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二十三話 「なんでみんな冷静なのさ。もっとこう、怒るとかあると思うんだけど」

 最初に異変に気が付いたのは、りあむだった。

 森から出て、視界の開けた荒野に入ってすぐのことだ。

 アクジキを倒し、その肉や魔石等を運んでいるゴブリン達。

 りあむは、その先頭に立っていた。

 狩りの成功で冷めやらぬ興奮の中、りあむは洞窟の出入り口の方へと目を向ける。

 そして、すぐに違和感に気が付いた。

 ゴブリンの数匹が、地べたに寝転がっている。

 これは異変と言っていい。

 ゴブリン達は植物だ。

 全身が緑色であり、そのすべてで光合成ができる。

 日にあたる面積は広い方がよく、休むときも立ちっぱなしだ。

 ゴブリンは基本的に肉体的疲れとは無縁なので、横になることはほとんどない。

 あるとすれば、怪我を治すとき程度である。

 だから、寝転がっているゴブリンを見た時、りあむはただ事ではないと感じたのだ。

 本来、りあむはそこまで視力が優れているわけでは無い。

 だがこの時は、奇妙なほどにはっきりと遠くまで見ることができた。

 あるいは、実際には見えていなかったのかもしれない。

 りあむの木の精霊としての直感が、なにか異変を感じ取っていたのかもしれなかった。


 兎に角。

 異変を感じたりあむは、すぐに行動に移った。

 ゴブリン達の中から怪我が少なく、戦闘に慣れたものを選び出す。

 それらにケンタを加えたものだけで別動隊を作り、洞窟に急行することにしたのだ。

 運搬をしているゴブリン達の護衛が手薄になるが、既に森は出ている。

 荒れ地に入ってくる動物や魔獣はほとんどいないので、問題はない。

 抽出されたゴブリン達には、ほかのゴブリン達から武器が渡された。

 槍とボーラー。

 移動力と攻撃力を鑑みて、装備はその二つに絞る。

 この辺りは、りあむの判断だ。

 装備を整えると、ケンタを始めとする別動隊は洞窟へと向かって走った。

 速度だけを重視した、両手足を使った四足走行だ。

 走っているケンタの方に捕まっている間、りあむの中で焦りがどんどんと膨れ上がっていく。

 いつもの何倍も速い速度で洞窟の出入り口に到着したりあむとゴブリン達は、愕然とした。

 何匹ものゴブリンが、洞窟の前で寝かされている。

 寝かされているゴブリン達は皆怪我をしていて、無事なゴブリン達が器で水を運んでいた。

 もっとも、怪我と言ってもほとんどが軽傷だ。

 擦り傷などがほとんどで、しばらく日に当たっていれば回復するような種類のものである。

 それにしても、なぜこの場所で。

 りあむ達の帰りに気が付いたリーダーが、小走りで寄ってきて事情を説明してくれた。


「なにかが、せめてきた。たぶん、にんげん」


 その言葉を聞き、りあむは全身から血の気が引くのを感じた。

 転生前に不動産屋のようなところで中肉中背の男性に話を聞いたとき、文明があるということは聞いている。

 その時は確かに、「人間」という言葉を使っていた。

 りあむは念のため、「木の記憶」に人間について尋ねたことがある。

「木の記憶」は、実物は見たことはないが、知識としては知っていると答えた。

 親であるゴブリン・ツリーから引き継いだ記憶の中に、確かにりあむと同じ形状の「人間」の知識があるのだという。

 ただ、実物を確認したことは、一度もなかったといっていた。

 ゴブリン・ツリーが根をおろしてから、一度としてゴブリン・ツリーもゴブリン達も、人間と接触していないのだ。

 だから、りあむは人間への警戒を後回しにしていた。

 とはいえ、それは無理からぬことだろう。

 正直なところ、目に見えないいつ来るかもわからない危機を警戒していられるほど、ゴブリン達には余裕がなかった。

 それよりも、「明日まともに獲物が獲れるのか」というほうが、よほど切羽詰まった問題であったのだ。

 勿論、いつかは準備せねばならないと思っていた。

 それにしたところで、随分先のことだと思っていたし、なにより、予兆があるはずだとりあむは考えていたのである。

 もし人間と接触するとしても、まずは森の中での遭遇。

 それから、段階的に何かが起こるものだと。

 考えが甘い、とは一概に言い切れないはずだ。

 ただ、現実に起きたことが、違っていただけで。


