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旅の道連れは愛憎著しい敵味方

 今度はグリーンをもっと離れた確実に安全な場所まで下がらせて、一応防御の魔法アイテムを渡して万一の際は使うよう重々言い含めた。

 墓石を正面にブラッキーとやや間を置いて並んで立って、深呼吸。双方の攻撃魔法が変に干渉し合って邪魔にならないようにするためだ。角度を付けての同時発射だな。横目で互いに互いを見やって小さく顎を頷かせる。


 どちらからともなくの一、二の、三で俺の魔法陣が黒い奔流を放ち、ブラッキーの振り下ろした大剣からは白い奔流が放たれる。


「――んな!?」

「――わおっ!」


 信じられないことに、墓石目掛けた白と黒の光が途中から切磋琢磨するみたいに先を争い絡み合い、より威力を高めたツイストした奔流になった。


 うおおっ何のミラクルだよ?


 通常光と闇は相性が悪くて反発し合って互いに弾くのに一緒になったからびっくらこいたぜ。


 直後、ドドーンと轟音が響き渡り初のコラボ攻撃が炸裂。

 またもや墓石はカウンター魔法を発動させたようだが、多勢に無勢とプチッと踏み潰されたも同然に秒で消滅、破壊成功の物理衝撃がダイレクトに足裏に伝わってきた。粉塵による煙で視界も幾分悪くなる。


 ――って、まさか嘘だろ? 俺たちの攻撃威力の単純な足し算じゃなく、掛け算とか乗数な感じで増幅されてないか?


 何しろ鼓膜が破れるんじゃないかって程の物凄い轟音と地響きだった。この空間が崩れなかったのが不思議な程に。ただ、案の定天井には亀裂が生じていた。あんまり長居はしたくないな。あとできれば地上に出たら入口を封鎖しておかないと危ない。

 この分だと外部にも察知されたろう。完全破壊を確認したらさっさと立ち去るのがベストか。

 立ち込めた粉塵が薄まるまで暫し俺たちは言葉も交わさずその場に佇んで待つ。

 ようやく視界がクリアになって唖然としたよ。手応えから予想はしていたが俺とブラッキーのコラボ攻撃は地面を大きくえぐり墓石丸ごとを木っ端微塵、いやそれより細かくして実質的に消滅させていたんだから。


「やったなスカイラー! うっへぇ~予想以上の成果だな」

「あ、ああ。正直ここまで威力が強いとは思わなかった」


 俺一人じゃこうは行かなかった。きっともっと何度と魔法を打ち込んだりして解除に苦労した。


「へへっこれで納得だろ、僕と旅をする方が色々とお得だって」

「色々と? 一つだけだろうに」

「え~? それは僕と旅をすればすぐにわかるって。っつーかわからせてやるよ」

「生意気な口を……」


 んとにその自信は一体どこから出てくるんだかな。主人公特権で無尽蔵なのか?

 俺は呆れ半分感心半分を浮かべて、墓石のあった辺りを見つめた。

 帝国各地の仕掛けを一秒でも早く除けるのなら、ブラッキーに同行してもらうのも確かに悪くはない。

 ただな……。


「正直に言えブラッキー、お前は俺の命を狙っているんだろ。一時的には協力するとしても、いつかは隙を見て背後からグサッとやるつもりだろ? ぶっちゃけそういう奴とは行動を共にしたくないってのが本音だ」

「えー? あんたの命? あ~、まあ仕掛人だって正体を知った当初こそはそこを否定はできないけど、別に今は殺そうなんて少しも思ってないって」

「よく言う。ストーカー紛いのことして日々俺を見張っていたくせに」


 ブラッキーは「仕方がないだろ」と気まずげに長い溜息をついた。やはり否定はしないらしい。


「だってあんたは僕を全然相手にしてくれないから、あんたの視界に入って目立つためには、常に動向を把握してないと策を立てられない」

「は? 俺を倒すつもりなのに目立つ? 警戒されて逆効果だろ。俺自身が言うのもあれだが、暗がりで待ち伏せて暗殺する方が余程効率的じゃないのか?」

「だぁから~、だいぶ前から僕には最早あんたを害したい気持ちはないんだよ。その逆で――おほん、確かにあんたの悪行は見過ごせなくて止めると決めて動いてたから、改心前のあんたと争って不本意にも傷を負わせたりもしたけど、僕はあんたと親しくなりたい」


 ここでようやくグリーンが「まさかあの時のスカイラー様のお怪我は貴様の仕業だったのか!」と激怒した。ただ、結構遠いからいまいち迫力がない。しかもかなりの地獄耳。

 んんー? それにしてもどういう風の吹き回しだ?

