二十二話 「ちょっ、おい、リーダー! それ大丈夫かよ!」
三匹の老ゴブリンは、武器を構えたままじりじりと動き続けていた。
クードを取り囲むように、ちょうど三角形を作るような配置に動いていく。
人間の戦い方でも、しばしばみられるものだ。
こうなると、三匹のうち二匹は何とか視界に入れられても、一匹はどうしても死角に入る。
極ありきたりな位置取りに見えるが、ここからどう攻撃するかというのが難しい。
バラバラに攻めれば、囲んでいる意味がなくなってしまう。
全員が同じような攻撃を仕掛けてしまえば、お互いが邪魔になって動けなくなる。
クードは隙を作らないよう、ゆっくりと視線を回した。
三匹のゴブリンは、それぞれ上段、中段、下段に武器を構えている。
これならば、互いの動きを阻害することはない。
まして、三匹の連携は先に見た通りだ。
この陣形を作られたのは、あまりよろしくなかった。
といって、邪魔するのも難しかっただろう。
無理に動けばそれが隙となり、攻め込まれたはずだ。
何にしても、こうなってしまってから考えたところで仕方ない。
ゴブリン達の出方をうかがい、攻めてきたところを迎え撃つ。
クードはそう腹をくくると、構えをとった。
修めている流派の構えであり、クードがもっとも慣れ親しんだものだ。
どんなことが起こるかわからない状況であれば、これが一番信頼できる。
ふと、ゴブリン・ツリーの前で盾を構えているゴブリンが気になった。
片足を失ってなお、役目を果たそうとしているのだろう。
クードにはゴブリンの表情を見極める能力はないが、強い決意の様なものを感じる。
こういう手合いは気を付けなければならない。
覚悟を決めたものというのは、どんなことをしてくるか分からないのだ。
信じられない力を発揮して、驚くような状況を生み出したりする。
警戒しておくに越したことはない。
もっとも、今は周囲を囲む三匹をどうにかする方が先だろう。
クードは意識を集中させ、五感が捕らえる情報を狭く絞り込んでいった。
十数歩範囲から外の情報を遮断する代わりに、その範囲内での出来事であれば正確にとらえることができるようになる。
精神の集中と、体内で練り上げたエネルギーの循環を調整することで可能になる技だ。
クードの奥の手の一つである。
はたから見ていたパラパタは、息を呑んだ。
集中している表情などから、クードが奥の手を一つ切ったことが分かったからだ。
ほかの事ならばともかくとして、こと真正面からの戦いという点では、クードの戦闘力は異常だとパラパタは思っていた。
何しろ、生身で剣や斧、ハンマーはおろか、魔法の直撃にも耐える。
もちろんそれに見合う怪力も持っており、岩やら鎧やらを平気な顔で素手で砕く。
それだけでは飽き足らず、何か奇妙な格闘技術まで会得しており。
自分の身の丈の数倍、体重にして十数倍はあろうかというモンスターを、真正面から殴り倒すのだ。
ほかのことに関してはてんで頼りないが、こと戦闘力だけとってみれば、クードは人というより、モンスターのそれに近い。
今の状況では手助けをしようにも、逆に足手まといになるだろう。
クロスボウを構えなおし、ゴブリン・ツリーの方へと目を向ける。
足を失ったゴブリンが、盾を構えているのが見えた。
手負いの何とかは、の例えではないが、こういうモンスターは油断できない。
特にこういう人間と同じような思考をする種のものは、捨て鉢になって予測できない行動に出たりする。
場合によっては手助けが必要だろうか。
いや、余計なことをすればかえって邪魔になるかも。
色々と考えを巡らせつつ、ハラハラしながら状況を見守る。
もどかしいが、どうしようもない。
パラパタは歯噛みをしながら、クロスボウを握る手に力を込めた。
古参のゴブリン達ではあったが、人型の敵と戦うのはこれが初めてだった。
ゴブリン・ツリーがこの場所に根を下ろして以来、いわゆる人型のものと遭遇したことは一度もない。
だから正直なところ、老ゴブリン達もどう戦えばいいのか、よくわからなかった。
何しろ人型のものと戦うことを、想定したことすらなかったのだ。
ゴブリン同士での訓練戦闘、というようなことも、やったことがない。