「じゃあ、みんな、みんなは」


 声が震え、それを言うのが精一杯だった。

 実態などないはずなのだが、喉がからからに乾いているような感覚がある。

 リーダーはりあむがいわんとすることを、察してくれた。


「しんだものは、いない。ゴブリン・ツリーも、ぶじだ」


 全身の力が抜け、りあむはケンタの頭の上に突っ伏した。

 何よりの言葉だった。

 リーダーによれば、外で警備していたゴブリン達は、人間が放ったらしい何かに包み込まれて、一瞬で動けなくなったという。

 動くことも抵抗することもできなくなったので、戦いにすらならなかった。

 ただ、洞窟の中にいたゴブリン達は、人間と戦いになったという。


「ほとんど、たたかいにはならなかったが」


「にんげん、つよかった」


「いっぴきに、みんなやられたからな」


 そういいながら近づいてきたのは、三匹の老ゴブリンだ。

 皆、怪我はあるものの、無事な様子である。

 これにも、りあむはホッと胸をなでおろした。


「良かった、無事みたいで!」


「ぶじとも、いえないが。それは、あとでこまかくはなす」


「そう。それより、ごぶりんつりー。みにいったほうがいい」


 別の声に振り返ると、手に持った棒で体を支えながら、片足を失ったゴブリンが歩いてきた。

 りあむはまだ顔でゴブリンの違いを認識はできないのだが、全身の特徴を見て、それがアクジキに足を食われたゴブリンだとわかる。

 体についた怪我が増えているが、あらかた塞がっているように見える。

 幾らか全身の緑色が薄くなっているように感じるのは、気のせいだろうか。


「わかった。ケンタ、行ってみよう」


 促されるまま、りあむはケンタに頼んだ。

 一つ一つ、何があったのか細かく確認したくはある。

 だが、今はそれよりも、全体の状況をつかむのが先決だと考えたのだ。

 全体の状況を見て、どうすべきかを考える。

 個別のことに当たるのは、まずすべてを把握した後だ。




 ゴブリン・ツリーを前にしたりあむは、困惑に顔をゆがめた。

 成っている実。

 つまり、ゴブリンが中に入っている実に、大きな布のようなものが張り付けられていたからだ。


「これは、なんなの?」


 りあむの問いに、近くに浮いていた「木の記憶」が光った。

 はっとしたりあむは、急いでページを開く。


 おかえりなさい、りあむ。

 無事にアクジキを倒したようですね。

 本来ならそのことを祝福すべきなのでしょうが、状況が状況です。

 手短に、何があったのか説明します。

 洞窟の中に入り込んだ人間は、二人でした。

 彼らは不思議な技を使い、ゴブリン達を全員気絶させたのです。

 そして、成っている実を物色し始めました。

 本当は一発入れてやりたかったのですが、如何せん私は実体がなく、貴女とゴブリン達にしか見えません。

 実に口惜しかった。

 ともかく、人間たちは一つの実を選ぶと、あろうことか刃物で切り付けたのです。


「切り付けた!? それって、いったいっ!」


 叫び声をあげるりあむだったが、文章にはまだ続きがある。


 そして、中にいるゴブリンを切り付けました。


 ここを読んで、りあむは卒倒しそうになったが、何とか耐えた。

 状況を把握しなければならないという強い思いが、りあむを支えたのだ。


 人間はその子の身体の中から、魔石を摘出したのです。

 えぐり出した、というより、摘出でした。

 まるで外科手術の様な丁寧さです。

 そして、魔石を取り出し終えると、何か練り薬の様なモノを傷口に塗りつけました。

 丁寧に傷口を合わせるようにすると、実の方にも同じ薬を塗り、傷口を閉じたのです。

 その上に、今貴女が見た布を張り付けたのです。

 魔石を取り出された子は、まだ実の中にいます。

 そして、驚くことに。

 私達にとっては喜ばしいことに。

 魔石を取り出された子は、まだ生きています。


「いき、てる? 魔石を取り出されたのに、大丈夫なの!?」


 まだ実の中にいたのが、幸いでした。

 実の中は私の体内ということ。

 まだ生まれていない、一人立ちしていない状態であれば、その子の体内の魔石は機能していません。

 必要な魔力は、私から供給されています。

 時間はかかりますが、その子の体内にある魔石は、再形成可能です。

 アクジキの魔石は、手に入れましたか?


