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十七話 「次は、火を使ったものを作ろうかと思ってるんですけどね」

 りあむを散々苦しめた打製石器の槍の制作は、ようやくひと段落が付いた。

 安定して加工品を制作できるようになったのだ。

 やはり、専用の道具をそろえたのがよかったのだろう。

 ケンタを始めとした四匹のゴブリンは、手際よく打製石器を作ることができるようになっている。

 これにより、多くのゴブリン達が石器の槍を持つことができるようになっていた。

 今のところ、一つのチームにつき五本以上が配られている。

 槍に向いた黒い石は既にある程度備蓄しているので、今後もっと生産することも出来るだろう。

 この生産の安定は、狩りの効率を上げることにもつながっていた。

 まとまった数の武器が手に入ることから、純粋な攻撃力が上がっている。

 おかげで、今まで手出しできなかったような獲物も、狙えるようになっていた。

 それに、武器を壊してしまうことを、気にしなくてよくなったのも大きい。

 今まで武器というのは貴重品であり、その扱いには注意が必要だった。

 だが、今は武器を安定して作ることができるのだ。

 思う存分、武器を振り回すことができる。

 そのおかげで、狩りの成功率や効率も段違いに上がっていた。

 狩りに行ったチームが、採集に行ったチームより早く獲物を携えて戻ってくることも、ザラになっている。


 採集の方も、ずいぶん楽に作業ができるようになっていた。

 背負子と、背負いカゴが作れるようになったことで、荷物を運ぶ効率が一気に上がったからだ。

 それによって、道具を作る材料集めも、どんどん進んでいる。

 今まで道具を作る材料は、あくまで作業の片手間で集めてもらっていた。

 だが、今では通常の仕事の後に、わざわざ道具の材料を集める時間を用意できるほど、余裕ができている。

 おかげで、材料に困ることはなく、どんどん新しい道具を作ることができていた。

 その道具のおかげで作業が捗り。

 空いた時間で道具の材料を集めることができ。

 その材料で新しい道具を作り、おかげで作業がはかどる。

 散々道具に苦労させられてきたりあむとゴブリン達にとっては、願ってもない好循環が生まれているのだ。

 そのため、道具の制作が間に合わないほどであり、これにはりあむもケンタ達も、うれしい悲鳴を上げていた。


 もう一つ、大きな成果があった。

 それは、ゴブリンの死亡率の低下だ。

 ゴブリンにとって、一番危険な仕事は、やはり狩りである。

 いざ獲物を目の前にしたとき、武器を持っていない。

 あるいは、武器を惜しんで一瞬ためらってしまう。

 そういった状況が減っただけで、ゴブリンの死亡率は著しく低下したのだ。

 りあむが木の精霊として転生してから、未だ一匹のゴブリンも死んでいない。

 これは案外、すごいことなのだ。

 ゴブリンツリーもゴブリン達も、このことをすこぶる喜んでいる。

 無論、りあむも同じであった。




 当面の目標であった打製石器の武器も、安定して作ることができるようになった。

 となれば、当然次の目標を定める必要があるわけだが。

 りあむはそれを、何に定めるべきか悩んでいた。


「次は、火を使ったものを作ろうかと思ってるんですけどね」


 りあむのそんな言葉に、ケンタ達四匹は首を横にひねった。

 最近になってりあむは、何かを決める時などはゴブリン達にも相談するようにしていた。

 ケンタ以外のゴブリンは皆、老齢に足を突っ込んでいるだけに、経験も知識も豊富だ。

 森のことも、周辺の動植物についても、非常に詳しい。

 りあむが悩んでいることも、彼らに聞くとすぐに解決してしまう、というようなことも少なくなかった。


「ひ、か。なににつかうんだ」


 ゴブリン達も、知識としては火のことを知っているらしい。

