先から、優しい風が吹き抜けてくる。

 春色の光が地面を撫で──どこからともなく現れた花びらが、俺とノエルの体を包んだ。

「おお……」

 溶けるように消えた花びらを見ながら、腕を回した。

 ──身体が軽い、ような気がする。

 劇的な変化はないが、悪くはないな。


 ザッ!

 

 四体のゴーレムが、こちらへ向かって走り出した。

 俺の方に二体。もう二体はノエルの方へ。

 鈍重そうな見た目に反して、それなりに動きが速い。

 ──とはいえ、思考加速(アクセル)を使うほどじゃない。

 一体目が、右腕を振りかぶった。

 踏み込んで懐へ潜り、短剣を顔の赤核へと突き立てる。


 ギンッ!

 

 すぐに刃を抜き、膝へと蹴りを叩き込んだ。

 沈んでいくゴーレム。横を抜けようとした二体目の進路へ、ステップで滑り込む。

 頭部の側面めがけ、腕を振り抜いた。

 勢いのまま弾ける前腕打ちに、地へと激突する灰白の体。

 胸の赤核を狙い、とどめの刺突──ッ!

 鈍い音とともに、ゴーレムは静かに動きを止めた。

 よし。あとは──

「はっ!」

 銀閃が薙いだ。ノエルの槍はゴーレムの拳を払い、その勢いのまま穂先が返る。

 足元を薙いだ一撃に、膝の核が砕けた。

 おお、見事な槍さばきだ。

 しかし──その横を、残った一体が駆け抜けていく。

「あっ、待って……!」

 ノエルが慌てて追った。

 ──間に合わない。

 ゴーレムは一直線に、後方のミレイユへ迫った。


 チンッ。

 

 ()()()()()()が聞こえた。

 直後。ゴーレムの胴体が真っ二つになり、駆ける勢いのまま崩れていく。

 イルゼは腰の剣に手を添えている。平静としており、黒い短髪は乱れひとつない。

 ──抜いていたのか、あの一瞬で。

「何をしている。情けない」

 見下すような灰青の瞳をみて、ノエルは肩を落とした。

 右目を縦に走る傷も相まって、普通に怖い。

「ご、ごめんなさい。思ったより速くて、その……」

「チッ。私はお前のような、ナヨナヨした男が嫌いなんだ。恥を知れ、愚図めが」

 ──相性は、最悪みたいだ。

「ま、まぁまぁ。始まったばかりだし、そう怒らず」

 軽く(たしな)めるように言うと、ミレイユがイルゼに詰め寄った。

「そうよ。仲間なんだから、仲良くしてよね!」

「それは命令ですか」

「もうっ……そうよ。命令! 仲良くすること! わかった?」

「……姫さまが、そう言うのでしたら」

 無愛想にイルゼは言った。

 はぁ、先が思いやられるな──。


 三、四限を通した訓練が終わる頃には、昼を回っていた。

 マツ先生の号令とともに、集った生徒がまばらに散っていく。

 今日の授業はこれで終わりらしい。

 ミレイユは俺の方を向いた。

「それじゃ、みんな──また明日ね」

「ああ、また」

 イルゼを後ろに引き連れ、ミレイユは去っていく。

 護衛は課業中だけなので、今日の仕事は終了だ。

 横に立っていたフィオナは、ぐったりと肩を落とした。

「うぁー……おばあちゃんのとこ行かなきゃ」

「なんで」

「だって野外試験、戦闘だよ。魔法使っていいか聞かないと」

「そういや──Cランクまで魔法禁止、だったか」

「そ。結構みんな強そうだし、ちょっとぐらい許してもらわないと……許可もらいに行く。あとでバレたら絶対怒るもん」

 笑顔で咎める金髪エルフが、容易に頭に浮かぶ──エリンさん、恐るべし。

「緋色は帰るの?」

「んー。学内をちょっと見ていこうかな」

 アナスタシアは無言で歩いていく。

 と思えば──すぐに足は止まり、顔だけこちらを向いた。

「私は本屋に行く。ついて来るな」

 再び歩きだすアナスタシアを追って、フィオナは腕を絡めていく。

「途中まで一緒に行こ~!」

「……ついて来るな」

 ふたりが去っていくと、ノエルは静かに逆方向へ歩きはじめた。

 ──今のうちに、仲良くしておくか。


 ポンッ。

 

 ノエルの背を軽く叩くと、彼はびくりと体を震わせた。

「あっ──山田さん」

「緋色でいいよ。敬語もいらない」

 緊張が解けたように、ノエルは小さく笑う。

「わかりました、緋色さん。あ、じゃなくて──わかった」

「帰るのか」

「ううん、ひとりで練習しようと思って。今日、全然だめだったから……」

「俺も一緒にいいかな」

「え、でも……迷惑かけちゃうかも」

「いいさ。仲間だろ」

「──うん。よろしく、お願いします」

 白い頬はほんのり染まり、艶のある唇は優しく上がっていた。

 

 ドキッ。

 

 って、なんでや──相手は男だぞ!

 だが、ノエルの顔と声は中性的で、パッと見たら女子にしか見えない。

 俺の体が反応するのも無理はない。無理は、ないのだ。

 誰かに心中で言い訳をしつつ、俺はノエルと歩いていく。

 野外試験は来週──祝日は休むとして、練習に使える時間は三日だけだ。

 出来るだけのことをしよう。

 何だか嬉しそうなノエルの横顔をみて、俺はそう思った。

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― 新着の感想 ―
 ノエルさん、今のところミレイユさんを狙う刺客として、密かに凶器などを向けるといった様子はなさそうですね。  生徒さん達はゴーレム相手でも、それなりに戦えるようですが、今後はどうなるでしょうか。
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