今までそんなことをする必要がなかったし、している余力もなかった。
狩りをして、体を休め、また狩りへ出る。
その繰り返しだった。
ほかのことをする余裕が出てきたのは、ここ最近の事。
ゴブリン・ツリーがりあむを生み出して以降のことだ。
とはいえ、泣き言を言っている暇はなかった。
敵として現れたからには、戦わなければならない。
その点について、ゴブリン達に躊躇はなかった。
何しろ相手は、ゴブリン・ツリーに近づいているのである。
同じゴブリン・ツリーから生まれたもの以外を、この場所に入れるわけにはいかないのだ。
目的はわからないが、追い返すか、殺すかしなければならない。
ゴブリン達がそれぞれに違う高さに武器を構えたのは、狩りの経験からくるものであった。
それがたまたま、人間も使う陣形に近いものになったのである。
三匹の老ゴブリンは、敵の動きに注意しつつも、互いの動きにも意識を向けていた。
折角相手を取り囲んでいても、攻撃する瞬間を誤ってしまっては意味がない。
重要なのは、攻撃を仕掛ける好機を見誤らないことである。
この敵は恐らく、老ゴブリン達が生きてきた中で。
というより、ゴブリン・ツリーがここに根を下ろして以降、もっとも強力な敵であるだろう。
地面に倒れているゴブリン達を見ると、まだ生きているようだとわかった。
ただ、動くことはできないらしい。
どうしてなのかはわからないが、動けなくするような何かをしたのだろう。
気を付けなれば、自分達も同じ目にあうことになる。
あるいは、死ぬことになるかもしれない。
それはそれでいいと、老ゴブリン達は思っていた。
自分達が死ぬことでゴブリン・ツリーが守られるのであれば、それが何よりである。
傷が増え、満足に動くことができなくなるまで生きることができた。
道具を作り、若いゴブリン達や、今後生まれてくるであろうゴブリン達に、それを残すことができた。
十分だ。
ここで死ぬことになっても、悔いはない。
むしろ、ゴブリン・ツリーを守って死ねるなら、本望である。
三匹とも、同じ思いであった。
そして。
わざわざ確認しなくとも、ほかの二匹も同じ思いであると、確信していた。
ならば、やることは一つだ。
ここまで生きて、物を作ることができて、まして最後に一働きできるとは。
まさに、存外の栄誉である。
三匹の老ゴブリンは、狩りの中に生きてきた。
武器を持ち、敵を前にすれば、やはり血が滾る。
まして手にしているのが自分達の作った武器ともなれば、喜びにも似た感情も溢れようというものだ。
覚悟を決めてしまえば、どうということはない。
しかも、戦う姿を見ているのは、ゴブリン・ツリーと来ている。
命を捨てるに不足はない。
これぞ、死ぬにふさわしい場である。
どちらも動かない、気の遠くなるような時間が続いた。
動いたのは、クードも老ゴブリン達も、ほぼ同時である。
どちらが先というのではなく、まるで息を合わせたかのような間の合い様であった。
下段に構えたゴブリンの槍が、クードの足元を薙ぐように振るわれる。
中段、上段の槍は、それぞれに腹と顔を狙って突き出された。
クードは片足を上げ、片足を地面に滑らせるようにしながら、全身を捻る。
奇怪なその動きで、紙一重で攻撃を避けた。
本来ならば、石製の武器など、当たったところで痛くもかゆくもない。
だが、クードの直感が、今彼らが振るう槍はよけなければならないと告げていたのだ。
普通であれば、クードの身体はこのまま倒れていくしかない。
片足はもち上げており、もう一方の足は地面についているとはいえ、体重を支えられる位置にはなかった。
そのまま倒れる、かと思いきや。
クードの身体はそのままの姿勢で、留まっていた。
これも、技の一つである。
体内で練り上げたエネルギーを、紐のように細く足の裏から地面へと流す。
それを再び足の裏へと戻し、また地面へと流しと繰り返していく。
エネルギーを縫い糸代わりにして、足と地面を縫い付けているのだ。
とはいえ、足の裏は固定されているものの、体重を支えているのは足首だけである。
身体能力を跳ね上げている状態でなければできない芸当だ。
曲芸のような真似をしたかいはあった。