 こいつは今日ここに現れるまで俺が改心したことは知らなかったよな。それなのにその前からもう俺を倒す気はないとかぬかすのか?


「僕はあんたの隣で生きていきたい。勿論黒幕なのは誰にも言うつもりはない。あんたが牢獄行きになるのは僕も望まないからな」

「……どうしてそこまで俺の肩を持つ?」

「そんなの決まってるだろ。――あんたのことが好きなんだ。あんたと笑い合って泣いたり怒ったりもして、愛して愛し合いたい」


 へ……………………?

 アイシアウ?

 俺とブラッキーが?

 ええええーーーーっ、いきなり異次元に飛躍し過ぎじゃね? このゲームは大衆向け勧善懲悪の冒険もので、ボーイズラブ括りじゃなかったはずだが? 何がどうしてこうなった?

 いや早まるな単なる言葉のあやで、共に世を正し最高の友情を築こうぜ的な少年漫画っぽいニュアンスで、ボーイズラブは俺の勘違いかもしれん。


「あのさブラッ――」

「――ちょーーーーっと待ったあああ!! スカイラー様の童貞を頂くのはこの私ですよ!」


 いつの間にか傍に来ていたグリーンが俺に横から抱き着いてくる。

 おいおいまさかお前まで……? ムッツリしたい相手って実は俺、スカイラー皇子かよ!?


「ははっ駄犬は駄犬らしく僕たちの使ったシーツでも嗅いでろよ? それくらいならスカイラーのを触らせてやるよ」

「ふ、クククク、貴様のような筋肉馬鹿で粗野な冒険者が、歩くだけでもエレガントエキスを放出するスカイラー様に触れるなど百万年早い。いいえ万死に値しますね。そもそも雑種が、身の程を弁えたらどうですか?」


 ボーイズラブ、勘違いじゃなかった。エレガントエキスて……。

 一人の男を巡って火花を散らして睨み合う二人の男。両方イケメン。

 本来のスカイラーも俺もノンケなんだが、二人はそこをわかっているんだろうか。

 まあノンケとは言っても俺ならうっかり美形に落ちる可能性はある。100%突っぱねられる自信はない。ブラッキーに接近されて無駄にドギマギしたしさ。自分のこの顔にも毎度うっとりしまくるし。すいませんねえ免疫ないもんでね。


「ハッ自信過剰もここまでくると異常ですね。スカイラー様は幼少期から共に過ごしてきた信の置けるこの私にのみ、全てを委ねることができるのです!」


 俺から離れ腰に両手を当てたどやっと不遜な態度のグリーンへとブラッキーはふへっと間の抜けたような嘲り笑いをする。


「いい年こいて妄想癖も大概にしろよ? スカイラーが共闘もできない役立たずな弱っちい男になんて身を預けるわけないじゃん。頭もキレてフィジカルでもタメを張れる僕こそお似合いだよ。頭でっかちなだけの側近さんよ?」

「言わせておけば……っ。貴様はスカイラー様の嗜好もろくに知らないで何を偉そうに。あの方を満足させられるのは私だけです」

「へーえ? あんたの貧弱なその体で満足にあんなことやこんなことやあんな体勢ができると? 骨が折れるんじゃないか?」

「んなっ! 人を馬鹿にしてっっ」

「馬鹿に? いーやあんたのための助言だよ」

「はんっ、繊細さの欠片もないゴロツキの振る舞いにスカイラー様が盛り上がるとでも?」

「んなのパワーの足りない奴の屁理屈だろ」


 ギャースギャースと口喧嘩は続くよどこまでも。

 俺は途中から聞き飽きて、と言うか内容が下ネタで聞くに堪えなくなってきて、二人の勝手にさせることにした。殴り合いに発展するならそれはそれでいい、勝手にやってくれ。死なない程度に。


 気付けば俺は手鏡を取り出していた。


 ふぅー。やっぱり世界で一番心躍る美形はスカイラーだよなあ。ブラッキーでもグリーンでもない。


 ――このスカイラー・ヘルスだ。


 内心で鏡よ鏡~なんて語りかけてみたり意味のないおふざけをしつつ、鏡面をじっと覗き込み、にやっとしてみたりニヒルに笑んでみたり或いはシニカルに微笑んでみたりもした。くぅ~っ最高かよ全てが様になる。

 眉間を寄せたりウインクしたりもしながら、右から左から顔を傾け決め顔をしたりはたまたポーズを決めて眺めて大変満足な感慨に打ち震えた。


 嗚呼、嗚呼~、美形悪役万歳~~~~っっ!


