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タッグを組むは宿敵同士

「痛っ……! 何するんだ! お前は狂犬か何かか!? そ、それともまさか食人の、カニバリズム崇拝者か!?」


 抵抗し騒ぐ俺から顔を離したブラッキーは、俺に噛み付いた唇を無邪気にもぺろりと嘗めた。幸い奴の唇に血は付いていなかったので俺の繊細な皮膚は破れなかったようだ。だがきっとしっかりと歯形が付いただろう。ヒリヒリする。


「いやー僕だってさすがに人肉は食わないけどさ、あんたのことはいつか食いたい」

「ええと?」


 何を言われているんだろうか俺は。新手のジョークか何かか? グリーンが向こうから「貴様っその臭い口を閉じろ殺してやるっ」と彼のキャラ設定にしては驚くような乱暴な言葉を飛ばしてきたが、ブラッキーはスルー。


「あんたは普段から怪我一つしないけど、僕ならこうやって歯でも、或いは素手でも爪でも傷を付けられるって知ってるんだ。勿論キスマークだってな」


 ブラッキーは嫌がらせなのかたった今噛んだばかりの俺の首の皮膚をそっと指でなぞった。

 擽ったさと微かな痛さと、それとは別の未知なる感覚に襲われて背筋がぞくりとした。


「へへっ、これで数日はあんたに僕のマークが残るな」


 ブラッキーはやけに嬉しそうだ。一体何様のつもりだよ、人を所有物みたいに。

 スカイラーは絶対防御と言える防御力を持つものの、グリーンが前例があると言ったように例外的に傷を負うことがある。


 それが、主人公ブラッキー・ホワイトホールの手による攻撃だ。


 彼は世界で唯一スカイラーに傷を負わせられる特別な力の持ち主で、そのためにスカイラーは人としての身の危険からの敵意と、それに相反する自分の顔に大きな傷の一つでも付けて美貌を壊してくれるかもしれない期待とで、誰よりもブラッキーに注意を払うようになる。対峙する度にもう執着と言ってもいい殺意を向けるんだ。

 少年漫画であるようなめちゃ強い悪役が自分を倒してくれる相手を密かにずっと望んでいた、とかそんなような感じだろうか。


 しかしながら本来のゲームじゃそのはずが、どうも執着どころか空気のように完全無視していたようだが。ブラッキーのこの様子だとスカイラーが単に感情を押し殺していたわけでもなさそうだよな。まさに害虫とか空気扱いか……こいつ主人公なのに。

 俺の転生前に一部改変されていたのかもしれない。そういや天使職員が言っていたっけ、この世界はゲーム世界のパラレルワールドと言っても過言じゃないそうだから。魔法能力とかの基本的条件は同じでも各キャラクターの個性や人生に相違があることもある、と。


 話を戻すと、先の短剣にもしもブラッキーの光魔法が掛けられていたなら俺も傷を負うが、他者の光魔法じゃ負わないんだから本当に二人は敵同士ながらも奇妙な縁で結ばれていると思う。


 自分の付けた首の歯形を満足そうに眺めていた艶めく眼差しが至近距離から俺の上を嘗めるようにズレていってまた目を合わせてくる。細められた吊り目がちな眼からダイレクトに突き刺される鮮烈な瞳の赤が残像のように俺の心に痕を残した。ごくりと、我知らず喉仏が上下した。


 こいつ、危険だ。


 無邪気な顔でじゃれてきて、その鋭い爪でこっちを血だらけにしてもお構いなしにずっと抱き着いてじゃれ続ける偏執的なトラってイメージが浮かんだ。


「あのさ、お前何なの? 噛み付くとかおかしいだろ。野生児か」

「んえ? おかしいか? あ、スカイラー的には噛むのはNGなのか?」

「いや何の話?」

「や。だってさー、少しでも獲物にこっちが有利になる変化があればそれを逃す手はないだろ? 狩りの基本だよ。スカイラー、あんたは僕の獲物だからさ、絶対に逃がさない。これはそのシルシだ。唯一僕だけが残せる、な」


 先とは違い声は元の高さに戻っていてからりと笑った顔は無邪気で闇落ちなんて少しも感じさせない輝きを放っている。

 だが……。


 ――この男は本当に誰もが愛する明るく陽気な正義の主人公ブラッキー・ホワイトホールなのか?


