三十三話 「潰すしかない、か。でも、どうやって?」
双方に乗り気であったから、話は実にスムーズだった。
りあむが必死にプレゼンするまでもなく、ウルフ・プラント達との共生が決まったのである。
まぁ、ゴブリン達の優秀さをアピールし損ねたりあむは少々不満だったのだが。
早速、共生の準備を始めることとなった。
ウルフ・プラントのリーダー、それと数匹を洞窟の中に招き、体に巻き付けられていた布をほどく。
旅立つ時にゴブリン達が巻いてくれたものだそうで、かなりしっかりと縛り付けてあった。
縛る、という行為は、指先が器用でなければ行うことができない。
しかも、布のようなモノを縛るというのは、かなりの技量を要求される。
多くの人間が当たり前にやっている、しかし、ゴブリンにとっては難しい行為。
ウルフ・プラント達の母木の元には、それができるゴブリンが居たのだろう。
見も知らないゴブリン達が、どれだけ苦労してその技術を会得したのか。
それを想像するだけで、りあむはしんみりとした気持ちになった。
ともかく。
巻くのに使っていた布は、人間の衣服を利用したものだったらしい。
ワンピース、あるいは貫頭衣のような形状だったらしく、それを引き裂いて使っていたようだ。
「ん? これから逆算すれば、人間の大体の体格が分かるのか?」
衣服を見れば、おおよそそれを着ている人間の背格好を想像することができる。
細かいことはわからずとも、おおよのことを推察するだけならば、やれなくはない。
だが、今はそれよりも大切なことがある。
ウルフ・プラントの、彼らの言葉を借りるなら「姫」との共生のための準備をしなければならないのだ。
まず、何をすべきなのか。
さっそく、「木の記憶」を開くことにする。
その様子を見ていたウルフ・プラント達から、どよめきが起きた。
人間が使う道具としての本は、彼らも知っていたらしい。
まさかそれを、樹木の精霊が持っているとは思わなかったようだ。
「実際には本じゃなくて、そう見えるだけのものなんですけどもね。私がちょっと特殊な精霊なので、ゴブリンが持って生まれるはずの知識やなんかは、すべてこれに書いてあるんです」
「知識を。まさか、そのようなことが。身体の外に知識をとどめてある、ということですか。まさか、いや、いや。そのようなこともあるのでしょうな」
ふと、そういえばゴブリン達は、文字が認識できるのだろうか、という考えが、りあむの頭に浮かんだ。
これまでは道具を作ることばかりに気を取られて、あまり考えてこなかった種類のことである。
ゴブリン達は、文字を扱うことができるのだろうか。
そもそも文字を認識できるか、という問題がある。
りあむの記憶が確かなら、「文字を認識できる」というのは、かなり特殊な能力だったはずだ。
そもそも、見たものを空間の中で認識する能力そのものが、人間は独特のものがあるのだとか、なんとか。
テレビのCSチャンネルでそんなようなことをやっていた記憶がある、のだが。
正直、ちんぷんかんぷんでよくわからなかった。
当時のりあむは、ただのお役所の職員だったのだ。
別に身を入れて見ていたわけでもないし、そういった専門的なことを理解するための下支えになるような知識もなかった。
ただなんとなく、「もじをにんしきできるっていうのはちょうすごい」みたいなことを言っていた気がする、という程度の記憶しかない。
字の読み書きができる、というのは、将来的には便利だろう。
書置きのような事もできるし、それこそ「外部記録装置」としての文字の役割は大きい。
そういえば、文字も気になるが、ゴブリン達の「数」の認識はどうなのだろう。
これまでりあむは、作業で指示を出す際、無意識に数を使っていることがよくあった。
ゴブリン達は特に問題なくそれを理解していたが、言ったどのぐらいの数字まで理解しているのだろうか。
人間の認識とゴブリンの認識は、そもそも同じものなのかどうかも、疑問だ。
コレもテレビで聞きかじったことだが、もし宇宙人、つまり人類とは違う知性体と接触することがあったとして。
