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十八話 「そのためには、紐が必要かぁ。やっぱり煮炊きは必要かもなぁ」

 りあむとケンタ達四匹のゴブリンは、森の中にやってきていた。

 採集作業をする班に、同行させてもらったのだ。

 緊張した面持ちのゴブリン達に対し、りあむは楽しそうに周囲を見回している。

 一応、周囲の警戒と同時に、何か使えるものがないか調べている、という名目なのだが。

 表情に締まりがないせいか、遊んでいるようにも見える。

 それでも、肉体的疲労などがない余裕からなのか、あれこれと素材になりそうなものを見つけたりしていた。


「あれ、斧に使える石じゃないですか? あ、でも、大きすぎて持って帰れないかぁ」


「ここで、わっていく。わければ、もってかえれる」


「あ、そりゃそうですよね」


 何かあるたびに、そんな会話が交わされた。

 りあむが抜けているのか、ゴブリン達が優秀なのかはわからないが、採集は一応問題なく進んでいく。


 今ゴブリン達が採集を行っているのは、森の比較的浅いところであった。

 洞窟の近くに水場を確保できたので、採集はずいぶん楽になっている。

 水場は森の少し奥まったところにあったのだが、そこに行く必要もなくなった。

 森の荒れ地近く、ゴブリン達が言うところの「森の浅い場所」は、危険なモンスターが少ない。

 奥に行けば行くほど、狩場を広く持ちたがる、狂暴なものが多いのだ。

 ゴブリンが恐ろしく不味く、好んで食べようとするものはほとんどいなかった。

 むしろ避けて通られるぐらいなのだが、万が一ということもある。

 必要がないのであれば、そういった場所に行くのは避けたいところだ。


 ゴブリンの多くが、手武器を持っていた。

 槍やフレイル、ハンマーなどを片手に歩いているのだ。

 中には、何も持っていないゴブリンもいた。

 そういったゴブリンは採集専門で、拾ったり掘り起こしたりする作業をするため、両手を空けているのだ。

 ゴブリン達は、きちんと分業をしていた。

 ほかには、カゴを背負い、槍などの長柄の武器を持ったもの。

 カゴなどを持たず、武器だけを持ったものが居た。

 それぞれ、回収を担当するもの、運搬を担当するもの、護衛を担当するもの、である。

 これは、りあむが指示をしてできた役割分担ではない。

 元々あったものなのだが、道具が普及してより目で見てわかりやすくなったのだ。

 ゴブリンの仕事ぶりはなかなかのもので、全員が無駄なくてきぱきと動いていた。

 道具もきちんと使いこなしており、りあむも感心するほどだ。

 その様子を見て、ケンタ達も大いに喜んでいた。

 自分達が作ったものを使っているのをしっかりと見るのは、これが初めてだったからだろう。

 特にケンタ以外の三匹の喜びようは、相当のものであった。


 三匹とも、古いゴブリンだ。

 多くの怪我を負って、十全に動けなくなってしまっている。

 狩りなどで最大限にその能力を発揮するのは、もう難しい。 

 だが、彼らには多くの経験と知識があった。

 りあむはそれを買って、道具の制作に回ってもらうことにしたのだ。

 彼らが多くの怪我を負ったのは、一生懸命に働いたからである。

 そんな彼らだったから、動きが悪くなっても仲間の役に立てることに、大いに喜んだ。

 しかも、武器を作る仕事となれば、なおさらだ。

 彼らは長く仕事をしてきた分、武器の重要性をよく理解していた。

 武器がもっと手に入ればと、歯がゆい思いをしたこともあっただろう。

 それが、自分達の手で作ることができるようになったのだ。

 もう役に立てないかもしれないと思っていた自分達が、その重要さをよく知るものを作ることができるようになった。

 うれしくないはずがない。

 まして、目の前で実際に使われているのを見ることができたとなれば。

 その喜びは、言葉にならないほどだろう。


「うまく、つかえているようだ」


「なくなってもいいように、たくさんつくろう」


「あたらしいぶきも、つくりたい。りあむに、かんがえてもらおう」


 三匹の話し声に、どこか楽しそうな気配が感じられる。

 りあむは苦笑しながらも、「そんなに簡単には思いつきませんよ」という言葉を飲み込んだ。

 今のりあむの仕事は、ゴブリン達の役に立つことである。

 求められたのなら、ソレに答えなければならない。

 りあむにとってそれは仕事であると同時に、心の底からそうしたいと願うものであり、楽しみでもあるのだ。


「とはいえなぁ。実際、何をすればいいんだか」


 りあむは唸りながら、ケンタの頭の上にあごを置いた。


 ゴブリン達の仕事ぶりは、なかなかのものだった。

 役割分担もしっかりとできているし、道具も問題なく扱えているようだ。

 寿命が短いせいか、ゴブリン達は基本的に呑み込みが早い。

 すっかり道具も使いこなしており、槍や斧を使って、歩くのに邪魔な草を払ったりもしている。

 そうすることで、荷物を運ぶゴブリンの助けをしているのだ。

 おかげで、荷物を運ぶ係や、採集を担当するゴブリンが歩きやすくなっている。

 作業自体も非常に手際が良く、特に何かに困っている様子は見られない。

 むしろ、道具の便利さに、感動しているように感じられる。


「不満点とかがあるようなら、そこを改良していけるんだけど」


 今まで手に入らなかったものが、手に入った直後である。

 使いこなしてはいるものの、今はまだその便利さに驚いたり感心したりしているような段階なのだろう。

 不満点などが出てくるとすれば、もう少し先になりそうな雰囲気だった。


「動きを見て、必要そうな道具も思いつかないのか?」


 ケンタに聞かれ、りあむは首を大きく横に倒す。


「思いつくのはあるんだけど、金属とか布とかを使うものだからさ。作るのにどうしても手間暇がかかっちゃうんだよね」


 必要そうなものは、いくつか思いついた。

 例えば、枝葉を払うための鉈であるとか、布の袋や軍手といったものである。

 だが、そういったものは作るのに大変な手間がかかる。

 金属の加工に、布の制作。

 これらはすさまじい労力と、人手が必要になる。

 金属に至っては鉄鉱石を見つけるところから始めなければならないだろう。

 もっとも見つかったとしても、流石に製鉄に関する正確な知識はない。

 ざっくりとならわかるが、手さぐりになる分余計に時間がかかるはずだ。

 布に関しても、同様である。

 事前に作る必要がある道具が多く、金属加工ほどではないが手間暇がかかるだろう。


「何をやるにしても、時間がかかりそうなんだよねぇ」


「ならば、少し時間がかかることに手を付け始めてしまってもいいのではないか」


「というと?」


「思いつく限りの、すぐに結果が出せそうなことは、やり尽くしたのだろう。ならば、後は時間のかかることをやるしかない。幸い、今はすぐに結果が必要なほど切迫してはいない」