 生憎、俺には最早そうは見えない。

 ドクドクドクといつになく強い鼓動が胸を打つ。獲物とかどうとか、これは敵たる俺への警告の類いなんだろうに、まるで情熱的に迫られた気分だよ。それもこれもブラッキーの言葉のチョイスと、人を噛むなんて動物的で非常識な行動と、彼の綺麗な顔立ちのせいだ。


 そうなんだよ、質が悪いことにブラッキーもグリーン同様に無駄に容姿が良い。前世のメディアに出たらすぐに売れっ子間違いなしだ。


 グリーンが犬っぽいならこいつは猫っぽいし。


 まあ二人共俺スカイラー様程美形じゃあないがな。

 しかしだ、超絶美形に転生はしたが、俺の中身は結局は凡人の俺のままなんだよな。美人や美形に免疫がない。故にこいつの言動をうっかり勘違いしないようにしないとな。……まあ、ゲームじゃスカイラーもブラッキーもノンケだから大丈夫だとは思うが。俺もそうだし。

 っか~、何であれ油断大敵だな。早く離れろ大きな猫め。

 幸運にもブラッキーも戦う素振りは見せていないが、今は単に機嫌が良かっただけだろ。ほら猫って気分屋だから。さてこの壁ドンをどう切り抜けようか。こいつは俺よりも身長も肩幅もあるから、囲い込まれている気分だよ。


「スカイラー様!」


 なんて思っていたら案外状況はすぐに好転した。グリーンがようやく駆けてきたからか、ブラッキーはあっさり俺の傍から離れたんだ。


「あああああぁスカイラー様あああ~っ。この不埒なストーカー男の汚い歯形なんぞを付けられてしまわれて何と言う最悪な災難なのでしょう~っっ」

「へっ、汚いだって? それはグリーン・クリーンあんたみたいな裏表のありまくる変態男を指す言葉だよな」

「何か言いましたか野良猫風情が。あぁそこらをうろつくのなら虚勢してからにして下さいよ? オシッコを引っ掛けて回られては臭くて堪りませんしね」

「あ~あ~番犬にもならない役立たずな負け犬の遠吠えが五月蝿いなあ~」


 ピキピキと双方の顔の血管が浮き出て闘牛開始直前のような形相になっている。ンモーやめて!

 それにしても、ブラッキーはスカイラーのストーカーなの? え、そうなの? スカイラーの監視について言えば同類なんだろうグリーンからそう言われるくらいに? そこまでして殺したいわけか。ならさ、俺は全力で逃げた方が良くない? ねえ、今すぐそうした方が良いよなあああ!?

 あー、ストレスやべぇ~、猛烈に鏡で顔を見たくなってきたっっ。

 この地下墓所に来るまでも道中俺は手鏡でスカイラーのご尊顔を眺めてうっとり夢中になって癒されていたんだが、呆れたグリーンから何度も手鏡のながら歩きは駄目ですと注意されたっけ。

 とにかく超絶美よ俺の心に安定を!

 だが、手鏡の必要はなく意外にもブラッキーが先に退いた。


「ところでスカイラー、あんたこのムッツリ側近と二人はヤバいだろ」

「ムッツリですって!? スカイラー様に誤解を与える失礼なことを言わないでくれませんか、変態ストーカー風情が。これでも私はムッツリなどではなく毎日堂々と視姦し――」

「シャラーーーーップ!」


 ブラッキーが笑顔でグリーンの顔面に跳び蹴りした。

 ※良い子は真似をしてはいけません。

 グリーンはぐはっと鼻血を出して床をのたうち回って悶絶する。


「てめえみたいなクズ側近はここで消えた方が世のため人のためスカイラーのためだよな。なあスカイラーもそう思うだろ?」

「……え?」


 どういう状況? 俺だけが取り残されているようだが、ブラッキーにグリーンを害させるわけにはいかない。

 ところで、この怒りよう……まさかのグリーンを殺した犯人ブラッキー説?

 なーんて、主人公が正義のない殺人を犯すとかありえないか。ハハハ。


「喧嘩の原因は知らないが、グリーンは俺の大事な友人だ。手を出すな」

「おいおい目を覚ませってスカイラー。こいつ十匹くらい猫被ってるってのに」

「人様の側近をそれ以上悪く言うな。ムッツリだって恋愛する権利はあるだろ。……相手が受け入れるかどうかは別として。俺は友人として心からこいつの恋路を応援する。だから安心しろグリーン。結婚式の祝儀は弾むからな!」