人類と同じ数学を理解している相手であれば、対話することが可能。
なのだとかなんだとか。
やはり記憶が定かではないのだが、とにかくそんなようなことを言っていたような気がする。
つまり、ゴブリン達が人間としての記憶を持つりあむの数学的知識を理解できるようであれば。
あるいはこの世界の人間とも、対話が可能なのではないか。
そこまで考えて、りあむは慌てて頭を振った。
今は、それについて考えている場合ではない。
物事を考え出すと余計な方へ脱線するのは、悪い癖だ。
「さてさて、とりあえず、どうすればいいのか教えてもらおうかな」
ページが光り、りあむは「木の記憶」をめくる。
ウルフ・プラントの「姫」を芽吹かせるには、まず最初にかなりのエネルギーを必要とします。
それは栄養面だけではなく、魔力も相当の量を用意しなければなりません。
必要な栄養の量で言えば、「猪みたいなヤツ」六頭。
魔力は、「猪みたいなヤツ」十頭分は必要でしょう。
猪みたいなヤツ、というのは、りあむがそう呼んでいる、狩りの獲物のことだ。
かなり体格が大きく、危険な相手なのだが、実入りが実にいい。
以前はそうでもなかったらしいのだが、最近はちょくちょく見かけるのだそうで、一日に一匹ぐらいはゴブリン達が狩ってくる。
それが、栄養だけで言えば六頭。
魔力的な意味合いでは十匹必要というのは、驚くような量だ。
「姫」を芽吹かせるために、ということは、普段ゴブリン・ツリーに与えるのとは別に、それだけ必要ということなのだろう。
冗談じゃない。
過重労働絶対反対。
ゴブリン達が怪我でもしたらどうするつもりなのか。
そんなりあむの思考を読んだのか、「木の記憶」が再び光る。
別にゴブリン達だけで狩りをする必要はありません。
ウルフ・プラント達も頑張ってくれるでしょう。
考えてみれば、すこぶる優秀そうなウルフ・プラント達がいるのだ。
彼らとうまく協力すれば、狩りも難しくないかもしれない。
なら、六頭分の栄養と、十頭分の魔力というのも、難しくないかもしれなかった。
それがそろったら、一度にゴブリン・ツリーの根元に埋めてください。
もちろん、「姫」もいっしょに。
私が栄養と魔力を注ぎ込み、「姫」を芽吹かせます。
「そうなると、どうなるの?」
ウルフ・プラントは、ツル植物のようにその体を伸ばし、ゴブリン・ツリーに絡みつくような形で一体化していきます。
ツル植物のように、とはいっても、ツル植物そのものではありませんので、ただ絡みつくわけではありません。
木に寄生する木、「ヤドリギ」に近くはありますが、やはり別のものですので、根をゴブリン・ツリー内部に張る、ということもありません。
文字通り、一体化するのです。
そういう意味では、貴女から見て全く未知の「異世界の植物特有の生態」と言えるでしょう。
正直、「そんな植物があるのか?」とも思ったが、それを言い始めたらきりがない。
何しろ、植物がゴブリンの形をして歩いているのだ。
「そういうのもあるのか」と納得するしかないだろう。
然る後、ウルフ・プラントの魔石を私の根元に埋めてください。
そうすることで、ウルフ・プラントの知識、経験などを、ゴブリン・ツリーと「姫」が一体となった後のものに取り込むのです。
「は? い? 魔石を? どういうこと?」
意味がつかめずきょとんとするりあむに、「木の記憶」が輝いて答えを記す。
ウルフ・プラントの体内から取り出した魔石です。
ゴブリン、ウルフ・プラントに共通する特徴ですが、その経験や知識は魔石に蓄積されるのです。
芽吹いたばかりの「姫」に必要な知識を与えるためには、ウルフ・プラントの魔石を使うしかありません。
「それって、つまり、ウルフ・プラントさんの身体から魔石を取り出してってこと? え? それって」
震える声で問うりあむに、「木の記憶」が答える。
魔石を取り出されたウルフ・プラントは、そのまま枯れて、死にます。
「くそ、こんな時に」
