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二十一話 「気が付かれた。迎撃の準備してるっぽいよ」

 二部隊のゴブリンプラントが森の中へと入っていったのを確認し、三人組の冒険者は行動を開始した。

 森から洞窟までは遮るものもなく、姿も隠せない。


「姿隠しのスクロールでも持ってくりゃよかったかな」


 ぼやくパラパタに、クードは不思議そうな顔を向ける。


「なに、お前使えたっけ? スクロールなんて」


 スクロールというのは、使用すれば魔法を発動できる使い捨ての道具の総称だ。

 多くが呪文の書き込まれた巻物のような形状をしているが、案外それ以外のものも多い。

 出始めの頃は、巻物の形のものが大半であった。

 そのため、いまだに「魔法を発動できる使い捨ての道具=スクロール」という習慣が残っているのである。

 ただし、それがあればだれでも魔法を発動できる、という種類のものではなかった。

 使用するにも、多少なりの才能と努力が必要なのだ。

 特にこの「才能」というのが厄介で、多少でも魔力を操る才能がなければ、スクロールを発動させることはできなかった。


「いや、使えないけど。だってヴェローレが使えるでしょ」


 ヴェローレは近中遠距離、単体から範囲攻撃までの様々な魔法を使いこなす、強力な戦魔法使いだ。

 普通、魔法を習得しているものにとって、スクロールを使うことなど朝飯前のはずである。

 だが。


「俺もそう思ったんだけどね。使えないらしいのよ」


「うっそ。なんで」


 パラパタは困惑した表情を、ヴェローレに向ける。

 それに対し、ヴェローレは射殺さんばかりに鋭い目で睨んだ。


「うるさいわねああいう細かい作業は嫌いなのよ」


「苦手じゃなくて嫌いって言いきっちゃうところが清々しいなぁ」


 クードはヴェローレを「まぁまぁ」と宥めながら、苦笑を漏らす。


「俺だってスクロールのことは考えたよ。でも、俺もお前も使えないでしょ? ヴェローレに聞いてみたら、こっちもダメだって。ってことは、まぁ、誰も使えないってことだなぁ、って」