「あ、はい……」


 良いことを言ったつもりなのにグリーンは何故だか砂の楼閣のように儚げに見えた。ブラッキーはどこかスッとしたようだが半分はまだ不満そうな目だ。


「まっいいさ、スカイラーとはまだこれからだしな。ああそうそう、理由は知らないけどあんた旅に出るんだろ? 次はどこに行くんだ?」


 ブラッキーは気持ちを切り替えたのか俺を見てにっかと笑った。いや俺はこれからなんてしたくない。

 それにしてもこいつは案外情報通だよな。他の解除場所に先回りされないように重々注意しないと。


「教えるわけないだろうに」

「ふぅん、それならこっちで勝手に調べて僕もあんたの旅に付いてくよ」

「いや断る。言っておくと俺は兄も同然なグリーンとだからこそ安心して旅ができるんだ。信頼しているんだよ」

「スカイラー様……!」

「へーーーー」


 ブラッキーは不穏な棒読みだ。急にキレて戦いたくなったらどうするかな。グリーンを盾にしてトンズラするか? よしそうしよう。

 全く、何が嬉しくて最大の天敵と珍道中なんぞせにゃならん? 心休まる時がないわっ。

 ブラッキーは俺が闇魔法使いなのを知っているだろうし、ゲームじゃスカイラーは中々しぶとくてそうもいかなかっただけで、俺が彼に転生したこの現実はきっと違う。向こうがさっさと蹴りをつけたいと思ってそうすればここで戦闘経験未熟な俺を始末できるだろうな。だからこそ俺には安全な距離を保って関わらないよう断固拒否以外の選択肢はない。

 大体にして、憎むべき黒幕へのフレンドリーな態度が解せないっての。裏があるのは誰だってわかるだろ。

 俺の心の警鐘なんぞ知らない、いや察していても歯牙にもかけなそうなブラッキーは満面の笑みになった。


「絶対付いてくからな!」

「何で。信じられないかもしれないが俺はお前とやり合うつもりはない。過去の衝突は水に流してやるから金輪際関わってくるな。あと安心しろ、お前が破壊して回っている闇魔法の仕掛けも俺自らで全て解除する予定だよ。無論そっちはそっちで破壊してくれるならこちらの手間が省けるから歓迎する。その場合報酬を支払う用意もある」

「解除? ……ふぅん、あんたの気が変わった理由は知らないけど、旅の目的はそれか。なら余計に別行動はしないぜ。どうせ壊すなら僕とあんたの力を合わせた方が効率よく時短できるだろ」


 食い下がってくるなあ。

 ブラッキーは魔法陣の刻まれた墓石へと近付いた。そりゃあ不自然にも光っているし存在に気付いているか。


「なあ、これを壊すんだろ?」

「そうだ」

「なら試しに一緒にやってみようぜ! それから判断してもいいだろ?」

「本気か?」

「ははっ冗談だと思うか?」

「思わない。だが断――」

「――るのを断る」

「お前な……」

「僕がこの冒険に出た目的は、人助けをしたいからなんだ。これまで色んな困っている人を助けてきた。ま、ここ数年の元凶のほとんどはあんたの仕業だったわけだけど。そこんとこ全然何も思わないわけじゃない。でもさ、僕にとってはこれも立派な人助けだ。しかも相手があんたってのがまたそそるしな」

「そそるって何だそそるって」

「言葉の通りだけど?」


 よくわからないが、ブラッキーはそれでも良さそうにからからと笑う。


「とーにかっく、僕とあんたで試してみようぜ、スカイラー?」


 得意気にこっちへと手を差し出してくる。握手なんてしてやる気は毛頭ないが、足が前に一歩出た。はぁ、と溜息も。


「……わかったよ」

「へへっ、やった!」


 向こうの粘り勝ちだ。強気に胸を張る陽気な主人公がそこにはいる。

 こいつをプレイしていた俺が憧れた、ブラッキー・ホワイトホールの内面的な光が垣間見えた。


 ただ、こういう何でも自分に都合良く、いや前向きに取り組む姿は本来のブラッキーって思えるんだが、さっきのこいつは何か違っていたんだよな。


 俺としても当初の予定通りここのを解除なり破壊なりできるなら協力するのも吝かじゃない。たとえこいつの思惑が別にあるとしても。

 正直、スカイラーの闇魔法は強力で、一人よりは複数いた方が当然無難だ。それが闇魔法と対極にある光魔法を使える奴なら尚更に。同じ攻撃でも闇魔法に闇魔法をぶつけるよりは光魔法をぶつける方が効果が大きいんだよ。