体をのけぞらすときに、三匹のゴブリンの位置は確認している。
後は、その位置に打撃を打ち込めばいいのだ。両手、そして、空いている片足。
打撃姿勢は、考える必要はない。
クードの技で強化された肉体は、ただ思い切り突き出すだけで十二分な凶器となる。
加えて、当たった瞬間に練り上げたエネルギーを打ち込めば、打撃力は申し分ない。
伸ばした両手のひらは、上段と中段に構えたゴブリン達に。
足は、下段を打ったゴブリンの身体にめり込んだ。
触れた瞬間には、ほかのゴブリン達の意識を刈り取ったエネルギーの流れが、ゴブリン達の身体を駆け巡った。
対抗する何かを持っていない限り、クードの技は確実に意識を刈り取る。
例えるなら、濁流にのみ込まれるようなものだ。
抗おうが暴れようが関係なく、押し流される。
老ゴブリン達に対抗手段があるわけもなく、一瞬で意識をもっていかれた。
しかし。
三匹のゴブリン達の手は、意識とは関係なく動いていた。
打撃を打ち込まれるその瞬間、老ゴブリン達は身を守る行動をとるよりも、もう一撃を放とうと動いていたのだ。
手にした武器を、それぞれに敵に向かって振るう。
構えも何もないそれは、鋭さも素早さも重さもない、ただ振るわれただけのものだった。
だが、そこに込められたものは、文字通り老ゴブリン達の全身全霊。
命を賭して振った一撃には、言葉のままに魂が込められたのだ。
ゴブリン達の生命力。
体の中にある、魔石。
そこに封入されていた魔力が、老ゴブリン達の武器に込められたのである。
魔力とは、現実を捻じ曲げる対価であった。
支払う量が多ければ多いほど、質が良ければ良いほど、超常的な現象を引き起こすといってよい。
呪文や、練り上げる、といった行為は、対価である魔力を現象へと変化させるための手続きである。
厳密にいえばこれらは少々実際とは異なるのだが、大まかにはこういった理解でよい。
ともかく。
老ゴブリン達が振るった武器には、そのもっとも原始的ともいえる方法。
命を懸ける、という手続きがなされていた。
つまり、老ゴブリン達が振るった武器は、クードの技と同様、尋常ならざる力が込められていたのだ。
とっさに攻撃をよけようと考えたクードの判断は、的確であったのである。
そして、そのよけるべき攻撃は、再びクードに向かって振るわれた。
意識がなく、すさまじい衝撃にさらされているにもかかわらず。
老ゴブリン達の武器は、クードの体を捉えた。
わき腹に、太ももに、腕に、刃を突き立てる。
そして。
剣も魔法もはじき返すその強靭な皮膚を、刺し貫いた。
だが、皮膚を破っても、その下はやはり技によって尋常ならざる強度を持たされた肉がある。
老ゴブリン達の振るった武器は、その肉をわずかに抉って、動きを止めた。
意識を失う前に、老ゴブリン達が命と引き換えにと払った対価は、それで尽きたのだ。
老ゴブリン達はその場に崩れ落ち、クードはわずかに表情をしかめ、地面に転がった。
といっても、クードは体勢を崩したから転がったのであって、傷によってそうなったわけでは無い。
証拠に、クードは呼吸を荒くしながらも、すぐさま体をはね起こしたのだ。
片足を失ったゴブリンは、戦いの一部始終を見ていた。
老ゴブリン達が命を振り絞っての戦いを、ずっと目の前で見ていた。
倒される瞬間まで敵に対して武器を振るうのを。
その武器が、敵の身体を傷つける瞬間も。
しかし、それでも力及ばず、倒されてしまう姿を。
このゴブリンが盾を手にしていたのは、素早く動くことができないからだ。
盾であれば、最悪身を挺してゴブリン・ツリーを守るとき、少しは役に立つかもしれない。
だが。
今は、そんなことを言っている場合ではない。
三匹の老ゴブリンが、倒されてしまった。
今まともに、とは言い難いが、少しでも動けるのは、片足を失ったゴブリンしかいなかった。
ならば、戦わなければならない。
倒されたほかの仲間や、三匹の老ゴブリンの戦いを、見ていることしかできなかった。
敵わないであろう相手に挑みかかっていった、仲間の覚悟を、見ていることしかできなかった。
絶対に守らなければならないもののために、命を懸けて戦うのを、見ていることしかできなかった。