忌々しげに呻きながら、バッフは操作盤に指を這わせた。
まさかこんな時に、こんなものが出てくるとは。
ゴブリン・プラント達の行動を監視しようと、そこら中に張り巡らせた感知装置に、引っかかるものがあった。
奇妙な反応であり、この辺りの森に生息している魔獣と別種のものだろうと判断。
すぐにその正体を探ろうと、解析を始めた。
何分、ゴブリン達に気が付かれないよう、隠密性の高いものを用意している。
その分性能が悪いので、解析を進めるのに手間取ってしまった。
「暴食アリか。面倒だな」
巣を持たず、常に移動する種類の昆虫で、真社会性を持つ。
形状は昆虫のアリに酷似しているが、別種の生物であり、魔獣である。
で、あるのだが、形状が似ているためか、生態もアリと似通っていた。
とりわけ「グンタイアリ」と呼ばれる種のそれに近い。
女王を抱えたまま移動を繰り返し、その進路上にいる動物、魔獣などを喰らいつくす。
注目すべきは、既存の生態系の上にはないはずの化け物である、というところだ。
彼らがこの地上に登場したのは数百年ほど前、唐突なことであった。
登場、という言葉をより正確なものにするならば、「作り出された」あたりだろう。
暴食アリは、生命進化の結果生まれた生物ではない。
一部の魔獣と同じく、生体兵器として作り出された存在なのである。
古代の国の一つが、敵対国を排する目的で作ったものだったのだが。
不幸なことに、制御に失敗。
哀れ、制作した国は暴食アリに食いつぶされ、今も連中の巣窟となっている。
その巣窟から、時折女王アリがこぼれ出ることがあった。
それが、この辺りに流れてきたのだろう。
連中は無差別攻撃兵器としては、実に優秀だ。
どんな生物でも手当たり次第に食い尽くすが、とりわけ人型のモノを好む。
人間、エルフ、ドワーフ、オーク、コボルト、ゴブリン、オーガ。
恐ろしいことに、ゴブリン・プラントにまで襲い掛かる。
肉であるとか植物であるとか、無機物であるとか有機物であるとかも関係ない。
人の形をしていさえすれば、ゴーレムだろうがカカシだろうが関係なく襲い掛かる。
それが、バッフが張り巡らせた感知圏内で発見された。
このまま放っておけば、ゴブリン・プラントを襲うだろう。
もちろん、人里も襲うはずだ。
この辺りでそれといえば、冒険者が多くいる「ネザ村」である。
放っておいたらどうだろう。
正味、はぐれ暴食アリ程度であれば、まぁ、犠牲は出ても退けられるはずだ。
ネザ村にはB級冒険者が何人もいるし、A級冒険者も数名いる。
問題は、ゴブリン・プラント達だ。
「放っておいたら、まず間違いなく暴食アリは寄ってくる。それを報せる。知らせて、どうなる?」
身を守らせる、と言いたいところだが、まず無理だろう。
B級やA級冒険者連中なら、ある程度まとまってかかれば暴食アリをどうにかできる。
連中の戦力は、常人離れしているし、戦い方もよく心得ているのだ。
生き残るのに特化している、というだけでは、B級以上にはなれない。
真正面から戦って、何人もの正規兵をねじ伏せられるようでなければ、たどり着けない様な領域なのだ。
今観察しているゴブリン・ツリーの保有戦力は、そのB級冒険者三人に抑え込まれる程度である。
暴食アリを退けられるのか、といえば、明確に否と言わざるを得ない。
「潰すしかない、か。でも、どうやって?」
女王アリを排除するだけなら、バッフ一人で可能だ。
文字通り消し飛ばすことなど容易い。
が、その場合少々地形が変わることになるだろう。
暴食アリによる被害と、バッフによる被害。
森へ与えるダメージの大きさは、多分バッフの方が大きい。
連中は草木を食わないし、地面を抉って地図を変えたりはしないのだ。
バッフがやれば、それこそ無差別な絨毯爆撃。
辺り一帯は比喩表現でなく火の海に沈むだろう。
それはいささか不味い。
何しろこの近くには、ゴブリン・ツリーがあるのだ。
彼らの食料元である森を、一部とはいえ更地にするのは避けたい。