 一から説明しなければならないかもしれないと思っていたりあむは、ほっと胸をなでおろした。


「火のことは知ってるんですね。山火事とかで見たことがあるんですかね?」


 山火事は、落雷などが引き金になり、しばしば起きることがある。

 この辺りの森でも、そういうことがあるのかもしれない。

 そう考えたりあむだったが、その予想は大きく裏切られた。


「くちからはくやつ、いるからな」


「ひは、こうりつてきなぶきだ」


「もりも、もえることもあるから、やっかいだけどな」


「え? 口から? 吐くって、火を? いや、そうか。ここはファンタジーなのか」


 ゴブリン達の言葉に、りあむは軽く頭を抱えた。

 考えてみれば、ここは木にゴブリンが生る世界なのだ。

 火を噴くモンスターの一匹や二匹いたところで、おかしくはない。


 そういえば、「木の記憶」には、ゴブリンは魔法を習得可能だと書いてあった。

 どんな魔法があるかわからないが、もしかしたら、ゴブリンも火を噴くような魔法が使えるのかもしれない。

 ただし、ゴブリンにとって、魔力は寿命と同じだ。

 魔法を使うということは、すなわち命をすり減らすということでもある。

 木の精霊になったばかりの頃は、そういったものを使うこともあるだろうし、いつかはゴブリン達に練習させなければならない、と、りあむは思っていた。

 だが今は、絶対に魔法なんて使わせてたまるか、と考えている。

 どんどん過保護になっているといっていいだろう。


「ひを、ぶきにするのか」


「それもありますけど。火を使って、焼き物。土器を作ろうかと思っていまして」


 焼き物というと、食器に使う印象が強いだろう。

 今回のりあむの目的は、それではなかった。

 ゴブリンは食事をしないので、食事に使う道具は必要ないのだ。

 水を運ぶのに容器は必要だが、そちらは石器で削りだした樹の器などを使っているので、事足りている。

 では、土器を何に使うのかといえば、煮炊きをするためであった。

 煮炊きといえば金属器のイメージが強いだろう。

 だが、そういったものが作れるようになる以前は、土器も煮炊きに使われていたのだ。


 煮炊きといえば、調理を思い浮かべるのではないだろうか。

 だが、先ほども言ったようにゴブリンに食事は必要ない。

 ではなぜ、煮炊きをしたいと思ったのか。

 それは、植物の繊維をとるためである。


 植物の繊維をとるには、いろいろな方法がある。

 りあむがそういったやり方を覚えたのは、やはり役場でそういう仕事をやらされたからだった。

 住んでいる地域の伝統技法を守るとかで、若い働き手として駆り出されたのである。

 繊維を取り出す方法というのは、案外いろいろあるのだ。

 水にさらす方法、乾燥させる方法、腐らせる方法、そして、煮て柔らかくする方法。

 こういったやり方を、植物ごとに使い分けるわけだ。

 どうやれば繊維を取り出せるか、今はまだノウハウがない。

 色々な方法を試す必要があるわけで、煮炊きという方法もとれるようにしておく必要があると、りあむは考えているのだ。


 とはいえ、土器を作るというのは重労働だ。

 第一、粘土を見つけるのだって簡単ではない。

 上手く見つけられたとしても、運ぶのだって大変だ。

 成形に関しても、慣れるまでにかなりの時間を取られるだろう。

 食事をしないゴブリン達にとっては、煮炊きというのはほとんど必要なく、つまり土器も絶対に必要なもの、というわけではない。

 植物の繊維をとるためだけに、今その労力を割く必要があるのか、といわれると、りあむとしても少し首をかしげる。


「まあ、もちろんそれ以外にも、火には武器とかとしての使い道はあるんですが。さっきの話を聞くと一気に微妙になってきますよねぇ」


 火には、獣除けとしての効果がある。

 だが、火を吹く動物がいるらしいと考えると、その効果が必ずしも期待できるかは疑問だ。

 武器としての効果も、地球ほどではないと考えたほうがいいだろう。