 どのくらいそうしていたかは途中からは自分でも気にしていなかったのでわからないが、ふと視線を感じて顔を上げると、喧嘩をやめていたらしい二人が俺をいつになく濃い眼差しで凝視しているじゃありませんか。

 じぃいいい~~~~って感じで。

 おう、びっくりするなあ。この至宝も霞む綺麗な顔に穴が開いたらどうしてくれる。


「何だ? もう気が済んだのか?」


 怪訝にすると二人はハッと我に返ったようだった。揃って頬が赤い。

 いつから俺の百面相を見ていたんだよ? 彼らの様子だと少なくともウインクしたところは見られたな。ふーんなるほど心臓ズギューンてとこか。まあこの顔ならそうなっても仕方がない。俺でもなる。いいよなスカイラーのウインク。

 俺にもう一度鏡のスカイラーがウインクしてきた。いよっし本日最高の出来!


「ふへへへこれが俺なんだよなあホントマジに…………って何だよおい?」


 二人して今度は地面とお友達になって震えている。


「かっっっわ!」

「もうそれ以上の誘惑は辛いですっ」

「……」


 俺は生命の危険とは別の意味でこの二人といて大丈夫なんだろうか。

 うーむここは気軽に迫られないように予防策を張っておいてもいいかもしれない。


「あのさ、言っておくと俺は俺以外には誘惑されないから安心しろ。お前たちはアウトオブ眼中だ」

「「なっ……!?」」

「わかったか? お前たちの最強の恋敵はこの俺スカイラー自身ってことだ。この俺に勝てると思うのか? ん? 勝てない戦なんぞせずにさっさと他行け他。お前たちなら俺程じゃないが選び放題だろ?」


 愕然とした面持ちの彼らへと俺はもう一つ重大な事実を教えてやる。


「因みにな、――俺は童貞じゃない」

「「え。」」


 二人は見事に凍り付いて永久凍土になった。その流れで気持ちも冷めてくれればいいが……。

 そうなんだよ、幼少期の際どかった出来事を抜きにしても、スカイラーはまあ不自由はしていない男なんだよな。両手に花なんて夜も少なくなかっただろう。そういう設定だ。この美神に侍りたい奴は沢山いる。

 今度こそ絶望のどん底に突き落とされた面持ちになる青年二人を、俺は憐れみを浮かべ見下ろした。


「ところでブラッキー・ホワイトホール」

「な、何だ僕の魅力にたった今気が付い――」

「――ありがとう。礼を言う。助かったよ」

「え?」


 意図せずも俺はついつい微笑んでいたらしい。ブラッキーは真っ赤になって息を止めた。まさかのマジのキュン死にはやめてくれよ。グリーンは「私も鍛えないと」とかブツブツ言いつつ悔しそうにする。


「何だその呆けた顔は。……さっきはちょっと俺も大人げなかったが、俺だって然るべき場ではきちんと礼くらいは言う。元々は俺が仕掛けた魔法だ、本来なら俺一人で始末を着けるのが当然のところを助力してもらったんだからな」


 今日のはまだ周辺に仕掛けたどの魔法ともリンクしていなくて運が良かった。

 個々のリンクするタイミングや条件が俺にはわからないから、とりあえず近くのものから順番に消していこうかと思っている。

 ようやくと自力で気を取り直したブラッキーは嬉しそうにしたかと思えば不意に俺を引っ張るとバックハグしてきた。グリーンが殺気立つ。


「へへへへへへっスカイラー、明日にでも結婚するか! よしそうしよう! ……そしたら三日三晩はベッドから出してやらないぞ?」


 うぐっ、しかもわざと耳元で囁いてきたよなこいつ。また歯形を付けられたらどうしようと意識したら血が巡って首が熱くなった。


「あのな、誰かと睦み合う時間を取れる程俺は暇じゃない。一刻も早く国内の破壊闇魔法を取り除かないとならないからな」

「じゃあ、全部無害化したら時間が取れるってわけだな。そうしたら僕のプロポーズを受けてくれるんだよな!」

「いや受けるなんて一言も……」


 ぎゅーっと逞しい両腕を回されてより密着された。

 何となく、不安に泣く相手を大丈夫だと安心させる抱擁みたいだと感じた。肩越しに振り返ってチラと見た眼差しが嘘みたいに真摯でとても優しい色だったから。


 ……俺の知らない秘密がスカイラーとブラッキーにはあるのかもしれない。


 あるとすれば一体何があったんだろうか。知りたいような知りたくないような……?