「え? あ、うん。すごい大きいやつ、上手く手に入ったけど」


 アクジキの魔石は、丁寧に取り出して確保してある。

 数日間狩りができなかった分を取り返して、なお余りある大きさのものだ。


 ならば、大丈夫。

 大きな魔石があれば、その中の魔力を使って再形成が可能です。

 残っている魔力では心許なかったのですが、安心しました。

 魔石を奪われた子は、助かります。


「あ、うわぁあ、あああああああ!!! よかったぁあ!! そっか! すごい!! 今初めてゴブリン・ツリーは偉いと思った!! よかった!!!」


 りあむは空中でくるくると回りながら、全身で喜びを表した。

 不幸中の幸いか、死んだゴブリンは一匹もいない。

 敵に、ゴブリン・ツリーの目の前まで侵入されてしまった。

 怪我をしたゴブリンも多い。

 だが、死んだゴブリンは、一匹もいなかった。

 何よりのことである。

 洞窟を襲撃されたことは、確かに痛い。

 だが、ゴブリンが一匹も死んでいないというのは、不幸中の幸いである。

 それだけは、もろ手を挙げて喜ぶことができた。

 ケンタを始めとするアクジキ狩りに行っていたゴブリン達も、いささかホッとした様子に見える。

 もっとも、襲撃を受けたのは事実であり、被害は少なからずあった。

 アクジキの肉や魔石を運んでいる後続組のゴブリン達が到着したら、被害の詳細を確認する必要がある。

 それまでに、自分の目でも状況を確認しておこう。

 りあむはケンタの後ろに回って肩に手を置くと、声をかけた。


「ケンタ、状況を見て回ろう」


「わかった」


 ケンタも気になっていたのだろう。

 りあむの指示に従って、小走りに動き始めた。




 負傷したゴブリンの数、八匹。

 大怪我のものはおらず、すべてが擦り傷や打ち身などの軽い怪我のみ。

 道具や武器の損害、多数。

 ゴブリン・ツリーに成っているゴブリンの魔石。

 死亡、無し。

 それが、今回のおおよその被害であった。

 ほかにも、洞窟出入り口にちょっとしたくぼみができた、洞窟の内部が踏み固められた、などの被害はあるが、極些細なものである。


 各班のリーダー、それに主要なゴブリン達が集まり、細かな被害を報告し合っていた。

 まだ日が出ている時間なので、洞窟の外で円陣を組んで行っている。

 一つ一つの報告を聞くたび、りあむは悲鳴を上げて卒倒しそうになった。

 上げそうになった、ではなく、実際に口から出てしまっているあたり、りあむの衝撃度をうかがわせる。

 対して、ゴブリン達は実に落ち着いたものであった。

 怪我の報告なども、淡々と聞いている。

 表情が変わらないので、見た目だけが落ち着いているように見える、というわけでは無い。

 本当に、特に動じていないのだ。

 ゴブリン達の様子を見て、りあむは不思議そうに首を傾げる。