「相談ぐらいしてくれてもよかったんじゃない?」


 曲がりなりにも一緒に行動するならば、そういう報告は必要だろう。

 だが、パラパタの言葉に咎めるような色はない。

 言わなかったなら、言わなかったなりに理由があるのだろうと、思っているからだ。

 その程度には、リーダーであるクードのことを信頼しているのである。


「口止めされてて。恥ずかしかったんじゃない?」


「それ言ったら意味ないでしょう!」


 若干赤い顔をしたヴェローレに睨まれるが、クードは特に気にする様子もない。


「とりあえず、事前に用意してた灰色の布かぶって走るしかないか」


 クードが片手で持ちあげたのは、ここに来る前に店で買い求めた大きな布であった。

 石や砂利などに似たいくつかの色で、まだら模様に染め上げられている。

 これを被ってうずくまっていると、遠目には地面と判別がつかなくなるという類のものだ。


「ていうかスカウト用品ってことごとく高いんだよなぁ」


「しょうがないよ。丈夫で簡単に破けないやつなんだし」


 丈夫で良い品というのは、得てして高いものである。

 さして大きな金額ではないといえばないが、こういう細かな出費が後々に響いてくるのだ。

 しかも、今回はこれを使い捨てる予定である。


「今回は出費がかさむなぁー。普段なら絶対受けない種類の仕事だよ、正直」


「ほんとだよね」


「愚痴ってないで、さっさと行くわよ」


 ヴェローレに促され、クードとパラパタはやる気無さそうにため息を吐いた。

 それでも幾らか表情を引き締め直したクードは、「じゃあ」と切り替えるように声を出す。


「後始末の確認」


「全部終わらせてある」


 パラパタは思い出すように指を折りながら、応える。

 今回は速度が命なので、必要最低限以外の装備は破棄していくことにしていた。

 簡易拠点は壊し、それ以外は燃やすなどしている。

 森で火を使うと危険、などと思うものもいるかもしれないが、案外問題ない。

 何しろ、火を吹く魔獣などというのはざらにいるのだ。

 多少燃やしたところで問題ないし、煙が目立つなどということもない。


「装備の確認。俺はオッケー」


 言いながら、クードは背負っている背嚢を叩いた。

 ほかの二人が背負っているものよりも、やや大きめのものだ。

 徒手空拳が武器であるクードが、幾らか多く荷物を分担しているのである。


「こっちも大丈夫」


 パラパタは体のあちこちに仕込んだ武器を触って確認し、持っていたクロスボウを掲げた。

 こちらも、背嚢を背負っている。

 一番体格が小さいので、相対的に大きなものを背負っているように見えるのだが、実際はそうでもなかった。


「私も、行ける」


 改めて何か確かめたりもせずに、ヴェローレは担いだ杖で肩を叩いた。

 身の丈よりも長く、金属と木材の組み合わされた驚くほど武骨な鈍器とも見まごう杖を、片手で扱っている。

 そのうえでパラパタと同じ大きさの背嚢を背負っているのだが、まるで重そうな様子はない。


「じゃあ、行きますか」


 三人はそれぞれに身体を隠すように布を被ると、ゴブリンツリーがあると思われる洞窟に向かい、走り始めた。




 一匹のゴブリンが確認した異変は、瞬く間に警備をしていたゴブリン全体に行き渡った。

 荒野の中央付近で、何かが動いている。

 非常にわかりにくく、ほんの少しの違和感であったのだが、やはりおかしいということになった。

 普段ならば、もう少し発見は遅れていたかもしれない。

 仲間がアクジキと戦いに出ていたからだろう。

 普段よりも緊張感をもって周囲を警戒していたので、気が付くことができたのだ。

 それは、かなりの速度で一直線にこちらに向かってきていた。

 大きさはイノシシよりも小さく、ネズミより大きい程度。

 おそらく、ゴブリンより何割か大きい。

 数は三つ。

 それ以外のところは、とりあえず不明。

 近づいてくるにつれて、わかってくるだろう。

 この情報に合わせて、ゴブリン達はすぐさま武器を用意し始めた。

 盾、槍、ハンマー、ボーラ、などである。

 大型の相手に盾は意味がない場合も多いが、今回は相手の体格を見て用意することにした。

 現場の指揮をしているリーダーは、何匹かに洞窟の中に潜むよう指示する。

 武器の補充係と、万が一の時に予備兵力とするためだ。