 道具を作ることができるようになり、狩りの効率は飛躍的に上がった。

 今まで狩ることができなかったようなものも相手どれるようになり、それでいて、ゴブリン達の被害は大きく減っている。

 採集に関しても同様で、集められる量が大幅に増えていた。

 洞窟の近くに水場を確保できたことも大きい。


 切迫していない、というのも本当だ。

 得られるものが増え、危険が減り、ゴブリンの生存率も上がった。

 そのおかげで、現状のゴブリンツリーには余裕さえできている。

 魔力も潤沢に蓄えられているし、そのほかの栄養に関しても申し分ない状態だ。

 ケンタの言葉に、りあむは体を起こして頷いた。


「それもそっか。時間をかけてもいいんだよね」


 りあむが生まれ変わった時、ゴブリンツリーが言っていたことは、おおよそ実現できているといっていい。

 あとは現状を安定させることさえできれば、当面の目的は完遂したといえる。

 今のゴブリン達の活動は、そこまで充実しているのだ。


「そうだ。魔力も余裕ができたって木の記憶も言ってたし、ケンタみたいなゴブリンを増やしてもらうこともできるかもね」


 今はケンタ一匹しかいないが、ケンタのようなゴブリンが増えれば活動の幅は広がるはずだ。

 作ることができる道具は、より複雑にできるだろう。

 ケンタの様なゴブリンは投擲能力も高いので、そういった武器も増やせるかもしれない。


「弓矢なんかを作ってもいいかもね」


 前から考えはあったが、強い紐と、木などの加工の難しさなどの理由から、断念した武器だ。

 手先の器用なゴブリンが増え、制作にも使用にも余裕ができれば、実用できる可能性も出てくる。


「そのためには、紐が必要かぁ。やっぱり煮炊きは必要かもなぁ」


 丈夫な紐を作るには、丈夫な繊維を作る必要がある。

 繊維が取れそうな植物探しから始まり、取り出し方も研究しなければならないだろう。

 りあむが繊維を取り出す方法を知っている植物も、何種類かはある。

 だがここは異世界であり、似た植物があったとしても、同じやり方が通用するかどうかはわからない。


「紐を作るために糸を作ったら、それを使って布とかも作れるかな。布はあるといろいろ便利だし。あ、網なんかも作れるかな?」


 布があれば、袋ができる。

 上手く加工すれば、軍手なども作ることができるだろう。

 ゴブリンの皮膚は非常に丈夫で、転がっているような尖った石や小枝程度でけがをすることは、まずない。

 だが、石器などになれば話は別だ。

 加工をしているときなど、時々指先を怪我することもあるのだが、軍手などがあればそれを防げるだろう。

 もちろんそれ以外にも、布の使い道はいくらでもある。


 網を作ることができれば、相当に頼もしい武器になるだろう。

 小さな動物程度ならこれをかければ簡単に捕まえられるし、大型のものに対しても動きを阻害するのに有効だ。

 ボーラよりも打撃力は劣るが、束縛する能力においては段違いといっていい。

 うまく作ることができ、扱うことができるようになれば、相当な戦力になることは間違いない。


「そうなると、繊維の取れそうな草を探さないとね」


「せんい、といわれても、どんなものか分からないぞ。見当もつかんが」


 言われて、それもそうだとりあむは頷いた。

 やみくもに集めるのも、効率が悪いだろう。

 それに、繊維をとる植物には、いくつか条件がある。

 比較的簡単に採取でき、量が揃えられること、などだ。

 たくさん手に入る植物だとしても、取りに行くまでの過程が危険なようでは意味がない。

 うまく繊維が取れるようになっても、その植物が希少でなかなか手に入らないのでは、話にもならないだろう。


「そっかぁ。みんなに条件を説明して探してもらうのにも、限界があるだろうしなぁ」


 ゴブリン達には、通常の業務もあるのだ。