「おいブラッキー、離れろブラッキー。聞いているかブラッキー?」

「……本当にあんたに何があっての変化かは知らないけど、そうやってもっと僕の名前呼んでよ」

「え、なに……」

「呼んでくれないと、ムカついて嫉妬して、そこの毎日あんたに名前で呼ばれてる役立たずを殺しちゃうかも」


 ギクリとした。

 思わず反射的に体を反転させて押して離れていた。


 ゲームじゃ、グリーンを殺した犯人は帝国の裏社会に巣食っていたギャングの一味ってだけ明かされていて、個人的な特定はされていないんだ。


 結局は一味が全員捕らえられてそこに含まれていた犯人共々処刑されるからだろう。

 目撃者の証言だと、ギャングの一員であるタトゥーが体にあったそうだがフードで顔の見えない相手だったと、それだけしかわからないまま結局事件は終了したんだよな。スカイラーを深い絶望の底に落としてさ。


 だが、俺はふと、何故だかその考えが浮上してしまった。


 犯人は本当にギャングの一人だったのか?


 ギャングのせいにした別の誰かがスカイラーへの攻撃の一環としてグリーンを狙ったんだとしたら……?


 ブラッキーが俺に精神的痛手を与えるために手を下したんだとしたら……?


 いや、いや、いや、さっきも思って即否定したろ。ブラッキーは堂々たる主人公だぞ。元々のゲーム設定から変わっているとは言っても、さすがに主人公がんな卑怯な真似なんぞするかよ。少し冷静になろうか俺。


「冗談でもそういう不穏なことを言うなブラッキー。お前の正義の精神はどこに行ったよ」

「僕の正義? あはっ可笑しいの、あんたは僕をきちんと見てくれたことなんてないくせに、僕の心がわかるのかよ?」

「そ、れはそうだが……」


 ゲーム知識だけでスカイラーの記憶があるわけじゃない俺には目の前のブラッキーの真実までは知りようがない。


「それでも、少なくとも今の俺はお前と接してみて、ブラッキー・ホワイトホールって奴は悪人や悪事を放っておけない男だと思っている」

「……そっか」


 向こう的には意外な言葉だったのか、ブラッキーは戸惑ったように見えた。すぐにやんちゃキャラの代名詞みたいな犬歯が際立つ唇をにんまりさせたが。


「へへっ、グリーン・クリーン、あんた命拾いしたな!」


 揶揄いを含んだ言葉にグリーンは不愉快そうに眉間を寄せたが、ブラッキーはたぶんこの先グリーンには害をなさない気がした。


 いずれにせよ、グリーンの身辺に気を配っていく姿勢は変わらない。

 全部が解決するまでは気を抜けない。

 ブラッキーは一人気持ちを引き締めていた俺の正面で真っ直ぐに背筋を伸ばした。


「改めて言うけどさ、覚悟しといてよスカイラー。僕はあんたを絶対僕に落とす。そこんところ宜しくな!」

「は? いやそこは断ると――」

「――よ、ろ、し、く、なっ!」

「宜しくしない。しつこいと同行を認めないぞ?」

「なっ、いいのか? いいんだな!?」


 ああ、とこくりと首を振ってやればブラッキーは「ぃやったあーーーー!」と無邪気な少年のように飛び上がって拳を掲げた。そんなに嬉しいのか。


「へへへへっへへっ宜しくなスカイラー僕を存分に頼りにしてくれていいからな!」

「あ、ああ」


 ブラッキーのこの上ないテンション爆上がりに密かに若干引いていると、奴は空気を読まないのか敢えて読まないふりをしてなのかは不明だが、俺の手を勝手に握ってブンブンと上下に激しく振った。おい待て脱臼したらどうしてくれる!


「言っておくが、戦力として使えなくなったら即解散だからな? 魔法解除に成功した時以外、道中での報酬は出ないぞ? そっちの食費や宿代はそっち持ちだからな」

「当然っしょ。沢山冒険して稼いだし現状金には困ってないから安心してよ。けどもしあんたが心苦しいってんなら体で払っ――」

「――ボランティア精神に感謝する」

「ちぇー手強いな。でもまあ同行できるんだし落とすチャンスは断然増えるよな」


 はいはい。お花畑な呟きはスルーして、俺はさっきから歯をギシギシやっているもう一人へと顔を向けた。


「と、言うわけだから、グリーンも悪いが文句はあるとは思うが我慢してくれ。どうせ期間限定だ」

「私へのお気遣いありがとうございます、スカイラー様。このグリーン・クリーン、承知致しました。これより先は一層気を抜かず、スカイラー様の貞操を護るためにも命を賭して常に不埒者を見張る所存です」