 ゴブリンツリーがこの場所に根を下ろしてからこれまで、ゴブリンと近くに住む猛禽以外が近づくことは一度もなかった。

 今のような状況は、初めて経験するものである。

 それでも、どのゴブリンも焦った様子はなかった。

 元々種族的な特徴で、激しく感情が高ぶるということが少ないのだ。

 特に、緊張や驚きといったものが表情や態度に出ることは、ほとんどない。

 それが良い場合もあれば、悪く出る場合もあるだろう。

 今のような状況においては、良い方に影響しているようである。

 リーダーの指示で迅速に行動し、ゴブリン達は準備を済ませた。

 あとは、相手の出方次第だ。

 近づきすぎてくるようならば、即攻撃するのみである。




 ゴブリン達と監視し続けていたパラパタは、動きの変化を見て取って舌打ちをした。


「気が付かれた。迎撃の準備してるっぽいよ」


「まいったなぁ、予想よりも早めじゃない?」


 顔をしかめるクードだったが、誤差の範囲である。


「予定変更なし。このまま行こう」


「あいよ」


「了解」


 三人は速度を変えることなく、真っ直ぐに走り続ける。

 その速度は驚くほど速く、馬などにも匹敵するだろう。

 C級冒険者の走力というのは、尋常ならざるものがある。

 もうすぐB級になろうかというこの三人のそれは、条件次第だが、そこらの騎乗動物よりよほど優れているのだ。


「武器は何を準備してるの?」


 ヴェローレに聞かれ、パラパタは目を凝らした。

 先制攻撃を仕掛ける予定のヴェローレにとっては、重要な情報である。


「ボーラ、槍、ハンマー、それと盾。縄と網を持ってるのもいる」


「ほかに変わったのは?」


「特に無さそう。相変わらず武器の形がまちまちだから、判断付かない部分あるけど」


 ゴブリン達が使っている武器の見た目は、統一感があるとは言えなかった。

 何しろ、素材を加工するための道具が乏しい。

 一定品質のものを作るのは、かなり難しいのだ。


「ゴブリンが画一した品質の武器持ってたら、それはそれで怖いけどね」


「とりあえずは問題なさそうってことね。なら、このままやる」


 ヴェローレは担いだ杖で肩を数回叩き、口の端を釣り上げた。

 その威圧感に、クードとパラパタは腰の引けたような表情を浮かべる。


「まあ、ほどほどにね」




 ゴブリン達が警戒するなか、三つの正体不明の何かは、速度を変えることなく洞窟に近づいてきていた。

 そろそろ接触か、と、ゴブリン達が武器を構える中、変化が起きる。

 まず、かぶっていたものを投げ捨て、正体を現した。

 人間である。

 そう、ゴブリン達は判断した。

 りあむとの接触で、ゴブリン達は人間のおおよその外見的特徴を把握している。

 今のところ発見したことも見かけたこともなかったので、詳しい話はしたことはない。

 ただ、もし敵になった場合、厄介な相手だと説明されていた。

 リーダーは、ためらいなく攻撃を決める。

 ボーラの準備を指示し、自身も振り回して投擲準備を始めた。

 まだ、距離はかなり離れているので、こちらの投擲は届かない。

 その時だ。

 近づいてくる人間の一匹が、担いでいた巨大な武器の様なものをふるった。

 その先から、何やら灰色の塊のようなものが打ち出される。


「ちらばれ!」


 リーダーはある程度冷静に状況を判断し、そう叫んだ。

 高速で飛来した灰色の塊は、ゴブリン達の中央に突っ込んでくる。

 場合によっては身を挺して洞窟を守るのが役目だが、幸い着弾するであろう場所は、洞窟の出入り口から少し離れていた。

 ならば、無理に盾になる必要はない。

 よけて少しでも被害を減らそう、と考えたのだ。

 だが、そう上手くはいかなかった。

 ゴブリン達はすぐさま着弾するであろう場所から飛びのき、離れたのだが、灰色の塊の方に変化が起きたのである。

 地面に触れる寸前、煙の様なものに変化し、爆発するように広がったのだ。

 高さはほとんどなく、円形に広がったソレは、ゴブリン達の身体に絡みついた。

 しまったと思ったときには、もう遅い。

 煙のようなそれはゴブリン達の身体に絡まり、粘りつくように動きを阻害した。

 泥沼か、あるいは巨大な蜘蛛の巣か。

 そういったものに絡め取られたような、動きにくさである。

 どのゴブリンも、何とか動きを取ろうともがくが、まったく身動きが取れなかった。

 なんとか、動きが取れるものが居ないか。