片足を失ったゴブリン以外は、全員倒されてしまっている。
動けるものは、もう一匹しか残っていない。
ならば、と、片足を失ったゴブリンは思った。
自分が戦うしかない。
今この場で戦うことができるのは、自分しかいないのだ。
あの敵を倒さなければならない。
ゴブリン・ツリーが根を下ろしているこの場所を、踏み荒らさせてなるものか。
どんなことをしてでも、あの敵を倒さなければならない。
そのためには、武器がいる。
爪や牙では、勝つことはできないだろう。
何か強力な武器が必要だ。
今持っている盾では、役に立たない。
ハンマーのようなものでも駄目だ。
刺し貫くような、強力な槍がいる。
だが、近くにはそれらしいものがない。
片足を失ったゴブリンは、歯を食いしばった。
武器だ。
武器がいるのだ。
牙と爪だけを頼りに、攻撃することはできる。
だが、それでは手もなく叩き潰されてしまう。
あの三匹の老ゴブリンは、強かった。
間違いなく強く、自分よりも遥かに優れていたのだ。
しかし、三匹共倒されてしまった。
それをやってのけた敵を、倒さなければならない。
だからこそ、武器が必要だ。
強力な武器が。
片足を失ったゴブリンは、強くこぶしを握り締めた。
なんでもいい、どんな方法でもいい、武器が必要なのだ。
たとえ自分が死ぬことになっても、目の前の敵は倒さなければならない。
それができる、武器を。
強く握りしめすぎ、軋みを上げる拳の中。
そこに、何かとてつもなく熱いものがあることに、片足を失ったゴブリンは気が付いた。
一体それが、なんなのかはわからない。
だが、片足を失ったゴブリンは、それが武器だと確信した。
命を削って生み出される、武器。
理屈ではない。
本能で、そう理解した。
だが、これだけではまだ足りない。
もっと強力なものでなければ、あの敵は倒せない。
ならば、やることは一つだ。
片足を失い、まともに戦うことができなくなった。
今後は、道具を作っていけばいい。
りあむはそういってくれた。
こんなことになっても、仲間の役に立てるのだ。
そう思えただけで、嬉しかった。
だが、ゴブリン・ツリーが無くなってしまったら、元も子もない。
自分達を生み、今後仲間を産み落とし、何に変えても守らなければならない。
ならば、することはやはり一つだ。
この武器を投げるのに必要な力を残して、後の全てを武器へと変える。
そうでなければ、この敵は倒せない。
あるいは。
いや、恐らく、それでも倒すことはできないだろう。
そうだとしても、やらなければならない。
片足を失ったゴブリンは、自分の体内にある魔石から、魔力を拳の中へと注いだ。
やり方は、本能でわかった。
拳の中があっという間に熱くなっていく。
これを、あの敵へ。
物を投げるのは得意ではなかったが、そんなことは言っていられない。
片足を失ったゴブリンは、渾身の力を込めて、拳の中の熱を投擲した。
「撃つなっ!」
それを察知したクードがとっさに取った行動は、パラパタへの警告だった。
ゴブリン・ツリーの前にいた片足の無いゴブリンが、魔法を放とうとしている。
三匹のゴブリンを退けた直後ではあったが、タイミング的にはよけることも可能だ。
だが、そうするとパラパタの方へ魔法が飛んでいきそうな位置関係にある。
これは、受けるしかない。
並や普通の魔法ならば、受けきる自信はあった。
狙いはクードであるだろうし、狙いが外れさえしなければ、問題ない。
問題があるとすれば、攻撃を察知したパラパタがゴブリンを止めようとボウガンを打つことだ。
ゴブリンに当たればまだいいが、何かの拍子にゴブリン・ツリーを傷つけたら、大変だ。
ギルドは、今後もこのゴブリン・ツリーを利用する気まんまんである。
それが、万が一ボウガンの矢の一本が原因で枯れた、などということになった日には、何を言われるかわからない。
傷付けるわけにはいかないのだ。
それに、矢のせいでゴブリンの狙いがそれたりしてもまずい。
確実にクードを狙ってもらわなければ困るのだ。
体内のエネルギーを、練り上げていく。
そして、それを片方の掌に集中させる。
正直なところ、ゴブリンが魔法を使ってくるとは思っていなかった。