 同一属性と他属性とでは同じ技でも効き目に差が出る。それがこのゲーム世界の魔法ルールだ。


「あっそうだスカイラー、ここのはまだリンクもしてないし、基幹部分じゃなく補助的なやつだろ?」

「……お前も侮れない奴だな。そこまでわかっているのか」

「へへっまぁな~。伊達に各地を巡ってないって」


 各地にあるスカイラーの破壊闇魔法には実は主軸部分と補助部分があるんだ。

 大規模リンクの際に魔法の流れで重要な点になる場所の破壊闇魔法は、それらの周辺に補助的なものとして仕掛けた破壊闇魔法よりも強力で厄介なんだ。

 加えて、仕掛けた各所のうち基軸となる地域の方が闇魔法の齎す悪影響が色濃く出てくる。魔法発動の有無にかかわらず、あたかもそこに置かれた毒物が周辺を穢すのにも似て強い闇魔法は土地に作用する。

 例えば魔物出現率の大幅増加や奇病疫病の発生と蔓延、大地の枯渇、洪水、作物不良などが異常現象として挙げられる。

 スカイラーが暗躍を始めたのはここ三年四年くらいの間だから既に各地で様々な災厄が起きていた。


 ブラッキーは冒険途中に遭遇したそれらの現象を人為的なものではと怪しみ、独自に原因を突き止め除いてきた男だ。だからこそここまでの分析も可能だった。

 そして、この地下墓所の魔法がどちらに該当するのかも見抜いた。


「僕はこれまでの僕の方法で行くから、スカイラーはスカイラーで好きにしろよな」

「は、言われなくても。あ、そういうわけだからグリーンは少し離れていろ。それと顔の血を拭いておけよ?」


 戦闘要員じゃない側近は取り出したハンカチで血を拭いながら素直に下がる。律儀にも自分のだけじゃなく俺の脱げたトップハットまで拾ってくれてもいた。協力云々の話に口を挟んでこなかったのは、戦えない自分がしゃしゃり出る幕じゃないのをきちんと理解しているからだろう。悔しそうではあるが。

 補助的とは言っても捨て駒とは異なる。仕掛けは攻撃されればそれを跳ね返す仕様になっていて、たとえそれが制作者本人だとしても有効だ。どうせなら本人だけは除外するようにしておけよーっとスカイラーに物申したい。


 俺は中指に嵌めていた意匠の凝った指輪を外すと、ぶっつけ本番と選択した魔法呪文の詠唱を口に墓石ごと吹き飛ばすつもりで掌を差し向ける。


「――【闇魔法・破砕の鉄槌】」


 スカイラーは皇家の人間もほとんど知らないこの指輪の形をした魔法属性変換器を用いて、巧妙にも表向き闇じゃない属性の魔法使いを装っていた。だが、もう隠さなくていいからな。因みに表向きな属性は水だ。

 おおーっ一発で見事な黒光りする魔法陣が俺の前に浮かび上がってきたよ。この色は闇魔法と決まっていて詠唱した呪文は言葉から連想できるように対象を砕く効果がある。

 魔法分解とか吸収タイプもあるが今回はブラッキーもいるからガチな攻撃系でいくのがベターだろう。


 他方、ブラッキーは背負っていた大剣を引き抜くと両手持ちで正面に構えた。忽ちその剣に白い光がほとばしる。ズバリ光魔法だ。案の定あっちも攻撃系で狙い通り。


「んじゃ僕から行くな! ――【光剣魔法・ドラゴンの噛み砕き】」


 おおーっ、前世で何度と繰り出したゲームのこの技をこうして生で見られる日がくるとは感慨深いものがある。

 大剣が一際白く輝き、ブラッキーが大きく鋭く振り下ろした剣身から飛び出した光の塊がドラゴンの頭の形に変形し、そのあぎとをぐわわっと裂けるくらいに開いて墓石に噛み付き砕く勢いでぶち当たる。

 ドオオオン、と大きな音と同時の衝撃に地下空間内は小さく震えた。

 一撃成功で俺の魔法は必要なしかと、一瞬俺も思った。


 だが刹那、俺の体は反射のように動いて駆け出していた。


「グリーンそこから逃げろ! カウンターだ!」


 攻撃されてただ無力に壊されるだけにならないようにとスカイラーが設定した抵抗魔法が発動し、それはブラッキーの攻撃をあっさり跳ね返した。

 運悪くもそれが向かった方向がグリーンが待機していた方だった。

 俺の足でギリギリ間に合うか?

