31.使用人
「じゃあ一人でフラフラは?」
「それはないな。
子供の頃も乳兄弟とかお世話係がついてるし、成長してもそれは同じ。
学院に通うにしても少なくとも一人はお付きがいるはず」
エリザベスの話では、高位貴族にもランクがあるそうだ。
例えば私が居候させて頂いているミルガスト伯爵家には子弟がいる。
殿方には乳母の息子とかが侍従としてついている。
お嬢様にも侍女だかお付きだかがいて、一緒に学院に通っているらしい。
「その侍女や侍従って学院の生徒なの?」
「違う。生徒やっていたら主人のお世話なんか出来ないでしょう。大抵は既に卒業した人がやるみたいね」
確かに。
私の前世の人が読んでいた小説では王太子の学友として公爵のご子息や宰相の息子、騎士団長の甥とかがいたけど、少なくとも騎士団長の甥は無理だな。
だってその人、立場的には護衛だよね?
学友とかやっていたらいざという時に護衛対象を守れないし。
そもそも、そんなに高位の人だったら生徒なんかじゃなくて護衛騎士とかがついているはずだ。
侍女や侍従、メイドや下男も。
そういう人たちは生徒じゃなくて臣下だよね。
「エリザベスにもついてなかった?」
「私のはメイドね。使用人よ」
簡単に言うなあ。
お金持ちって凄い。
「そういえば『始まりの場所』にいた方々にはお付きっていなかったような」
「お付きが用意出来ないくらいお金がないから試験に合格出来なかったんじゃない?」
それはそうか。
教育はお金だ。
そしてお金は使用人の有無に直結する。
つまりお付きがいるような貴族家子弟は入学試験に落ちるような教育不足はあり得ない。
万一落ちたら入学しないで勉強し直して再受験するらしい。
「だとすると高位貴族家ってお金持ちなんだ」
エリザベスは呆れたように言った。
「それはそうでしょう。というよりはある意味、お金は関係ない。立場があるから、どんなに貧乏だろうと侍女なしで外出なんか出来ない」
「ああ、そういう」
「そうよ。それこそ借金まみれになっても外聞は保つ。
本当に困ったら子弟を学院なんかには通わせない。理由は何とでもつけられるし」
そうか。
私の前世の人の記憶にある「貧乏な侯爵令嬢」とかってあり得ないのか。
前世の世界って身分がなかったらしくて、だから小説ではメチャクチャな身分制度が平然と描かれていた。
食べるのにも事欠いている貴族の令嬢とか。
自分で掃除洗濯している公爵令嬢とか。
一番凄いのは下位貴族が平気で王太子や公爵子弟に話しかけて、しかも普通に会話して貰えるとか。
そんなのお付きの人が阻止するに決まっているし、万が一やってしまったら即座に首が飛ぶわよ。
物理的に。
だって王族や高位貴族に突然見知らぬ誰かが突進してきたら、それって暗殺くらいしかないでしょう。
そのために高位貴族やその子弟には護衛騎士や侍従がいて、その人達は常に武装しているわけで。
「すると、テレジア王立貴族学院に通っている生徒って、ある程度は裕福というか余裕があって、それでいて飛び抜けてはいない方々だけだと」
「そうね。騎士爵位の子弟は嫡子くらいじゃない? 准男爵や男爵の子弟が主流なんじゃないかなあ」
後は高位貴族の子弟で領地貴族じゃない人たちね、とエリザベス。
「そうなの?」
「領地貴族の嫡子ってそもそも学院なんかには通わない。
通っても意味ないのよ。
学院では領地経営のこととか教えて貰えないからね。
将来領地を統治するんだったら、子供の頃から自分の家臣や領民を相手にしないといけないから」
それはそうか。
私の実家のサエラ男爵家は現男爵様の嫡子である方(私には家系的に甥に当たる)は学院に通ってなかったそうだしね。
子供の頃から父親である男爵様について領地で学んでいたらしい。
今は成人して男爵様の補佐をしていらっしゃる。
え?