 また、人間にとって火の光は、夜間に視界を保つために必要になるのだが、ゴブリンはすさまじく夜目が利く。

 星明りさえあれば、まず問題なく周囲を見渡すことができる。

 逆に、火をもって歩いていると、それが目印になって襲われる危険が増してしまう、ということもあるかもしれない。


「というわけで、火を用意したいと思っていたんですが。それによって得られるものが、案外少なそうなんですよ」


 りあむは今のような説明を、ざっくりとゴブリン達に説明した。

 ゴブリン達はまだ、布というものは見たことがない。

 土器というものも、大まかなイメージしかわかっていない様子だ。

 だが、それでも何とかりあむの言わんとするところを汲んでくれたらしく、どうしたものかといった様子で腕を組んだ。

 残念ながら、相変わらずりあむはゴブリン達の表情を、大まかになんとなくしか読むことはできない。


「では、先にほかのことに手を付けるのも手ではないのか?」


「そうなんだけど。その、ほかのことで思いついてるのが、時間と手間がかかることなんだよ」


 ケンタに言われ、りあむは難しそうな顔で頭を掻いた。


「考えてるのは、石垣とかを作って、洞窟の入り口周辺を要塞化するっていうのなんだけど」


 ゴブリンツリーの洞窟への入り口は、穴が開いているだけの場所だ。

 周囲には遮るものもなく、目がよければ森の端からでも確認することができる。

 見晴らしがよく、見張るのにも都合がいいのだが、りあむにはあまりにも不用心に思えるのだ。

 ぐるりと壁やら石垣やらで覆えば、目隠しにもなるし、守るのも楽になるはず。

 りあむがそんな内容を、身振り手振りを使って説明する。


「いしがき? つまり、こういうことか」


 ゴブリンの一匹が、近くに転がっている石器の材料を積み上げ始めた。

 なかなか器用で、まさにミニチュア版の石垣の様なものができている。

 それにしても、こういった物を作り、構造を理解しようとするというのは、なかなか高度な知能を要するのではなかろうか。

 よくよく考えてみれば、口頭での説明で完成品を想像するというのも、かなり高度なことのはずだ。

 やっぱり、ゴブリン達は相当に優秀なのである。

 そのことが誇らしく、誰かに自慢したくなるりあむだったが、頭を振って考えを切り替えた。

 今はそれよりも、今後の話をしなければならないのだ。


「洞窟の出入り口の守りが、かなり強固になるな」


「ごぶりんつりーを、まもる。いちばんだいじ」


「しかし。これは、じかんがかかりすぎないか」


「その通りなんですよ」


 一匹のゴブリンの言葉に、りあむは大きくうなずいた。

 それが、最大のネックなのだ。

 石垣などの建築物を作るというのは大仕事であり、とにかく人手と時間がかかる。

 今のゴブリン達は、狩猟と採集に時間を使っており、物を作ることに割ける余裕は、はっきり言ってほとんどない。

 人類が大型建築物を作ることができるようなったのは、農耕などを始めることにより食べ物を確保するための時間を大幅に削減できたのが理由だというか。

 ゴブリン達の場合、狩猟も採集も食べるためのものではない。

 あくまでゴブリンツリーの栄養にするためだけに行うものであり、何より農業をやったところで一番必要な栄養素が確保できないのだ。

 魔獣や魔物、モンスターから採集できる、魔力である。

 地球にはなかったものだが、今のりあむにとって魔力の確保は最大の問題といってもいい。

 ゴブリンプラントがゴブリンを生らせるうえで、絶対不可欠且つ、最も必要で。

 ケンタの様な特別なゴブリンを生み出すときに必要なのは、ほかのゴブリンよりも大量の魔力を込めることだけ、ということからも、その重要性がわかろうというものだ。


「安全の確保も必要なんですが、それには手が足りなすぎるわけでして。じゃあ、手が確保できるようにするにはどうすればいいかというと、簡単に魔力が確保できるようにすればいいわけなんですが」