「なんでみんな冷静なのさ。もっとこう、怒るとかあると思うんだけど」


「ゴブリン、どうぶつかる。ゴブリンが、かられることもある」


「ころす。ころされることもある。ふつう」


「かりのとき、しぬこともある。そういうものだ」


「今まで何もなかったのが不思議、といえば不思議だからな」


 最後の言葉は、ケンタである。

 どうやらゴブリン達は、今回の襲撃について特に思うところはないらしい。

 意見の相違である。

 りあむは思わず、歯ぎしりした。

 恨み辛みが共有できないのが歯がゆいのだ。

 もはやりあむの中では、「人間=敵」という図式が成立していた。

 自分自身は見てもいない相手だが、もし洞窟に近づこうものなら必ずゴブリン・ツリーの根元に埋めてやろうと考えている。


「大体、実に手を出すなんて信じられない! まして、魔石を奪っていくなんて!」


「それだ。それが、ふしぎだ」


「ああ。なんで、ませきだけもっていったのか」


「まるごともっていったほうが、いいだろうに」


 まだ生まれていないゴブリンを、実の時に刈り取られる。

 想像しただけで意識が遠のきかけたりあむだったが、何とか頭を振ってそれを免れた。


「つまり、めあては、ませきだけ」


「だろうな。みにはったぬのは、ごぶりん・つりーのこと、よくしってるしょうこ」


「どういうことだ?」


「にんげん、ませきめあて。ごぶりん・つりーからとる。ほうっておくと、ごぶりん・つりー、なおる」


「魔石だけが目当てだったから、ゴブリン・ツリーを手当てしたのか。だが、それだと不味いぞ」


 ケンタの言葉に、幾らかのゴブリン達が頷いた。

 まだ、ピンと来ていないものもいるらしい。

 今のゴブリン達の推測が当たっていたとしたら、間違いなく不味いのだ。


 連中は、ゴブリン・ツリーから魔石を取り出すのに手馴れていた。

 直すための補助である、あの布も張り付けて行っている。

 方法が確立していて、そのための準備をしてきたということだ。

 たまたまゴブリン・ツリーを見つけたのでは、たぶんない。

 ゴブリン・ツリーを狙って、魔石を取り出すために事に及んだのだ。

 つまり。

 今後も定期的に、こういったことが起きる恐れがある、ということである。


「ありがきったえだを、ごぶりんがひろう。それとおなじか」


「おそらく。ありはころさないが、りようする。ごぶりんはころさないが、りようする」


 やはり、ゴブリン達は賢い。

 これだけのことを理解できるというのは、相当の知能が必要だろう。

 いつもならば、そのことを自慢に思い、有頂天になるりあむなのだが。

 今回は事情が違った。


「絶対にそんなことはさせない! 見てろよ人間共めっ! 調子に乗りやがって! 次来たら絶対にゴブリン・ツリーの肥やしにしてやるっ! まして、私がいないときにきやがっ、て?」