ここまでも使ってこなかったし、その気配もなかったからだ。
いささか驚きはしたが、慌てることはない。
瞬きを数回する間に、ゴブリンの手から魔法が放たれた。
掌でそれを受けたクードは、すぐにしまったと表情をゆがめる。
大抵の場合、魔法攻撃というのは爆発するものであった。
被害を広範囲に広げるため、敵を刺し貫いた後威力を増すため、他にも、理由は様々ある。
だが、片足の無いゴブリンが放った魔法は、そういう種類のものではなかったのだ。
純粋な貫通力だけに特化した物だったのである。
この手の魔法は厄介だ。
クードの技をこじ開け、貫きかねない。
掌に殺到した熱いエネルギーの塊は、案の定クードの皮膚を貫いた。
それだけでなく、肉をえぐり、その下の骨を砕く。
手のひらから入った魔法は、それを貫通して腕に突き刺さった。
さらにそれを貫通するか、というところで。
魔法は霧散するように消え去った。
そこで、魔法に込められた魔力が尽きたのだ。
血が流れるのを気にもせず、クードは片足のゴブリンを見やった。
魔法を投擲した姿勢のまま地面に突っ伏し、動かなくなっている。
気絶したか、あるいは死んだのか。
ここからではわからない。
「ちょっ、おい、リーダー! それ大丈夫かよ!」
「んあ? ああ、平気よ」
血相を変えて声をかけてくるパラパタに、クードは苦笑で答えた。
実際、痛みはない。
技を使って痛みを遮断しているからだ。
「平気って。それヤバいだろ、どう見ても」
下手をすれば、確かに腕を失うような種類の怪我だろう。
だが、クードにとっては問題ない。
「薬預けてたでしょ。ポーション」
言われて、パラパタは慌てて薬を懐から取り出した。
普通の薬ではなく、魔法の薬だ。
傷を塞ぎ、癒すことに特化したもので、お値段もそれなりである。
クードは大きく深呼吸をすると、それを負傷した腕にかけた。
途端に、白い煙が吹きあがり、見る間に傷が塞がっていく。
パラパタはあんぐりと口を開け、目を剥いた。
それもそのはずで、この薬にはそこまでの効果はないはずなのだ。
高価な魔法薬の中には、失った四肢を取り戻すようなものまである。
だが、これはせいぜい傷をふさぐ程度のものであるはずだったのだ。
「技だよ、技。薬の効果を何倍にもするの」
自分の身体を調整するのは、クードの技の基本だ。
こういった種類のことは、得意な部類のことに入る。
「デタラメだなぁ」
若干引きながら言うパラパタに肩をすくめて見て、クードは自分の手を確認する。
傷はふさがり、骨は繋がり、肉も回復していた。
腹や腕、太ももに受けた傷も、血は止まっている。
時間が立てば、問題なく治るだろう。
正直、手のひらの皮を貫かれたときは、肝が冷えた。
幸いだったのが、魔法が手のひらを貫通したことだろう。
練り上げて集めていたエネルギーをぶつけ、威力をそぐことができた。
ほかの場所に当たっていたら、もっとひどい怪我になっていたはずだ。
まあ、狙って手のひらに当てさせたわけだから、たとえ話にしかならないのではあるが。
「まぁ、とにかく。コレで、全部気絶したかね」
「死んでるのもいるんじゃないの?」
「どうだろう。確認してみないとわかんないけど」
パラパタが警戒しながら、広場の中に入ってくる。
手には、ロープが何本も握られていた。
念のため、これでゴブリン達を縛っておくつもりなのだ。
「このあと、どうするんだっけ?」
「ゴブリン・ツリーになってる実から、魔石取り出すんだよ。それは俺の仕事だね」
「よろしく。俺そういうの苦手なんだよね」
「こっちだって苦手だって。ていうか、リーダーもヴェローレも不器用すぎるんだよ」
パラパタはぶつくさと文句を言いながらも、手際よくゴブリン達を縛っていった。
この後、ゴブリン・ツリーになっている実から魔石を摘出した冒険者三人組は、それを持ってすぐさま帰路へ着いた。
リーダーであるクードが負傷した以外は、特に問題は起きていない。
あとは、ギルドに魔石を届ければ、仕事は終了である。
どういう結果になるかはわからないが、おそらくB級冒険者へ昇格、ということになるだろう。
りあむ達が洞窟に戻ったのは、冒険者三人組が立ち去ってから、しばらくしてからの事である。