きっと、今後の彼らの行動にも影響が出るだろう。
場合によっては、狩りをすることができず、飢えてしまうかもしれない。
それだけは、避けたかった。
「ネザ村に知らせる。いや、それだけじゃ弱いな」
危険は排除しようとするだろう。
だが、損害は避けたいはずだ。
村を襲うのが分かっているのだから、きっと防衛戦に徹するだろう。
罠も仕掛けやすいし、連中は猪突猛進に襲ってくることが分かっているから、対処もしやすい。
そもそも、オード大森林近くに作られた「冒険者村」なのだ。
何時魔物に襲われてもいいように、防衛線の準備もしてあるはず。
ならば、わざわざ外へ飛び出して戦おう、等という判断は、まずしない。
確実な方を選ぶだろう。
ゴブリン・ツリーのことは気にするだろうが、おそらく切り捨てるはずだ。
村の中核を担っている冒険者ギルドという組織は、理性的で損得勘定がうまい。
命あっての物種、という言葉の意味をよくわきまえている。
だからこそ、国家から中立でありつつも、世界中に支部を持つような組織たり得るのだ。
「冒険者に、依頼を出す。か」
冒険者ギルドは、身を守るために防衛に回るだろう。
だが、冒険者はどうか。
依頼として金を出してやれば、暴食アリを叩きに行く、という判断をする確率はあるのでは。
バッフ・ベル・アルラルファとして保有する財力を振るえば、彼らの興味をひくことができる程度の報酬は出せる。
それにつられてくれたモノ達に加え、ここにいる三人。
もちろん交渉は必要だが、おそらくは依頼を受けてくれるだろうB級冒険者三人を加えれば。
「行ける、かな」
暴食アリの存在を感知してから、この判断を下すまで要した時間は、約数秒。
バッフは近くに置いてあった紙を無造作につかむと、万年筆を引っ掴み、手紙を書き始める。
貴族が正式な書簡として発行するのに使うレターセットを持ってきたのは、良い判断だった。
これを書き終えたら、三人のうちだれかにネザ村へ届けてもらおう。
雇われ冒険者達がこちらに来るまでに、作戦も立案しておかなければならない。
何しろ、ゴブリン・プラントに、バッフのような観察者がいるのがばれるのは避けたかった。
ただの冒険者と暴食アリの戦いに見えるようにしなければならない。
まあ、それは何とかなるだろう。
もちろん、問題もある。
いくら冒険者達が優秀でも、すべての暴食アリを一匹も逃さず止めることは出来ない。
少なくない数が、間違いなくゴブリン・ツリーへ向かうだろう。
それを、ゴブリン・プラント達が止めることができるかどうか。
ゴブリン・ツリーが生えているブラド山脈一帯は、魔力が薄い地帯である。
それは空気が薄いのと同じで、暴食アリ達にとっては「息苦しい」のと似た行動阻害を受ける場所だ。
通常の森の中でなら分からないが、その足かせがあれば。
それに、今のゴブリン・プラント達は、防衛戦の準備をしている。
石垣を作り、武器も整えているようだった。
ならば。
「行ける、かな」
眉間にしわを寄せながら、バッフは同じ言葉を繰り返した。
急がねばならない。
こうなった以上、少しの時間を無駄にするのも惜しかった。
硬直するりあむだったが、「木の記憶」が発光していることに気が付き、そのページをめくる。
貴女がそんな風に驚くことは、分かっていました。
きっと、ウルフ・プラントを手にかけるような行為に、躊躇し、ためらうことでしょう。
安心してください、私もあなたの記憶を持っているのです。
そんなことは、避けたく思います。
結局は魔石をゴブリン・プラントの根元に埋めることになるにしても、それは寿命が尽きた時がいい。
ですが、彼らにとって「姫」と共にゴブリン・プラントの根元に埋まることは、当然のこと。
忠義の印でもあり、そのためにここまで来たという自負もあります。
それを説得する方法はないか、ずっと考えていました。
こういうのは、どうでしょう。
今、ゴブリン達は、大工事の最中であり、軍拡に力を入れている。
そのため、少しでも戦力が欲しいところ。