 リーダーが周囲を見回すが、驚くことに煙の様なものは、見る限りすべてのゴブリンを捉えている。

 何とかしなければ。

 そう考えるリーダーだったが、やはり身動きが取れないのでは、どうしようもなかった。




 数時間かけて準備したヴェローレの対軍用足止め魔法は、絶大な効果を発揮していた。

 通常は多数の歩兵相手などに使うものである。

 解呪や障壁といったものに弱く、大型の魔獣相手では引きちぎられ、準備にも時間はかかるのだが。

 一度決まってしまえば、これほど厄介な魔法も少ない。

 予想通り、ゴブリン達はこの魔法に対する対抗手段を持っていないようだった。

 魔法を解除する方法もないらしく、無理やり引きちぎる筋力もなさそうだ。

 ヴェローレはほかの二人を追い抜くように速度を上げ、足止め魔法を突っ切ってゴブリン達の中央へ躍り出た。

 自分に絡みつく魔法は、携帯している呪具で無効化している。

 ヴェローレは担いだままの杖に、魔力を注いだ。

 杖の内部に準備していたもう一つの魔法を、起動するためである。

 鈍い金属音が、杖から響く。

 かなり大きなその音は、内部魔法装置が稼働した音だ。

 一瞬後、杖の先から発生したのは、真っ黒な雲か煙の様なものであった。

 先ほどのものと同じく同心円状に広がったソレは、意志を持つもののようにゴブリン達の頭をめがけて襲い掛かる。

 それが触れたゴブリンは、痙攣するように体をのけぞらせた。

 だが、それもわずかの間であり、すぐにぐったりと体から力が抜け、眠ったように動かなくなる。

 長時間触れることで相手を気絶させる、精神系の魔法だ。

 やはり対策を取られやすい種類の、戦場ではありきたりの魔法。

 逆に言えば、対策をとっていない相手には、致命的ともいえる種類の魔法である。


「うわぁ。相変わらずだな」


「えげつないわぁ」


 様子を見ていたクードとパラパタが、引き気味に呟いた。

 二人は、二種類の魔法に対する対抗手段を用意していない。

 迂闊に近づくと、巻き込まれる危険があるのだ。

 ヴェローレは小走りに二人に近づきながら、杖を担ぎなおした。


「かなり練り込んであるから、それなりに持つと思うけど」


「上等上等。じゃあ、ここで待機よろしく」


 ヴェローレはこのまま、洞窟の外で待機することになっている。

 ゴブリン達が目を覚ましたら、再度行動不能に。

 森に入ったゴブリン達が戻ってきたら、時間稼ぎをする予定だ。


「しくじらないようにしてよ」


「まあ、ぼちぼちやるよ」


「万が一の時はリーダーを盾にするから」


 クードとパラパタはヘラリと笑ってそういうと、そそくさと洞窟の中へ入っていった。




 そのゴブリンは狩りの時、間違えて岩に槍を突き立てたことがあった。

 微動だにしない様は、まさにその時の手ごたえに似ている。

 体格で言えば、目の前の人間はゴブリンの一回り程上だ。

 重さもいくらか上だろう。

 それにしても、槍を突き立てた手ごたえは異常だと、ゴブリンは思った。

 洞窟の中に隠れていたゴブリンは、中に侵入してきた相手に躊躇なく槍を打ち込んだ。

 ゴブリンツリーが生えている空間への出入り口。

 死角を利用した、飛び込みながらの一撃である。

 通常ならば、槍は相手の身体を貫いていたはずだ。

 並や普通の魔獣の身体も突き通す、そんな一撃。

 にもかかわらず、槍の切っ先は人間の身体に突き刺さるどころか、傷一つ付けていなかった。

 広げられた掌の中心で受け止められた槍の先を、人間はしっかりと握り込む。


「悪いね。真正面からの殴り合いは得意なのよ」


 人間の言葉で言われた内容は、ゴブリンには全く分からなかった。

 槍をつかんだクードは、引き寄せざまゴブリンの胸部に拳を叩きこんだ。




 体に流れるエネルギーを凝縮させ、一時的に身体能力を強化する。

 それが、クードの手札の一つだ。

 刀剣をはじき、魔法の直撃にも耐える。

 鉄壁ともいえる防御は、攻撃にも有効だ。

 高硬度の拳を、やはり底上げした筋力をもって打ち込む。

 格闘の技を絡めれば、もはや人の身体とは思えないほどの凶器となる。

 だが、クードの技はそれだけではない。

 相手の身体に接触した瞬間、体内で練り上げたエネルギー。

 魔力や気などといったものを、同時に打ち込むのだ。

 相手は物理的な衝撃だけではなく、体内にまでダメージを受けることになる。

