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第四章 妖精編にて朝梨のママが死んだら if

「ふぅー、ふぅー…」


 肩で息をしながら、脈打つ心臓と冷えていく手先を抑えるために、震える右手を左手で抑える。刀がカタカタと揺れるのを感じながら、目を閉じてしまう。

 ああ、怖い。怖い。怖い。

 閉じた瞼の裏にまで、さっきの斬撃が焼き付いて離れない。


 リンッ


 鈴の音。


「がっ…ぁっ…!!」


 目を開くと、そこには赤道さんの盾が斬撃を防ぎ、子どもたちを守った。

 ドッと心臓が鳴り、手先が痺れる。


「赤道さん!!」


 盾を貫いた先にいた子どもたちとお母さんの胸に斬撃が当たる。噴き出る血が地面に跡を残して散っていく。


「お母さんッ!!!」


 駆け寄った瞬間、鈴の音。


 リンッリンッ


 聞こえた鈴の音よりもお母さんの身体が血だらけなことの方が怖くて、嫌で、叫んだ。

 竜胆さんが眉を寄せて、痛々しそうな表情で、お母さんの身体に手をかざす。

 ああ、死んでるんだ。


 頭から足元までが一気に冷える。


「あ、ぁ、ぁぁぁあ!!いやぁ!!いやだぁ!!お母さん、お母さん!!」

「ばか、くそ!海神様、そこの娘さんを抑えててください!」


 駆け寄ろうとした手を伸ばす。玉さんが私の体に腕を回してくる。

 小さい身体に反してその力は強くて、抵抗もできない。

 離してよ、離して!!


「お母さん!お母さん!!」

「蘇生するから、この人はまだ一回も死んだことないんだ、蘇生できる!だから落ち着け!」

「なになに!どうしたの!」


 竜胆さんの声に、焦ったように降りてきた立夏さん。


 リンッ


 鈴の音が聞こえてくる。お母さんに集中していたからか、玉さんが音の方を見て叫んだ。


『立夏ァ!!』


 叫んだ方を見れば立夏さんの体が真っ二つになっていた。

 どしゃりと音を立てて血溜まりともに地に伏せる小さな女の子。子どもたちの叫び声が響き渡る。


「…ぁ……?」

「立夏!」


「やだ、死にたくないよおー!!」

「うああーん!」

「ああ、クソ!子どもたちを、ぁあー!!もう!海神様、子どもたちを匿ってくれ」

『朝梨がまだ錯乱しちょる!』

「一人の命より複数の命のが大事なんだよ!!」


 竜胆さんの悲痛に叫ぶような怒鳴り声に、私の身体に回している玉さんの腕が強まった。

 お母さん、お母さん。待ってや、行かんちょってよ、やだよ。



 …………あ。

 そっか。

 そうだったんだ。


 視線の先にいる、森に隠れた妖精の姿を捉える。



 ────アレを殺さないと。



『朝梨、朝梨!!いかんちや、戻ってこい(もんてきい)!!』


 海。管掌。


 "救いたいか"


 まるで、希望を差し出すかのような声。


 あなたは誰?

 答えはない。


 リンッ


 鈴の音がまた捉えた人影が放ったのか、聞こえてくる。


『朝梨!!!!!』


 玉さんが叫んでる。


 わかってるよ。そうだよね。


 殺そう。


 だって、みんなを苦しめたんだもん。居たらダメだよ。


 アレは、消さなきゃ。


 "救いたいか"


 もう一度問われた声に、私は今度こそ頷いた。

 身体がすごく軽い。今なら救えるんだ。

 嬉しくなって笑う。

 跳ねた体はどこか身軽で、聞こえてくる声は何も聞き取れない。

 それでも『妖精を殺す』という単語だけは、なぜか残っていたから。


 飛んできた斬撃を全く同じように返す。

 あちこちで鈴の音が聞こえてくる。


『全部の妖精を殺したがか…!?』

「ああ、もう!守護者が神になるってどういうことだよ!!」


 森の中にいる妖精を殺しましょう。


 その子たちは皆、私の大切な人たちを殺したのだから、同じ目に遭わないと報復にはならないでしょう?


 "嬉しいなぁ…"


 ようやく殺すことができたんだ。

朝梨ママがもしもあの時死んでしまったら?を書いてみました。

ちょっとトリガーとしては弱いのかもなぁと思いつつも書いてみるとあらやだ不思議。朝梨ちゃんはそっちへ行くそうです。

書く時に何も考えず、朝梨の思うがままに書いているので作者としても予想外でした。

戦意喪失するか、無気力になるか…、そう思っていましたが、蓮の時と同様に良いタイミングで救いの手が来ますね。

この後、彼女は幻治郎の討伐対象に入ります。討伐される前に戻って来れたら別ですが、妖精を皆殺しにしてるのでまあ無理でしょうね。

家族愛が深いとこうなってしまう、哀れな神様の話でした。

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