 興奮して喚き散らしていたりあむが、はたとあることに気が付いた。

 そう、人間達はりあむがいないときに来たのだ。

 大勢のゴブリンが一斉に狩りに向かい、若干ではあるものの、警備が手薄になったタイミングに。

 これは偶然だろうか。

 たまたまだと考えるのは、あまりにも楽観的すぎるだろう。


「ねぇ、人間達って、ずっとこっちを見張ってたのかな」


「なんだと」


「そうなるだろうな」


「まさか。いや、そうかんがえるべきか」


 既にりあむと同じ考えに至っているゴブリンもいたらしい。

 反応は、それぞれに違っている。

 どうやらケンタは、既にそれも考えていたようだった。


「どこかから見張っていたんだろう。アクジキを狩りに行くのを待って、襲ったんだろう」


「きがつかれずに、みはっていたか。やつなら、できそうだ」


 洞窟の中で戦ったろう老ゴブリンの一匹が、唸りながら言う。

 ほかの二匹の老ゴブリンも、大きくうなずいている。


「そんなに、やっかいだったか」


「そうとうに、つよい。つよいのに、ごぶりんおそう。へんないきものだ」


「ごぶりんは、まずいのにな」


「へんないきものだ」


 普通、強い生き物はゴブリンを襲わない。

 なぜなら不味いから。

 それがゴブリン達の認識である。

 どうやらゴブリン達は、人間を多少変な生き物、と認識したらしい。


「だが、つぎは、かてるかもしれない」


「なぜだ」


 老ゴブリンの言葉に、リーダーゴブリンの一匹が首をかしげる。

 ほかのリーダーたちも、気になったらしい。

 勿論、りあむも何事かと身を乗り出した。


「まほうが、つかえた」


「ぶきに、まほうをのせることができた」


 ゴブリン達から、歓声に近いどよめきが起きた。

 りあむは目をむいてあんぐりと口を開け、動きを止めている。

 森の中にいる動物の中には、魔法を使うものも珍しくない。

 火を噴いたり、爪に奇妙な力を宿らせたり。

 そういったものは、ゴブリン達も見慣れていた。

 なので、そういったものをゴブリンが使えることに、疑いを持ちはしない。

 むしろ、ようやく使うことができるものが出たか、というのが正直なところだ。

 片足を失ったゴブリンも、手を挙げて発言する。


「まほう、てからでた。やりのかたち。とおくへ、とんだ。ボーラよりも、はやい」


 飛び道具的な魔法を、放つことができた。

 これにも、ゴブリン達は喜びの声を上げる。


「やり、にんげんのはら、きずつけた。まほうのやり、にんげんのうで、ひきさいた」


 この報告を受けたゴブリン達の喜び方は、りあむでもその表情が分かるほどだった。

 それまでの話では、人間は恐ろしく強く、槍でも傷つかなかったという話だったからだ。

 もしかしたら、倒すことができるかもしれない手段がある。

 ゴブリン達にとって、朗報といっていい。

 当然のことだが、片足を失ったゴブリンの言うことを疑うものは、一匹もいなかった。

 嘘を吐く理由がないし、利点もない。

 なによりも、同じゴブリン・ツリーから生まれ落ちた者同士である。

 そして、それは同時に、このゴブリンにできたのであれば、ほかの全てのゴブリンにもできうる可能性がある、ということを示していた。


「これで皆が魔法を覚えれば、次は撃退できるかもしれないな」


「ダメダメダメダメダメ!! なにいってんのさ!!」


 りあむは身を乗り出して、金切り声を上げた。


「魔法なんてっ! そんなもの使ったら、魔力を使っちゃうんだよ!?」


 魔法を使うには、魔力を消費する必要がある。

 ゴブリンは、外から魔力を吸収する事がない。

 一生のうちに使うことができる魔力は、体内の魔石に内封された分だけに限られる。

 生きているだけで少しずつ魔力は消費されていく。

 つまり、ゴブリンにとって、魔力とは寿命と同意なのである。

 そんなものを魔法なんぞで浪費させてなるものか、というのが、りあむの考えだ。


「なぜだ。つよいのに」


「まほう、かりにもつかえる」


「べんり」


 対してゴブリン達は、まったく違う意見を持っているようだった。

 ゴブリン達も、魔力のことは知っている。

 そのうえで、使うことに全くためらいを持っていないのだ。

 自分達の寿命よりも、魔法の優位性の方が重要だと考えているのである。

