第一章守護者編にて島崎大地と会わないifルート
────この場所は神居の入り口にしては人通りが少ない。神無から来る人が少ないのもあるだろう。
それぞれテーマパークのような、チケット売り場とその門が並んでいる。
門は閉じていてチケットを渡すと開くのが見えるのだとか。
門は大きく、見上げても見上げても届かない。
ガイドブックに書いてあった鳥居は44メートルと書かれていた。
さて、門番を見ると猫や鳥、ウサギなどが二足歩行でチケットをもらっていてかなり慌ただしそうだ。
「ようこそ神居へー!!」
開いた門の先はドラゴンやペガサスが飛んでいる。建物も赤みのある柱や日本家屋が立ち並んでいる。
奥の方には天気の悪いところから、反対に天気のいいところ。この不可思議な空気こそが神居と言えるのだろう。
「…え、と政府への行き方わかんないや…」
『ここは白刄だからな。中王に行けばいいんじゃないか?』
「それってどっち?右?」
『こっちだよ、蓮』
火雷の差した方向には鯨のバス。バス停に並ぶ人たちの姿に倣って後ろに並ぶ。
運賃は神居も神無も一緒なので大丈夫なはず。
ふ、と前を見るとアナウンスが流れてくる。
『申し訳ございません、鯨バスのクーさんのやる気がどうやら起きないようで15分ほど遅れます』
「えっ!」
驚く俺をよそに周りの神居の人たちは慣れた様子で笑う。
「だよなぁー、いつもそんな感じだし」
「しゃーなし」
「だと思って早めに出てきたからなぁ」
そ、んなものなのか…。神居の人たちって思いの外ゆったりしてるんだなぁ。そう思いながら、気持ちは焦る。
なぜなら、もう親の顔が思い出せないからだ。
妹、弟の顔はギリギリわかる。でも、父さんの顔はもう、忘れた。
どんな声だったっけ、どんな思い出があったっけ…父さんの名前って、何だっけ…。
母さん、母さん?母さんって…。
沈む思考に、火雷の鈴のような可愛らしい声でハッとする。
『蓮?』
「…っ!」
フルフルと首を振り、両手を握る。大丈夫、大丈夫。
まだ、声は覚えてる。まだ大丈夫。
まだ。
「……俺、誰に会いに行くんだっけ」
『…っ、守護課に行って契約するんだよ蓮、ほら、お母様にもちゃんと挨拶したでしょ?行ってくるねって』
「…ぁ、そ、うだった…」
そうだ、そうだった。今日は妹とも話した、そうだ。俺には妹がいた。
薄れていく記憶の中、自然と守護者として出会った人たちの記憶も消えていく。
顔も、名前も、声も、もう忘れてしまった。
忘れてしまったことに、涙が流れるのに、何の感情も浮かばない。
袖で流れた涙を拭く。
『早めにクーさんのやる気が出たのでどうぞみなさん、大変お待たせしました、本当に申し訳ございません』
「仕方ないですよー運転手さん」
笑いながら入っていく神居の人たちの後ろに続き、席に座る。しっとりとした座り心地に、生き物の中とは思えない席。
不思議な生命体の中にいる。
「…すご」
外を眺めながら、自分の無くなっていく記憶に想いを馳せる。何の記憶がなくなったのか、次第に自分自身が誰なのかもわからなくなるのかと思うと怖くなる。
二の腕をさする。
身体が冷えていく感覚に、深く息を吐く。
火雷と風伯はわかる、ずっといるからかな、だったら、良かった。
俺のことを覚えてくれてる人が、まだいて。
『神居政府ー、神居政府ー!』
アナウンスに立ち上がり、鯨バスを降りる。
外見は普通のビル、大きな鳥居の門があるくらいで他は普通だ。
鳥居の中を一歩進む。
「────ああ、俺…」
『蓮…?』
「…おれ、だれだっけ」
『!!蓮、神無蓮だよ、あなたは…!神無蓮だよ!』
「…だれ」
首を傾げると目の前に現れた女の子と男の子に手を引かれる。慌てた様子でどこかに連れてかれようとして、誰もいない室内に、二人が更に慌てる。
『…っ、どうしよう、私たちのせいで…』
『ああ、クソ!広大!広大はどこだ!幻治郎でもいい!』
「──?」
二人の焦る声を聞きながら、時計の音だけが響きカーテンがはためくそれを眺めた。
自分自身が誰なのかもわからないまま。
蓮の仮契約で記憶を無くしたif。
島崎大地に会えなかった世界線。
神間橋で島崎大地がいなかったら、かなり遠回りをして完全に蓮の記憶が消える。
ここまで消えてしまったら戻すのにはかなり時間がかかる。仮契約の代償はでかい。
不幸なのに運がいいという意味のわからない確率を当ててる男神無蓮。
幻治郎の超人的な力で記憶が戻るかもしれないが1日経ってしまったら戻せなくなってしまう。
タイムリミット付き仮契約。
蓮は何も悪くないんですよ、悪くない。火雷と風伯も悪くない。だーれも悪くない。悪くないからこそ後味が悪いんですよねえ。




