クリスマスパーティー
「おぉ、噂の“陰の王”さんじゃん」
総合コースの男子たちがにやにやと近づいてきた。
その中心にいるのは――桐谷 蒼馬。
「剣道トーナメントさ、なんか“感動した”って言われてたけど、あれマジで偶然じゃね?」
「“陰キャ剣豪”とか、あだ名だけ一人歩きしてるって感じ」
朝霧は黙ってグラスのジュースを口に運び、何も言い返さない。
(……相手にするだけ、無駄か)
そのときだった。
「……そういうの、見てていい気分じゃないよ」
落ち着いた声で割って入ったのは、姫川 咲だった。
隣には黒瀬 結愛と早乙女 玲奈が並んで立っている。
「誰かを下げて、自分を保つようなこと――
それって、見てる人からすれば、ただの負け惜しみにしか見えないよ」
咲の言葉は静かだったけれど、しっかりと芯が通っていた。
「朝霧くんは、言い返さないだけだよ。
ああいうのは、本当に強い人のやることだと思う」
黒瀬も続けてそう言った。
「……こっちは楽しみに来てるんだから、邪魔しないでほしいな」
早乙女が目を細めながら言うと、蒼馬たちは明らかにバツの悪そうな顔になり、そそくさと引き下がっていった。
「……ありがとな」
朝霧がぽつりと呟く。
咲は視線を逸らしながら、ほんの少しだけ口元を緩めた。
「別に、私が言いたかっただけ。誰のためとかじゃなくて」
「それでも、嬉しかったよ」
その言葉に咲は目を見開いて――
(……顔がにやけちゃう)
慌てて視線を逸らした。
すぐ隣でその様子を見ていた黒瀬と早乙女が、何気なく一歩前に出てくる。
「ねえ、ちょっと外の空気、吸わない?……朝霧くんと」
黒瀬が自然にそう切り出すと、
「ちょっと待って。私が話すって決めてたんだけど?」
と早乙女も乗ってきた。
(えっ、いまの流れでそうなるの?)
朝霧は少しだけ困ったように苦笑して、
けれど、どこか楽しそうに3人の顔を順に見た。
「順番に話そう。せっかくのパーティーだしな」
彼の言葉に、3人は何かを感じ取りつつも、それぞれ頷いた。
(この夜、少しでも距離を縮められたら――)
それぞれの想いが、きらめくイルミネーションの中で、淡く交錯していた。