↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
39/85

誘いたくて、恥ずかしくて

冬休み直前の昼休み。

進学コース1年A組の教室は、どこか浮き足立った空気に包まれていた。

クリスマスの話題があちこちで飛び交い、誰と過ごすかがひそかな話題になっている。


咲は、休み時間にペンをいじりながら、ちらりと隣の席の蓮を見た。


「ねぇ、朝霧くん。クリスマスって、なにか予定あるの?」


声をかけたあと、(自然だったよね?)と心の中で自問する。


「ん? いや、特には……」


蓮の飄々とした返答に、咲の胸が少しだけ弾む。


(ないんだ……!)


でも、誘おうとした言葉は喉の奥で止まった。

代わりに出てきたのは、


「へぇー……そっかぁ。べ、別に深い意味はないからね! なんとなく!」


という、変に力の入ったごまかしの言葉。


(何やってんの私っ……!)

•


放課後、図書室。

結愛は、本をめくる手を止めて、静かに口を開いた。


「……クリスマスって、何か用事あるの?」


「んー、たぶん家にいるだけだと思う。特に決まった予定はないよ」


その答えに、胸の内がわずかに軽くなる。


(よかった……誰かと予定があるわけじゃないんだ)


でも、言えなかった。

「じゃあ、もしよかったら――」の一言が、どうしても出てこなかった。


(静かな図書室じゃ、タイミングが違うよね……)


そんな言い訳とともに、結愛はそっと立ち上がった。


「じゃあね、また明日」


言葉と裏腹に、心の中では(明日じゃダメなんだけど)と何度もつぶやいていた。

•


帰りの昇降口。


靴を履こうとしていた蓮に、玲奈が声をかけた。


「……ねぇ、蓮くん。クリスマス、空いてる?」


「ん? うん、空いてるよ。何かあるの?」


「えっと……いや、その、別に決まってるわけじゃないけど……」


玲奈は視線を宙に泳がせ、何かを言い出しかけた――そのとき。


蓮のスマホが鳴った。


画面にはクラスのLiNeグループの通知が表示されている。


『1年進学&総合合同クリスマスパーティー、開催決定!』


蓮は画面を見たあと、少し笑って玲奈に尋ねた。


「もしかして、これのこと言おうとしてた?」


「えっ…あー、そうなんだよ!」


(ちが……いや、ちがわなくもないけど、違うよ!?)


「じゃあ、せっかくだし、行ってみようかな」


蓮が“参加”にステータスを切り替えるのを見て、玲奈はほんの一瞬だけ沈黙した。


(あー……じゃあもう、2人じゃないよね)


「う、うん、そっか……あたしも、行くね!」


口ではそう言いながら、心の奥ではため息をひとつ落とした。

•


夜。

それぞれの部屋で、3人のヒロインがスマホを見つめていた。


咲:(2人きりで誘うなんて、やっぱり無理だったよね……)

結愛:(もう少し勇気出せば……でも、空気読めなかったかも)

玲奈:(結局、なにも言えてない。あーもう……!)


そこに飛び込んできた通知。


『朝霧 蓮がイベントに参加に変更しました』


3人は、それぞれの場所でその文面を見つめ、微妙な顔をした。


(……ちょっと安心)

(……でも複雑)

(……クリスマス一緒に過ごすことには変わりないよね?)

•


――クリスマスイブ当日。


駅前のイルミネーションが街を彩り、人々の顔がどこか浮き立っている。


制服の上にコートを羽織り、マフラーを巻いた朝霧 蓮は、カフェへと向かって歩いていた。


(……誰が来るのか、なんとなく予想はつくけど)


その頬には、ほんの少しの期待が滲んでいた。


そして、同じ時間。


3人の少女たちもまた、髪を整え、コートを羽織りながら、そっと深呼吸をしていた。


(今日こそは、ちゃんと話したい)

(今度こそ、気持ちに近づきたい)

(“好き”に、もう少し踏み込んでみたい)


心が弾む。

けれどそれ以上に、揺れている。


それでも――彼に会いたくて、歩き出した。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。