「そんなほうほう、あるのか」


「まずもって思いつかないですね。麦やマメみたいに魔力がなる植物があればいいんですけど」


 魔力の塊をもって動く植物となると、要するにゴブリンのことになってしまう。


「今より強力な武器を手に入れようとすれば、今度は鉄になるわけですけど。鉄を作るのなんて恐ろしく大変だし、何より僕にノウハウがありませんよ」


 流石のりあむも、製鉄というのはしたことがなかった。

 五寸釘を熱して叩き、ナイフを作る、という体験教室ならば、運営側として参加したことがあったのだが。

 炉を作るところから始まるもので、ドライヤーやU字溝など、比較的手に入りやすい素材で作ることを目的としたものであった。

 なんで役所がそんなことをしていたのか、と思わないでもない。

 とにかく何でもやって、少しでも地域を活性化させようと考えていたのだろう。

 努力の方向性を、著しく間違えている気がしないでもない。

 ふと、もしかしたらそういった経験があったからこそ、木の精霊に転生させられたのでは、という考えが、頭をよぎる。

 確かにその通りかもしれない。

 しかし、りあむは、「別にそれでもいいか」と思えた。

 運悪く死んでしまったのに、こうして生まれ変わることができたのだ。

 ある意味では、運がよかったといえなくもない。

 ゴブリン達と出会えたことに関しては、感謝してもいいぐらいだ。

 だが、今はそれについて考えている場合ではない。


「まあ、なんにしてもですよ。今思いついてるものって、そういう時間と労力が凄くたくさん必要なものばっかりなんですよ。すぐに効果が出そうなところは、大体やってしまったというか」


 水場の確保、縄や石器、カゴなどの制作などなど、これまでやってきたことは、比較的簡単にできて、大きな利益が望めるものばかりだった。

 出来れば同じような効率で、ゴブリン達の活動が楽になるようなことを思いつきたいのだが。

 それがなかなか出てこないのだ。

 りあむが唸っていると、「木の記憶」が輝き始めた。

 胡乱げな顔をしながらも、りあむはそれを開く。


 洞窟の中で考えていても、よい案が思い浮かばないこともあるでしょう。

 一度、ゴブリン達と共に、洞窟の外に出てみてはいかがでしょうか。

 荒れ地や森の中をじっくり観察すれば、思わぬアイディアが生まれる事があるかもしれません。

 実際に道具を使っているところを見れば、貴方だからこそ見つけられる問題を発見することもあるでしょう。


「そうか。そういえば新しい武器や道具を実際に使ってるところは、まだ見てないんだよね」


 考えてみれば、使い心地などの報告は受けたが、実際に使っているところは見たことがなかった。

 地球での運用方法を知っているりあむから見れば、効率の悪い使い方をしている、などということもあるかもしれない。

 また、ケンタ達四匹と一緒に見ることで、より使いやすくするための改良案なども見つけられるだろう。

「木の記憶」には、さらに続きが書かれている。


 採集を行っているチームに交じって外に出れば、貴方にとっては気分転換になるでしょう。

 肉体の無い貴方ですが、だからこそ、それは重要なことです。

 ケンタ達にしても、太陽の光をたっぷりと浴びることができる、よい機会になるはずです。


 言われてみれば、ケンタ達は普段はずっと洞窟の中にこもっている。

 時々、日の光を浴びるために外に出ているのだが、今までの生活を考えると光を浴びる時間は圧倒的に少ない。

 そう考えると、確かにたまには外に出るのは、間違いなく良いことだ。

 外の空気を吸い、たっぷりと太陽を浴びるのは、植物であるゴブリン達にとって良いことに違いない。


「よし、いこう! 決まり! 外に出てリフレッシュだ!」


 突然張り切りだしたりあむに、ケンタ達は首を傾げた。

 ケンタ達は文字が読めないので、「木の記憶」に何と書かれているかわからない。

 なので、りあむが突然張り切り始めた理由がよくわからないのだ。


「今は考えていてもいい案が浮かびそうにないので、外に行くことにしよう。ってことですよ。採集に参加しながら、新しい道具に使えそうなものを探したり、武器を実際に使っている様子なんかを見せてもらうんです」