 グリーンが直撃されれば命はないかもしれないが、俺なら怪我で済むだろう。


「受け身を取れグリーン!」

「なっスカイラー様!?」


 俺は最後の跳躍でグリーンに飛び掛かると彼の盾になるように抱きしめた。きっと背中が酷いことになるだろうが、しかし背中だからこの美貌には影響はないはずだ。


 こんな危機の逼迫した状況下で馬鹿らしくもこんなことを考える俺はどこか滑稽で本当に頭のネジが飛んでしまったのかもしれない。


 まあそれでもいいか。


 グリーンを護れるんなら。


 同時に、頭の別の部分じゃもしかしたらブラッキーはここまで計算していたのかも、なんて敵ながら天晴れ半分、何て狡猾なと憤り半分に考えた。


 経験不足もあって咄嗟の相殺攻撃も防御魔法も間に合わず、俺は肩越しに白く光るドラゴンの大きなあぎとを目を見開いて見つめた。


「私を放して逃げて下さいスカイラー様! スカイラー様あああっ!!」


 グリーンは腕の中で俺を押し出そう突き飛ばそうともがいたが、俺は許さなかった。

 肉薄した光のドラゴンがかぶりついた。


 鮮血が散る。


 俺の目の前で。


 人影が揺らいだ。


「――な、え? ブラッキーお前っ!?」

「く、へはは、ぃ……っててて、だぃ、丈夫か、スカイラー?」


 ドラゴンが噛み付いたのは俺じゃなかった。無論グリーンでも。


 技を放った張本人、ブラッキーにだった。


 逞しい肩には甲冑を貫いて牙が突き刺さったんだろう穴が開いていて、そこから血が溢れて滲んでいる。


「おい何で……っ」


 信じられなかった。直前に憶測でブラッキーを罵ったのを悔いた。

 彼はその身を挺して俺たちを庇ってくれたのに。


 ――俺たち敵を。


 あぁ、そうか、これが主人公の器なのか。


「そんな顔、するなよな。大した、……っ、怪我じゃない」

「は!? 大した怪我だろ!」

「まっ平気、ぃてて、じゃあないけど、回復ポーションがあるから、平気」

「回復ポーションか。なるほどそれなら平気だな。焦った……ってそういう問題じゃねえだろっ!」

「あー、へへっ?」

「俺の認識が甘かったせいだ。済まない」

「あんたのせいじゃないって。んーだけどどうしても謝りたいんなら、むしろ謝罪の言葉よりもあんたからのありがとうのが良いけどな~あ?」


 まだ痛そうにしているくせに軽口を叩くその余裕が少し憎たらしくて、反面じゃ救われた。


「助かったよブラッキー」


 しかしながら何となく癪でありがとうは言ってやりたくない。

 期待して待っているからわざとそのまま澄ましていればブラッキーは何だよと苦笑を浮かべた。

 他方、グリーンに怪我はなくホッとしたよ。


「大変不本意でしたけど、助けて頂きどうもありがとうございましたね、ブラッキー・ホワイトホール」


 皮肉げな口調でブラッキーの望んだ言葉を告げたのはグリーンだ。対するブラッキーは「あんたからじゃない」とか苛立たしそうに返していた。


「ブラッキー、あるなら早く回復ポーション飲めよ。失血死したいのか?」

「あ、そうだった」


 激痛レベルの怪我だと思うんだが悠長だなおい。俺なら即飲むね。痛いのは嫌だ。

 痛みに顔をしかめてポーションを飲んだブラッキーが肩の具合を確かめるように腕を回しているのを眺めながら、俺は安堵していた。彼の回復と、先のカウンターを利用して俺を殺そうとしたんじゃなかったことに。

 ……少なくとも俺を信用させるための痛みを伴った演技、肉を切らせて骨を断つって作戦じゃなければの話だが。

 疑り過ぎだろうか。いや保険をかけておいて損はないよな。とは言えまだ全部とはいかないがここはこいつを信じて一先ず仲間に入れてみようか。

 そうやって一人静かに考え込んでいたのを破壊方法に悩んでいるとでも思ったのか、ブラッキーは傍に寄ってくるや肩を組んできた。

 視線は真っすぐ再び元のように沈黙した墓石へと向けられている。


「何だ、離れろ」

「いやさあ、やっぱ別々で場当たり的に攻撃しても駄目だったかーっと思って。そりゃー補助魔法陣でも簡単には行かないよな。もし基軸部に不具合が出た場合の代打でもあるんだもんなあれ。あんたと一緒だからって浮かれて油断してこれまでだってそうだったのを失念してた。その結果あんたまで危険に晒したのは猛省だなこりゃ」

「は? いやお前は悪くないだろ」

「ハハハハッスカイラーは優しいな! いつもは冷たいけどそこのギャップがまた魅力的……って、おほん、話を戻すと、それを踏まえてさ、次の攻撃は一二の三で同時に行こうぜ」

「なるほど、一気に畳み掛けるのか。悪くない。やってみるか」

「へへっそうこなくっちゃ」

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