せっかくやってきたウルフ・プラントを一匹でも失うのは、出来るなら避けたい。
そこで、「姫」を植えてすぐに魔石を植える事はせず、ある程度大きくなるのを待つ。
もちろん、その間はウルフ・プラントを実らせることは出来ないが、焦ったところで意味はない。
どうせ「姫」が育ち切る前に実らせることができるのは、未熟なウルフ・プラントだけ。
いわば「レッサー・ウルフ・プラント」のみ。
それが増えたところで、あまり意味がない。
彼らのような、ケンタのような、特別なウルフ・プラントを育てられる体力が付くのを待っても、まったく遅くはない。
むしろ、一匹でも優秀なウルフ・プラントが多い方が、狩りもスムーズに行うことができ。
結果的に、その方が「姫」のためになる。
いかがでしょう。
嘘は一つもありませんし、事実、その方がゴブリン・ツリーにとっても、「姫」にとっても助けになるはず。
通常のゴブリン・プラントの状態とは違い、私達はとにかく数を求める、といった状況にありません。
武器や道具を作り出すことができ、量もそうですが、質も必要な集団なのです。
だからこそ、できる提案と言えるでしょう。
「こんの、クソ本!」
よっぽど真っ二つに引き裂いてやろうかと思ったりあむだったが、何とかこらえた。
そういうことなら、先に言えといいたい。
ウルフ・プラントの身体から魔石を取り出すなんて、嫌だった。
何とかそれを避ける方法を考えないとと、思っていた矢先だったのである。
それを、「木の記憶」がポンと答えを出してきた。
嬉しくはあるが、同時に理不尽な怒りがこみあげてくるのを止められない。
まあ、「木の記憶」も頑張って考えてくれたのだろう。
ただの本に見えるが、りあむの記憶をそのまま持っている、ゴブリン・ツリーの記憶そのものといっていい存在だ。
言ってみれば、少々違う記憶を持つ、りあむの分身といってもいい。
だからこそ、りあむの望む答えを、必死に考えてくれたに違いないのだ。
それはわかっているのだが。
なんかムカつく、という気持ちは止められない。
だが、今は文句を言っている時間はないのだ。
りあむが「木の記憶」とにらめっこしていたのは、時間にすると数分といったところだろう。
実際には本を読んでいるわけではなく、意識の共有なので、現実の経過時間はりあむの体感よりも相当に短い。
とはいえ、あまりゴブリンやウルフ・プラント達を待たせるのは、よろしくないだろう。
「ええっと、ウルフ・プラントさんのリーダーさん。ちょっと、これから先のことで確認があるんですけど」
「は。どのようなことでしょう」
わずかに首をかしげるウルフ・プラントのリーダーを前に、りあむは少々緊張していた。
上手いこと説明して、納得してもらわなければならない。
そうでなければ、「通常の手順通り」、ウルフ・プラントの身体から魔石を抉りだすことになってしまう。
りあむとしては避けたいことだが、ウルフ・プラント達がそう思っているとは限らない。
あるいは、絶対にそうすべきなのだ、と思っているかもしれないのだ。
そのあたりの認識も含めて、確認しなければならない。
然る後、できるなら。
ゴブリン達と同じように、仲間になりたい。
こんなに難しそうな交渉事は、初めてである。
「ええっと、姫さんを植える時に、一緒にウルフ・プラントさん達の一匹も埋める、っていうのが通常の手順なんですが。少々変更しようと思いまして。私達の現状も考えて、もっと確実な方法で行こうと思いましてね?」
「なん、と? いや、いや、しかし。いえ。そうおっしゃるには、何か理由がおありということでしょうか」
困惑した様子のウルフ・プラントのリーダーを見て、りあむは少々緊張に引きつった顔で頷いた。
就職の時にやった面接位緊張している。
あるいは、小学校の時の学芸会だろうか。
そんなことを思い浮かべてしまうのは、現実逃避をしているということかもしれない。
切り替えねば。
りあむは大きく息を吸い込むと、小さく「よしっ」と気合を入れた。