 狩りに手を抜くことはできないし、枝葉の採集も忘れることはできない。

 どちらもゴブリンツリーを維持し、新しいゴブリンを生み出すのに絶対に必要なことなのだ。

 護衛を兼ねた、休憩時間も忘れることはできない。

 今のように、何かの合間に適当に拾ってきてもらうのが限界だろうか。


「繊維を集めるとすると、石やなんかとは比較にならないぐらい量が必要だろうし」


「定期的に、外に出るか」


 悩むりあむに、ケンタは提案するように言う。

 その言葉の意味が一瞬分からず、りあむは「へ?」と妙な声を上げた。


「採集に交じらせてもらって外に出て、我々が直接見ればいいだろう。邪魔にもならないだろうし、りあむの言う条件に合うものも見つけやすいはずだ」


 今回のように仕事を邪魔しない範囲でくっついていって、りあむの指示で直接探す。

 採集をしている班からあまり離れることはできないが、それなら仕事の邪魔になることはないはずだ。

 道具類も随分そろってきている現状、二日から三日に一回程度であれば、外に出ることはできる。


「そっか。自分達で探すのか。確かにそれもありだよね。時々外に出て採集するの」


 今回出てきただけでも、ずいぶん得るものは多かったようにりあむは思っていた。

 以前も何度か外には出たことはあったが、道具作りをしている今だからこそ、見えるようになったことも多い。

 ということは、今の状態で何度か外へ出れば、新しい発見があるだろう。

 それを足掛かりに、新しいことを始められるかもしれない。

 もちろん、ゴブリン達の仕事を、より楽に、より便利にすることを、である。


「戻ったら、木の記憶とも相談して決めようか。新しいゴブリンを生み出すペースとかとも兼ね合いとらないといけないだろうしね」


「分かった」


 頷くケンタをみて、りあむはすこぶる嬉しそうに笑う。

 周りを見回すと、ゴブリン達が仕事に励んでいた。

 皆が背負っているカゴがいっぱいになったようで、洞窟へ戻るようだ。

 ケンタ達四匹も、それに合わせて行動を始めている。

 りあむと話している間にも、ケンタ達はきちんと作業を行っていたのだ。

 なんだか一番仕事をしていないのは自分なのではないか、という気になってくるりあむだったが、気のせいということにする。

 りあむの仕事は、頭脳労働なのだ。

 何をすればいいか考え、生まれ変わる前の知識を生かしてゴブリン達の指示を出す。

 そうすることで、彼らの仕事を助ける。

 だから、多少抜けてるように見えたり、邪魔しているように見えても、その実きちんと仕事はこなしているのだ。

 たぶん。


「これから、どうくつへもどる。みな、しゅういにちゅういするように」


 班のリーダーが指示を出すと、ゴブリン達はそれぞれに返事をする。

 そこからの行動は、実に迅速だ。

 りあむはゴブリン達の様子を眺めながら、周囲の森を見回した。

 改めて目標を定めると、森の中がまた違って見えてくる。

 当てもなく漫然と眺めているのと、おおよそとはいえどんなものを探しているのか決まっているのとでは、大きな差があるものらしい。


 次の目標は、糸を作ること。

 そして、それを利用して、新しい縄や布、網などを作る。

 うまくいけば、また一歩ゴブリン達の仕事は楽になるだろう。

 そして、新しいゴブリンが生まれてくる助けにもなるはずだ。

 明るい前途を思い浮かべ、りあむは大きく胸を膨らませるのであった。




 洞窟の前についてから、しばらくが経った。

 集まっているのは、警備についていた班と、採集をしていた、りあむ達が混じらせてもらっていた班だ。

 狩りに向かっていた班は、まだ戻っていない。

 そのことで、ゴブリン達はにわかにあわただしくなっていた。

 戻ってくるのが、あまりにも遅いからだ。