 ゴブリンは狩りなどをしているため、常に危険に身を置いているのだ。

 三匹の老ゴブリン達ぐらい長く生きていられる方が珍しい。

 大半のゴブリンは生後半年で死ぬというのだから、その過酷さがわかる。

 ならば、二年から一年半程度という寿命が多少縮んでも、どうということはない。

 という考えなのだ。

 りあむとしても、その考えはわからなくもない。

 だが、理屈が分かるのと理解するのとは、まったくの別なのだ。


「そんなもの使わなくてもいいの! 早死にするかもしれないんだよ!?」


「じゅみょうは、だいぶけずれただろうな」


「けじゅっ!?」


 老ゴブリン達の言葉に、りあむは喉から奇妙な声を出した。


「たぶん、さんびきよりも、たくさんけずれた。まほうのやり、つよい。そのぶん、まりょくつかうとおもう」


 片足を失ったゴブリンである。

 強力な魔法は、その分魔力を使う。

 だから、強力な魔法を使った自分の魔力は、多く減っているはずだ。

 そういうことが、感覚で理解できているのだろう。


「じぶんは、まだわかい。としよりつかったら、たぶんしぬ」


 それだけ魔力を使ったという自覚があるのだろう。

 実際、老ゴブリン達が使った魔法よりも、片足を失ったゴブリンが使った魔法の方が強力だった。

 その分魔力の消費は激しく、相当な量の魔力を失っている。

 もし老ゴブリンがあの魔法を使っていたら、片足を失ったゴブリンの予想通りのことが起きていただろう。


「しみゅっ!?」


 再び、りあむのが奇妙な鳴き声を上げた。

 一瞬白目をむいてのけぞるが、すぐに首を振って体を起き上がらせる。


「ダメダメダメ! 禁止! 魔法禁止! 勝手に使ったらだめだからね!!」


「なぜだ」


「まほう、きょうりょく」


「にんげんきたら、どうするのか」


「大丈夫だもん! 準備すればいいんだよ、道具とかを! もちろん、戦うための準備も!」


 自信ありげな言葉に、ゴブリン達は首をかしげる。

 りあむも、何も考えずに言っているわけでは無い。

 対抗しうる方法を、既にいくつか頭に浮かべているのだ。


「大体、皆には勘違いしてる! 早死にしてどうするんだよ! 長生きして、少しでもゴブリン・ツリーのために働く方が、皆だって嬉しいでしょ!」


 それは、間違いなくそうだ。

 ゴブリン達は大きくうなずいている。


「だったら、魔法に頼るより、道具に頼ろうよ! 人間を迎撃する設備と道具を作るの! それが本筋だよ! それでも、ぐっ、駄目だったら、いや、絶対そんなことさせないけど、まほうに、たよろう」


 言いたくないものを、りあむは無理矢理口にした。

 ゴブリン達の言うことも、りあむにはわかるのだ。

 魔法に頼らざるを得ない場面は、有るかもしれない。

 それでも、できるなら使いたくはなかった。

 一応使うかもしれないというようなことを言ったのは、それに頼らざるを得ない場面があるかもしれない、と考えてのことだ。

 りあむは実際に魔法を使う場面は、見たことはない。

 それでも、使った等のゴブリン達の言葉を聞けば、強力なのは間違いない。

 万が一の状況が、ないとは言えない以上、絶対に使わない、とは言えないのだ。


「なら、まほうのれんしゅうをするか」


「まほうのやり、うまくできるかわからないからな」


「ひつようだろう」


「駄目に決まってるでしょそんなの!! 練習で命削ってどうするのさっ! 禁止! 絶対禁止! 魔法の練習禁止!!!」


「なぜだ」


「おそらく、いざとなったら、みんなできる」


 不満げなゴブリン達に、片足を失ったゴブリンが言う。


「しぬかくごする。ちから、うごくようになる。たぶん、みんなすぐにできる」


「そんな覚悟、しなくていいの!!」


 りあむは悲鳴に近い声を上げながら、心に決めた。

 洞窟の周りに、防衛設備を作る。

 それに合わせて、様々武器も新造するのだ。

 丁度、アクジキを狩るために、三つのチームを大きく崩したところである。

 新しい編成や試みをするには、いい機会だ。

 魔法は使わせない。

 人間は殺す。

 新しい目標を見つけ、りあむは大いに張り切るのであった。

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