「かんがえているだけより、いいかもな」


「それも、あるかもしれない。ぶきをつかうところは、みてみたいしな」


「実際に使っているところを見れば、改良案も出るかもしれないしな」


 ケンタ達も、外に出るのには乗り気らしい。

 最近は武器や道具の制作効率も上がっており、作業にはかなり余裕がある。

 採集を担当するチームに一度混ざるぐらいならば、問題ない。


「じゃあ、決まりですね! 朝に作業するチームに、混ぜてもらいましょう!」


 うれしそうにそういうと、ケンタに後ろからくっついた。

 時々外に出ることはあったが、また一緒に森に行くとなると、話は別だ。

 少し緊張はするが、楽しみでもある。


「とりあえず、みんなの分の道具も用意しなくちゃいけませんね。採集用のカゴと、武器。それから、念のために液体を入れられる器も必要ですね」


 大き目の木を石器で削った器は、木の葉や木の皮で蓋をして細めの縄で縛れば、ちょっとした容器代わりになる。

 密閉性はあまり期待できないのだが、ちょっとした液体を運ぶ分には問題ない。

 森の中で何を見つけるかわからないので、持っていけば役に立つこともあるだろう。

 ケンタ達は、テンションが上がってじゃれついているりあむをよそに、手際よく準備を始めた。


「なにをみるか、おおよそきめておこう」


「じゅんびしながら、はなしあうのがいいな」


「つぎのさいしゅうは、そとでみはりをしている、れんちゅうだったな。いまのうちに、たのみにいってくるか」


「ああ、そうですね。行ってきてもらえますか?」


「わかった」


 ケンタの背中にくっつきながらも、一応りあむは指示も出している。

 うっとうしそうにされないのをいいことに、そのままでいるつもりのようだ。


「ボーラは全員持つとして、武器は何がいい? 槍か斧かフレイルがあるが」


「ああ、一応、縄も持って行ってくださいね。細いのと太いの、両方とも。何を見つけられるか、どんなことがあるかわかりませんから」


 洞窟の上に開いている穴から見える空は、まだ暗い。

 日の出まではまだ時間があるので、準備をするにはちょうどいい。

 りあむとケンタ達は、あれこれと相談しながら、準備を進めていくのであった。




 フラド山脈と、オード大森林の境界近く。

 少し森に入り込んだ場所の樹上に、簡易観察所が設置されていた。

 枝と枝の間に、折った枝を置いて床代わりにし、その上を、やはり葉のついた枝で覆ったものだ。

 流石に近づけばそれとわかるが、少し離れてしまうと、よくよく見なければ発見する事は難しい。

 その場所にいるのは、ネザ村の冒険者ギルドからゴブリンツリーの調査を依頼された、三人組であった。


「しっかし、魔法ってのは便利だよなぁ。この距離から見えんのか?」


 そういって目を細めるようにしたのは、リーダーであるクードだ。

 肉体を武器に無手で戦う、格闘家である。

 体内魔力と意志力、気功術などを練り合わせることで、鋼鉄にも匹敵する肉体強度を得ることができ。

 体格に見合わない剛力と、圧倒的な速度。

 そして、それらを十全に生かして戦うことができる技術も持つクードではあるが、何分魔法に関しては門外漢だった。


「魔法って言ったって、俺のは魔法使い様が使うような上等な奴じゃないのよ? 刺青と慣れで持ってるだけだからね」


 人差し指と親指で作った輪っかを覗きながら言ったのは、もう一人の男性、パラパタである。

 魔法の入れ墨やさまざまな特殊な道具を使いこなしつつ、偵察などを行うことから、「タトゥースカウト」などと呼ばれている。

 今、パラパタの視線の先には、りあむ達のゴブリンツリーの洞窟があった。

 肉眼ではなかなか見えない距離ではあるのだが、パラパタは魔法で視力を強化しているのだ。


「魔法使い様もピンキリよ。私みたいにそういう器用なことができないのもいるしね」


 肩をすくめて見せたのは、ヴェローレ。

 複雑な文様の彫り込まれた、身の丈ほどもある魔法杖を抱えた、戦魔法使いの女性だ。

 多種多様な攻撃魔法を習得し、それを使って遠距離、中距離、近距離と、距離を問わず攻撃することのみに特化している。

 回復や強化などといった魔法は全く使えないが、代わりに特化させた攻撃に関しての火力は目を見張るものがあった。

 広範囲に及ぶものだけでなく、素早く鋭い接近戦用の魔法すら使いこなすのだから、恐れ入る。


「はぁー。そういうもんかねぇ。俺にはギリギリ、洞窟の周りにゴブリンがいるな、程度しかわからないわ」


「肉眼でそれだけ見えるクードの視力がおかしいのよ。私なんて全然見えないんだから」


「本の読みすぎじゃないの? メガネでも作ってみる?」


「いらないわよそんなもん。で、どんな様子?」


 ヴェローレはクードを杖で小突きながら、むすっとした顔で尋ねる。

 聞かれたパラパタは、魔法で強化した目を細めながら、難しそうに唸った。


「相変わらず勤勉だね。外に出てるゴブリンは全部で三つに分かれてて、防衛、採集、狩り、三つの仕事をそれぞれ交代で回してる。やっぱり全部のゴブリンが手作りっぽい武器持ってるね」