 狩りは獲物を相手取る関係上、そうそう予定通りに戻ってくることは少なかった。

 それでも、分不相応な相手を狙わなければ、時間を大きく逸脱することは少ない。

 あまり時間をかけずに狩ることができる獲物を狙うのが常であるし、獲物が見つからなかったりしたら途中で切り上げて帰ってくることになっている。

 とはいえ、時間に遅れることが、ないわけではない。

 正確に時間通りとは行かない事が多いのは、当然だろう。

 しかし。

 時折はあるこの遅れに、ゴブリン達は妙にざわついていた。

 言葉にならない、奇妙な不安感を覚えているらしい。

 それはりあむも同じで、言いようのない胸騒ぎを感じていた。

 だから、森の方からやってくるゴブリン達を見たときは、りあむは心底ホッとしたのだ。

 遠目からでも何とか何匹いるか数えてみても、数が減っているようなこともない。

 きっと、杞憂だったのだろう。

 そう思っていたからこそ。

 ほかの仲間にささえられた一匹の姿を見た時。

 りあむの受けた衝撃は、すさまじいものになったのだ。




 ゴブリンツリーの洞窟を見張っている三人組の冒険者。

 その中で、偵察などの仕事を担当しているパルパタは、簡易拠点に戻ってくるなり大きなため息を吐いた。


「いやぁー、参った。俺一人で行かされるんだもん」


 りあむが洞窟から出たのを確認した彼らは、その様子を確認するため、パルパタを監視に出した。

 彼の全身に施された魔法の刺青には、気配の遮断や不可視化など、尾行に有用なものがいくつもある。

 ほかのものが一緒にいると、かえって邪魔になるのだ。


「役割分担でしょ。っていうか、精霊、とっくに戻ってきてたじゃない。今まで何やってたのよ」


 杖を抱えて不満げに言うヴェローレを、リーダーであるクードが「まぁまぁ」と宥める。

 パルパタは肩をすくめて、いかにも疲れたというように顔をしかめた。


「いやいや、まぁ、順を追って説明させてよ。まず、精霊に関してね。やっぱり何言ってんだか全然わかんなかった」


 パルパタは、りあむ達が森に入って以降、ずっとそのあとを尾行していた。

 発見されずに尾行、追跡することに関して、パルパタは専門といってもいい。

 よほど注意をしていて、探知の魔法などをある程度用意していたとしても、パルパタの尾行に気が付くのは至難の業だろう。


 そのパルパタだからこそ、ゴブリンプラント達にギリギリまで近づき、様々な情報を収集することができていた。

 言葉に関しても、同様だ。

 ゴブリンプラントが言語で意思疎通を図っていることは、すでに分かっている。

 それが三人組には理解できないものであることも、分かっていた。

 なので、精霊がゴブリンプラントと話すときに使う言葉も理解できないだろうと、予想はしていたのだ。

 パルパタの今の言葉は、それを一応確認したことを、伝えるためのものである。


「ニュアンスみたいなものはわからなかったの? 雰囲気とかさ」


「流石に、和やかに話してるとか、相談してるとかぐらいしかわかんないね」


 クードに聞かれ、パルパタは首を振った。

 職業と能力柄、そのあたりのことに関しては三人の中でパルパタが一番聡い。

 彼が言うのであればそうなのだろうと、ほかの二人は頷いた。


「あと、指示体制はこっちの睨み通りみたいよ? 三部隊体制で、それぞれに隊長的な立ち位置のものが居る。精霊は、その上にいるみたいね」


 ゴブリンプラント達が三つに分かれて活動していることは、すでに三人組も把握していた。

 今回は、精霊がその上にいて、全体の指揮を執っているらしいことを確認できたわけである。


「やっぱり、直接指揮はしてないみたいだね。おおざっぱな指示を出して、後は任せてる感じなのかもしれない。今回はそれとは別に、用事があったから出てきた感じだったね。なんか妙にきょろきょろしてたし」