 対抗手段を持つものでなければ、一瞬で意識を失う。

 出会い頭に槍を突き立てたゴブリンは、この技でもって意識を刈り取られ、そのまま地面に崩れ落ちた。

 それにひるむことなく、ゴブリン達は襲い掛かってくる。

 ボーラと網が投げつけられるが、クードはこれを手をふるって絡め取った。

 こういったものを使っての行動阻害は、実に効果的だ。

 それだけに、よく使われる手法でもある。

 クードが収めている格闘の流派には、これらに対応する技があったのだ。

 それを見ても、ゴブリン達は冷静に対応する。

 すぐさま槍やハンマーを手に取り、クードに襲い掛かった。

 よく連携の取れた、素晴らしい動きだ。

 それは、クードも認めるところであった。

 だが、いかんせん武器が悪い。

 ゴブリン達が持つどの武器も、クードの身体を貫くことが出来ないのだ。

 一匹、また一匹と、クードはゴブリンを戦闘不能にしていく。

 決定的に殺すことは、極力避けていた。

 ギルドの目的は、ゴブリンツリーになっているゴブリンから、魔石を得ることである。

 ゴブリンを減らすことは、ゴブリンツリーの生育を妨げることと同義だ。

 そうなれば、魔石を得る妨げになってしまう。

 ゴブリンはなるべく殺さず、無力化する。

 それも、この依頼の難しさであった。

 幸か不幸か、今のところ冒険者三人組は、一匹のゴブリンも殺していない。


「このまま、うまく行くかねぇ」


 そう呟いたクードだったが、なかなかどうして、そうはいかないようだった。

 ゴブリン達の攻撃を、ほとんど無視する形で戦っていたクードが、とっさに体を引いて攻撃を避ける。

 突き出された槍は、的確にクードの目を狙ったものだったのだ。

 強化しているとはいえ、目は別である。

 石でできた槍であっても、容易に刺し貫くことが出来るだろう。

 避けたところに、二の槍、三の槍が突き出された。

 それらは同じゴブリンではなく、それまで以上に連携の取れたゴブリンによるものだ。

 ほかのゴブリン達よりも暗い色合いの、いささかくすんだ体色のゴブリン達である。

 手や足などに塞がった傷跡が目立ち、動きはいささかぎこちなく見える部分もあった。

 だが、経験からくるものなのか、動きには無駄もなく、こちらの先を読むような強かさも見て取れる。

 クードはわずかに目を細め、洞窟の中で待機しているパラパタに声を投げた。


「頭隠しといて。ちょっと厄介そうだから」


「マジかよ。負けないでよ、俺こういうところでやりあうの苦手なんだから」


「もうちょっと応援するようなこと言わない? 普通」


 苦笑しながらも、クードは目の前の三匹のゴブリンから目を離さなかった。

 地力で言えば、クードの方がはるかに上だろう。

 数の利はあるだろうが、そういったものでは覆せないほど身体能力差がある。

 ただ、クードはそれをもって油断し、相手を軽く見る種類の人間ではなかった。

 むしろ、相手を重く見すぎ、警戒しすぎ、慎重になりすぎる癖を持っているのだ。

 だからこそ、今までB級冒険者になれずに来たのだし、だからこそ、これまで死なずに冒険者をやってこれたのである。


「まぁ、やるだけやってみるけどさ」


 軽口をたたきながら、クードは油断なく構えをとった。

 ゴブリン達はそれが意味するところがよく分からなかったが、何かしら危険なものであることだけは理解できたらしい。

 残ったゴブリン達の前に立った三匹の老ゴブリンは、僅かな目配せの後、それぞれに一定の距離をとって動き始めた。

 ほかのゴブリン達は、洞窟の中央に生えている、奇妙な形の木を守るように立っている。

 観察しているときに確認した、片足を失ったゴブリンも、盾を構えていた。

 その木が、ゴブリンツリーなのだろう。

 大きな実が、いくつか成っている。

 ここに居るゴブリンの全てを無力化しなければ、どうにもならないようだと、クードは考えた。


「まいったね、どーも」


 こういう老獪そうな相手とは、出来れば戦いたくない。

 だが、ここまで来た以上そうもいかないだろう。

 クードは疲れと諦めの混じった様な、深い深いため息を吐いた。

なんか、長くなりそうなので前後編に分けてみました

それでも七千文字なんだよなぁ、と思いましたが、前回は一万文字あったようです

すげぇなぁ・・・

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