 彼ら三人がここでゴブリン達を見張り始めてから、三日ほどが経っている。

 その間、ずっとその行動を観察し、おおよその行動は掴んでいた。


「ゴブリンプラントって、基本的に拾ったものを武器にするはずなんだけど。どうやって武器のつくり方なんて覚えたのかしら」


 ギルドから得た情報と現状を比べ、ヴェローレは首をひねった。

 三人の中で読み書きができるのは彼女だけであり、今回の情報把握を任されている。


「まあ、その辺は学者さんの出番でしょ。俺らはゴブリンの情報を集めて、可能なら生まれそうなゴブリンプラントの魔石をいただくのが仕事よ」


「それもそうね。で、リーダーとしてはどう思うわけ?」


 クードは考えるように唸ると、腕を組んだ。


「洞窟の中の予備兵力がどのぐらいのもんかわからないけど。三つの班がいったん集まって、二つの班が森へ入った直後。すぐに合流する確率が低いところを狙って行けば、まぁ、洞窟の中には入れるかな」


「俺もそう思う。数が多いのがかなり厄介だけど、そのタイミングなら無力化させられなくはないと思う」


「何よアンタたち。相手は石の武器しか持ってないのに、消極的すぎない?」


 不満そうに顔をしかめるヴェローレに、クードとパラパタはぶんぶんと首を振る。


「武器作ってるってことは、それなりに知恵が回るってことでしょ? そういうのが数揃ってるときはバカにしちゃだめよ」


「そうそう。そういうやつから死ぬってばっちゃが言ってた」


 何事か頷きあっている二人を、ヴェローレは胡散臭そうに見据える。


「で? どうするの」


「いろいろ気になることはあるけど、とりあえず。精霊がどんなものなのか確認してから、かな」


 彼ら三人は、ゴブリンツリーに精霊がいることを、すでに確認していたのだ。


 ここに来た初日、手作りの武器を持っていることを確認した彼らは、精霊の存在を予測していた。

 ギルドの情報によれば、ゴブリンプラントが飛躍的に行動の幅を広げるのは、精霊であるドライアドを宿してからだ、ということだったからだ。

 時折、ゴブリンプラントに取り付いた様な状態で外に出てくることもあるということだったので、気を付けて観察をしてみたのだが。

 ここ三日ほどの間に、二回ほどその姿が確認できた。

 いずれも近くの水場や、外にいるゴブリンプラント達に洞窟内で作ったと思われる道具を届けに出てきただけであり、外にいたのはごく短時間だ。

 精霊は、ゴブリンプラントを統率する存在だという。

 デレデレした顔でゴブリンプラントにくっついてたようにしか見えなかったが。

 とにかく。

 精霊がどんな影響をゴブリンプラントに与えているのか。

 また、精霊のそばにいるゴブリンプラントはどんな風に動くのか、確認する必要がある。


「戦いのときにいると厄介なようなら、出来れば外出中に襲いたいところだよね」


「賛成。指揮官がいるのといないのとじゃ違うだろうし」


「なんにしても、確認してからじゃない? 精霊がどんな風なものなのか」


 ヴェローレの言葉に、ほかの二人は大きくうなずいた。

 パラパタはガシガシと頭を掻き、難しそうな顔を作る。


「外に出てきてくれれば、そのあとをツケることもできるんだけど。そしたら、様子をきちんと確認できるんだけどな」


「まあ、そううまくはいかないでしょうよ。現実的なところで、もう二、三日様子を見よう。そのあと、どうするか判断する感じで」


 クードの言葉に、ほかの二人は了承の返事をする。

 久しぶりに森の中で採集活動をしようとりあむがケンタ達と共に外へ出たのは、この翌日のことであった。

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