「その目的までは流石にわからないよね?」


「ちょっとねぇ」


 首を振るパルパタに、クードはさして落胆した様子もなく「そっか」といった。

 さすがにそこまでは求めすぎだと思っていたらしい。


「精霊が直接指揮しているのも、やっぱり何匹か居たみたい。移動のために精霊がとりついてた個体とかは、かなり厄介そうだったね」


 ケンタの存在も、三人組は確認していた。

 りあむが外に出てくるときは常に一緒にいるわけだから、当然といえば当然だろう。


「となると、精霊が洞窟の外に出ているときを狙うのが無難かな。洞窟へ向かうのと入れ違いに襲撃すれば、それなりに時間は稼げそうだし」


 ギルドからの情報があるとはいえ、精霊がどの程度影響を与えるのか、あるいはどんな力を持っているかは未知数だ。

 ゴブリンツリーから離れてくれるのであれば、そこを狙いたい。

 依頼の成功率が上がることはあるだろうが、そのせいで失敗する確率はさがるはずだと、クードは考えたのだ。

 ほかの二人もその考えには賛同らしく、それぞれに「いいんじゃない」「さんせー」と声を上げた。


「まあ、具体的なやり方はあとでつめるとして。で、なんで遅くなったの?」


「それそれ。実は、戻ってくるときに狩りをしてる部隊を見つけてね。ついでだったからちょっと観察してたのよ」


 既にゴブリンプラントの狩りは何度も確認しているのだが、情報は多いに越したことはない。


「で、そのときに思わぬものを見ちゃったわけ。ゴブリンプラントが別の魔獣に襲われたのよ」


「襲われた? ゴブリンプラントが?」


 むしろほかの魔獣には避けられ、狩りの対象にもされていないことは、三人組もよく知っている。

 だからこそ、驚きは大きかった。


「あいつら、キラわれてるんじゃないの?」


「それでも襲うやつがいるわけさ。あいつよ、アクジキ。正式名称忘れたけど」


 アクジキ。

 冒険者の間でそう呼ばれているそれは、巨体を持つ化け物であった。

 目についたものは石でも食らう貪欲さを持ちながら、潜んで待ち伏せもする。

 おおよそほかの動物が食べないであろうものも食らうことができる、強靭なあごと胃を持った生物だ。

 動きが比較的遅いが、力強さと巨体を生かし、かなり厄介な魔獣である。


「マジか。あれならゴブリンプラントを食おうとするのもわかるわ」


「ゴブリンプラントの魔力を狙ってるみたいね」


 普通の動物は、ほかの動物の魔石を食ったからといって、上手く吸収することはできなかった。

 あまりに栄養がありすぎるものだと、消化不良になる、とでもいえばいいのだろうか。

 そもそも多くの生物は、魔力を魔石の形のまま吸収することができない。

 何らかの形で消化しなければならず、そのために多くのエネルギーが必要になるのだ。

 魔石から魔力を吸収するために、吸収する倍の魔力が必要になった、などということにもなりかねないのである。

 ゆえに、ゴブリンプラントがいくら優秀な魔石を持っていたとしても、襲われることはほとんどないのだ。

 尤も、何事にも例外はある。

 その例外の一つが、「アクジキ」なのだ。

 彼らは魔石から効率よく、魔力を吸収することができる。

 多くのものにとって旨味のないゴブリンプラントだが、アクジキにとってはごちそうになるのだ。


「で、どうなったの? 何匹か食われたり?」


「いや、上手く逃げ切ったよ。持ってた武器がよかったみたいでね。ボーラとか上手く使ってるよ、あの連中」


 パルパタの言葉に、クードは少しだけ眉根を寄せた。

 アクジキはかなり強力な魔獣だ。

 それからうまく逃げ切ったとなると、厄介なことになる。


「持ってた武器とかを使い捨てるみたいな形で逃げ切ったんだけどね。隊長格が優秀だったんじゃない」


「ってことは、ゴブリンは無傷で逃げ切ったわけか。参ったね」


「いや? 一匹、足が持ってかれたみたいよ。腕をもがれてたのもいたかなぁ?」


「それでも、そんなもんかぁ」


 一応被害は出ているようだが、それでも驚くほどの損害の少なさだ。

 クードは参ったというようにため息を吐くと、ガリガリと頭を掻くのであった。

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