 いやあのな、努力する点がおかしいって。爽やかににこにこしながらの武士な台詞がシュールだよ。

 とは言え、本音じゃ嫌いなんだろうブラッキーを渋々だが受け入れた度量は俺よりも広いよな。


「さてと、人が集まって来る前にそろそろここを出よう。派手に壊したからな。出たらとりあえずは入口も塞ぐつもりだから、ブラッキーは協力頼むな」

「わかった、早急に崩そうぜ」


 グリーンから受け取ったトップハットを丁寧に被り直し、出口へと歩き出した俺に二人も素直に続く。

 少しばかり時間を食ったから内心少し焦ったが、幸い誰も下りて来ないうちに地上に出られてホッとした。

 そしてブラッキーと二人で入口を崩してとりあえず第一ミッションは完了した。


 残りの仕掛けについては、ブラッキーが破壊してきた分を考えるとたぶんあと50個前後だろう。


 とは言え、ゲームではあくまでもゲームだったからか主人公がシナリオを進めていく関係上細かく全部回ったわけじゃなく、半分くらいはいつの間にか現地を訪れて壊したことになっていてまるっと端折られていたっけ。余りに多いとプレイヤーも飽きてゲームをやめちゃうからだろうな。


 そこを鑑みると、この世界の俺はどうなんだろう。


 全部回らないとならないのか、自動的に手間が消失してくれるのか。


 ま、どっちに転んでもいいように、一つ一つ地道に回っていけばいいかな。何であれ、魔法探知とかを使って最終的には取りこぼしの有無を確認しないとならないだろう。


「さぁて、次はどこにするかな」


 近隣の仕掛けは二つあり、どちらも距離的にはほとんど変わらない。


 帝都中心とは逆方向へと道端を歩きながら悩んで呟けば、のんきな顔付きで横を歩くブラッキーが全く別の候補を挙げてきた。


 闇魔法の個別の効果が如実に出て空気が酷く穢れている町があるんだとか。そういう場所から優先的に潰したいようだ。道理だな。さすがは救国の主人公様だ。俺よりもそこら辺の事情には通じている。


「ならそこにするか」

「え、いいのか?」

「私はスカイラー様に従いますよ」


 なら決まりだな。よし。


「グリーン、ブラッキー」


 一旦足を止めて呼べば、二人共にこっちを振り返って瞬いた。


「改めて、道中宜しくな。俺も全力で取り組むから、二人もしっかりサポート頼む」


 悪役皇子らしくない、むしろ物語の王道主人公みたいな俺の真面目な宣言に、二人はキョトンとしてから揃って頷いて目を細めた。

 俺たちの上に優しい陽光が降り注ぐ。


 余談だが、俺の言動の不自然さはやはりあったようで、二人からは本当の本当に何があったのかと聞かれたよ。だから風呂場で頭をぶつけて実は昨日までの記憶が結構曖昧な部分があるんだと苦し紛れに告げたら、二人は腑に落ちる部分があったらしく納得していた。人格変わるレベルだと思うがそこは納得しちゃうんだチョロ~、と内心思ったね。

 一部とは言え記憶喪失だなんてとグリーンは非常に嘆いていたが、生活に支障はない幸運を天に感謝していた。

 参考にも以前のスカイラーについてを聞けば、二人は口を揃えて悪役皇子らしく普段からスカイラーはかなり他者に無関心で冷淡な性格の持ち主だったと証言した。

 自分の顔を嫌っていたのは設定通り変わらなかったが、それが急にナルシストまっしぐらになったもんだから違和感を持たれるのも頷ける。

 まあ戸惑ったりやり辛い点もあるだろうが大目に見てくれと頼んで話を締めた。


 もう二人に疑問はないようだし、あとは突き進むのみ。スタートダッシュはまだ終わらせない。

 この調子でとっとと全部片付けて、天に恵んでもらったこのイケメン人生を謳歌するぞーっ!


 ……その意気込みが常に起爆剤になって潤滑油にもなって懸命に各地を駆け回ってとうとう帝国が安泰になったその時、俺の傍らには一体誰が立っているだろう。


 こいつらか、まだ見ぬ誰かか。


 ……或いは誰もいないかもしれないが。


 今は少しだけそれが怖くもあり楽しみでもある。


 何はともあれ、予期せずもある意味危険で強力な仲間を得て、俺の全力のスカイラー皇子ライフはここに本格始動だ。

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